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トーク番組出演
しおりを挟む「さぁ、今夜も始まりました、楽しいトークの時間。どうも司会のバイソン山中です。今夜も素敵なゲストをお招きして、視聴者の皆様に楽しい一時を提供したいと思います」
全国ネットの人気トークバラエティー番組の収録。
頭の切れる司会者が仕切る中ゲストがテーマに沿ってトークしていく番組でお年寄りから子供まで幅広い年齢層に指示されている番組だ。
デビュー当時はよくコンビでお呼びが掛かったけれど、人気が下火になった頃から私は呼ばれなくなり……
間宮がピンで出演しているのを、薄型テレビの前でよく視聴していたものだ。
間宮は、女芸人の中では断トツで地デジ対応型の美女。
その上、司会のバイソン山中氏に気に入られていたから、よくトーク中に弄られていたのを覚えている。
あの時は心底羨ましかった。
私と間宮は雛壇の端の芸人席に座り、山中氏の軽妙な語りに耳を澄ませる。
「初登場のゲストが3人ですか。まずはグラビアアイドルの姫川 凜さん」
「初めまして~よろしくお願いしま~す」
「さっすがグラビアやってるだけあってスタイル良いですね~。Fカップあるんですって?挟まれたいなぁ」
「やぁだ~恥ずかしい~いやらしい目で見ないで~」
「後で触らせて下さいね。そのお隣も初登場、モノマネタレントのーーー…」
一人一人、ゲストを笑いを交えて紹介していく山中氏。
緊張を抑えながら彼のトークの巧みさに脱帽していると、ふと視線が絡む。
「何と………久し振りのコンビでの登場になります。まんぼうライダーの二人」
うっかり油断していた所の急なフリ。
久し振りの地上波の仕事とはいえ、無様な真似は出来ない。
「どーもー!まんぼうライダー間宮でーす!」
「同じくまんぼうライダー、森の妖精、川の精霊、お空の上のご先祖様達のアイドル、森川 素良でーす!」
自己紹介がてら、過去のネタを披露。
すかさず、間宮から鋭いツッコミが入る。
「アンタ、そのネタまだやんの?古いわっ!」
「古くないよ、リバイバルだよ」
「リバイバル?アホか!流行ってないし!流行語大賞に掠ってすらないわ!」
事前に打ち合わせたゆる~いネタを軽く繰り広げてから、席を立ち、二人で司会者に向かって一礼。
「お久し振りでございます、今夜はよろしくお願いします」
「よろしくお願いしま~す」
スタジオ内は微妙な空気だ。
それに合わせて、山中氏が苦笑いを浮かべる。
「中途半端な笑いを提供され、スタジオ内が微妙な空気に包まれております」
山中氏がカメラ目線で言った後、ドッと笑いが起きた。
私等のネタでは起きなかった笑いが、別の人間のたった一言で起きたもんだから敗北感に打ちひしがれる。
スタジオの笑いに満足そうに笑ったバイソン山中氏は、雛壇の真ん前に用意された台座に凭れながら言う。
「何でもボケの森川の方は、ちょっと前に大きなニュースになりました。真相を聞かせて頂きたい」
早速熱愛報道の弄り。
それによって、スタジオ内の人間の視線が一気に集中する。
カメラも距離が近い。
自分に注目が集まっている事に感動を覚えつつ、例によって例の言葉で質問をかわす。
「お友達です」
間髪入れずに「嘘こけ!」と、間宮よりも鋭いツッコミ。
「出ました出ました、お決まりの台詞が。ただの友達が手なんか繋ぎません。本当の所は付き合ってるんでしょう?」
山中氏の目は真剣そのもの。
自分の番組を盛り上げようと、かなり力を入れているようだ。
それが大きなプレッシャーとなり、私に襲い掛かってくる。
「それとも最近の若いもんは、お友達でも手を繋ぐものなのでしょうか?どう思います?大林さん」
前席中央に鎮座する大物演歌歌手に話を振る山中氏。
流石に、トークのテンポは速い。
「そうよねぇ……手を繋いで寄り添って歩いてたっていうじゃない?お友達……ではないわよねぇ」
年齢相応のゆったりとした口調で語る大林さんに、山中氏が「ですよねぇ?」と頷く。
「因みに、あの彼とどこまでいってるんですか?A?B?……それとも、Zまで到達しちゃった感じですかね?」
山中氏の下世話な弄り。
スタジオゲスト達が「Zって何するんですか?」「今時アルファベットはないですよ~」等とどよめく中、山中氏の期待の目が私を捉えて離さない。
お前も芸人なら、上手くボケて笑いを取れ………と、私の芸人としての実力を試しているかのよう。
「いやぁ~本当にお友達なんですよ。アルファベットにすら達していないというか………まだ多分イロハニ…の、ホ辺りの段階で~…」
「イロハニ……それはそれは……まだまだ先は長いですね」
内心ドキドキの精一杯のボケに山中氏が乗ってくれ、またスタジオに笑いが起こる。
「とまぁ、このようなメンバーで今日はいきたいと思います。まず、初めのトークテーマは―――…」
お喋り好きなバイソン山中氏のお陰で、2時間の予定の収録が3時間越え。
張り切って声を張り上げた所為と緊張で、喉の渇きが尋常じゃない。
川瀬マネージャーからの差し入れのお茶が極上の美味しさに感じた程だったし。
長い時間椅子に座りっぱなしだった為、腰も痛かったりする。
楽しいトークで大盛り上がりだったから、時間はあっという間に感じたけれど、疲労は相応に体に蓄積されている。
「それじゃ、森川、まったね~!お疲れ~!」
次の日の朝、生放送に曜日レギュラーとして出演する間宮は収録後早々に帰宅。
私も翌日に仕事が控えているけれど、少しだけ寄り道をする予定だ。
報道が出て以来、ずっとLINEでのやり取りのみで、直接会えずにいた彼と食事の約束をしていたから。
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