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ハチャメチャの中学2年生
033
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喫茶店の座席って、偶数席が多いよな?
2人掛け、4人掛け、6人掛け。
奇数人数で来ると席が余るか、足りないかのどちらかだ。
この状況なら6人席に座るだろうと思ったんだけど・・・。
どうして4人席に座ってるんですかね、この人。
「どう考えても狭ぇだろ・・・」
「いーじゃん! 親睦を深めるなら物理的距離は近いほうが良いの!」
「・・・それは俺達の話で、橘先輩まで近くなくて良いんじゃねぇか?」
「ふーん。そういうこと言っちゃうんだぁ」
さっさと注文してひとりで4人席の奥に座っている橘先輩。
遅れてやって来た俺達に席が足りねぇという空気が流れているところだ。
そもそも隣に6人席とか空いてるだろ!
「お星さまを実感してもらうには近いほうが良いんだって!」
「・・・分かりました」
意を決して九条さんが先に座る。橘先輩の隣に。
それを見た花栗さんと御子柴君が反対側に座る。
俺は・・・カウンターのひとり席にでも行こうかな。
「待って」
だよね。
そんな素振りを見せると橘先輩が引き止める。
「九条、一旦、立ってくれる?」
「はい」
「武君、ほら、ここに」
「・・・うん」
「そしたら九条がその隣!」
「え?」
「はい」
だから狭ぇんだよ!
この密着感を出したかっただけじゃねぇのか、橘先輩。
というか通路側からこっちへ押し込んでくる九条さんも地味に嬉しそうにしてる。
・・・おい、御子柴君の微妙な表情をどうしてくれんだ。
「さて! 先ずは・・・何を頼んだの?」
何から話すのかと思えば。天気の話じゃないだけ良いか。
橘先輩が振った先が俺なので、俺から答える。
「俺はストレートティーだ」
「何も入れないんだ?」
「甘いと飲んだ後に甘ったるくなるしな」
「紅茶派なんですか?」
「あー・・・コーヒーは胃が荒れちまうんで」
ふむふむと皆が聞いている。
なんか全員に聞かれていると恥ずかしいなこれ。
「九条は何を頼んだ?」
「わたしはこれです。カフェオレにアイスクリーム載せたものです」
「甘そ・・・」
「甘いもの好きなんですか?」
「ええ。破天荒で暴力的な甘さに惹かれまして」
ナニソレ。
パスタといい、たまに九条さんのぶっとんだ嗜好が見えるけども。
辛いのはダメで甘いのなら際限なくいけるってことか。
「御子柴君は?」
「俺はカフェオレです。苦いと飲めなくて・・・」
「えー、かわいい」
「うん、私も同じですから気持ちはわかります」
「そうですよね、苦いと折角のティータイムが楽しめないです」
ちょっと恥ずかしそうな御子柴君に同調する花栗さんと九条さん。
てことは3人とも甘党なのか。
「花栗さんは?」
「私はミルクティーです。あの・・・砂糖入れてます」
「ですよね! 甘いことが正義です!」
いや何その正義。
花栗さんを九条さんが擁護する場面を初めて見たぞ。
「ちなみに私はコーヒーのブラックでしたー」
「甘くしねぇんだな」
「そ。大人の嗜みってやつだね!」
俺と同類だとウインクして身体を寄せてくる橘先輩。
逃げ場もないのでされるがままに紅茶を飲む俺。
「それじゃ、本題ね。仲良くなるなら呼び方を変えよう!」
「呼び方?」
「あだ名でも良いけど。名字で呼んでちゃダメ」
「ええ・・・」
「それ、橘先輩が呼びたいだけじゃねぇか?」
引っ込み思案の花栗さんは抵抗感満載の様子。
俺は花栗さんを援護してみた。
「わたし、良いと思います!」
「・・・俺も、良いんじゃないかと思う」
「え?」
と思ったらまさかの九条さんと御子柴君が同調。
え? これ、3対2で負けるやつ?
