その声は媚薬

江上蒼羽

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課長の咳払いに、その場に居る全員の背筋が伸びた。


「おはようございます」


全体を見渡し、課長が声を張る。


「えー………◯◯電子の上條さんと久世さんです。今日明日の二日間、視察に入られます」


一瞬、周囲がどよめいた。

紹介されたスーツの二人は、其々短く名乗り、一言添えながら頭を下げる。

上條と名乗った方の男性はにこやかにハキハキとしていて明るい印象、久世と名乗った方の男性は無表情でボソボソと喋る様から暗い印象を受けた。

というか、久世さんの声は殆ど聞こえなかった。


「では、本日も納期に間に合うようにしっかり作業に取り組んで下さい」


いつもは話が長く、小言ばかりの課長が珍しく話を早く切り上げ、朝礼は終了。

そのまま恒例のラジオ体操へと移行した。

隣でかったるそうにラジオ体操をする島津さん、前方では張り切ってキビキビ動く課長。

その隣でスーツ姿でラジオ体操を行う視察のお二方。

シュールだな………と感想を抱きながら、私は私で背伸びの運動をする。





「視察なんて聞いてないですよ」


ラジオ体操が終わり解散。

各自持ち場について作業を始めると、頬を膨らませた島津さんが鼻息荒く言ってきた。


「社員の人達は知ってたみたいですけどね。派遣にも情報共有して欲しいですよ」


本日分の出荷予定数を確認しながら「ん………まぁ……だね」と、半分気のない返事をする。


「大体、社員と同等に派遣にも朝礼参加しろって言っときながら、肝心な所は線引きってどうなんですかね?」


文句が止まらない島津さんに構わず、夜勤担当者からの引き継ぎメモに目を通した。


「上條さんみたいなイケメンが来るって分かってたら、もっと気合いの入ったメイクして来たのに」


とか言いつつ、毎日男受けを意識したバッチリメイクして来ている島津さん。

これ以上気合いが入ったらどうなるんだろうか。


◯◯電子は、私が働いている会社に電子部品を製造委託している会社だ。

詳しくは分からないけれど、主に医療用の機器を製造し販売している企業らしい。

今日みたいに◯◯電子以外の企業がたまに視察に来る事はあっても、直接彼等に絡むのは上の人ばかりだから正直私にはあまり関係ない。

我関せずの姿勢で仕事するのみだ。

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