売名恋愛(別ver)

江上蒼羽

文字の大きさ
上 下
24 / 46

合コンでまさかの出会い

しおりを挟む


「あ……」

「あっ…」


お互いに声を挙げ合い、暫し硬直。


「森川さんじゃないですか」


驚き目を見開く相手の名は確か……


「最上さん……ですよね?」

「はい、先日はどうも」


ほんの数日前に忍足さんを通して出会った最上何とかさん。

辛うじて名字と忍足さんの事務所の後輩だと紹介された事だけは覚えている。


「何?知り合いなの?」


姐さんに聞かれ、二人で「はい」と頷く。


「忍足さんの事務所の後輩の方です」

「数日前に僕の出演する舞台を観に来て下さったんですよ」


私と最上さんの関係を皆に説明した所で、最上さんが「というか……」と私に向き直る。


「何故森川さんがここに?打ち上げとかと違って、所謂合コンってやつですけど……この事は忍足さんはご存知なんですか?」


これには思わず「うっ……」と体が仰け反った。


「………まずいんじゃないですか?」

「な、内密に…」


最上さんにはどうか察して欲しい。

私が好きでこの場にいる訳ではない事を。


「とにかく、まずは乾杯しましょ」

「そうですね」


各々飲み物を注文して、男女向かい合って座る。


「楽しい夜にしましょうね、カンパ~イ」


姐さんの音頭で掲げたグラスをぶつけ合う。


「ふふっ……じゃあ、まずは自己紹介からしましょっか」


合コン好きの姐さんは実に楽しそうだ。

と、ここで誰かの携帯が鳴る。


「あら、これは私の音ね」


どうやら姐さんの携帯だったらしい。


「は~い、もしもし?」


姐さんは愛想良く電話に出たものの、すぐに表情を笑顔から怒りへと変える。


「はぁ?!何言ってんの?これから仕事だなんて聞いてないわよ!!今、すっごく良い所だってのに……」


突如怒鳴り出した姐さんに、盛り上がりかけていた空気が冷え始める。


「信じらんない!てゆーか、あんた、スケジュールの管理もまともに出来ない訳?!つっかえないわね!」


恐らく、担当のマネージャーと思われる電話の相手。

その人に向かって、ありとあらゆる暴言を吐いた姐さんは、現在地にタクシーを寄越すよう指示をして通話を終えた。


「ったく、これだから新人は駄目なのよ。ほんっと、使えない」


吐き捨てるように言った姐さんに、その場に居る面々は黙り。

多分、姐さんのあまりの迫力を前に萎縮してしまっているのだと思う。

私も同じく。


「姐さん、マネージャー交代したんですか?」


空気を読んだ間宮が、空気の読めないフリをして、姐さんに問う。

私なら、怒り狂う姐さんに話し掛ける事すら出来ないだろう。

間宮の度胸には感服する。

姐さんは、徐にバッグから煙草を取り出し、口にくわえた。

間宮がすかさず火を着ける。

キャバ嬢かって位の手際の良さだ。

気怠そうに煙草を味わい、紫煙を吐き出した姐さんが不機嫌そうに言う。


「この前のマネ、クビにしてやったのよ。使えなかったし。でも、新しいのも全然駄目。前のがまだマシだったわ」

「姐さん……苦労されてますね」


姐さんをこれ以上怒らせないよう、彼女に同調する間宮。

きっと、心の中ではマネージャーに対して同情しているに違いない。


「新人だからって大目に見てたけど、さすがに限界。あんた等のとこの敏腕マネと変えて欲しいわ」

「姐さんクラスの芸人には、もっとちゃんとしたマネージャーでないと困りますよね」


ここで漸く男性陣が重そうに口を開く。


「この後どうします?また今度仕切り直しとしましょうか?」


姐さんは灰皿に灰を落としながら「そうね」と頷く。


「ここでお開きとしましょ。ごめんなさいね、折角集まって貰ったのに…」


そう言いながらも、姐さんが一番残念そうにしている。

私も「残念です……」と、ションボリ頭を垂れた。

心の中では「ヨッシャー!」と、ガッツポーズしていたりするのだけれど。

思いがけない主役の離脱により、飲み会は早々にお開きが決定。

このまま姐さん抜きで会を続行したら後が怖い。

だから、誰も何も言わずに帰り支度を始めた。

中途半端に口を付けたお酒に後ろ髪を引かれながらも、席を立つ。

どのみち、ここの支払いは姐さんだ。

私には何の痛手もない。


「本当にごめんなさいね。また日を改めましょ」


店の前でタクシーに乗り込む姐さんを皆で見送り「じゃ、お疲れでしたー」と、其々帰路につく。

これといって連絡先を交換する訳でも次の明確な約束をする訳でもなく、ただ「また飲みましょう」と濁してサヨウナラ。

