私は彼の恋愛対象外。

江上蒼羽

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お兄さんの横顔②

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「つってもさぁ……難しくない?」

「そうそう。贈り物するにしても、大人の男が喜ぶ物なんて高校生の小遣いで買えるような代物じゃないだろうからね」


二人の言葉に「だよねぇ…」と、項垂れる。


「性的なサービスとか?」

「いやいや、涼亜じゃ相手にならないでしょ」


麻友里のぶっ飛び発言を奈々が冷静に否定する。


「チビでガリガリ……ボーイッシュな胸に、括れのないウエスト………グラマラスとは程遠いもん」

「うっ……」


強ち間違ってないけど、結構………いや、大分傷付く。


「その前に経験ないし、知識も乏しい感じだしね」


麻友里が言うと、奈々が「あぁー…」と、大きく頷く。


「好きなアイドルに関する知識はすごいけどね」

「…………るさいな」


彼氏持ちで、私より数歩先行っている二人のズケズケとした物言いはダメージがデカ過ぎる。


「お兄さん、コンビニ弁当の率高いし、栄養バランスの良い手料理とかどうかなぁ?」


これは我ながらなかなかの名案だ。

けど、奈々が「やめときなよ」と、真顔で止める。


「料理の出来ないアンタが作ったもんなんて、怖過ぎる!」

「え……」

「食中毒で入院ってなったら却って迷惑じゃん」


これまた酷いお言葉。


「逆に、変に気を回さない方が良い気がする。涼亜に限っては」

「言えてる」


二人の言う事は間違ってない。

自分のキャラ的にこういう扱いなのは仕方がないと思うけど、もう少し親身になってくれてもいいのに。


「ま、相手も女子高生に何かして貰いたいなんて、これっぽっちも思ってないって。いつも感謝の気持ちを忘れないでいるだけでいいんじゃない?」

「だね。それが一番でしょ」


そうかもしれないけど、それだと私の気が済まない。






バイト中

少しだけ手が空いて、店内に設置されたゴミ箱のゴミを捨てに外へ出た。

一雨来そうな空模様に溜め息を吐く。


「降らなきゃいいけど…」


ペットボトルが大量に入った袋を店裏のゴミステーションに置いて戻ると、店先に見慣れた姿があった。

多分仕事帰りなんだろう。

いつものようにスーツ姿が決まってる。

だけど、何だかいつもと雰囲気が違う。


「………」


何となく、声を掛けづらい。

店に入らず、何かを見詰めているお兄さん。

その視線の先にあるのは、確か………


「あ………涼亜ちゃん」


私の視線と気配に気付いたお兄さんは、いつも通りの優しい笑顔を向けてくる。


「今日もバイトなんだね、お疲れ様」

「は、はい……お兄さんもお疲れ様です!今週は土日もバッチリシフト入ってます」

「そっか、頑張るね」


普段と変わらない世間話とお兄さんの笑顔。

なのに、何かが違う気がする。


「あの、青柳のお兄さん……」

「ん?」


お兄さんの視線の先あったのは、昨年リニューアルオープンした隣町の水族館のポスター。


「水族館、行きたいんですか?」


私が聞くと、お兄さんは一瞬だけ真顔になった。

それから、すぐにぎこちない笑みを浮かべる。


「………いや、派手なポスターだなって、見てただけだよ」

「そう………ですか…」


そんな風にはちっとも見えなかったけど……という言葉を懸命に飲み込む。


「寒いね」

「店内は暖かいですよ。是非、暖まって行って下さい!こんな日はおでんなんて如何ですか?」

「あっはは、商売上手だね」


何て事ない風を装っているお兄さんだけど……

冬限定の特別なイルカショーを告知しているポスターを眺めていたお兄さんの横顔は、とても悲しそうで

物凄く切なそうに見えたのは、きっと私の気のせいなんかじゃないと思う。


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