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ドキドキの中学1年生
006
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生活リズムが整ってきて居眠りしなくなった4月のある日。
クラス内の委員決めがあった。
担任の先生が主導して電子黒板に列挙された役職を埋めていく。
懐かしい。誰も立候補しなくて決まるまで帰れないPTA役員とは雲泥の差。
けっこう立候補する人が多いのでサクサク決まっていく。
が、ひとつだけ決まらない役職があった。
学級委員。
責任が伴ったり、予定外の仕事を頼まれるブラック委員っぽくて、皆やらねぇんだよな。
つか、中学生でそこまで考えて敬遠するのか?
そしてどれにも立候補してない奴が幾人か。
部活に忙しいとか色々理由あるんだろうな。
俺と九条さんも特に立候補してない。
勉強も部活もあるしな。
「わたし、学級委員やります」
おわっ! 九条さん、格好いい! 痺れる!
さらりと髪を躍らせて立ち上がるのも美しい。
でも部活あるんじゃないの?
そんなに忙しくないのかな?
ところが2人枠の学級委員、続く人がいない。
・・・もしかして九条さんだから誰も立候補しない?
「俺もやる」
人の動きを見て決める優柔不断ともいう・・・。
でもこのPTA状態、耐えられないんだもん。
それに九条さんとご一緒してたほうが色々と便宜を図ってくれそうという打算もあり。
目覚ましとか目覚ましとか・・・。
あれから5回くらい食事前に起こされたなんて内緒なんだからね!
「よし決まったな。みんな、1年間頼むぞー。学級委員は早速、放課後来てくれ」
先生が宣言してホームルームが終わる。
・・・ん?
なんかじろじろと見られてるな。
やっぱり俺と九条さん、皆から距離置かれてる?
生意気だとか陰気だとか思われてるんだろうな。
見えてないつもりだろうけどヒソヒソしてるし。
「白いのが気持ち悪い」「根暗コンビ」?
お、なんかレベル低い陰口聞こえた。
はっ! そんな小学生みたいな噂、怖くもない。
それとも九条さんの美貌に嫉妬してんのかな?
でも九条さんが最初に「色白だから奇異の目で見られる」って言われてたからなぁ。
日本人っぽくないことへの偏見って昔から変わってねぇんだろう。
とにかく九条さんの負担にならないかは気にしとこう。何かあってからじゃ遅ぇからな。
俺と九条さんは言葉通り、放課後になったら先生のところへ行った。
何かと思ったら職員室への顔通しと、来週使う資料の登録作業だ。
先生の端末へデータベースから登録しておくとテクスタントに配信されるらしい。
すげぇな未来式。
黙々と作業して30分くらいで終わった。
権限付与とかの手間もあるから意外にめんどい。
先生に報告して終了だ。
「わたしはこれから弓道部です」
「俺もリア研に行ってくるよ」
「頑張ってくださいね」
「九条さんも」
リア研・・・リア充研究みたいな略になってしまった。
けど言いやすくするとこうなるから仕方ない。
お互いに部活へと別れた。
部活くらいは平穏に過ごせますように。
◇
「ねぇ京極君。こんなモノがあるんだけど・・・」
「何だよ先輩、勿体ぶって」
何度か通ったおかげで、先輩が調べていたことは一通り理解できた。
つまり世の中で認知されているAR値についての常識は身についたわけだ。
今はAR値を上げる方法を調べ始めている。
「じゃーん! 細胞を魔力適合させるクスリだって」
「・・・それ、すんげぇヤバいやつか、パチもんかどっちかでしょ」
「服用すると風邪っぽくなるけど、治ったらAR値が増えるって」
「そんなもんがあるならどうして先輩が使ってねぇんだ?」
「こんな得体の知れない薬、怖いじゃない?」
「その得体の知れない薬を俺に勧めてるよね!?」
駄目先輩は相変わらず残念だった。
「ほら、わたしは少しは適合してるから効果ないかもしれないけどさ。君なら何かあるかも」
「俺には調子悪くなって苦しむ未来しか見えねぇ・・・」
そう、パチもんだと俺の勘が訴えている。
こんなの政治家の「善処します」より信用できねぇだろ・・・。
だけど。
だけどさ。
万が一ってことがあるじゃん?
俺はその万が一を探さねぇといけねぇんだから。
生き残るためには通らなきゃいかん道だ!
