その声は媚薬

江上蒼羽

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【12】

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数秒間を置いた後、彼はこちらを振り返らずに「……存じませんが」と返してくる。

その声はやはりリュークの声と似ている。


「それが何か?」

「最近頻繁にリュークという方の動画を視聴しているんですけど、久世さんの声が彼の声にとても似ているので本人かと思いまして……」


久世さんは私に背中を向けたままだから、彼がどんな表情をしているかは分からない。


「…………けど、ご存知ないようなので、久世さんはリュークとは無関係みたいですね。失礼しました、忘れて下さい」

「………はい」


世の中には声質の似た人がいくらでもいるだろうから、今回は残念ながら私の早とちりだったのだろう。

動画配信者がこんな身近にいる筈ないだろうし。


「でも本当に似ているんですよ。興味があったら聞いてみて下さい。後で島津さん………一緒に外観検査している子なんですけど、その子にも聞かせてみようかなって思っ―――…」


「てるんですよ」と言い切る前に、久世さんが竜巻を起こしそうな程の猛烈な勢いで振り返った。

そして物凄い早さで詰め寄り、私の両肩をガシッと掴む。

その手には強い力が入っている。


「…………今日の業務終了後、お時間ありますか?」

「え………?」


いきなりの久世さんの行動に驚かされたものの、すぐにその意味を理解した。

私の肩を掴む手が小刻みに震えている様、切羽詰まったような………怯えたようにも見える表情が私の疑問の答えそのものだった。

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