その声は媚薬

江上蒼羽

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折角の熱々ハンバーグが冷えて仕舞わない内に食べてしまおうと、食事を再開する。

モグモグと咀嚼する私に対して、久世さんは相変わらず食が進まないようで、プチトマトを食べたきりサラダを放置している。


「別に久世さんが仰ったような事、私は思ってませんよ。ただ意外には思いましたけど」


これは本音。

まさか大人しそうな久世さんが顔出ししていないとはいえ、動画配信なんて大胆な事をしていると誰が想像出来るだろうか。

本当は声の感じからしてもっとイケメンを想像していたけれど、これについては黙っていた方が懸命そうだ。

ただでさえ動揺しまくって挙動不審になっている彼に追い討ちを掛けるみたくなってしまいそうだから。


「警戒させちゃって申し訳ないです。すみません。けど、私が今日久世さんにお声掛けさせて頂いたのは、久世さんがリューク本人かどうか確かめたかっただけです」


久世さんが怪訝そうに眉間に皺を寄せる。


「………確かめてどうするつもりだったんですか?」

「お礼を言いたくて」

「お、お礼………?」


私の答えが想定外だったのか、久世さんが目を丸くさせた。

久世さんがリューク本人である事がはっきりした所で、私はこの事を吹聴したり、これをネタに揺すったりするつもりは毛頭ない。

彼の様子からして秘密にしておきたいみたいだし。


「とても素敵な声してますよね。いつも癒されてます。ありがとうございます」

「お、お礼を言われる程では……」


消え入りそうなか細い声も、中々悪くないと思っていると、久世さんがホッとしたように大きく息を吐いた。

やっと肩の力が抜けたようだ。


「………俺、ずっと声優に憧れてて……」 


観念したように切り出した久世さんの口元にうっすら笑みが浮かんでいた。

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