「先輩、それ」
俺は先輩に向かって掌を差し出す。
「え? 飲むの? え? 本気?」
「ちょっとは可能性があると思ったから持ってきたんだろ?」
「えっと・・・あっ!?」
いざ渡してくれと言うと迷ってやがる。
こんなん、試すなら早いほうが良いんだ。
毒だったら販売できないだろうから即死することはない。
最悪、救急車だ!
「あ、駄目だよ、駄目! あああ・・・」
俺が怪しげな錠剤を飲み込むのを止めようとする先輩。
そんなに心配なら、そもそも話を振らないでほしい。
「・・・ど、どう?」
「・・・今のところは何ともない」
「風邪みたいな症状、出てない?」
「そもそも薬ってそんな直ぐに効かねぇだろ・・・」
いや待て。
ここは未来だ。俺の常識は通用しねぇ。
・・・なんか変な感じだ。
主に腹が。
ぎゅるぎゅると・・・音を立てて・・・
「ぎゃぁぁぁぁ!! と、トイレーー!!」
「京極君!?」
その後、俺は雉撃ちに2時間ほどかかった。
もちろん、AR値に変化は無かった。
◇
夜。
腹の調子を心配しながら食堂へ入った。
あんな怪しい薬、一体どうやって先輩は手に入れたのか・・・。
もしかして怪しい壺とか買っちゃうタイプの人?
今度、家にそういうものがないか聞いてみよう。
既に九条さんも食事をしていた。
そこそこ混んでいたが九条さんの相席だけ空いている。
やっぱり皆、彼女には近寄らないんだな・・・。
華奢でぐっとくる美人なんだけどなぁ。偏見恐るべし。
「や、こんばんは」
「こんばんは、京極さん。お先にいただいてます」
仲良くなってきても丁寧な挨拶を欠かさない九条さん。
良いとこのお嬢様で育ちが良いんだっけ?
公式設定がどうなってたか、ちょっとうろ覚えになってきた・・・。
攻略ノートに早めに覚えてることを書き出さないと危ない。
記憶なんて薄れてく一方だからな。
「ここのご飯、美味しいよね」
「ええ。とても丁寧で、自動調理機には出せない味です」
「出汁とか分かるんだ? あ、実家でずっと和食だったんだっけ?」
「はい。ここの寮も母が和食を手作りするからって選んだようですから」
なるほどね、そういう理由でここなんだ。
確かにおばちゃんの料理の腕は相当に良い。
バリエーション豊富な和食で飽きが来ないし、何より料亭みたいに上品だ。
和食通?な九条さんをして、丁寧と言わしめるのだから。
「洋食も出てほしいのですけどね」
「そうだね、和食以外もあると良いよね」
鯖の味噌煮を口に運びながら、そんな他愛もない贅沢を語る。
いくら食べ慣れて美味しくても、他に大味なものが食べたくなることもある。
ほら、ハンバーガーとかポテトフライとか、無性に食べたいとかあるじゃん?
四十路になると大味なものって要らねってなるんだけど、若いうちはそうじゃない。
身体が欲しているエネルギーをガツンと供給してくれる食材に惹かれるのだ。
この身体になって俺も漏れなくそういう状態になっていた。
「ところで、弓道部の調子はどう?」
「はい。経験者だということを汲んでいただいて、巻藁から練習しています」
「巻藁って、俵みたいなやつに打ち込むんだっけ?」
「そうです。単純な繰り返しという意味では回数を重ねられますから」
そう言うとちらっと手のひらを見せてくれた。
弓を引くときにできるタコみたいな痣ができていた。
思った以上に練習に打ち込んでいるんだろう。
「かなり頑張ってるんじゃない? 2週間でそれってことは、部活中、ずっとやってるんじゃ?」
「いえ。3年の先輩には及びませんから」
謙遜でしょ、それ。
九条さんの真面目さで取り組んだら隙も無駄もないんだから、先輩よりこなしてるに決まってる。
見学で見た限り、九条さんの実力は既に先輩以上なのだろうし。
「そういえば明日、世界語の小テストですね」
「え!? そんなんあったっけ!?」
「はい、最初から今日の単元までの単語と文法が範囲です」
「まじかー・・・どうして聞き流していたんだ・・・」
はい、寝ていたからです。
「俺、勉強してくるわ! お先に!」
「あ、あの・・・」
うひゃー、やばいやばい。
内申に傷をつけないためにもテスト類は落とせねぇ。
九条さん、ありがとう!
◇
--次の日の放課後。
「京極君?」
「・・・」
「どうしたの? 真っ白に燃え尽きてるよ?」
「・・・」
「そうやって嫌な気が回ってるときは、この幸運の壺で・・・」
「やっぱり持ってるんじゃねぇか!?」
安定の駄目先輩の発言で我に返ったよ!
