売名恋愛(別ver)

江上蒼羽

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私が恋愛する相手

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悪夢のような会食を終え、保科さんが運転するワンボックスで自宅アパートまで送り届けられた。

去り際、保科さんから参考までにと忍足さんの経歴書と彼の記事が載った雑誌を手渡された。

このご時世、ネットを開けば何でも調べられるというのに。


「ネットの情報は正しいものばかりではありませんから」


まぁ、確かに……と納得する面もありつつ、面倒だな……というのが正直な感想。

部屋に着いてすぐ、だらしなくベッドに寝そべり、保科さんから委ねられた資料に目を通す。

ずらりと並べられたデビューから今現在に至るまでの経歴の数々。

若者向けの雑誌のモデルを筆頭に、ドラマ出演、音楽アーティストのミュージックビデオ出演、CM出演等……役の大小はともかく、そこそこ幅広く活動しているようだ。

テレビに映っても数秒でフェードアウトする役柄ばかりだったと思われる

雑誌の方は発行年数は、古くても過去2,3年程前までの比較的新しいものばかり。

ティーン向けのファッション誌、映画情報誌、番組ガイド誌等、種類は様々。

見るべきページには付箋で目印が付けられている。

読む気が失せるような細かい文字の羅列に、目がしぱしぱしてきた。


「めんどくさ……」


思わず漏れた独り言に苦笑いしつつも、売名を成功させるには、まず敵を知る事から……と、自分に言い聞かせながら付箋のページを開く。

敵というのはおかしな例えかもしれないけれど。

付箋が貼られたページには、小さいながらも忍足さんの事が書かれた記事が掲載されている。

誌面で出演作の事を熱く語っていたり、インタビューに答えていたり……

カメラ目線で柔らかく微笑む写真に混ざって、オフショットも載せられていたりもした。

無邪気に猫と戯れる塩顔イケメンの写真を見ていると、さっきの邪悪さは幻だったように思えてくる。

と同時に気恥ずかしさと重圧が入り交じった複雑な感情に支配される。

この人と付き合っているフリをしないといけないのか……と。

私で大丈夫?他にも女芸人は居るだろうし、何も私でなくても良いんじゃない?なんて思ったら気が滅入ってきた。


「はぁーあ…」


止めどなく零れ出る溜め息を食い返しながら、食い入るように与えられた雑誌を読み漁る。

最後に目を通したファッション誌には、簡単な忍足さんのプロフィールが載っていた。


「へぇ……12月生まれの射手座かぁ………身長は……174㎝……小顔でスタイル良いからもっと高いと思ってた」


ブツブツ言いながら、情報を端から端までしっかりチェック。


「犬か猫かだったら、猫派か………ふぅん…」


一問一答式で掲載されている個人情報の後半部分には、趣味や好きな音楽等も記載されていて……


「………好きなタイプは、笑顔の可愛い元気な子、ね…」


呟いてすぐ「ま、私じゃないな」と雑誌を閉じた。

地味で根暗な私は、彼の好みの対極の位置にいる。





翌日、忍足さんからLINEが入った。

デートの日取りと待ち合わせ場所と時間の指定。

最後に都合が悪ければ言って欲しいという旨が記されていた。

返信の文に悩みに悩み、即読表示をつけてから30分後にやっとの思いで送信。

たった一言。



ソラ
【分かりました。よろしくお願いします。】



シンプルに送るだけだったのに、こんなに手間取るとは…

序盤からこんな感じでは、先が思いやられる。

先日の会食の別れ際に忍足さんが言っていた言葉。



『自分に光が当たらないからと、ウジウジしていても状況は何も変わりません。それなら光が此方に向くように工夫するまで…………大丈夫です、きっと上手くいきますから』



これを胸の中でしつこく何度も繰り返し、不安を希望へと強引に摩り替える。


「……大丈夫、きっと上手くいく………私ならやれる」


深呼吸と共に、デビュー当時から繰り返してきた呪文を自分にかけた。

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