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声という宝物③
しおりを挟む「…………付き合うってのはどうでしょうか。伊原さんさえ良ければ………ですが」
オーディションを受ける時と同等…………下手すればそれ以上の緊張を味わいながら、大それた提案をしてみる。
「伊原さんをもっと喜ばせたいです」
一夜限りの割り切った関係で終わらせる筈が、言い出しっぺの彼女を差し置いて俺の方から関係続行を願い出る形になった。
けど、彼女の反応は微妙だ。
「あ………やっぱり、嫌ですよね。こんな冴えない男なんて……」
関係を持つまで彼女の事を散々警戒していたのに虫が良過ぎるか。
調子づいて抱き寄せて、キスまでした自分が恥ずかしくなって、伊原さんから体を引き離した。
「………聞かなかった事にして下さい」
伊原さんは、俺の声だけが好きなだけ。
俺自身には一切興味ないだろうから、俺の申し出にさぞかし困惑した事だろう。
伊原さんのような人ならもっと良い男がお似合いだ。
だから俺みたいな冴えない奴が迫った所で、拒絶されるのは目に見えていたのに、最中の彼女があまりに良い反応を見せてくれたから、勝手に舞い上がってしまっただけ。
きっと彼女は迷惑に思っているに違いない。
さっさとシャワーを浴びて彼女を送り届けようと思い、バスルームに向かおうとすると
「私が好きな声でそんな可愛い事を言うの卑怯です」
伊原さんが俺の背中にしがみついてきた。
「伊原さん……?」
「久世さんと付き合ったら、私もっともっと欲出しますよ?」
淡々クール女子の伊原さんがねだるように甘えた声を出す。
「声が聞きたいから毎日電話しろとか、こんな台詞を言ってとか…………面倒臭い事言い出したりしますよ?」
これは………期待しても良いのだろうか?
勇気を出して体を反転させると、伊原さんが不安げな表情をしていて、心なしか小刻みに体を震わせているように思える。
そんな彼女が可愛くて、彼女の要求に応えたくなった。
気障な台詞だろうが狂気染みた変態チックな台詞だろうが何だって言ってやる。
「伊原さんが喜んでくれるなら出来る範囲で応えます」
俺の言葉を受け、伊原さんの表情が明るくなった。
「もっと色んな声聞かせて下さい」
俺の胸に飛び込んで来た伊原さんの体を優しく包む。
「……声だけじゃなくて、俺の事も好きになって貰えると嬉しいです」
果たしてこれはファンに手を出した事になってしまうのだろうか?との疑問はさておき、ひょんな事から可愛い彼女が出来てしまった。
人生が詰んだ最悪の日になるかと思いきや、最高の日になった。
人に誇れるものがなくても、声だけは人より良くて良かったと思う。
自分の声をこれからも大切にしていこうと心に決めた。
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