売名恋愛(別ver)

江上蒼羽

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相方の熱愛

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何とかミッションをやり遂げて帰国した私の心は晴れやかだった。

ディレクターは良い画が撮れたと上機嫌だし、苛酷ミッションをやり切った事でADや川瀬さんからの評価がぐんと跳ね上がった。

芸人としての株を上げ、鼻高々の私を待ち受けていたのは、想像したくもない現実だった。




「………まさか、日本を離れている間にこんな事になってるとはね…」


収録前の楽屋に溜め息が響く。

切なそうに頭を押さえる川瀬さんの向かい側で、今日発売されたばかりの週刊誌を凝視している私がいた。

記事の見出しには




【相手は恋人の相方!!深夜12時、裏切りの密会!!】



と、デカデカと表記されている。


「………こんな事書かれて……世間の好感度が下がってしまうわね」


苛立ちを隠しきれない様子の川瀬さんは、胸元から煙草の箱を取り出した。


「間宮も相手を選びなさいよっての」


火が着けられた煙草から、紫煙が上がる。


「まぁ、うるさい事務所のアイドルじゃないだけマシだけど……世間的にはまだ森川と付き合っている事になってるから二股と捉えられちゃうわね。これじゃ、お互いの商品価値が下がるだけだわ」


怒りを滲ませて「そう思わない?森川」と私に振ってくる川瀬さんだけれど、私は何も答えられずに固まったまま。

ショックを通り越して、心臓が急停止しそうだ。

掲載されていた写真には、人目を忍ぶように変装した二人の男女が写っていた。

マスクにだて眼鏡という、いかにも変装してますって感じの格好ながらも、ズームアップされた写真の目元を見る限り、相方の間宮だと断定出来た。

そして、相手は忍足さんで…


「………よっぽど記事にされるのが好きなんですね…」


つい皮肉を言いたくなる程、不快だった。


「夜のデートを楽しんでいたんですかね…」


記事には、飲食店の個室で深夜まで食事を楽しんでいた……とある。

何時間一緒に居たか等の記載はないにしろ、仕事で忙しい二人がワザワザ時間をやりくりして深夜に会っていたとなると……これは、黒とみて間違いないだろう。

間宮が彼に向かって手を伸ばしている写真から、親しい間柄にまで発展している事は明白。

きっと、腕を組もうとした瞬間を週刊誌にキャッチされたんだと思う。


「………間宮ってば、もっと良い人いただろうに…」


別に川瀬さんからの同意が欲しくて呟いた訳じゃない。

自分の中に発生した、へどろみたいな汚ならしい泥々した感情を共に吐き出したくて口にしてみただけ。


「よりによって、こんな人なんか……」


何でか知らないけれど、手が小刻みに震える。

自分でも意味がさっぱり分からないけれど、何故か苛々する。

ずっと浮いた話がなかった間宮の初スキャンダル。

仕事一筋の間宮にやっと春が来たんだ。

喜ばしい事なのに、どうしてだか二人を祝福出来ない自分が居る。

この密会報道を面白くないと感じている自分が居る。

二人は美男美女でお似合いだ。

だけど相方に裏切られたような気がしてならない。

訳の分からない怒りを滲ませながら、週刊誌を放り投げた。

そんな私の様子に驚いたのか、川瀬さんがやたらと瞬きの回数を増やす。


「も、森川…?」

「………」


何か言いたげな視線を投げ掛けながらも、川瀬さんは何も言って来ない。

それを良い事に、彼女に背を向けて携帯のアプリを起動させた。

人気のパズルゲームで高得点を出して、最高スコアを更新出来たら、少しは気が晴れるかもしれない。

なのにどうしてだか、今日に限っては全然集中出来ない。

大したスコアを出せずに時間切れになるもんだから、余計にフラストレーションが溜まる。


「っ………もうっ!」


思うようにいかない苛立ちをぶつけるように、テーブルを叩いた。

それにまた川瀬さんが驚いて……

テーブルに八つ当たっても仕方がないのに、子供みたいに物に当たっている自分がどうしようもなく腹立たしい。

鎮まらない不快な感情を持て余していると


「お疲れ様で~す!」


間宮が元気良く現れた。


「遅れてすみませーん。ちょっと寝坊しちゃってぇ…」


明るく言う間宮は、どうやら週刊誌の記事の事を知らないようだ。

そんな彼女が当たり前のように私の隣に座って来た。


「森川、おっはよー………って、またそのゲームやってんの?好きだねー」

「………」


いつもの通りに話し掛けられるも、何の反応も出来ない。

それどころか、間宮の顔を見たくないとすら思ってしまっている。


「スコアどれくらいまでいった?」

「………」

「ところで海外ロケどうだった?楽しかった?何か面白い事あった?ねぇ森川」


問い掛けられても、ゲームに夢中な振りをして逃げる卑怯な私。


「ねぇ、森川?何か喋ってよー」


反応しない私に焦れてか、肩を揺さぶってくる間宮。

私の中の苛立ちが、プチプチと弾け始めた。


「………ちょっと小腹が空いたんで、オヤツ買ってきます」


本格的な爆発を起こす前に、自ら退避の姿勢を取った。

私は間宮の相方だ。

彼女の幸せを誰よりも祝福してあげなければならない立場にいる。


「記事見たよ、オメデトー!」

「まさかの相手で驚いたよ」

「末長く仲良くね」


満面の笑みを浮かべながら、言ってやらなければならないのに。

顔が強張ってしまうどころか、声にすら出来ないなんて…

忍足さんと間宮なら、お似合いだ。

私が偽装デートで彼の隣を歩いていた時なんか、絵面的に微妙だったし。

きっと、良い恋愛が出来ると思う。

なのに、どうしてだか心がズキズキする。

不思議と胸がムカムカする。

気に入らないなんて感情も抱いてしまっている。

私って、こんなに心が狭い人間だったっけ?

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