その声は媚薬.2

江上蒼羽

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未来の為にside:瑞希

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突然ですが、失業しました。





『ごめんねぇ………ほらやっぱりこの情勢下だし中々厳しくて……』

『はぁ……』

『でもまぁ、まだ若いからすぐに仕事見付かるよ』

『………お世話になりました』






昼間なのに人気がほぼない公園の片隅のベンチに腰掛け、ぼんやりと空を見上げた。

清々しい程の青空には、真っ白い大きな雲が浮かんでいる。

派遣社員という不安定な職種から、いつかはこんな日が来ると思っていた。

メディアで度々派遣切りという言葉を耳にしていたから、明日は我が身と思って過ごしてきたけれど、何故か自分はまだ大丈夫だろうとのほほんとしてた。

半年毎の契約更新で、いつも何事もなく当たり前のように更新されていた。

だから自分が辞めたいタイミングで辞めようかなー……なんて緩く考えていた所の契約打ち切り。  

「そこをなんとか!」とか食い下がる場面だったのだろうけれど、自分の性格上頭を下げてまでしがみつこうとは思えなくて、あっさりと現実を受け入れた。
 
同じく契約打ち切りを言い渡された島津さんは、すぐに別の派遣先を紹介して貰っていた。

それに私も倣えばいいものを、何となく気が乗らず、派遣会社から登録も消去して貰った。


「これからどうしようかな……」


ポツリ呟いて、缶コーヒーを啜る。

特に資格もなければ、やりたい事もない。

幸い実家暮らしだから暫く無職でいたって衣食住の心配はないけれど、ずっと親に寄生していられない。

親にはチクリチクリと正社員で働くか早く結婚するかしろと小言を言われているから余計に。



子供の頃の夢は何になる事だったっけ?と考えて、ケーキ屋さんとかお花屋さんだとか言っていた事を思い出した。

幼い頃の私は純粋で自分が何にでもなれると信じて疑わなかったのに、大人になった今は結局何にもなれずにいる。

目的もなく、ただ生きているだけの今の自分を見て幼い頃の私は何を思うだろうか?

さぞかしガッカリするだろう。

こんな筈じゃなかった……なんて悲劇のヒロインぶるつもりはないけれど、実際こんな筈じゃなかったとしか言えなくて。

他人より秀でた物を何一つ持っていない自分と、これから先の未来をどう生きたいのか分からないでいる自分の空っぽさに溜め息を繰り返してばかりいる。

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