「俺は呼び方、変えねぇぞ・・・」
「いいよいいよ、武君はそのままで」
これ、俺が抵抗するから外堀から埋めるやつだ。
「それじゃ、御子柴君、花栗さん、下の名前、教えて?」
「俺は諒です」
「わ、私は若菜です」
「諒君に若菜ちゃんね。じゃ、私のことは武君みたいにタメ口で構わないから」
「ええ、でも・・・」
「ん~。ここで遠慮してちゃダメなんだよね。そうだ!」
橘先輩がにやり、と悪巧みをする時の顔つきをした。
既にその術中に収まっている気がしないでもないが。
「今日1日、丁寧語、名字呼びは無し! 破ったら減点していって、減点10で皆の言うことをひとつ聞くってことで!」
「・・・」
「ああ、でも私の名前は武君にだけ呼んでほしいから、他の人は橘さん、でいいよ」
ディスティニーランドの記憶が蘇る俺。
ちょうど1年前か・・・この人とこういう関係になったのも。
同じように引っ張り回されていることを考えると不思議な感じがした。
「わ、分かりました。頑張ります。橘さんに、さくらさん、諒さん、武さん、です・・・だね」
「うんうん、合格! 頑張って!」
橘先輩は乗り出して花栗さんの頭をわしわし撫でている。
ちょっと緊張しながらも嬉しそうな花栗さん。
「ほら、ふたりとも練習!」
「ええと、橘さん、武、さくらさん、若菜さん、か」
「はい。先輩に、諒さん、若菜さん。武さん、ですね」
「よし、合格!」
九条さんの先輩呼びと丁寧語はノーカンなのか。
まぁ変えちゃうと性格や関係性が変わっちゃいそうだからな。
皆、納得しているようだ。
「で、武君は? 呼んでくれないの?」
「減点10をする自信がある。俺はやらねぇ」
「えー! ひっどいなぁ」
「そもそも口調がこれだろ? 名前の呼び方なんて関係ねぇよ」
「むー。不満ー!!」
「うわっ!」
橘先輩が俺の腕をぐいぐいと引っ張る。
傍目にはカップルがじゃれているようにしか見えん。
と思ったら、九条さんが反対の腕を取った。
「武さん! わたしも不満です!」
「そうだぞ、武!」
お前ら、自分が呼んでもらいたいからって!
まさかの花栗さんも「呼ばないつもりですか」って雰囲気で見てる。
いやこれ、完全に橘先輩の戦略に乗せられてんだろ、お前ら。
外堀埋めるのうますぎ・・・。
女狐具合は俺にしか分からねぇのか・・・。
・・・もうこれ、逃げられねぇ。くそ。
「ああもう分かったよ。香さん、さくらさん、諒、若菜さん。これで満足か?」
「ごうか~く!」
「はい!」
「お、おう」
「・・・うん、良いよ」
にははと悪戯顔のままの橘先輩。
とても嬉しそうな九条さん。
呼ばれ慣れないせいか赤くなる御子柴君。
とても頑張って受け入れようとしている花栗さん。
・・・俺は今日だけだからな?
よしよしと満足げな橘先輩が皆の前で手を振る。
「さて! それじゃ、今日のプランはどうなってた?」
「この辺の繁華街をぶらついて、食事して・・・かな?」
変な緊張で喉が渇いた俺は紅茶で喉を濡らす。
また何か企んでんのか? この人。
「なるほどー。ノープランなんだね! それじゃ、私から提案!」
しっかしホント元気だな。
このエネルギーはどっから出てきてるんだ。
「今、流行りのアバターカラオケに行こう!」
「アバターカラオケ?」
「そ。アバターと臨場感あるステージでデュエットできるカラオケ!」
どんなカラオケだ?
