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不確かな物②
しおりを挟む鼻息荒く言い切った彼女は何故かドヤ顔。
「3年後、おっぱいボーン!のくびれギューン!のお尻プリリン!!のナイスバディーになれてるかは断言出来ないけど、お兄さんが思わず飛び付きたくなるような良い女に必ずなってみせますから!!」
大袈裟な身ぶり手振りでプレゼンする彼女を前にして暫く呆けていたものの、じわじわ何かがこみ上げてくる。
「くっ…」
「く?」
「くくっ……」
「九九ですか?9×9=82ですよ?」
懸命に堪えるも、不思議そうに覗き込んでくる彼女の切なそうな顔と微妙に違う九九の答えで限界が来た。
「っ、くくく……あははははっ!」
突如腹を抱えて笑い出した俺にびっくりしたのか、彼女の丸い目が更に丸くなった。
それからすぐに悲しそうな表情に切り替わる。
「ごめん……は、ははっ、気を悪くしないで」
目尻に溜まった涙を払いながら、懸命に落ち着きを取り戻そうとする。
「あまりに涼亜ちゃんが真剣で可愛くて……」
等とフォローしてみたものの、笑われている事が腑に落ちないのか、本人は仏頂面。
「こんなに一生懸命で真っ直ぐな告白受けたの初めてだよ」
漸く笑いが落ち着いた。
少しむくれながら彼女が「……馬鹿にしてますか?」と聞いてきたのを「違う違う」と否定する。
「ここ最近いい事なくて荒んでいたから素直に嬉しくて」
「へ……そう、なんですか?」
「この前の女性とは縁がなかったみたいでね」
言う必要はなかったのかもしれないけれど、話の流れ的につい何気なく打ち明けてしまった事柄は、彼女の表情を一気に明るくする。
「そうなんですかっ?!」
「………何だか嬉しそうだね」
俺の指摘に彼女は「あ、いや……」と、口ごもる。
その後、取り繕ったように大袈裟にションボリしてみせる彼女だけれど、口の端が不自然に歪んでいる様から、俺の不幸を喜んでいるらしい事が読み取れた。
彼女は非常に分かり易い。
ガキの頃はただがむしゃらに恋というものをしていた。
理屈抜きで“好きだから好きなんだ”と、感情のまま突っ走っていた。
どれだけ無様でも、それを気にする余裕すらない程一生懸命だった。
それが大人になるにつれ計算高くなり、見栄を張る事を覚えて格好ばかりつけるようになった。
余裕ぶった結果、余計に格好悪い状態になって自己嫌悪に陥って。
女々しくウジウジ落ち込んで引き摺る、みっともない自分に失望してる。
「………駆け引きなしに真っ正面からぶつかられたら避けようがないな…」
自然と漏れ出た俺の言葉が良く聞き取れなかったらしい彼女が「え……何ですか?」と、不思議そうに首を傾げた。
愛嬌のある仕草とくりっとした大きな目が彼女の幼さをより強調している。
「涼亜ちゃん、ありがとう」
素直で天真爛漫な女の子からの、真っ直ぐな告白は俺の荒みきっていた心に染みた。
純粋に、ただただ嬉しかった。
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