私は彼の恋愛対象外。

江上蒼羽

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傷口にハバネロ③

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黙り込むお兄さん。


「何かあるから、悲しそうな顔してるんでしょ?」

「………」

「水族館のポスターを見てた時だって………お兄さんのそんな顔、見てて辛いです」


お兄さんは、深い溜め息を吐いた。


「………涼亜ちゃんには関係ない事だよ」


冷たい台詞は、逆に私の闘志を燃やす。


「関係ないとか言われても関係ないです!私はお兄さんの力になりたいんですよ!」

「………」

「辛い事あるなら吐き出して下さいよ。私に解決出来ないかもだけど………もしかしたら解決出来るかもだし、一緒に悩んだり、解決策練ったりしたいんです!お兄さんを楽にしてあげたいんです!」


言ってる事が滅茶苦茶なのは分かってる。

私なんかじゃ力不足だってのも、ちゃ~んと分かってる。

それでも、何か役に立ちたい。

いつもお世話になっているお兄さんに、私なりの恩返しがしたいんだ。


「………はは……ありがとう…」


お兄さんが力なく笑う。


「折角の申し出だけど、人に聞かせるにはかなり恥ずかしい、みっともない話だから……」


弱々しく言ったお兄さんは、ここで漸く炭酸を飲む気になったらしく、プルタブを起こした。

プシュッ…と小気味良い音をさせた後、缶に口を付ける。

リズミカルに上下する喉仏を眺めながら“もしかして……”と、思い付く。


「失恋した場所、とかですか?」


喉仏の動きが止まった。

それから、すぐにお兄さんが苦笑しながら私を見る。


「…………傷口、グリグリ抉ってくれるね」

「あ……」


やばっ……と、咄嗟に口元を覆う。

お兄さんの反応からして、図星だったらしい。


軽い気持ちで、ほんの冗談のつもりで口にした事を後悔した。


「ご、ごめんなさいぃ……」


何でも思い付いた事をすぐ口にするのは、私の悪い癖だ。




お兄さんは、一つ深い溜め息を吐いてから、観念したように重々しく口を開く。


「……ここ、好きな子と来る予定だったんだよ」

「え……」


予定だった………という事は、来れずに終わってしまったという事。

水槽を眺めるお兄さんの悲しげな横顔から察するに、多分……


「………フラれて、それも叶わなくなったけどね」


予想した通りの理由を聞いて、言葉が喉に詰まる。


「尋問しといて、その反応は困るな。ここは笑い飛ばしてくれないと…」


ぎこちなく笑って言ったお兄さんの瞳の奥は、やっぱり寂しそうだった。




「……意外だ」


やっとの思いで詰まりが取れ、言葉が出てきた。


「お兄さんがフラれる事ってあるんだ…」


私が心底意外そうに言うと、お兄さんが吹き出す。


「そりゃあるよね。意外に思われる事の方が意外」

「いやだって、お兄さんイケメンさんだし、背も高くて優しいし……フラれる要素なくないですか?」


お兄さんに自分なりの見解を伝えると、彼はまた可笑しそうに声を出して笑った。


「要素ならいくらでもある。見栄っ張りだし、執念深いし、すぐに感情が顔に出る………大人ぶってるけど、根はガキなんだよ」


そう言うけど、幼稚な私からしたら、お兄さんは遥かに大人だ。


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