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ピンチ、からの~②
しおりを挟むガチガチだった緊張が和らぎ、重かった口が羽のように軽くなった。
「チャンネル登録数も視聴回数も少ないから俺だと気付かれないだろうと高を括っていたんですが………あっさり伊原さんにバレるとは……」
独り言のように、俺は動画配信に至った経緯を簡単に語った。
聞き流してくれて良いのに、その間伊原さんは笑ったり茶化したりせず、真剣な表情で聞いてくれていた。
「毎日何回も動画を再生しまくってるファンを侮っては駄目ですよ?」
「はは………完全に想定外でした」
俺を馬鹿にする所かファンだと言ってくれた彼女に少しだけ気を許し掛けて、当初の目的を思い出す。
「そ、それであの………この事は他言無用でお願いします……」
本当に俺のファンだというなら貴重な存在だ。
だからといって、彼女を完全に信用してもいい人間なのかは、この場では判断がつかない。
「口止め料をお支払いさせて頂きます。あまり多い額は払えませんが……」
弱味を握られたままの状態では気持ちが落ち着かないと思い、自分から金銭の支払いを申し出ると彼女は「そんなの要りません」とキッパリ拒否した。
「それなら……何か要求があれば何なりと仰って下さい。俺に出来る事なら何でもしますから」
飯は奢らせてくれない、金は要らない……じゃあ何ならいいのか。
「そんなに心配しなくても人に言い触らしたりSNSとかで発信したりしませんよ」
「ですが……」
「ま、昨日が初対面で、よく知りもしない人間を信用出来ないのは分かります。ましてや女は口が軽いですし」
まるで俺の胸の内を見抜いているかのような言葉に押し黙ると、それに構わず伊原さんは続ける。
「お金は要りません。ただ………一つお願いがあります」
彼女は一瞬だけ躊躇いを見せた後、言いにくそうに言葉を発した。
「私とセックスして下さい。1回で良いんで」
「………は?」
今、何やら良からぬ単語が含まれていたような気がする。
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