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売名代替案
しおりを挟む今回の件は、相方に相談出来るような事例じゃないけれど、だからといって一人でウジウジ悩んだって解決法は見出だせそうもない。
考えに考えを重ねて、力になると言ってくれた彼に頼る事にした。
「…………と、いう訳なんです。実は…」
以前と同じお洒落なバーの雰囲気に小心者の私は到底慣れそうにない。
何やら英語らしき詞をボソボソ囁くような緩やかなBGMとは真逆な、暗ーい話を隣に座る彼に洗いざらい語った後、また以前と同じ飲み物で喉を潤した。
「……なるほど」
小さく呟き、噛み締めるように頷いた彼は、私と同じ飲み物で私と同じように喉を潤してから口を開く。
「つまり……要約すると、結局の所僕が睨んだ通りの展開だった訳で、そこから本気に発展したと見せ掛けておきながらマネージャー同士が仕組んだ茶番だったって事なんですね?」
私の脈絡のない下手くそな長話を上手く要点のみ掴んでくれた最上さんに感謝。
「………はい、その通りです」
「何とも……胸糞悪い話ですね」
苦笑する最上さんに私はすがるように問う。
「私はどうしたら良いんでしょうか?」
事実を知ってしまった以上、知らないフリ通すのは不可能だし、このまま忍足さんを避け続けるのも限界がある。
「あの……相方には相談しにくくて……だからといって誰にも相談出来なくて……業界内に沢山友達がいる相方と違って、私は芸能界で友達ほとんどいないので………すみません、変な相談持ち掛けて……」
自分で言ってて悲しくなる台詞だけれど、変に見栄を張っても仕方がない。
力になると言ってくれた最上さんに頼るしか、今の私には策がないのだ。
「簡単じゃないですか」
最上さんは屈託なく笑った。
その笑顔に拍子抜けている私を更に拍子抜けさせる事を彼は言う。
「僕と付き合いましょう」
「はい?」
何やら次元の違う提案に理解が追い付かない。
「他に好きな人が出来たのでさようなら……こう言えば、自然に忍足さんから離れられるし、マネージャーさん達も出し抜けます」
「いや、でも……」
「三人へのちょっとした仕返しですよ。森川さんを騙した忍足さんのプライドを傷付けて、この馬鹿げた計画を画策した二人のマネージャーにあんたらの思い通りにならないと意思表示も出来る…………我ながら名案だと思いまよ?」
確かに名案だ。
演技の練習と称して人の心を弄んだ忍足さんと、それを指示した川瀬さん保科さんへの報復として最適な方法だと思う。
けれど、それに最上さんを巻き込んで良いものかが疑問。
「……確かに良い案だと思いますが、最上さんを利用する形になるのはなんていうか…」
忍足さんを利用しての偽装交際からの最上さんへの乗り替え偽装交際。
何だかなぁ……ってのが私の感想だ。
かといって、それに代わる名案は?と問われても答えられそうもない。
「僕は、利用されようとは思ってませんよ」
突然真顔になった最上さんの手が私の手に重ねられた。
急に加わった熱は精々36℃前後。
なのに私には沸騰直前位に感じられる。
「森川さんが僕を頼ってくれた事、凄く嬉しかったです」
「あ、いや、その………」
触れた手が熱くて熱くて堪らないのに、私はそれを撥ね付ける事が出来ない。
「年下は嫌いですか?」
顔を左右にブンブン振る私を見て、最上さんがホッとしたような笑顔を見せた。
「あ、あの、演技とかしなくて良いですから…」
顔が熱い。
これがアルコールの所為なのか、彼を意識しているからなのかは判断しかねる。
「演技じゃありません。本気です。前にも言いましたけど、森川さんは僕の大切な人だから……」
重ねられた手に力が込められた。
「僕は貴女を支えたい。その気持ちに嘘はありません」
そう囁いた最上さんは、徐に身を乗り出す。
直感的に何をされるのかは分かったけれど、避ける間も、気もなかった。
「要らなくなったら捨ててくれて構いませんから」
ドラマだったか漫画だったか記憶は曖昧だけれど……
落ち込んでる女を口説くのは容易いらしい……というのが、過去に得た知識だ。
それを思い出しながらそっと瞼を下ろす。
甘い言葉を囁く最上さんも忍足さん同様に私を利用するだけかもしれない。
最終的にはズタボロに傷付けられるかもしれない。
頭では完全に信用しちゃいけないと思いつつも、心は既に彼を受け入れ始めていた。
私への好意が演技でも良い。
今はただ、最上さんの優しさに甘えたかった。
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