というか、俺、そもそもこの時代の歌なんて知らねぇぞ。
「あ・・・1度、行ってみたかった・・・」
「わたしも話を聞いたことがあります。興味ありますね」
「橘さん、それ、ちょっとお高いんじゃなかったっけ?」
「ふふふ、高校生の先輩を舐めないで? じゃん! 会員カードと割引券!」
「用意周到!」
「任せなさい!」
もうこれ、橘先輩がエンターテイナーで良いよ。
俺は何もしなくて良いんじゃないかという気になってきた。
皆の緊張が解れて良い感じになってるのは橘先輩さまさまなんだけども。
「よし、若人諸君! これを飲んだら出発だ」
◇
というわけで。
最新設備が導入されているというカラオケ店に来た。
そもそも歌を知らない俺って、ソシアルクロスみたいにヤバいんじゃないだろうか。
・・・考えるうちに帰りたくなってきた。
これ・・・下手なことをすると追求されるぞ。
どうすりゃいいんだ。歌わないって選択肢はないだろし。
勉強ばかりしていた自分が恨めしい。
逡巡するうちにあれよあれよと店員に案内されて、俺達は広めの個室へと入った。
見た目はリアルのカラオケと同じような室内。
奥が舞台のように壇上になっている。
部屋にはアンプやリモコンといった機械類が無い。マイクも無い。
どうやら部屋の正面や側面の壁一面がモニターになっているようだが・・・。
機械類は小型化してるからな、たぶん埋込式だろう。
そもそも曲選びは? マイクは? 歌詞はどこに表示されんの? と疑問しかない。
そしてどのあたりがどうアバターなのだろうか。
「はい。知らない人もいると思うから、まずは私が一曲歌うね」
橘先輩がモニターの壁に触れ「わたしが歌う」と呟く。
すると「歌い手を登録しました」と表示され、壁一面に曲目が現れた。
立体的に曲リストが表示され、分野別のリストを左右に流して探していく。
目的の曲を見つけたようで曲名にタッチすると部屋が暗くなった。
「よーし、いくよー!」
部屋が暗くなってきて、臨場感のあるリズムが鳴り出した・・・と思ったら。
橘先輩の衣装が変わってる!?
アイドルよろしく白と青をベースに輝く宝石で装飾された派手なドレスにティアラまで乗っけて。
部屋全体が宇宙空間のように星が流れ、橘先輩の足元だけコースターのように台が表示されている。
「-----♪」
フリをつけて踊りながら歌う橘先輩。
曲に合わせて腕を振れば流れ星が走り。
くるりと回転すれば星の背景全体がぐるっと流れる。
宇宙船に乗ってこのアイドルの追っかけをしているような感覚だ。
九条さんも花栗さんも御子柴君も、感嘆しながら魅入っている。
「-----♪」
いや、なんかすごい。
マイクなんて無粋な装置なくても、歌い手の声周波数を拾って音を増幅してるんだろう。
音響も隣で演奏者が実演しているかのような高音質。
この天井から足元まで異世界に変えてしまう映像技術。
ホログラムを駆使した衣装替え。
リアルのバラエティ番組で、映像に被せて音や文字、画像を出したりしていたけれど・・・。
そんな付け焼き刃の加工技術を遥かに上回っている。
だってその場で実体に合わせて加工表示するだぜ?
