売名恋愛(別ver)

江上蒼羽

文字の大きさ
上 下
34 / 46

演技過剰?それとも……?

しおりを挟む

「知ってるよ………最上と二人で会ったりしてるの。隠してても情報は入ってくるから…」


最上さんと飲みに行ったお店は、忍足さんも度々利用するらしいというのは最上さんから聞いて知っている。

きっと、その辺の関係者から忍足さんへと情報が流れたんだろう。

下手すると、カウンターの端っこでキスしていた事も知られている可能性もありそうだ。

キスの名残を探るように唇をなぞる指。

触れ合った時の熱と甘いカクテルの香りを思い出していると、忍足さんが手がそれを止める。


「素良………どうして…」


譫言のように呟いた彼は、乱暴に私の唇に自らの唇を押し当てる。


「っ、」


無理矢理捩じ込まれた舌が私の口内を這う。

ビジネスキスの経験は豊富なものの、どれも触れるだけで深いものはした事ない。

初めての経験に頭のネジがぶっ飛びそうだ。


「むぅ、ん……」


息継ぎも出来ない位荒々しい口付けは、最上さんの名残を消し去ろうとしているかのように、激しくて熱い。

苦しさから顔を背けても、また引き寄せられ、忍足さんの形の良い唇を押し当てられる。

何で?何でそこまで?って、疑問が止まらない。


「やっ……やめて下さいっ!!」


全身の力が抜ける寸前、意識が飛ぶギリギリ一歩手前、僅かな力を振り絞って忍足さんを突き飛ばした。

生憎、忍足さんは軽くよろけただけ。

目の前がグルグルの膝ガクガク状態の私は、その場に立っていられずに、しゃがみ込んだ。


「………もう、止めましょうよ」

「素良…?」


訳が分からない。

ただの演技の練習台である私に、何故ここまでするのか。


「ちょっと演技過剰じゃないですか?やり過ぎです」

「え……」


もう駄目だ。

黙っていようかと思っていたのに、こんな事されたら、黙っていられない。


「私、知ってます………全部演技だって事。私を演技の練習台にしてるんでしょ?………マネージャー同士が話しているの聞いたんです」


情けない事に、視界が滲む。

いい歳の女が目に涙を溜めてしまっているらしい。


「私の事好きみたいに言っといて、実は全部嘘なんでしょ?もう全部知ってますから、わざとらしく必死さアピールしなくて良いです」


本気になったフリとか、もう良いから。

本当は私の事なんか好きでも何でもないくせに。


「……最上さんは優しい人です。私の支えになってくれるって言ってくれました」


目から涙が次々溢れてくる。

それを手の甲で拭いながら目の前で佇む忍足さんに最大の嫌味を込めて言う。


「主演決まって良かったですね。大して可愛くもないお笑い芸人と付き合ってるフリして名を売った甲斐がありましたね」


涙と共に嫌味も止まらない。


「私を利用して演技の練習も出来たし、これから益々俳優として飛躍出来そうですね」

「あの……素良…」


最早、名前を呼ばれるのも苦痛だ。


「気安く名前呼ばないで下さい」

「………」


もうネタバレしてるんだから、いつまでも恋人気取りでいないで欲しい。


「私………良い踏み台になったでしょ?踏み心地もさぞかし良かったでしょ?レッドカーペットには劣るだろうけど」


息を吸い込むついでにズズーッと鼻を大きく啜る。


「踏み潰されてボロボロになった心は、最上さんに癒して貰います」


忍足さんなんか嫌いだ。

大体、初対面の時から嫌な奴って感じで良い印象はなかった。

私の事を小馬鹿にしたような事ばかり言ってたし、明らかに見下されてた。

それなのに、甘い言葉一つでコロッと落ちて……

案外私はチョロい女だ。


「目標だった主演を獲得出来たんなら、私は完全に用済みですよね。いつまでも演技の練習に付き合える程暇じゃないんで、今度は別の人相手に練習して下さい」


目一杯悪意を込めた言葉が、涙声で様にならず悔しい。

部屋の外がバタバタと騒がしくなって来た。

恐らく、イベントが終わったのだろう。


「もうそろそろ間宮達が帰って来ます。早く出てって貰えますか?着替えもしたいんで」


ついでに言うと、グチャグチャになったメイクも直したい。

折角、今流行りの可愛いメイクを施して貰ってあったのに、涙と鼻水で台無しになった。

ついでに、艶やかに塗られてたリップも落ちた。

代わりに忍足さんの唇が潤っているから腹立たしい。


「もう私の前に現れないで下さい」


会いたくて、声が聞きたくて堪らなかった筈だったのに、今は真逆の感情を抱いている。