「え? だって、これ買ったら良いことあったよ?」
「良いことって何?」
「ほら、京極君が入部してくれた!」
「・・・」
それ、良いことなんだろうか。
もしAR値の問題が解決したら、俺、間違いなく幽霊部員になるよ?
部活が存続するって意味では良くない部員だと思う。
「それで、本当にどうしたの?」
「実は・・・世界語が苦手で・・・」
「え? 世界語?」
「小テストで・・・再試験になるくらいには・・・」
「まだ始まって半月くらいだよね? そんなに難しいところかな・・・」
俺もそう思うよ!
でも取り掛かると催眠術みたいに寝ちまうんだよ!!
九条さんに何回起こされちゃったと思ってるんだよ!!
頭が拒否すると眠くなる精神、四十路であることの弊害だ。
「う~ん、そんなに苦手なら教えてあげようか?」
「え!? 先輩、世界語できんの!?」
「うわっ! びっくりした。う、うん。世界語の成績は1位だよ」
暗に他の教科は駄目そうだと言ってますね。
でも有り難い! 早くも自力じゃ限界を感じていたんだ。
ライティングだけじゃなくて、リスニングやスピーキングも必要だからな。
「お願いします! 教えてください!」
「ちょ、ちょっと! 土下座なんてしないでよ・・・」
「お願いします!」
「そんなことしなくても、可愛い後輩のためなんだから。いくらでも教えてあげるよ」
「やった! ありがとう先輩!!」
思わず先輩の手を取って喜んでしまう。
あ、先輩、ちょっと照れてる。
いやさ、一度、駄目になるとその教科って手がつけられなくなるじゃん?
俺の今の余裕のない状況で、他の手段でフォローできないわけよ。
そんな俺がトップレベルの先輩に教えてもらえるなんて運が良すぎる!
「それじゃ・・・部活動もあるから、ここにいる時間の半分、1時間くらいなら」
「十分です! お願いします、飯塚先輩先生!」
「やめてよ、先輩先生って」
「神様先生のほうが良い!?」
「いつも通り先輩でいいよ・・・」
こうして一夜漬けでは全く成果の出なかった俺は、奇跡的に家庭教師を得た。
AR値の調査は暗礁に乗り上げてるところだから、別のことに時間使っても良いよね?
クラス内の委員決めがあった。
担任の先生が主導して電子黒板に列挙された役職を埋めていく。
懐かしい。誰も立候補しなくて決まるまで帰れないPTA役員とは雲泥の差。
けっこう立候補する人が多いのでサクサク決まっていく。
が、ひとつだけ決まらない役職があった。
学級委員。
責任が伴ったり、予定外の仕事を頼まれるブラック委員っぽくて、皆やらねぇんだよな。
つか、中学生でそこまで考えて敬遠するのか?
そしてどれにも立候補してない奴が幾人か。
部活に忙しいとか色々理由あるんだろうな。
俺と九条さんも特に立候補してない。
勉強も部活もあるしな。
「わたし、学級委員やります」
おわっ! 九条さん、格好いい! 痺れる!
さらりと髪を躍らせて立ち上がるのも美しい。
でも部活あるんじゃないの?
そんなに忙しくないのかな?
ところが2人枠の学級委員、続く人がいない。
・・・もしかして九条さんだから誰も立候補しない?
「俺もやる」
人の動きを見て決める優柔不断ともいう・・・。
でもこのPTA状態、耐えられないんだもん。
それに九条さんとご一緒してたほうが色々と便宜を図ってくれそうという打算もあり。
目覚ましとか目覚ましとか・・・。
あれから5回くらい食事前に起こされたなんて内緒なんだからね!
「よし決まったな。みんな、1年間頼むぞー。学級委員は早速、放課後来てくれ」
先生が宣言してホームルームが終わる。
・・・ん?
なんかじろじろと見られてるな。
やっぱり俺と九条さん、皆から距離置かれてる?
生意気だとか陰気だとか思われてるんだろうな。
見えてないつもりだろうけどヒソヒソしてるし。
「白いのが気持ち悪い」「根暗コンビ」?
お、なんかレベル低い陰口聞こえた。
はっ! そんな小学生みたいな噂、怖くもない。
それとも九条さんの美貌に嫉妬してんのかな?
