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不機嫌な彼女②
しおりを挟む彼女の望むように近場のホテルに入った。
昼間からホテルに入った経験はない。
それに映画を観る気になっていたから、そんなつもりもそんな気分でもなくて。
いや、最終的にはデートの締めで来るつもりでいたけど、まさか早々に入る事になるとは思っていなくて、瑞希の突拍子の無さにただただ頭を抱えるだけ。
急遽予定を変更してまでホテル行きたがるなんて、相当欲求不満だったのだろう。
………て事は、日頃俺は満足させられていないって事なのか?
だとしたらかなり落ち込むんだが。
悶々とする俺の横で瑞希は何やら携帯を操作している。
「あ、あのさ、瑞希……」
そっと彼女の肩に触れようと手を伸ばした瞬間、目の前に彼女が操作していた携帯が突き付けられた。
「え……?」
「これ、どういう事ですか?」
どういう事って、今の状況がどういう事だよ……と思いながら画面を注視すると
「うわぁああっ!!ど、どうしてそれをっ!!!」
頭の中が真っ白になった。
よく魂が抜けたような漫画の表現があるけど、今の俺はまさにそれで。
全身の力が抜けてそのまま後ろに倒れ込む。
「どうしてって、質問してるのは私です。どういう事ですか?」
「うあ………うぁぁ……嘘だろ……」
瑞希の携帯の画面には、BL作品のボイス動画が表示されている。
その動画に俺は心当たりがあり、瑞希が何となく不機嫌な理由がたった今判明した。
「割りとつい最近ですよね、これ。どうして黙ってたんですか?」
淡々としつつも、ほぼ確実に怒っているであろう瑞希に観念して、動画について白状する。
「スクール時代の友達から頼まれて………ついノリで……」
「ふぅん……」
「お、面白そうかなって……」
ノロノロと体を起こす。
「名義が“らいふ”となってますけど、これは久世さんの裏名義という事で間違いないですか?」
「…………ハイ、思い付きで付けた名前デス。流石にリュークという名で出るのは抵抗があったので…」
動画をUPしたのはほんの数日前。
普段愛用している名義を使わなければバレないと思ったのに、こんなにも早く見付けてしまうとは流石は瑞希。
しかもよりによって男に掘られてよがってる演技をしてる、超絶恥ずかしいヤツを聞かれてしまうとは。
好きな子には絶対聞かれたくなかったのに。
今すぐ消えてしまいたい。
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