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ハチャメチャの中学2年生

031

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 俺的に濃い内容だった林間学校が終わり、寮に帰ってきたその日の夜。
 おばちゃんが慌てた様子で俺の部屋にやってきた。


「京極くん大変だよ! お父様とお母様が!」

「え?」

「事故に遭われたって!!」

「ええ!?」


 ◇


 もともと、お盆には帰る予定だった実家。
 まさかの両親の葬儀で戻ることになるとは・・・。
 俺は学生服を手に特別高速鉄道に乗り、中国州は広島市を目指す。
 寮に帰ってから準備をして明朝に出発だから誰かに連絡する間も無い。
 折角の旅路だが、今後の身の振り方などを考えないといけない。
 最悪・・・退学という可能性もあるのだから。

 広島市に着き、さらに乗り換えて実家のあるという駅に到着した。
 全く土地勘はない。当たり前か。
 到着電車のみ電話で伝えていた。親族と名乗るおじさんに出迎えて貰った。
 実家は閑静な住宅街にあった。

 門を潜ると葬儀の準備が整えてある。仏式だ。
 宗教の形態もリアルとそんなに変わりないようだ。
 今日が通夜だから明日が葬儀とのこと。
 学生服に着替え、案内されるがままに遺体が安置している部屋に来た。
 ・・・初対面の両親は遺影の中で微笑んでいた。
 ・・・知らない、人だ。
 俺の、リアルの俺の両親ではなかった。
 少しだけ、安心した。
 だけど、何度か電話で会話した母親。
 その声だけは耳が覚えている。
 やはり、少しでも知っている人が死んだという事実は悲しい。
 俺というイレギュラーに息子を乗っ取られて、会える機会を逸してしまった母親。
 どうにも遣る瀬無い気持ちが溢れ、目頭が熱くなった。


 ◇


 葬儀は叔父さんがすべて取り計らってくれるらしい。
 そのまま実家に泊まり、翌日に坊さんが来て。
 葬儀を行って、霊柩車で棺を火葬場に運び。
 両親の火葬を待っている間、知らぬ親族に大変だね、とか、気を落とさないで、とか言われ。
 気付けば両親は骨壷の中に収まっていた。

 俺はそのまま、叔父さんに連れられ親族が集まるテーブルに座らされた。
 ・・・これはあれか、俺の親権をどうするかとか、そういう話か。
 大人たち、と言っても交流のあった親しい親族は叔父だけらしい。
 他の親族たちは叔父が提案するままに、特に反対もせず。
 叔父が俺を引き取るという流れで話がまとまった。

 引き取られる・・・俺は学校を辞めることになるのか。
 不安に駆られ、親族が解散した後、叔父に話を振った。


「俺、このままこっちで暮らすんですか?」

「武君、今の学校があるだろう。寮なのだし、そのまま続けて通うといい」

「・・・ありがとうございます、助かります」

「うん、しっかりしてるね。僕もあまり構ってあげられないし・・・寂しい思いをさせてしまうと思う」

「いえ・・・」

「もし、君が良ければ、なんだが」

「はい」

「自立後見、という制度を利用してみないか?」

「自立後見、ですか?」


 叔父の説明ではこうだ。
 未成年の意思決定には当然、保護者や成年後見による追認が必要となる。
 けれども、50年前の大惨事で家族を失った人があまりにも多かったため。
 大人と同程度の意思を確認できる者は、未成年自身が自分を後見できる、という制度が創設されたのだ。
 なんかややこしいが、要するに大人として扱われるということだ。

 実はこの世界、成人年齢は16歳。昔の元服と一緒。
 だから俺が自立後見をしたとしても、2年ほど早く自立するだけなのだ。
 あとは俺の意思がどうか、という点。


「あの・・・俺、自立後見したいです」

「そうか。では僕のほうで遺産相続等の手続きは済ませておく。君は下級判事所の試験を受けると良い」

「わかりました」


 こうして俺は自立するため、自立後見の制度を利用する準備に入った。


 ◇


 自立後見をするには成人と同程度の知識量および判断力が求められる。
 リアルで言えば大人のする契約、いわゆる民法の範囲を承知していることになる。
 それを確認するための試験が下級判事所で行われるというのだ。
 広島市では毎月1回、その試験がある。8月は後半に設定されている。
 俺は試験を受け、自立後見を成立させてから寮へ戻ることにした。
 寮のおばちゃんに事情を話し、戻るまで食事等は不要と伝える。

