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特別な存在③
しおりを挟む「ううぅ……寒い…」
お店の前にある看板横で待機。
今夜の気温は氷点下まで下がるとか何とか。
その上、夜に一人で人を待つというシチュエーションだからか、余計に気温が低いように感じる。
吐く息は白い。
体が小刻みに震えた。
本当は暖かい店の中でお兄さんが来るのを待とうと目論んだけど、未成年の来るような所じゃないと摘まみ出されてしまった。
恨めしそうに、店のある建物の2階部分を見上げる。
そこからは、時折「わー!」とか「うぉおお!!」みたいな歓声が聞こえてきたり、「ピューピュー」という指笛のような音が聞こえてくる。
何でも今日はサッカーの大きな試合が中継されるらしい。
どっかの強豪国とベスト8をかけて………とか。
スポーツに興味のない私にはよく分かんないけど。
ともかく現場はかなり盛り上がっているらしい。
お兄さんが必ず現れる自信はないけど、前回女性とサッカー観戦していたとなれば、何となく来そうな気がする。
その何となくに賭けてみようかと思って、今に至る訳だけど、とにかく寒い。
ぷるぷる震えながら歩道脇の手摺に凭れ掛かる。
「お兄さん、来るかな…………来ないかな…」
現れて欲しいような、現れないで欲しいような………複雑な気分。
張り込みをする刑事さんの大変さを身を持って体験する事、数十分。
携帯で時間を確認し、今日の所は諦めようと凭れた手摺から離れる。
「すっかり盛り上がっている感じだね」
「そうですね。すみません、私のせいで試合開始に間に合わなくて…」
「仕方ないよ、仕事なんだから」
聞き覚えのある声が聞き慣れない女性の声と共に聞こえて来たから、前に出そうとしていた足を引っ込めた。
その声の主を確認する為に、恐る恐る顔を上げる。
すると、そこには……
「青柳のお兄さん…」
寒い中待ちわびた人物がいた。
「え………涼亜ちゃん……?」
ターゲットが私の読み通り、のこのこ現れた訳だ。
しかも綺麗なお姉さん連れで。
「………一人なの?どうしてこんな所に?」
明らかに驚いている筈なのに、お兄さんは無理矢理平静を装っている。
連れの女性の手前、格好つけているんだろうなって、何となく思った。
「何してるの?子供が彷徨く時間じゃないし、場所でもないよ」
「…………」
お兄さんの問いには答えずに、連れの女性の方を見た。
お兄さんの一歩後ろで様子を窺うその女性は、ショートヘアがよく似合う小顔の美人さん。
薄過ぎず、濃過ぎず……といった計算された丁寧なメイクに、然り気無いブランドバッグがよくお似合いの大人の女性な感じ。
ヒール靴を履いている為、私より20㎝近く身長差があって、目線の高さが全然違う。
長身のお兄さんと並んでもバランス的に丁度良く、恋人同士と説明されても、すんなり受け入れられそうな程、スタイルが良い。
私なんか、親子みたいな身長差なのに。
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