正直、度肝を抜かれた。
エンターテイメントの分野で技術が進まないわけがない。
ディスティニーランドでもびっくりの連続だった。
俺の知らない未来は確かに存在したのだ。
いつの間にか橘先輩が歌い終わる。
曲がフェードアウトしていくのに合わせ、背景と衣装が元に戻っていく。
お辞儀をした橘先輩に皆が拍手をした。
「すっごいすっごい! これ! アバター感動した!」
「衣装、素敵ですね!」
花栗さんは興奮気味だ。九条さんもアバターに感動した様子。
「俺、次に歌っていい?」
「はーい♪ どうぞー」
歌いきった先輩はとても楽しそうだ。
御子柴君にタッチして席を替わる。
あの壇上に立つと主役になれる。
これ、ひとりで来ても十分に楽しめそう。
俺はあまりの技術革新に感動しすぎて・・・自分の番が迫っていることに気付かなかった。
2人掛け、4人掛け、6人掛け。
奇数人数で来ると席が余るか、足りないかのどちらかだ。
この状況なら6人席に座るだろうと思ったんだけど・・・。
どうして4人席に座ってるんですかね、この人。
「どう考えても狭ぇだろ・・・」
「いーじゃん! 親睦を深めるなら物理的距離は近いほうが良いの!」
「・・・それは俺達の話で、橘先輩まで近くなくて良いんじゃねぇか?」
「ふーん。そういうこと言っちゃうんだぁ」
さっさと注文してひとりで4人席の奥に座っている橘先輩。
遅れてやって来た俺達に席が足りねぇという空気が流れているところだ。
そもそも隣に6人席とか空いてるだろ!
「お星さまを実感してもらうには近いほうが良いんだって!」
「・・・分かりました」
意を決して九条さんが先に座る。橘先輩の隣に。
それを見た花栗さんと御子柴君が反対側に座る。
俺は・・・カウンターのひとり席にでも行こうかな。
「待って」
だよね。
そんな素振りを見せると橘先輩が引き止める。
「九条、一旦、立ってくれる?」
「はい」
「武君、ほら、ここに」
「・・・うん」
「そしたら九条がその隣!」
「え?」
「はい」
だから狭ぇんだよ!
この密着感を出したかっただけじゃねぇのか、橘先輩。
というか通路側からこっちへ押し込んでくる九条さんも地味に嬉しそうにしてる。
・・・おい、御子柴君の微妙な表情をどうしてくれんだ。
「さて! 先ずは・・・何を頼んだの?」
何から話すのかと思えば。天気の話じゃないだけ良いか。
橘先輩が振った先が俺なので、俺から答える。
「俺はストレートティーだ」
「何も入れないんだ?」
「甘いと飲んだ後に甘ったるくなるしな」
「紅茶派なんですか?」
「あー・・・コーヒーは胃が荒れちまうんで」
ふむふむと皆が聞いている。
なんか全員に聞かれていると恥ずかしいなこれ。
「九条は何を頼んだ?」
「わたしはこれです。カフェオレにアイスクリーム載せたものです」
「甘そ・・・」
「甘いもの好きなんですか?」
「ええ。破天荒で暴力的な甘さに惹かれまして」
ナニソレ。
パスタといい、たまに九条さんのぶっとんだ嗜好が見えるけども。
辛いのはダメで甘いのなら際限なくいけるってことか。
「御子柴君は?」
「俺はカフェオレです。苦いと飲めなくて・・・」
「えー、かわいい」
「うん、私も同じですから気持ちはわかります」
「そうですよね、苦いと折角のティータイムが楽しめないです」
ちょっと恥ずかしそうな御子柴君に同調する花栗さんと九条さん。
てことは3人とも甘党なのか。
「花栗さんは?」
「私はミルクティーです。あの・・・砂糖入れてます」
「ですよね! 甘いことが正義です!」
いや何その正義。
花栗さんを九条さんが擁護する場面を初めて見たぞ。
「ちなみに私はコーヒーのブラックでしたー」
「甘くしねぇんだな」
「そ。大人の嗜みってやつだね!」
俺と同類だとウインクして身体を寄せてくる橘先輩。
逃げ場もないのでされるがままに紅茶を飲む俺。
「それじゃ、本題ね。仲良くなるなら呼び方を変えよう!」
「呼び方?」
「あだ名でも良いけど。名字で呼んでちゃダメ」
「ええ・・・」
「それ、橘先輩が呼びたいだけじゃねぇか?」
引っ込み思案の花栗さんは抵抗感満載の様子。
俺は花栗さんを援護してみた。
「わたし、良いと思います!」
「・・・俺も、良いんじゃないかと思う」
「え?」
と思ったらまさかの九条さんと御子柴君が同調。
え? これ、3対2で負けるやつ?
