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合コンでまさかの出会い
しおりを挟む「あ……」
「あっ…」
お互いに声を挙げ合い、暫し硬直。
「森川さんじゃないですか」
驚き目を見開く相手の名は確か……
「最上さん……ですよね?」
「はい、先日はどうも」
ほんの数日前に忍足さんを通して出会った最上何とかさん。
辛うじて名字と忍足さんの事務所の後輩だと紹介された事だけは覚えている。
「何?知り合いなの?」
姐さんに聞かれ、二人で「はい」と頷く。
「忍足さんの事務所の後輩の方です」
「数日前に僕の出演する舞台を観に来て下さったんですよ」
私と最上さんの関係を皆に説明した所で、最上さんが「というか……」と私に向き直る。
「何故森川さんがここに?打ち上げとかと違って、所謂合コンってやつですけど……この事は忍足さんはご存知なんですか?」
これには思わず「うっ……」と体が仰け反った。
「………まずいんじゃないですか?」
「な、内密に…」
最上さんにはどうか察して欲しい。
私が好きでこの場にいる訳ではない事を。
「とにかく、まずは乾杯しましょ」
「そうですね」
各々飲み物を注文して、男女向かい合って座る。
「楽しい夜にしましょうね、カンパ~イ」
姐さんの音頭で掲げたグラスをぶつけ合う。
「ふふっ……じゃあ、まずは自己紹介からしましょっか」
合コン好きの姐さんは実に楽しそうだ。
と、ここで誰かの携帯が鳴る。
「あら、これは私の音ね」
どうやら姐さんの携帯だったらしい。
「は~い、もしもし?」
姐さんは愛想良く電話に出たものの、すぐに表情を笑顔から怒りへと変える。
「はぁ?!何言ってんの?これから仕事だなんて聞いてないわよ!!今、すっごく良い所だってのに……」
突如怒鳴り出した姐さんに、盛り上がりかけていた空気が冷え始める。
「信じらんない!てゆーか、あんた、スケジュールの管理もまともに出来ない訳?!つっかえないわね!」
恐らく、担当のマネージャーと思われる電話の相手。
その人に向かって、ありとあらゆる暴言を吐いた姐さんは、現在地にタクシーを寄越すよう指示をして通話を終えた。
「ったく、これだから新人は駄目なのよ。ほんっと、使えない」
吐き捨てるように言った姐さんに、その場に居る面々は黙り。
多分、姐さんのあまりの迫力を前に萎縮してしまっているのだと思う。
私も同じく。
「姐さん、マネージャー交代したんですか?」
空気を読んだ間宮が、空気の読めないフリをして、姐さんに問う。
私なら、怒り狂う姐さんに話し掛ける事すら出来ないだろう。
間宮の度胸には感服する。
姐さんは、徐にバッグから煙草を取り出し、口にくわえた。
間宮がすかさず火を着ける。
キャバ嬢かって位の手際の良さだ。
気怠そうに煙草を味わい、紫煙を吐き出した姐さんが不機嫌そうに言う。
「この前のマネ、クビにしてやったのよ。使えなかったし。でも、新しいのも全然駄目。前のがまだマシだったわ」
「姐さん……苦労されてますね」
姐さんをこれ以上怒らせないよう、彼女に同調する間宮。
きっと、心の中ではマネージャーに対して同情しているに違いない。
「新人だからって大目に見てたけど、さすがに限界。あんた等のとこの敏腕マネと変えて欲しいわ」
「姐さんクラスの芸人には、もっとちゃんとしたマネージャーでないと困りますよね」
ここで漸く男性陣が重そうに口を開く。
「この後どうします?また今度仕切り直しとしましょうか?」
姐さんは灰皿に灰を落としながら「そうね」と頷く。
「ここでお開きとしましょ。ごめんなさいね、折角集まって貰ったのに…」
そう言いながらも、姐さんが一番残念そうにしている。
私も「残念です……」と、ションボリ頭を垂れた。
心の中では「ヨッシャー!」と、ガッツポーズしていたりするのだけれど。
思いがけない主役の離脱により、飲み会は早々にお開きが決定。
このまま姐さん抜きで会を続行したら後が怖い。
だから、誰も何も言わずに帰り支度を始めた。
中途半端に口を付けたお酒に後ろ髪を引かれながらも、席を立つ。
どのみち、ここの支払いは姐さんだ。
私には何の痛手もない。
「本当にごめんなさいね。また日を改めましょ」
店の前でタクシーに乗り込む姐さんを皆で見送り「じゃ、お疲れでしたー」と、其々帰路につく。
これといって連絡先を交換する訳でも次の明確な約束をする訳でもなく、ただ「また飲みましょう」と濁してサヨウナラ。
多分次はないだろう……と察した。
「森川、お疲れ~気を付けて帰ってね~」
方面が同じ者同士でタクシーを相乗りしていく皆と完全に別方向の私は、徒歩で駅を目指す。
「あー……肩凝った。無駄な時間過ごしちゃったな…」
独り言が勝手に漏れ出た。
つまらない飲みのお陰で、貴重な睡眠時間が減ってしまった。
あの時間がなければ、きっと、あと2、3時間は多く眠れただろうに。
姐さんめ………と恨みながら歩いている私の背後から肩を叩かれる。
ゆっくり振り返れば、そこには今さっき別れたばかりの最上さんが立っていた。
「腹減ってませんか?」
「はい?」
言われてみれば確かに、アルコールを少し摂取しただけで、胃は何も満たされていない。
最上さんはキョトンとする私の腕を引く。
「えっ、ちょっと……?」
「少しだけ付き合ってくれませんか?支払いは僕がしますんで」
「は?はぁ……」
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