その声は媚薬.2

江上蒼羽

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謎の展開①side:竜生

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薄暗い部屋でやたらデカいベッドがその存在を主張している。

それに腰掛け、頭を抱えた。


「どうしてこうなった………」


バスルームからシャワーの音が聞こえてくる。

その音が今の状況を現実だと示している。

流されるままに近場のホテルに入ってみたはいいものの、今更後悔と自責の念に駆られている。


伊原さんとは昨日知り合ったばかり。

これといった関わりもないから彼女の事は良く知らない。

けど、正直見た目は割りとタイプだったりする。

これから彼女と二人で何をするのかはちゃんと分かっている。

分かっているからこそ、この状況に戸惑っている。

伊原さんにとって、俺とをするメリットはあるのだろうか?

俺にとっては伊原さんみたいな女性と致せる事はラッキーでしかない。

最近めっきりご無沙汰で溜まりに溜まった性欲を発散出来る良い機会でもあるし。

でも伊原さんは……?

相手が俺なんかで良いのだろうか?後悔するんじゃないか?

知り合ったばかりのこんな冴えない奴とヤりたいとか、普通に有り得ない。



「…………都合良過ぎるだろ」


溜め息と共に吐き出した言葉にハッとした。


俺にとって都合が良過ぎる。

強引に意見を通してまで俺との行為を望む彼女は、何か裏があったりするのかもしれない。

美人局というやつだったらシャレにならないな……と思っていると、シャワーの音が止んだ。

ここから一気に心拍数が上昇する。

暫くしてバスルームのドアの開閉音が聞こえた。



「お先にすみません。久世さんもどうぞ」


もう後には退けない。

息苦しさで気が狂いそうだった俺は、彼女の言葉にか細い声で「はい……」と返すだけでやっとだった。

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