多分次はないだろう……と察した。


「森川、お疲れ~気を付けて帰ってね~」


方面が同じ者同士でタクシーを相乗りしていく皆と完全に別方向の私は、徒歩で駅を目指す。


「あー……肩凝った。無駄な時間過ごしちゃったな…」


独り言が勝手に漏れ出た。

つまらない飲みのお陰で、貴重な睡眠時間が減ってしまった。

あの時間がなければ、きっと、あと2、3時間は多く眠れただろうに。

姐さんめ………と恨みながら歩いている私の背後から肩を叩かれる。

ゆっくり振り返れば、そこには今さっき別れたばかりの最上さんが立っていた。


「腹減ってませんか?」

「はい?」


言われてみれば確かに、アルコールを少し摂取しただけで、胃は何も満たされていない。

最上さんはキョトンとする私の腕を引く。


「えっ、ちょっと……?」

「少しだけ付き合ってくれませんか?支払いは僕がしますんで」

「は?はぁ……」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ハイスペミュージシャンは女神(ミューズ)を手放さない!

汐瀬うに
恋愛
雫は失恋し、単身オーストリア旅行へ。そこで素性を隠した男:隆介と出会う。意気投合したふたりは数日を共にしたが、最終日、隆介は雫を残してひと足先にった。スマホのない雫に番号を書いたメモを残したが、それを別れの言葉だと思った雫は連絡せずに日本へ帰国。日本で再会したふたりの恋はすぐに再燃するが、そこには様々な障害が… 互いに惹かれ合う大人の溺愛×運命のラブストーリーです。 ※ムーンライトノベルス・アルファポリス・Nola・Berry'scafeで同時掲載しています

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

偽装夫婦

詩織
恋愛
付き合って5年になる彼は後輩に横取りされた。 会社も一緒だし行く気がない。 けど、横取りされたからって会社辞めるってアホすぎません?

危険な残業

詩織
恋愛
いつも残業の多い奈津美。そこにある人が現れいつもの残業でなくなる

白い結婚は無理でした(涙)

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。 明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。 白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。 現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。 どうぞよろしくお願いいたします。

今宵、薔薇の園で

天海月
恋愛
早世した母の代わりに妹たちの世話に励み、婚期を逃しかけていた伯爵家の長女・シャーロットは、これが最後のチャンスだと思い、唐突に持ち込まれた気の進まない婚約話を承諾する。 しかし、一か月も経たないうちに、その話は先方からの一方的な申し出によって破談になってしまう。 彼女は藁にもすがる思いで、幼馴染の公爵アルバート・グレアムに相談を持ち掛けるが、新たな婚約者候補として紹介されたのは彼の弟のキースだった。 キースは長年、シャーロットに思いを寄せていたが、遠慮して距離を縮めることが出来ないでいた。 そんな弟を見かねた兄が一計を図ったのだった。 彼女はキースのことを弟のようにしか思っていなかったが、次第に彼の情熱に絆されていく・・・。

社長室の蜜月

ゆる
恋愛
内容紹介: 若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。 一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。 仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。

【完結】貴方の後悔など、聞きたくありません。

なか
恋愛
学園に特待生として入学したリディアであったが、平民である彼女は貴族家の者には目障りだった。 追い出すようなイジメを受けていた彼女を救ってくれたのはグレアルフという伯爵家の青年。 優しく、明るいグレアルフは屈託のない笑顔でリディアと接する。 誰にも明かさずに会う内に恋仲となった二人であったが、 リディアは知ってしまう、グレアルフの本性を……。 全てを知り、死を考えた彼女であったが、 とある出会いにより自分の価値を知った時、再び立ち上がる事を選択する。 後悔の言葉など全て無視する決意と共に、生きていく。

処理中です...