売名恋愛(別ver)

江上蒼羽

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遊園地デート

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「………少し、子供っぽいですかね?」


ファンシーに彩られた入場ゲートを見上げながら忍足さんが言った。

私は彼と同じく入場ゲートを見上げて答える。


「うーん……というか、遊園地なんて何年振りだろう…」

「俺も結構久し振りです」


周りは小さな子供を連れた家族や学生と思われるカップルばかり。

共に20代後半の私と忍足さんがデートをするには些か場違いなような気が…


「人目は十分ですけどね」

「確かに。すっごい遠巻きに見られてますし」


周りを見れば、人、人、人。

全身を突き刺す大量の視線に身震いがした。


「………行っちゃいます?」

「……デートといえば、遊園地は鉄板です。行っちゃいましょう」


私の手を取る忍足さんの手に力が入る。

それに合わせて私の背筋も伸びた。


「精一杯楽しいフリして下さいね」

「了解です」


ビジネス感たっぷりで挑んだ遊園地だったものの、二人分のフリーパスを購入して入場ゲートを潜った瞬間からそれも変わる。


「はぐれたら大変ですね、きっと」

「そんな感じですね」


待っていたのは、現実から隔離されたようなメルヘンな世界。

人の多さに圧倒されながら歩を進める。


「アトラクション、全制覇したいけど、流石にこの人の多さじゃ無理そうだなー……」


忍足さんが残念そうに呟いた。


「全制覇って……なんか忍足さん、子供みたいですね……」

「そうですか?こういう所に来ると攻略したくなりません?」

「いや私は別に……凄く意外ですね」


クールなタイプかと勝手に思っていたけれど、意外と子供じみた一面もあるらしい。 


「………にしても、楽しそうですね」


あちこちから聞こえてくる「わー!」だの「きゃー!」だの騒ぐ声が絶えず私の好奇心を刺激してくる。

それに相まって、園内のファンシーな空気が私を興奮させる。


「どのアトラクションから行きます?」


駆け出したい衝動をひたすら抑えて忍足さんを見上げると、彼は入場の際に渡された案内図を見ていた。


「んー……取り敢えず、定番のジェットコースター、ホラーハウス、観覧車はいっときたいですね」

「なるほど。でも、この人の多さじゃ、待ち時間半端なさそうですよ?」


会話的には付き合って日が浅いカップルといった感じ。

これが売名の為のミッションでなければどんなに良い事か。


「あと、絶叫系はやめときましょうよ……ホラーハウスもちょっと…」


小さな声で「苦手なんで……」と付け加えると、忍足さんは一瞬だけ意外そうな顔をしてから「何言ってるんですか」と笑う。


「番組ロケで絶叫マシーン乗りまくってたじゃないですか。凄いヤバそうなのとか………それに比べれば、ここのジェットコースターなんか子供騙しみたいなものですよ」

「い、いや………でも…」


確かに忍足さんの言う通り。

番組の企画で、世界各地の絶叫マシーンを体験させて頂いた。

上から下へ急降下するもの、ぐるんぐるん回るもの………種類は様々でも、絶叫と名が付くものは何でも乗らされて……


「し、心臓が口から出そうな体験を何度もしてきたんで、絶叫系はもう沢山です」

「免疫はついてないんですか?」

「つけようがありません!」


一生分の絶叫マシーンを堪能した私は、平和な乗り物を楽しく満喫したい。


「それならジェットコースターは後回しにして、ホラーハウスい来ましょう。ここのは怖いって評判ですし」


思わず「ひぇ~」と声が出た。


「やめましょうよ!心臓に悪い!」


ここでも忍足さんが意外そうな顔をする。


「何をそんなにビビってるんですか。心霊ロケとか行ってたくせに」

「あ、あれは、霊媒師が同伴だったから……とにかく、心身への負担が少ない乗り物から行きましょう!」


自分で言っておいて、心身への負担が少ない乗り物ってどんなだよ!と、密かにつっこむ。


「じゃ、手始めにスカイサイクルでも乗りましょう」


頭上のレールを指差しながら忍足さんが悪戯っぽく言う。


「小学生位の子も平気で乗ってるし、心身への負担は少なそうですよ」


その邪気のない笑顔がどことなく腹立たしい。


「………」


このデートの主導権を握っているのは忍足さんだ。
だから、私は彼の指示に従うのみ。

渋々スカイサイクル乗り場に出来ている列の最後尾についた。


「ね、後ろ見て見て!女芸人の人じゃない?」

「おっ、マジ?」

「隣の男も芸能人っぽいよ」

「スゲェ、堂々としたもんだな」


二つ位前の方に並ぶ若いカップルがチラチラ私と忍足さんの方へと振り返る。

何となく照れて、景色を眺めるフリでやり過ごす。
すると…


「あ、あの………お笑いの方ですよね?」

「えっ…?」


すぐ後ろに並んでいた女性二人組が怖ず怖ずといった具合で声を掛けてきた。


「一時期凄い好きだったんですよ。握手して頂けませんか?」

「あ、私で良ければ…」


好き“だった”という過去形の部分に若干の引っ掛かりを感じつつ、握手に応じる。

女性達は私と握手を交わしながらも視線は私を捉えていない。

何を見ているんだ?と不思議に思って彼女等の視線を辿ると、その先には忍足さんの横顔があった。


「あの……そちらの方はドラマにちょこちょこ出てる役者さんですよね?」


私からさっさと手を離した彼女達は、忍足さんに向かって手を差し出す。


「握手……して頂けませんか?お願いします」

「わ、私も是非っ!」


勿体つけるようにゆっくりと振り向いた忍足さんが柔らかく微笑む。


「僕なんかでよろしいんですか?」


その問いに女性達は鼻息荒く頷く。
 

「も、勿論!」

「それなら……」


忍足さんが手を差し出すと、競い合うように女性達が手を伸ばす。


「きゃーありがとうございます!」

「嬉しいです!きゃー!」


私と握手した時とは明らかに反応が違う。

頬を染め、瞳を潤ませる様から、相当感激していると見られる。

私との握手はすぐに手を離したくせに、忍足さんの手は中々離そうとしない。

悔しさから下唇を強く噛んだ。


「すみません……プライベートなんで、あまり騒ぎ立てないようお願いしますね」


興奮する女性達にやんわり注意する忍足さんを見て、本当は騒いで欲しいくせに良く言うよ……と心の中で毒づいてみせた。

この一件で、女芸人である私より、俳優の忍足さんの方が人気があるという事実が判明した。

当然、忍足さんは勝ち誇ったような表情をする訳で……


「腹立ちますわ」

「何がです?」

「………ふん、別に」


すっとぼけ反応にもムカついて、並んでいる最中は最低限の会話のみしかしなかった。
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