 俺は実家にひとり残り、試験勉強を始めた。
 夏休みだったのが不幸中の幸いだ。
 叔父さんはたまに様子を見に来るそうだ。
 しばらく実家でひとり暮らしすることになる。

 実家の設備を確認する。
 ベッドは親が使っていたものがある。
 掃除洗濯は、見た目は異なるが機能は同じ機械があるので何とかなりそう。
 料理は・・・あったよ、自動調理機。
 これがあるならカードリッジ食材を買ってくれば何でもできる。
 なるほど、これなら勉強に打ち込めそうだ。

 情報屋の店頭で電子ファイルを購入する。
 情報屋とは、リアルでいう本屋だ。
 様々な分野の知識が売っている。これをデータで購入できるのだ。
 そのデータを格納・閲覧するためのデバイスが電子ファイル。
 これ、テクスタントと似たような棒状のデバイスで、使い勝手も一緒。
 だからそんなに困惑せず使いこなすことができた。
 目的の試験勉強用の資料を集め、実家に籠もって勉強を始めた。

 3日目の夜。
 九条さんからPEで連絡が来た。


『・・・それは、お悔やみ申し上げます・・・』

「うん・・・。当分、そっちに戻れなさそうだからさ。後半に集まる予定があったじゃない? 御子柴と花栗さんとは、俺抜きで遊んでおいてよ」

『・・・はい。あの・・・』

「うん」

『お身体は、大丈夫ですか?』

「うん、大丈夫。不思議と落ち込んだりはしてないよ」

『それは何よりです。その・・・京極さんは・・・学校は、続けられるのですよね?』

「うん。そのつもり」

『ああ・・・良かった、です・・・』

「・・・で、そのために自立後見する準備をしてる」

『ええ? 自立後見なさるのですか?』

「そうしないと、辞めてこっちに戻るって話になりかねないから・・・」

『・・・そうなのですね。もし、そうなさるのであれば、微力ながら応援させていただきます』

「うん、ありがとう」

『・・・また、連絡します。どうか、ご自愛なさってください』

「九条さんもね。大会目指して、頑張って!」

『ありがとうございます。その、お戻りになられたらご挨拶に伺いますから』


 ◇


 次の日の夜。
 今度は橘先輩からPEで連絡が来た。


『この度はご愁傷さまでした』

「うん。橘先輩にも気を遣わせちゃってごめん」

『九条に状況は聞いたよ。自立後見するんだって?』

「うん、そのために勉強中なんだ」

『学校の勉強もあるのに。でも、頑張ってくれないと武君と会えなくなるからなぁ』

「はは、頑張るよ」

『うん。私も九条も応援してる』

「ありがと」

『こっち戻ってきたら、うんと褒めてあげるから』

「ん、楽しみにしてる。橘先輩と話して元気出たよ」

『本当? まだ、お亡くなりになって直ぐだからさ。急に寂しくなったりしたら、私に連絡するんだよ。いっぱい慰めてあげるから!』

「はは、ありがと。もしそうなったら頼むよ」


 ◇


 実家に来てから2週間。
 生活環境が変わると色々と変わる。
 朝やっていた運動も無し。
 夜の学校の勉強もお休み。
 絶対に失敗できない、自立後見の勉強だけに絞って頑張った。

 そして試験当日。
 広島市まで電車で移動し試験会場に向かう。
 受験票を提示し、指定された席に座った。
 周りには、俺と同年代の人たちが座っている。
 皆、中学生にしては大人びた雰囲気を帯びている。
 立場は似たようなものなのだろう。
 免許状に近いから、基準点を上回れば合格するはず。
 この場の全員が合格できますように。

 試験はすぐに終わった。
 自動採点され、ロビーに待機していると10分程度で結果が表示される。
 合格者の番号に・・・あった、俺の番号。
 良かった・・・これで無事に大人扱いとなる。
 学校を辞めずに済んで、本当に良かった・・・。
 とんでもないかたちでバッドエンドになるところだったよ。