「俺は呼び方、変えねぇぞ・・・」
「いいよいいよ、武君はそのままで」
これ、俺が抵抗するから外堀から埋めるやつだ。
「それじゃ、御子柴君、花栗さん、下の名前、教えて?」
「俺は諒です」
「わ、私は若菜です」
「諒君に若菜ちゃんね。じゃ、私のことは武君みたいにタメ口で構わないから」
「ええ、でも・・・」
「ん~。ここで遠慮してちゃダメなんだよね。そうだ!」
橘先輩がにやり、と悪巧みをする時の顔つきをした。
既にその術中に収まっている気がしないでもないが。
「今日1日、丁寧語、名字呼びは無し! 破ったら減点していって、減点10で皆の言うことをひとつ聞くってことで!」
「・・・」
「ああ、でも私の名前は武君にだけ呼んでほしいから、他の人は橘さん、でいいよ」
ディスティニーランドの記憶が蘇る俺。
ちょうど1年前か・・・この人とこういう関係になったのも。
同じように引っ張り回されていることを考えると不思議な感じがした。
「わ、分かりました。頑張ります。橘さんに、さくらさん、諒さん、武さん、です・・・だね」
「うんうん、合格! 頑張って!」
橘先輩は乗り出して花栗さんの頭をわしわし撫でている。
ちょっと緊張しながらも嬉しそうな花栗さん。
「ほら、ふたりとも練習!」
「ええと、橘さん、武、さくらさん、若菜さん、か」
「はい。先輩に、諒さん、若菜さん。武さん、ですね」
「よし、合格!」
九条さんの先輩呼びと丁寧語はノーカンなのか。
まぁ変えちゃうと性格や関係性が変わっちゃいそうだからな。
皆、納得しているようだ。
「で、武君は? 呼んでくれないの?」
「減点10をする自信がある。俺はやらねぇ」
「えー! ひっどいなぁ」
「そもそも口調がこれだろ? 名前の呼び方なんて関係ねぇよ」
「むー。不満ー!!」
「うわっ!」
橘先輩が俺の腕をぐいぐいと引っ張る。
傍目にはカップルがじゃれているようにしか見えん。
と思ったら、九条さんが反対の腕を取った。
「武さん! わたしも不満です!」
「そうだぞ、武!」
お前ら、自分が呼んでもらいたいからって!
まさかの花栗さんも「呼ばないつもりですか」って雰囲気で見てる。
いやこれ、完全に橘先輩の戦略に乗せられてんだろ、お前ら。
外堀埋めるのうますぎ・・・。
女狐具合は俺にしか分からねぇのか・・・。
・・・もうこれ、逃げられねぇ。くそ。
「ああもう分かったよ。香さん、さくらさん、諒、若菜さん。これで満足か?」
「ごうか~く!」
「はい!」
「お、おう」
「・・・うん、良いよ」
にははと悪戯顔のままの橘先輩。
とても嬉しそうな九条さん。
呼ばれ慣れないせいか赤くなる御子柴君。
とても頑張って受け入れようとしている花栗さん。
・・・俺は今日だけだからな?
よしよしと満足げな橘先輩が皆の前で手を振る。
「さて! それじゃ、今日のプランはどうなってた?」
「この辺の繁華街をぶらついて、食事して・・・かな?」
変な緊張で喉が渇いた俺は紅茶で喉を濡らす。
また何か企んでんのか? この人。
「なるほどー。ノープランなんだね! それじゃ、私から提案!」
しっかしホント元気だな。
このエネルギーはどっから出てきてるんだ。
「今、流行りのアバターカラオケに行こう!」
「アバターカラオケ?」
「そ。アバターと臨場感あるステージでデュエットできるカラオケ!」
どんなカラオケだ?
