売名恋愛(別ver)

江上蒼羽

文字の大きさ
上 下
14 / 46

トーク番組出演

しおりを挟む


「さぁ、今夜も始まりました、楽しいトークの時間。どうも司会のバイソン山中です。今夜も素敵なゲストをお招きして、視聴者の皆様に楽しい一時を提供したいと思います」


全国ネットの人気トークバラエティー番組の収録。

頭の切れる司会者が仕切る中ゲストがテーマに沿ってトークしていく番組でお年寄りから子供まで幅広い年齢層に指示されている番組だ。

デビュー当時はよくコンビでお呼びが掛かったけれど、人気が下火になった頃から私は呼ばれなくなり……

間宮がピンで出演しているのを、薄型テレビの前でよく視聴していたものだ。

間宮は、女芸人の中では断トツで地デジ対応型の美女。

その上、司会のバイソン山中氏に気に入られていたから、よくトーク中に弄られていたのを覚えている。

あの時は心底羨ましかった。

私と間宮は雛壇の端の芸人席に座り、山中氏の軽妙な語りに耳を澄ませる。


「初登場のゲストが3人ですか。まずはグラビアアイドルの姫川 凜さん」

「初めまして~よろしくお願いしま~す」

「さっすがグラビアやってるだけあってスタイル良いですね~。Fカップあるんですって?挟まれたいなぁ」

「やぁだ~恥ずかしい~いやらしい目で見ないで~」

「後で触らせて下さいね。そのお隣も初登場、モノマネタレントのーーー…」


一人一人、ゲストを笑いを交えて紹介していく山中氏。

緊張を抑えながら彼のトークの巧みさに脱帽していると、ふと視線が絡む。


「何と………久し振りのコンビでの登場になります。まんぼうライダーの二人」


うっかり油断していた所の急なフリ。

久し振りの地上波の仕事とはいえ、無様な真似は出来ない。


「どーもー!まんぼうライダー間宮でーす!」

「同じくまんぼうライダー、森の妖精、川の精霊、お空の上のご先祖様達のアイドル、森川 素良でーす!」


自己紹介がてら、過去のネタを披露。

すかさず、間宮から鋭いツッコミが入る。


「アンタ、そのネタまだやんの?古いわっ!」

「古くないよ、リバイバルだよ」

「リバイバル?アホか!流行ってないし!流行語大賞に掠ってすらないわ!」


事前に打ち合わせたゆる~いネタを軽く繰り広げてから、席を立ち、二人で司会者に向かって一礼。


「お久し振りでございます、今夜はよろしくお願いします」

「よろしくお願いしま~す」


スタジオ内は微妙な空気だ。

それに合わせて、山中氏が苦笑いを浮かべる。


「中途半端な笑いを提供され、スタジオ内が微妙な空気に包まれております」


山中氏がカメラ目線で言った後、ドッと笑いが起きた。

私等のネタでは起きなかった笑いが、別の人間のたった一言で起きたもんだから敗北感に打ちひしがれる。

スタジオの笑いに満足そうに笑ったバイソン山中氏は、雛壇の真ん前に用意された台座に凭れながら言う。


「何でもボケの森川の方は、ちょっと前に大きなニュースになりました。真相を聞かせて頂きたい」


早速熱愛報道の弄り。

それによって、スタジオ内の人間の視線が一気に集中する。

カメラも距離が近い。

自分に注目が集まっている事に感動を覚えつつ、例によって例の言葉で質問をかわす。


「お友達です」


間髪入れずに「嘘こけ!」と、間宮よりも鋭いツッコミ。


「出ました出ました、お決まりの台詞が。ただの友達が手なんか繋ぎません。本当の所は付き合ってるんでしょう?」


山中氏の目は真剣そのもの。

自分の番組を盛り上げようと、かなり力を入れているようだ。

それが大きなプレッシャーとなり、私に襲い掛かってくる。


「それとも最近の若いもんは、お友達でも手を繋ぐものなのでしょうか?どう思います?大林さん」


前席中央に鎮座する大物演歌歌手に話を振る山中氏。

流石に、トークのテンポは速い。


「そうよねぇ……手を繋いで寄り添って歩いてたっていうじゃない?お友達……ではないわよねぇ」


年齢相応のゆったりとした口調で語る大林さんに、山中氏が「ですよねぇ?」と頷く。


「因みに、あの彼とどこまでいってるんですか?A?B?……それとも、Zまで到達しちゃった感じですかね?」


山中氏の下世話な弄り。

スタジオゲスト達が「Zって何するんですか?」「今時アルファベットはないですよ~」等とどよめく中、山中氏の期待の目が私を捉えて離さない。

お前も芸人なら、上手くボケて笑いを取れ………と、私の芸人としての実力を試しているかのよう。


「いやぁ~本当にお友達なんですよ。アルファベットにすら達していないというか………まだ多分イロハニ…の、ホ辺りの段階で~…」

「イロハニ……それはそれは……まだまだ先は長いですね」