忙しい合間を縫ってでも会いたかった人だったのに。


「…………」


散々嫌味を言って幾分スッキリした私は、忍足さんがドアの方へと歩いて行く足音を聞きながら深い溜め息を吐いた。

この後の仕事に差し支えないように、落ち着きを求めて何度も深呼吸をする。


「………演技じゃないよ…」


微かに呟かれた言葉は、油断してたら聞き逃してしまいそうな程弱々しい。


「え……」


顔を上げれば忍足さんはドアノブを回す所で、私には一切表情が見えない。


「今度改めて話す機会を設けて欲しい」


たった一言だけ残して、彼は部屋を出て行った。


「嘘?!忍足 慧史さん?!」

「何でここに?!」


廊下からイベントスタッフ達のざわめきが聞こえてくる。

突如現れたイベントとは無関係のイケメン俳優に驚かされているらしい。

そりゃそうだよね……と思いながらも、私は彼が最後に放った言葉の意味を懸命に考えていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ハイスペミュージシャンは女神(ミューズ)を手放さない!

汐瀬うに
恋愛
雫は失恋し、単身オーストリア旅行へ。そこで素性を隠した男:隆介と出会う。意気投合したふたりは数日を共にしたが、最終日、隆介は雫を残してひと足先にった。スマホのない雫に番号を書いたメモを残したが、それを別れの言葉だと思った雫は連絡せずに日本へ帰国。日本で再会したふたりの恋はすぐに再燃するが、そこには様々な障害が… 互いに惹かれ合う大人の溺愛×運命のラブストーリーです。 ※ムーンライトノベルス・アルファポリス・Nola・Berry'scafeで同時掲載しています

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

偽装夫婦

詩織
恋愛
付き合って5年になる彼は後輩に横取りされた。 会社も一緒だし行く気がない。 けど、横取りされたからって会社辞めるってアホすぎません?

危険な残業

詩織
恋愛
いつも残業の多い奈津美。そこにある人が現れいつもの残業でなくなる

白い結婚は無理でした(涙)

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。 明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。 白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。 現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。 どうぞよろしくお願いいたします。

今宵、薔薇の園で

天海月
恋愛
早世した母の代わりに妹たちの世話に励み、婚期を逃しかけていた伯爵家の長女・シャーロットは、これが最後のチャンスだと思い、唐突に持ち込まれた気の進まない婚約話を承諾する。 しかし、一か月も経たないうちに、その話は先方からの一方的な申し出によって破談になってしまう。 彼女は藁にもすがる思いで、幼馴染の公爵アルバート・グレアムに相談を持ち掛けるが、新たな婚約者候補として紹介されたのは彼の弟のキースだった。 キースは長年、シャーロットに思いを寄せていたが、遠慮して距離を縮めることが出来ないでいた。 そんな弟を見かねた兄が一計を図ったのだった。 彼女はキースのことを弟のようにしか思っていなかったが、次第に彼の情熱に絆されていく・・・。

社長室の蜜月

ゆる
恋愛
内容紹介: 若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。 一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。 仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。

【完結】貴方の後悔など、聞きたくありません。

なか
恋愛
学園に特待生として入学したリディアであったが、平民である彼女は貴族家の者には目障りだった。 追い出すようなイジメを受けていた彼女を救ってくれたのはグレアルフという伯爵家の青年。 優しく、明るいグレアルフは屈託のない笑顔でリディアと接する。 誰にも明かさずに会う内に恋仲となった二人であったが、 リディアは知ってしまう、グレアルフの本性を……。 全てを知り、死を考えた彼女であったが、 とある出会いにより自分の価値を知った時、再び立ち上がる事を選択する。 後悔の言葉など全て無視する決意と共に、生きていく。

処理中です...