でも九条さんが最初に「色白だから奇異の目で見られる」って言われてたからなぁ。
日本人っぽくないことへの偏見って昔から変わってねぇんだろう。
とにかく九条さんの負担にならないかは気にしとこう。何かあってからじゃ遅ぇからな。
俺と九条さんは言葉通り、放課後になったら先生のところへ行った。
何かと思ったら職員室への顔通しと、来週使う資料の登録作業だ。
先生の端末へデータベースから登録しておくとテクスタントに配信されるらしい。
すげぇな未来式。
黙々と作業して30分くらいで終わった。
権限付与とかの手間もあるから意外にめんどい。
先生に報告して終了だ。
「わたしはこれから弓道部です」
「俺もリア研に行ってくるよ」
「頑張ってくださいね」
「九条さんも」
リア研・・・リア充研究みたいな略になってしまった。
けど言いやすくするとこうなるから仕方ない。
お互いに部活へと別れた。
部活くらいは平穏に過ごせますように。
◇
「ねぇ京極君。こんなモノがあるんだけど・・・」
「何だよ先輩、勿体ぶって」
何度か通ったおかげで、先輩が調べていたことは一通り理解できた。
つまり世の中で認知されているAR値についての常識は身についたわけだ。
今はAR値を上げる方法を調べ始めている。
「じゃーん! 細胞を魔力適合させるクスリだって」
「・・・それ、すんげぇヤバいやつか、パチもんかどっちかでしょ」
「服用すると風邪っぽくなるけど、治ったらAR値が増えるって」
「そんなもんがあるならどうして先輩が使ってねぇんだ?」
「こんな得体の知れない薬、怖いじゃない?」
「その得体の知れない薬を俺に勧めてるよね!?」
駄目先輩は相変わらず残念だった。
「ほら、わたしは少しは適合してるから効果ないかもしれないけどさ。君なら何かあるかも」
「俺には調子悪くなって苦しむ未来しか見えねぇ・・・」
そう、パチもんだと俺の勘が訴えている。
こんなの政治家の「善処します」より信用できねぇだろ・・・。
だけど。
だけどさ。
万が一ってことがあるじゃん?
俺はその万が一を探さねぇといけねぇんだから。
生き残るためには通らなきゃいかん道だ!
「先輩、それ」
俺は先輩に向かって掌を差し出す。
「え? 飲むの? え? 本気?」
「ちょっとは可能性があると思ったから持ってきたんだろ?」
「えっと・・・あっ!?」
いざ渡してくれと言うと迷ってやがる。
こんなん、試すなら早いほうが良いんだ。
毒だったら販売できないだろうから即死することはない。
最悪、救急車だ!
「あ、駄目だよ、駄目! あああ・・・」
俺が怪しげな錠剤を飲み込むのを止めようとする先輩。
そんなに心配なら、そもそも話を振らないでほしい。
「・・・ど、どう?」
「・・・今のところは何ともない」
「風邪みたいな症状、出てない?」
「そもそも薬ってそんな直ぐに効かねぇだろ・・・」
いや待て。
ここは未来だ。俺の常識は通用しねぇ。
・・・なんか変な感じだ。
主に腹が。
ぎゅるぎゅると・・・音を立てて・・・
「ぎゃぁぁぁぁ!! と、トイレーー!!」
「京極君!?」
その後、俺は雉撃ちに2時間ほどかかった。
もちろん、AR値に変化は無かった。
◇
夜。
腹の調子を心配しながら食堂へ入った。
あんな怪しい薬、一体どうやって先輩は手に入れたのか・・・。
もしかして怪しい壺とか買っちゃうタイプの人?
今度、家にそういうものがないか聞いてみよう。
既に九条さんも食事をしていた。
そこそこ混んでいたが九条さんの相席だけ空いている。
やっぱり皆、彼女には近寄らないんだな・・・。
華奢でぐっとくる美人なんだけどなぁ。偏見恐るべし。
「や、こんばんは」
「こんばんは、京極さん。お先にいただいてます」
仲良くなってきても丁寧な挨拶を欠かさない九条さん。
良いとこのお嬢様で育ちが良いんだっけ?
