その声は媚薬.2

江上蒼羽

文字の大きさ
上 下
58 / 81

未来の為にside:瑞希

しおりを挟む





突然ですが、失業しました。





『ごめんねぇ………ほらやっぱりこの情勢下だし中々厳しくて……』

『はぁ……』

『でもまぁ、まだ若いからすぐに仕事見付かるよ』

『………お世話になりました』






昼間なのに人気がほぼない公園の片隅のベンチに腰掛け、ぼんやりと空を見上げた。

清々しい程の青空には、真っ白い大きな雲が浮かんでいる。

派遣社員という不安定な職種から、いつかはこんな日が来ると思っていた。

メディアで度々派遣切りという言葉を耳にしていたから、明日は我が身と思って過ごしてきたけれど、何故か自分はまだ大丈夫だろうとのほほんとしてた。

半年毎の契約更新で、いつも何事もなく当たり前のように更新されていた。

だから自分が辞めたいタイミングで辞めようかなー……なんて緩く考えていた所の契約打ち切り。  

「そこをなんとか!」とか食い下がる場面だったのだろうけれど、自分の性格上頭を下げてまでしがみつこうとは思えなくて、あっさりと現実を受け入れた。
 
同じく契約打ち切りを言い渡された島津さんは、すぐに別の派遣先を紹介して貰っていた。

それに私も倣えばいいものを、何となく気が乗らず、派遣会社から登録も消去して貰った。


「これからどうしようかな……」


ポツリ呟いて、缶コーヒーを啜る。

特に資格もなければ、やりたい事もない。

幸い実家暮らしだから暫く無職でいたって衣食住の心配はないけれど、ずっと親に寄生していられない。

親にはチクリチクリと正社員で働くか早く結婚するかしろと小言を言われているから余計に。



子供の頃の夢は何になる事だったっけ?と考えて、ケーキ屋さんとかお花屋さんだとか言っていた事を思い出した。

幼い頃の私は純粋で自分が何にでもなれると信じて疑わなかったのに、大人になった今は結局何にもなれずにいる。

目的もなく、ただ生きているだけの今の自分を見て幼い頃の私は何を思うだろうか?

さぞかしガッカリするだろう。

こんな筈じゃなかった……なんて悲劇のヒロインぶるつもりはないけれど、実際こんな筈じゃなかったとしか言えなくて。

他人より秀でた物を何一つ持っていない自分と、これから先の未来をどう生きたいのか分からないでいる自分の空っぽさに溜め息を繰り返してばかりいる。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

結構な性欲で

ヘロディア
恋愛
美人の二十代の人妻である会社の先輩の一晩を独占することになった主人公。 執拗に責めまくるのであった。 彼女の喘ぎ声は官能的で…

両隣から喘ぎ声が聞こえてくるので僕らもヤろうということになった

ヘロディア
恋愛
妻と一緒に寝る主人公だったが、変な声を耳にして、目が覚めてしまう。 その声は、隣の家から薄い壁を伝って聞こえてくる喘ぎ声だった。 欲情が刺激された主人公は…

夜の公園、誰かが喘いでる

ヘロディア
恋愛
塾の居残りに引っかかった主人公。 しかし、帰り道に近道をしたところ、夜の公園から喘ぎ声が聞こえてきて…

車の中で会社の後輩を喘がせている

ヘロディア
恋愛
会社の後輩と”そういう”関係にある主人公。 彼らはどこでも交わっていく…

初めてなら、本気で喘がせてあげる

ヘロディア
恋愛
美しい彼女の初めてを奪うことになった主人公。 初めての体験に喘いでいく彼女をみて興奮が抑えられず…

JC💋フェラ

山葵あいす
恋愛
森野 稚菜(もりの わかな)は、中学2年生になる14歳の女の子だ。家では姉夫婦が一緒に暮らしており、稚菜に甘い義兄の真雄(まさお)は、いつも彼女におねだりされるままお小遣いを渡していたのだが……

ずぶ濡れで帰ったら彼氏が浮気してました

宵闇 月
恋愛
突然の雨にずぶ濡れになって帰ったら彼氏が知らない女の子とお風呂に入ってました。 ーーそれではお幸せに。 以前書いていたお話です。 投稿するか悩んでそのままにしていたお話ですが、折角書いたのでやはり投稿しようかと… 十話完結で既に書き終えてます。

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

処理中です...