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ハッピーエンド……?
しおりを挟む形の良い唇と適温に触れた後、唇を離した忍足さんが至近距離でしたり顔を披露する。
「これは……相思相愛で間違いないよね?」
「…………」
本当だったらもっと嫌味をふんだんに言ってやるつもりだった。
もっともっと詰ってやるつもりだった。
だけど、どうしてか彼の安堵に満ちた笑顔を見たら、文句の一つも出て来やしない。
「今夜は帰さない……とか臭い台詞言って良い?」
「え………あ、いや、その…駄目です…」
「次いつ会えるか分かんないし……ウチで飲み直さない?下心半端なくあるけど」
「し、下心っ?!」
笑顔でさらっと刺激的な事を言う忍足さんとは、一緒に居ると色んな意味でドキドキさせられる。
彼は意地悪な事を平気でするし、言いもする嫌な奴。
………だけど、私はそんな彼が好きなんだ。
数ヵ月後。
「まさか、こんな事になるなんてね」
スポーツ紙片手にテレビを見ながら沁々呟く川瀬さんの隣で保科さんが大きく頷いた。
「ホントホント、当初の予定にはなかったのに」
狐に摘ままれたように不思議そうな顔をした二人を前に、私と忍足さんは照れ臭そうに顔を見合わせる。
「燃え上がったは良いけど、計画性を持たなきゃ駄目よね。良い大人なんだから」
「とはいえ、今更言っても仕方ないだろ」
説教染みた事を言う川瀬さんとそれを宥める保科さん。
私と忍足さんは苦笑いするしかない。
川瀬さんが手にしているスポーツ紙の見出しには
【忍足 慧史&まんぼう森川 素良、まさかのデキ婚!!】
デカデカと記載されている。
ワイドショーも朝から大賑わいだ。
「というか、今時デキ婚なんて言いませんよ」
「そうそう、今は授かり婚って言いますよね。このスポーツ紙、見出し間違ってますよ」
「記事ももうちょっと言い回しとか気を遣って欲しかったな」
「確かに。多分この記事、新人が書いたんですよ」
口々に不満を言う私と忍足さんを川瀬さんが「黙りなさい」と一喝する。
「記事はともかく、そろそろ会見の時間よ。心の準備は出来てるの?二人共自分が何を喋るか分かってるわよね?」
川瀬さんの鋭い眼差しに、自然と背筋が伸び、気が引き締まる。
「勿論です」
「私も心の準備は出来ています」
と、ここへ相方の間宮が現れる。
「すっごい報道陣の数だよ!会場ぎっしり!もっと広い会場押さえた方が良かったんじゃない?」
間宮が興奮気味に言うもんだから、忽ち緊張で鼓動が速くなった。
「えっ、どうしよ………」
「素良、深呼吸深呼吸」
仕舞いには全身震え出して、立っているだけでしんどい。
そんな私を心配して、落ち着くように忍足さんが優しく手を握る。
「行こう、足元気を付けて」
忍足さんと想いの丈をぶつけ合った日から、順調に愛を育み、現在新しい命をお腹に宿している。
こうなれば必然的に、私が芸人になる事を反対していた両親も認めざるを得なくて。
母がいつの間にか忍足さんのファンになってた事もあってか、実家は一気に祝福ムードになった。
嬉しいけれど、こそばゆい。
「森川、体調が悪くなったら無理しないで。早めに会見切り上げるのよ」
いつもは厳しいだけの川瀬さんの言葉が優しくて温かい。
「ありがとうございます」
今日は結婚と妊娠の報告をする為に会見を開く。
ここで堂々と宣言しようと思う。
「私は幸せです」と大きく。
それから「今後は芸人の仕事をしつつ、ママタレ枠を狙います」とも宣言するものアリだと思う。
「素良、フラッシュに気を付けて」
「うん、慧史くんも」
会場までの通路を一歩一歩噛み締めるように進みながら、私は心の中で叫ぶ。
「売名恋愛万歳!!」
と。
*終わり*
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