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ピンチ、からの~①side:竜生
しおりを挟む意味が分からず呆けていると彼女は続ける。
「貴方のその声、私の好みのど真ん中なので。今すっごいきゅんきゅんしてます」
「なっ……」
真顔で謎めいた事を言う伊原さん。
力んで前傾姿勢だった俺の全身から力が抜けていく。
「な……何なんですか、貴女は………」
彼女の考えが読めない所か、訳の分からない事を言われて目眩を覚えた。
俺の精神状態を知ってか知らずか、伊原さんは優雅に食事を続けている。
俺の声できゅんきゅんしてるとかふざけてるとしか思えない。
仄かに苛立ちを感じていると、彼女が水で喉を潤してから言う。
「別に久世さんが仰ったような事、私は思ってませんよ。ただ意外には思いましたけど」
嘘吐くなよ、内心馬鹿にしてんだろ?と言いたい所をぐっと堪える。
「警戒させちゃって申し訳ないです。すみません。けど、私が今日久世さんにお声掛けさせて頂いたのは、久世さんがリューク本人かどうか確かめたかっただけです」
「………確かめてどうするつもりだったんですか?」
最大級に警戒しながら聞き返すと、彼女は口元に微かな笑みを浮かべて「お礼を言いたくて」と言った。
「お、お礼………?」
更に彼女の意図が分からなくなった。
多分、今の俺は狐に摘ままれたような奇妙な顔をしている事だろう。
そんな俺に彼女は柔らかい笑みを向けた。
「とても素敵な声してますよね。いつも癒されてます。ありがとうございます」
女神のような微笑み付きで声を褒められれば、照れない奴はいない。
「お、お礼を言われる程では……」
苛立ちは一気に吹っ飛び、じわじわと沸き上がる喜びを噛み締める。
思春期男子みたいにモジモジする様は、我ながら気持ち悪い。
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