内心ドキドキの精一杯のボケに山中氏が乗ってくれ、またスタジオに笑いが起こる。


「とまぁ、このようなメンバーで今日はいきたいと思います。まず、初めのトークテーマは―――…」






お喋り好きなバイソン山中氏のお陰で、2時間の予定の収録が3時間越え。

張り切って声を張り上げた所為と緊張で、喉の渇きが尋常じゃない。

川瀬マネージャーからの差し入れのお茶が極上の美味しさに感じた程だったし。

長い時間椅子に座りっぱなしだった為、腰も痛かったりする。

楽しいトークで大盛り上がりだったから、時間はあっという間に感じたけれど、疲労は相応に体に蓄積されている。


「それじゃ、森川、まったね~!お疲れ~!」


次の日の朝、生放送に曜日レギュラーとして出演する間宮は収録後早々に帰宅。

私も翌日に仕事が控えているけれど、少しだけ寄り道をする予定だ。

報道が出て以来、ずっとLINEでのやり取りのみで、直接会えずにいた彼と食事の約束をしていたから。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ハイスペミュージシャンは女神(ミューズ)を手放さない!

汐瀬うに
恋愛
雫は失恋し、単身オーストリア旅行へ。そこで素性を隠した男:隆介と出会う。意気投合したふたりは数日を共にしたが、最終日、隆介は雫を残してひと足先にった。スマホのない雫に番号を書いたメモを残したが、それを別れの言葉だと思った雫は連絡せずに日本へ帰国。日本で再会したふたりの恋はすぐに再燃するが、そこには様々な障害が… 互いに惹かれ合う大人の溺愛×運命のラブストーリーです。 ※ムーンライトノベルス・アルファポリス・Nola・Berry'scafeで同時掲載しています

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

偽装夫婦

詩織
恋愛
付き合って5年になる彼は後輩に横取りされた。 会社も一緒だし行く気がない。 けど、横取りされたからって会社辞めるってアホすぎません?

危険な残業

詩織
恋愛
いつも残業の多い奈津美。そこにある人が現れいつもの残業でなくなる

白い結婚は無理でした(涙)

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。 明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。 白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。 現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。 どうぞよろしくお願いいたします。

今宵、薔薇の園で

天海月
恋愛
早世した母の代わりに妹たちの世話に励み、婚期を逃しかけていた伯爵家の長女・シャーロットは、これが最後のチャンスだと思い、唐突に持ち込まれた気の進まない婚約話を承諾する。 しかし、一か月も経たないうちに、その話は先方からの一方的な申し出によって破談になってしまう。 彼女は藁にもすがる思いで、幼馴染の公爵アルバート・グレアムに相談を持ち掛けるが、新たな婚約者候補として紹介されたのは彼の弟のキースだった。 キースは長年、シャーロットに思いを寄せていたが、遠慮して距離を縮めることが出来ないでいた。 そんな弟を見かねた兄が一計を図ったのだった。 彼女はキースのことを弟のようにしか思っていなかったが、次第に彼の情熱に絆されていく・・・。

社長室の蜜月

ゆる
恋愛
内容紹介: 若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。 一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。 仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。

【完結】貴方の後悔など、聞きたくありません。

なか
恋愛
学園に特待生として入学したリディアであったが、平民である彼女は貴族家の者には目障りだった。 追い出すようなイジメを受けていた彼女を救ってくれたのはグレアルフという伯爵家の青年。 優しく、明るいグレアルフは屈託のない笑顔でリディアと接する。 誰にも明かさずに会う内に恋仲となった二人であったが、 リディアは知ってしまう、グレアルフの本性を……。 全てを知り、死を考えた彼女であったが、 とある出会いにより自分の価値を知った時、再び立ち上がる事を選択する。 後悔の言葉など全て無視する決意と共に、生きていく。

処理中です...