私は彼の恋愛対象外。

江上蒼羽

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潤いのない生活①side:青柳

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青柳 謙太あおやぎ けんた




27歳、会社員。

最近好きだった女が入籍したという話を聞いて、絶賛やさぐれ中。

しかもよりによって……


「帯刀さんが結婚しちゃってショック~…」

「はぁーあ、総務課女子達の……いや、この会社全部署の女子達のアイドルだった帯刀さんが一人の女の物になるなんて…」

「相手はあの地味な清掃員の女だっていうのが悔しい!」


一部女子社員達から密かに王子と崇められていた、小憎たらしいあの腹黒男が彼女の結婚相手だというのが腹立たしい。


「社内でイチャついてたのを見たって言う人もいるみたいよ?」

「羨ましい~!どうやって帯刀さんを落としたのか知りた~い!」

「そういえば………最近見ないね、あの清掃員。辞めたのかな?」

「帯刀さんと結婚した挙げ句に寿退社?最高に羨ましい人生だわ」


話題に上がっている地味な清掃員がこの会社の副社長の娘である事をまだ知らない女子社員達の会話を聞きながら、人知れず溜め息を吐いた。

俺は彼女達とは違う視点で同じ感想を持っている。


実の所……自棄になった羽鳥さんからの要求を喉から手が出そうなのを必死で我慢して断った。

棚から落ちてきたぼた餅に脇目も振らずにがっつくのはみっともない気がして。

その後密かに彼女が再度俺に泣き付いて来るのを期待してた。

にも拘わらず、あの男は……



―――ピキッ…



力が入り過ぎて、ボールペンの軸にヒビが入った。


「あ、青柳くん………顔怖いよ…」


何故か怯えたような顔をした課長が恐る恐る書類を差し出して来た。


「こ、これ………お願いね?出来れば明日までに…」


食われる寸前の小動物みたいに身を震わせている課長の手から書類を抜き取った。


「……承知しました」

「お、お願いね………ごめんねぇ…」


逃げるように去って行った課長の背中に向けて、舌打ちをした。

課長が置いていった仕事は、来週に控えた社の重要会議に纏わるもの。

議事運営にあたってのシナリオの作成、質疑応答への対応、想定問答の作成……等々。

正直、別の案件も抱えていて手一杯だ。

自分でやるか、他の奴に頼んでくれれば良いものを……



「………ふぅ…」


酷使し過ぎた目を労るように眉間を抑え、疲れを和らげるように軽くマッサージした。

今日は残業確定か。

どいつもこいつも身勝手な奴ばかりだ。

特に、彼女に対して恋愛感情はないとか言っておきながら



『実は俺も凪の事好きだったのよねぇ~』



なんて、あと出しじゃんけんみたいな反則技でかっさらっていったあの男。

本当に腹が立つ。

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