 実家に戻り、叔父に連絡した。
 無事に自立後見が成立したことを説明すると、遺産の権利を俺に書き換える手続きをするという。
 実家をどうするか聞かれたので、可能であれば処分を、とお願いした。
 8月中に完了するから、と説明された。
 丁寧にお礼を伝えておいた。

 この広島市に俺の人生の軌跡はない。
 もしかしたらアルバムとかあるのかもしれないが、それは俺の知らない俺だ。
 記憶喪失の人は、もしかしたらこんな気分なのかもしれない。
 そうして夏休みの後半。
 俺はまた特別高速鉄道に乗って中国州を後にした。
 さようなら、俺の両親。
 きっと、良い人生を歩めるよう頑張るから。
 安らかにお眠りください。


 ◇


 寮に帰る日時は心配をかけた九条さんと橘先輩に連絡しておいた。
 だから帰ったら翌日あたりに何かあるかな、とは思っていた。
 門限ぎりぎりに寮へ到着し、おばちゃんに帰宅の挨拶して。
 部屋に戻ったら、暗闇からこんにちは。


「ぎゃあああぁぁぁ!! び、びっくりした!!」

「あっはっは! おっかえりー!!」

「もう、だから止めようと言ったじゃないですか! お帰りなさい、京極さん」


 心臓に悪いぜ・・・橘先輩。
 部屋に入ったら橘先輩がいきなり抱きついて来たのだ。
 九条さんも少し遅れて優しく俺の腰に手を回していた。
 悪戯成功って顔をしているのかと思ったら・・・ふたりとも涙ぐんでいた。
 びっくりしたけどさ・・・うん、ありがとう。
 素直に嬉しい。なんか、帰ってきた気がする。

 なんでも、俺を真っ先に迎えたかったらしい。
 本当は応援しに広島市まで行こうと思ったそうだがさすがに遠慮したとか。
 だから戻って来たら一番に会いに行くと決めていたそうだ。


「だからこんな遅い時間まで・・・もう、橘先輩も九条さんも消灯時間の間際に・・・」

「えー? もう消灯だよ?」

「え? あれ、本当だ」


 話をしていたら21時を過ぎていた。


「・・・俺がおばちゃんに事情を話すから。ほら、九条さんは部屋に戻って。橘先輩は家まで送るから」

「い・や!」

「嫌って・・・子供じゃないだから」

「私、まだ子供だもーん」


 つーん、と拗ねる素振りの橘先輩。
 これはあれか、俺が自立後見して大人扱いになったということへの当てつけか何かか?


「わたしも、今日はここに居ます」

「ええ、どうして・・・」


 九条さんも便乗しているのか、ちょっと澄ませた顔で居座っている。


「だって言ったじゃない? 戻って来たら、うんと褒めてあげるって!」


 橘先輩はにこにこしながら、俺の頭を抱え髪をわしゃわしゃと撫で回す。
 ふわり、と女の子の匂いがした。
 これじゃどっちが大人か分かりゃしない。
 ・・・本当なら全力で追い出すところなんだけどさ。
 こんな優しいの、無理だろ・・・。


「京極さん、おひとりでしょう? ですから、わたしがお側に居ようと思います」

「九条だけじゃないよ、私もね」

「・・・」


 ちょっとさ。
 ふたりとも、女の子が、男の部屋で夜に、何を言ってんの。
 俺がひとりになったからってさ。
 そんなの・・・ずるいだろ・・・。


「う・・・ありがと」

「うん、おかえり武君」

「みんな一緒ですよ、京極さん」


 ふたりとも一晩中、俺に寄り添っていてくれた。
 頭を撫でたり、背中に手を添えたり。
 貴方は孤独ではないと優しく身体に語りかけてくれる。
 じんわりと。
 ずっと孤独だったこの世界で、孤独でないと思うことができた。


 ◇


 朝、同じベッドで目が覚めた時はやたら気恥ずかしかった。
 ふたりを部屋から出す時にトラブルがあったのはまた別の話。

 何も疚しいことはしてないよ!

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