というか、俺、そもそもこの時代の歌なんて知らねぇぞ。
「あ・・・1度、行ってみたかった・・・」
「わたしも話を聞いたことがあります。興味ありますね」
「橘さん、それ、ちょっとお高いんじゃなかったっけ?」
「ふふふ、高校生の先輩を舐めないで? じゃん! 会員カードと割引券!」
「用意周到!」
「任せなさい!」
もうこれ、橘先輩がエンターテイナーで良いよ。
俺は何もしなくて良いんじゃないかという気になってきた。
皆の緊張が解れて良い感じになってるのは橘先輩さまさまなんだけども。
「よし、若人諸君! これを飲んだら出発だ」
◇
というわけで。
最新設備が導入されているというカラオケ店に来た。
そもそも歌を知らない俺って、ソシアルクロスみたいにヤバいんじゃないだろうか。
・・・考えるうちに帰りたくなってきた。
これ・・・下手なことをすると追求されるぞ。
どうすりゃいいんだ。歌わないって選択肢はないだろし。
勉強ばかりしていた自分が恨めしい。
逡巡するうちにあれよあれよと店員に案内されて、俺達は広めの個室へと入った。
見た目はリアルのカラオケと同じような室内。
奥が舞台のように壇上になっている。
部屋にはアンプやリモコンといった機械類が無い。マイクも無い。
どうやら部屋の正面や側面の壁一面がモニターになっているようだが・・・。
機械類は小型化してるからな、たぶん埋込式だろう。
そもそも曲選びは? マイクは? 歌詞はどこに表示されんの? と疑問しかない。
そしてどのあたりがどうアバターなのだろうか。
「はい。知らない人もいると思うから、まずは私が一曲歌うね」
橘先輩がモニターの壁に触れ「わたしが歌う」と呟く。
すると「歌い手を登録しました」と表示され、壁一面に曲目が現れた。
立体的に曲リストが表示され、分野別のリストを左右に流して探していく。
目的の曲を見つけたようで曲名にタッチすると部屋が暗くなった。
「よーし、いくよー!」
部屋が暗くなってきて、臨場感のあるリズムが鳴り出した・・・と思ったら。
橘先輩の衣装が変わってる!?
アイドルよろしく白と青をベースに輝く宝石で装飾された派手なドレスにティアラまで乗っけて。
部屋全体が宇宙空間のように星が流れ、橘先輩の足元だけコースターのように台が表示されている。
「-----♪」
フリをつけて踊りながら歌う橘先輩。
曲に合わせて腕を振れば流れ星が走り。
くるりと回転すれば星の背景全体がぐるっと流れる。
宇宙船に乗ってこのアイドルの追っかけをしているような感覚だ。
九条さんも花栗さんも御子柴君も、感嘆しながら魅入っている。
「-----♪」
いや、なんかすごい。
マイクなんて無粋な装置なくても、歌い手の声周波数を拾って音を増幅してるんだろう。
音響も隣で演奏者が実演しているかのような高音質。
この天井から足元まで異世界に変えてしまう映像技術。
ホログラムを駆使した衣装替え。
リアルのバラエティ番組で、映像に被せて音や文字、画像を出したりしていたけれど・・・。
そんな付け焼き刃の加工技術を遥かに上回っている。
だってその場で実体に合わせて加工表示するだぜ?
正直、度肝を抜かれた。
エンターテイメントの分野で技術が進まないわけがない。
ディスティニーランドでもびっくりの連続だった。
俺の知らない未来は確かに存在したのだ。
いつの間にか橘先輩が歌い終わる。
曲がフェードアウトしていくのに合わせ、背景と衣装が元に戻っていく。
お辞儀をした橘先輩に皆が拍手をした。
「すっごいすっごい! これ! アバター感動した!」
「衣装、素敵ですね!」
花栗さんは興奮気味だ。九条さんもアバターに感動した様子。
「俺、次に歌っていい?」
「はーい♪ どうぞー」
歌いきった先輩はとても楽しそうだ。
御子柴君にタッチして席を替わる。
あの壇上に立つと主役になれる。
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