私は彼の恋愛対象外。

江上蒼羽

文字の大きさ
上 下
34 / 66

どんなに悔いても③

しおりを挟む



「お兄さん、おはようございます!良い天気ですね」


賑やかに現れた彼女は、当然のように助手席に乗り込んだ。


「おはよう、今日も元気だね」


テンションの高さは相変わらず。


「いやぁ~折角のお休みの所、申し訳ないですぅ~」


心にも思ってなさそうな台詞を吐いて彼女がシートベルトを締める。

そこで、ふと気付く。


「涼亜ちゃん……スカート短くない?」


かなり短いスカート丈に驚かずにはいられない。

スカートの裾から伸びる、肌色部分の面積の広さは、色気があるかどうかは別として、目のやり場に困る。


「えぇ?これくらい普通ですよ~」

「でも、寒くないの?」

「んー……タイツ穿こうか悩んだんですけど、天気良いし、気温もそれなりに高いみたいだからやめちゃいました~」

「そっか、若いね……」


取り敢えず、脚はしっかり閉じておいて貰いたい。


天気の良い日曜は、絶好の外出日和とあってか、街中を走行する車の数が多い。

ナビから流れるラジオの音声も外出を促すコメントばかり。

と、突然、助手席に座る彼女がナビを操作し始める。


「お兄さん、このオーディオ、Bluetooth機能あります?」

「ん?うん、確かあったと思うよ」

「思うよって……使わないんですか?便利なのに………あ、あった!」


パネルに表示されたBluetoothの文字をタッチした彼女が今度は自らの携帯を操作する。

接続に少しの間を要した後、ナビから流れて来たのは、やたらキラキラした歌詞の曲。

曲名は知らないけれど、一時期テレビや街中の有線で頻繁に流れていた曲だけに、聴き覚えはある。


「涼亜ちゃん、この歌って……」


甘ったるい歌声と歌詞にこそばゆさを感じながら聞いてみると、彼女は得意気に笑って言う。


「もっちろん、カイプリの曲です!メチャメチャ良い曲じゃないですか?」

「あ、あぁ……うん、耳に残るよね」


頻繁に流れていたから、嫌でもサビくらいは覚えてしまう。


「まだファンだったんだね」


俺が言うと、彼女は照れたようにはにかむ。


「へへ……そりゃ一度は担降りも考えましたよ」

「担降り……?」


担降り……とは、聞き慣れない単語だ。


「担当を降りる……つまり、その人のファンを辞めるって事でして…」

「へぇ…」

「レイくん似の彼に振られた挙げ句、レイくんの熱愛発覚で一時はレイくんの事が嫌いになりかけました」


彼女は「だけどっ!」と、力強く続ける。


「やっぱ好きなんですよ~レイくんの笑顔が、声が、ダンスが。そして何より、カイプリ皆のパフォーマンスが大好きで、ファンを止めるなんて無理なんです!」

「そっか……」


彼女のカイプリ愛は相当なものらしい。


「声が……って、皆似たような声じゃない?」

「えぇーっ!全然違いますよ!レイくんは、透明感のある一際甘い声です!」

「聞き分けられるんだ、流石だね」

「ファンなら当然です!」


こんなにも一つの事に夢中になれるなんて、ある意味羨ましい。

そして、彼女がすっかり帯刀さんとの件を吹っ切れているようで安心した。


いつまでもウダウダしている俺と違い、切り替えが早くて羨ましい。

これも若さの所以なのだろうか。




「今日はどうしてまた水族館に?」


車を走らせて数分、水族館の建物の一部が見えて来た所で何気なく聞いてみた。

すると彼女は満面の笑みで答える。


「それは勿論、お兄さんに恩返しをする為です!」

「………恩返し?」

「イエス!」


何とも珍妙な答えは、理解に苦しむ。


「恩返しって言っても、ツルの……じゃないですよ?えっへへ」


彼女は良く分からない前置きをしてから更に続ける。


「日頃お兄さんにはお世話になっているから、何かお礼をしたいと思っていたんです。で、前にウチの店先で水族館のポスターをジーっと見てたから興味あるのかなぁ~って」

「あ、いや………あれは別に…」


そんなつもりじゃ……と、言いたい所を「良いから良いから」と遮られる。


「メチャメチャガン見してたじゃないですか~!観たかったんでしょ?イルカショー。私も観たかったんですよね」

「あの、だからね…」

「チケット代とお昼代は私が払います!素直に奢られて下さいね」


彼女は基本的に人の話を最後まで聞けない子らしい。


「いや、高校生に奢って貰うのは、流石に抵抗が…」

「お気になさらずに。恩返ししたいんですよ!させて下さい!」

「……はは、ありがとね…」


恩返しがしたいと主張いる彼女だけれど、俺に車を出させている時点で恩返しになっていないような気もする。

敢えて口にはしないけれど。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

その声は媚薬

江上蒼羽
恋愛
27歳、彼氏ナシ。 仕事と家を往復するだけの退屈な日常を潤してくれるのは、低くて甘い癒しのボイス。 短編の予定。 途中15禁のような表現があるかもしれません。

灰かぶりの姉

吉野 那生
恋愛
父の死後、母が連れてきたのは優しそうな男性と可愛い女の子だった。 「今日からあなたのお父さんと妹だよ」 そう言われたあの日から…。 * * * 『ソツのない彼氏とスキのない彼女』のスピンオフ。 国枝 那月×野口 航平の過去編です。

友達以上、恋人未遂。

ろんれん
恋愛
 結婚している訳でも交際している訳でもなく、互いを性的に見る事なく、下ネタを言い合える程度には仲の良い友達程度にしか考えていない……そんな男女の、恋人フラグ立ちまくりの日常。 (※作者の暇潰しで書くので、かなり不定期更新です)

〜幸運の愛ガチャ〜

古波蔵くう
ライト文芸
「幸運の愛ガチャ」は、運命に導かれた主人公・運賀良が、偶然発見したガチャポンから彼女を手に入れる物語です。彼の運命は全てが大吉な中、ただひとつ恋愛運だけが大凶でした。しかし、彼の両親が連れて行ったガチャポンコーナーで、500円ガチャを回したことで彼女が現れます。彼女との新しい日々を楽しむ良ですが、彼女を手に入れたことで嫉妬や反対が巻き起こります。そして、彼女の突然の消失と彼女の不在による深い悲しみを乗り越え、彼は新たな決意を持って未来へ進むのです。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

オフィスラブは周囲の迷惑から成り立っている。

江上蒼羽
恋愛
オフィスラブに夢中になっている人達を見掛けては、“何しに仕事に来ているの?”……なんて軽蔑していた。 そんな私の前に現れたのは…… エブリスタにて公開している作品を手直ししながら公開していきます。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

選ばれたのは美人の親友

杉本凪咲
恋愛
侯爵令息ルドガーの妻となったエルは、良き妻になろうと奮闘していた。しかし突然にルドガーはエルに離婚を宣言し、あろうことかエルの親友であるレベッカと関係を持った。悔しさと怒りで泣き叫ぶエルだが、最後には離婚を決意して縁を切る。程なくして、そんな彼女に新しい縁談が舞い込んできたが、縁を切ったはずのレベッカが現れる。

処理中です...