その声は媚薬.2

江上蒼羽

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大ピンチ!!①side:竜生

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その時は突然訪れた。



「あのっ………リュークという動画配信者ってご存知ないですか?リュークのボイスチャンネルってチャンネル名で声のみの配信してる人なんですけど……」


思ってもいない場所で、殆ど関わりのない女性の口から誰にも教えていない自分の活動名が出てきたものだから、心臓が胸を突き破って飛び出しそうになった。

瞬時に“あ、俺詰んだ……”と絶望の淵に立たされる。



「……存じませんが」


動揺を悟られないよう、そう返すしか出来なかった。


「それが何か?」


手にじっとりと汗が滲み、膝がガクガク震え始めた。

背筋には冷や汗が噴き出している。



…………やばいやばいやばい。

どこにバレる要素があった?

顔出ししてないし、内容に身元が割れるような箇所なんて一切ない筈だ。

なのに………どうして特定されるんだ……?


恐怖に支配された体は固まったまま振り返る事が出来ない。

だけど、その方が青ざめたこの世の終わりかというような表情を見られずに済む。

寧ろ好都合だ。



「最近頻繁にリュークという方の動画を視聴しているんですけど、久世さんの声が彼の声にとても似ているので本人かと思いまして……」


彼女は仕事で視察に行った先の従業員。

ちょっとしたやり取りしかしていない。

にも拘わらず、どういった訳か彼女は声のみで俺がリュークである事を見抜いているらしかった。


そんな事ってあるのか?

類似の動画は大量に配信されている。

そんな中からピンポイントで俺の動画に当たって、彼女の耳に入った訳だ。

しかも、俺に本人かと確かめに来ている位だから相当聞き込んでいる事だろう。

あの彼氏面した甘ったるい内容を。



まずい、やばい、まずい。

彼女の目的は何だ?俺を強請る気か?

だとしても、ここはシラを切り通すのみ。

妙な間が怖いけど。


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