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希望の光
しおりを挟む一夜明けて、帰国予定の日がやって来た。
まだまだ良い画が撮りたいらしいディレクターは、現地ガイドに何か面白いスポットはないかと詰め寄り、最後の悪足掻きをしている。
あーでもないこーでもないとやり取りしているのを尻目に、私と川瀬さんはロビーでチェックアウトまでの一時をのんびりと過ごしていた。
「良い天気ね」
「そうですね。日本の空とは違う青ですよね。心が洗われるようです」
昨日雨が嘘のような快晴。
窓から差し込む太陽の光に目を細めていると、背後から小さな衝撃を受ける。
「うあっ」
「ぶふぅっ!」
思わず前のめる程の衝撃を与えたのは、小学校低学年位の男の子だった。
「あっ、ごめんね!大丈夫?……って、日本語通じるのかな?」
見た目はアジア系。
でも、この少年が日本人とは限らない。
戸惑いながらも改めて「大丈夫?」と確認すると、男の子が「あっ!」と声を挙げる。
「まんぼうライダーだ!もりかわ、もりかわー!」
「えっ?えっ?」
いきなり私を指差してはしゃぎ出す男の子。
どうやら日本人だったらしい。
「もりかわすきー!!」
嬉しそうに私の手を握る男の子につられて私も自然と頬が緩む。
「私の事知ってるの?」
「うん!もりのようせい、かわのせいれい………えっと何だっけ?」
「あはは、お空のご先祖様のアイドル、森川素良です」
嬉しい事に、私の持ちネタまで認知してくれていた。
「すみません、ウチの子ちゃんと前を見ていなかったので……」
遠くから駆け寄って来た母親らしき女性が男の子を回収する。
「ほら、お姉さんにごめんなさいしたの?」
「おかあさん、まんぼうライダーのもりかわだよー!」
男の子の言葉に、女性が私をまじまじ見る。
「あらあら……まさか旅行先で芸能人に会えるなんて!………握手良いですか?」
怖ず怖ずと手を差し出して来た女性に、私も「喜んで」と右手を差し出す。
「ウチの子、森川さんのファンなんです。いつも森川さんの出ている番組がやっているとテレビにかじり付いてるんです。ねっ!たくちゃん」
「うんっ!!もりかわだいすき~!いつもみてるよ。このまえみたのもおもしろかったし、かっこよかった」
窓から差し込む日差しよりもキラキラした笑顔で言ってくれちゃうもんだから、嬉しくて涙が込み上げて来た。
「これからもがんばってね!」
「これから何かの撮影ですか?頑張って下さいね。親子で応援してます」
涙で視界が滲むけれど、この親子が満面の笑みでいる事はよく分かる。
「あ、ありがとう……ありがとうございます…」
こんな時、芸能人やってて良かった……と感じる。
特に小さな子からの応援は純粋さを含んでいるから余計に。
「バイバーイ」
手を振る親子に手を振り返す。
その横で川瀬さんがそっと呟く。
「………引退の件、今なら聞かなかった事に出来るけど?」
手の甲でぐいっと涙を拭う。
「川瀬さん、昨日のバンジージャンプ………私、やります」
一度決心したものをあっさり撤回してしまうなんて、意志が弱いと人は笑うかもしれない。
だけど、私の小さなファンの期待を裏切りたくないから、もう少し踏ん張ってみたくなった。
小さなファンがくれた大きな勇気を胸に、私は崖から羽ばたく。
「う、あああああああーーーっ!!!」
見事に失神したけれど。
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