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久世少年の憂鬱 side:竜生
しおりを挟む毎週木曜12時45分からの15分間、この時間は俺の無双タイムだ。
『全校生徒の皆さんこんにちは。お昼の放送の時間です。本日の連絡は5件あります。まず一つ目………』
中3になって放送委員会に所属した俺は、自慢の声を存分に活かしていた。
放送時の喋りは主に2年と3年が交代で、1年は原稿準備となっているのだが、同じ木曜日の当番メンバーに推され、俺が殆ど1人で喋る形になっている。
声の良さは勿論、滑舌が良く聞き取り易い為評判がすこぶる良いんだとか。
密かにラジオのパーソナリティーの気分を味わえて気分が良い。
『………以上でお昼の放送を終わります。担当は1年宮前・輪島、2年斎藤・橋田、3年富田・久世でした』
放送を終えて放送室を出ると、待ち構えていたように放送委員の担当・山崎先生が行く手を阻む。
「久世くん、相変わらず良い放送だったよ!いつもながら良い声で聞き惚れちゃう!」
満面の笑みを携えながら迫ってくる山崎先生に若干恐怖を感じた。
「あ……ありがとうございます……」
「職員室で給食を食べてる先生方皆、久世くんの声良いねって言ってるよ~」
毎回放送終了後に同じ台詞を聞かされる。
耳にタコが出来そうだと思いつつも、悪い気はしない。
寧ろ鼻高々だ。
「私が担当してる2―1でも女子達がもっぱら噂してるよ。木曜日の放送の声、凄く格好いいって」
「あ、はは……嬉しいっす」
何だか、冴えない俺でもちょっとした人気者になれたようで嬉しかった。
その少し後くらいから教室前に下学年の女子が現れるようになった。
「おい久世、またお客さんだぞ」
クラスメイトに呼ばれ、盛大に溜め息を吐きながら廊下に出ると、見知らぬ女子が決まって2、3人で待ち構えている。
少し離れた所から遠巻きで見ている女子も数人いたりする。
「………何の用?」
中には結構可愛い子も居て、状況的に期待するのは当然だろう。
思春期なもんで。
けど、期待通りの展開になる事は一度もなかった。
「あ………あなたが久世先輩なんですか?本当に?」
「そうだけど……」
「しっ、失礼しました!!」
大抵こんなやり取り。
「嘘………声からしてもっと格好いい人だと思った」
「なんか、ガッカリだね……」
去り際、聞こえよがしに浴びせられる台詞もほぼ同じ。
これ、思春期男子にはかなりキツい。
「ま、元気出せよ久世」
「イケボ過ぎんのもなんかアレだな」
友達に慰められ、惨めな気持ちに拍車が掛かる。
「………いい、どうせ俺なんか……」
机に突っ伏し、滲み出る涙を懸命に堪えた。
「あと何回こんな思いすればいいんだ……」
憂鬱な思いを抱えながら、いつか声だけじゃなく俺自身を必要としてくれる人に出会いたいと強く願った。
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