公式設定がどうなってたか、ちょっとうろ覚えになってきた・・・。
攻略ノートに早めに覚えてることを書き出さないと危ない。
記憶なんて薄れてく一方だからな。
「ここのご飯、美味しいよね」
「ええ。とても丁寧で、自動調理機には出せない味です」
「出汁とか分かるんだ? あ、実家でずっと和食だったんだっけ?」
「はい。ここの寮も母が和食を手作りするからって選んだようですから」
なるほどね、そういう理由でここなんだ。
確かにおばちゃんの料理の腕は相当に良い。
バリエーション豊富な和食で飽きが来ないし、何より料亭みたいに上品だ。
和食通?な九条さんをして、丁寧と言わしめるのだから。
「洋食も出てほしいのですけどね」
「そうだね、和食以外もあると良いよね」
鯖の味噌煮を口に運びながら、そんな他愛もない贅沢を語る。
いくら食べ慣れて美味しくても、他に大味なものが食べたくなることもある。
ほら、ハンバーガーとかポテトフライとか、無性に食べたいとかあるじゃん?
四十路になると大味なものって要らねってなるんだけど、若いうちはそうじゃない。
身体が欲しているエネルギーをガツンと供給してくれる食材に惹かれるのだ。
この身体になって俺も漏れなくそういう状態になっていた。
「ところで、弓道部の調子はどう?」
「はい。経験者だということを汲んでいただいて、巻藁から練習しています」
「巻藁って、俵みたいなやつに打ち込むんだっけ?」
「そうです。単純な繰り返しという意味では回数を重ねられますから」
そう言うとちらっと手のひらを見せてくれた。
弓を引くときにできるタコみたいな痣ができていた。
思った以上に練習に打ち込んでいるんだろう。
「かなり頑張ってるんじゃない? 2週間でそれってことは、部活中、ずっとやってるんじゃ?」
「いえ。3年の先輩には及びませんから」
謙遜でしょ、それ。
九条さんの真面目さで取り組んだら隙も無駄もないんだから、先輩よりこなしてるに決まってる。
見学で見た限り、九条さんの実力は既に先輩以上なのだろうし。
「そういえば明日、世界語の小テストですね」
「え!? そんなんあったっけ!?」
「はい、最初から今日の単元までの単語と文法が範囲です」
「まじかー・・・どうして聞き流していたんだ・・・」
はい、寝ていたからです。
「俺、勉強してくるわ! お先に!」
「あ、あの・・・」
うひゃー、やばいやばい。
内申に傷をつけないためにもテスト類は落とせねぇ。
九条さん、ありがとう!
◇
--次の日の放課後。
「京極君?」
「・・・」
「どうしたの? 真っ白に燃え尽きてるよ?」
「・・・」
「そうやって嫌な気が回ってるときは、この幸運の壺で・・・」
「やっぱり持ってるんじゃねぇか!?」
安定の駄目先輩の発言で我に返ったよ!
「え? だって、これ買ったら良いことあったよ?」
「良いことって何?」
「ほら、京極君が入部してくれた!」
「・・・」
それ、良いことなんだろうか。
もしAR値の問題が解決したら、俺、間違いなく幽霊部員になるよ?
部活が存続するって意味では良くない部員だと思う。
「それで、本当にどうしたの?」
「実は・・・世界語が苦手で・・・」
「え? 世界語?」
「小テストで・・・再試験になるくらいには・・・」
「まだ始まって半月くらいだよね? そんなに難しいところかな・・・」
俺もそう思うよ!
でも取り掛かると催眠術みたいに寝ちまうんだよ!!
九条さんに何回起こされちゃったと思ってるんだよ!!
頭が拒否すると眠くなる精神、四十路であることの弊害だ。
「う~ん、そんなに苦手なら教えてあげようか?」
「え!? 先輩、世界語できんの!?」
「うわっ! びっくりした。う、うん。世界語の成績は1位だよ」
暗に他の教科は駄目そうだと言ってますね。
でも有り難い! 早くも自力じゃ限界を感じていたんだ。
ライティングだけじゃなくて、リスニングやスピーキングも必要だからな。
「お願いします! 教えてください!」
「ちょ、ちょっと! 土下座なんてしないでよ・・・」
「お願いします!」
「そんなことしなくても、可愛い後輩のためなんだから。いくらでも教えてあげるよ」
「やった! ありがとう先輩!!」
思わず先輩の手を取って喜んでしまう。
あ、先輩、ちょっと照れてる。
いやさ、一度、駄目になるとその教科って手がつけられなくなるじゃん?
俺の今の余裕のない状況で、他の手段でフォローできないわけよ。
そんな俺がトップレベルの先輩に教えてもらえるなんて運が良すぎる!
「それじゃ・・・部活動もあるから、ここにいる時間の半分、1時間くらいなら」
「十分です! お願いします、飯塚先輩先生!」
「やめてよ、先輩先生って」
「神様先生のほうが良い!?」
「いつも通り先輩でいいよ・・・」
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