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ドキドキの中学1年生
005
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改めて攻略ノートに計画したとおりに動くことにした。
まずは身体作り。
朝は5時起床。
すぐにストレッチして軽くジョグで土手を走る。
1時間で帰ってきて、筋トレを30分。
その後シャワーを浴びて7時に食事。
これで運動部をやってる連中と同じくらいは動いてるはずだ。
放課後は18時まで自由時間。
部活はこの時間に当てる。
当面はAR値の調査に費やすことになりそうだ。
夕食後、風呂が混むのでギリギリの20時50分くらいに入る。
そこまでは学校の課題をやる。
実は桜坂中学って難関高校も視野に入る進学校だ。
だから課題の量も多い。毎日1時間はかかる。
成績トップを目指すのだから課題は当たり前にやる。
で、入浴後の時間。
ここは世界語の勉強を中心に追加の勉強だ。
恐らく朝が早いので夜は眠い。
なので遅くても0時と決めて頑張れるだけやる。
語学みたいに記憶するのが中心の勉強は寝る前がよく覚えられるって言うしね。
正直、リアルの学生時代はこんなに頑張れなかった。
とにかく楽しく過ごしていた俺だ。
ただ四十路まで生きてみると学生時代の後悔というか「ああしておけば」というものを抱くようになった。
え、あるよね、皆? ない? リア充爆発しろ!
とにかく、若ければ若いほど、費やした時間的比重による価値が高まり輝くと思うんだ。
こうやってもう1度、機会が与えられたんだ。やろうってもんだろう。
AR値で悩んでも始まらない。出来ることからやる。
動いたほうが結果もついてくる!!
◇
なんて思っていた自分がいた。
眠ぃ、眠すぎるよ・・・。
世界語の授業が頭に入らねぇ・・・。
早起きなんてすんじゃなかった。
考えてみりゃ睡眠時間5時間だよ。
成長期にすることじゃねぇ。
「・・・さん、京極さん」
身体が揺さぶられて目が覚める。
周りには人が少ない。
げ、昼休みじゃん!?
「九条さん、起こしてくれてありがとう!」
「またお疲れなのですね?」
「メンタル弱くてさぁ、寝付けないんだ」
なんで俺は九条さんに起こされてばっかなんだ。
情けねぇ・・・。
「とにかく食堂に行こう。食べ損ねちまう」
「はい、行きましょう」
もういっそ、九条さんに目覚まし役を頼むか?
いやいやいや、九条さん幼馴染ポジションじゃねぇんだから!
俺の身体を慣らしていくしかねぇ。
お昼は俺がハンバーグ定食、九条さんはパスタを選んだ。
九条さん、寮が和食だからパスタなんだよね?
同じので飽きないのかな。
「ところで、九条さんは弓道部で決まり?」
「はい。ここは設備が良いので練習に身も入りそうです」
「なるほど、良かった」
「京極さんは決めたのですか?」
「俺は具現化研究同好会にしたよ」
「え? そんな部活動あるのですね?」
「同好会だしな。部員も先輩ひとりしかいねぇ」
「ふたりきり、なのですね・・・」
ん? なんか含みない?
あの残念先輩だとラブロマンスの破片もねぇぞ?
そもそも男も女とも分からねぇじゃねぇか。
・・・て、自意識過剰だな、俺。
「あー、ほら。ホントは勉強したかったからさ、帰宅部にしたいんだ。でも活動してるとこにすると迷惑かかるから小さいとこにしたんだ」
「そうなのですね。その・・・夜遅いのは勉強されてるのですか?」
「そうそう。落第しないように必死だよ」
げっ! 言ってから、さっき寝付けないからって言い訳したのと矛盾してることに気付いた。
やばい、考えなしすぎるぞ俺。
・・・九条さんは気付かなかったようで、納得したように何も言わない。
まぁ部屋で俺が何をやっていようが彼女には関係がない。
寝不足だけ気をつけるようにしよう。
一昨日、高天原宣言したからな、俺が勉強漬けでも不自然じゃない。
AR値のことが知られないようにしないとな。
◇
AR値。
正式名称、適合値(Adaptation Ratio)。
人類に宿った魔力が、身体にどれだけ適合しているかを示す値だ。
生まれながらに適合している人類を、新人類と呼ぶ。
この呼称は、魔物へ復讐する力のある者たちへの、復讐者としての期待と畏怖を込めて設定された。
現状、2158年の大惨事の後に生まれた世代は皆、新人類とされている。
何せ、誰もが多かれ少なかれ魔力適合しているからだ。
これは世界に魔力が撒き散らされた後に生まれたせいであると考えられていた。
ただし、魔力を実際に使うには相応の適合を要する。
実際に目に見えるかたちで魔力を発現できるのはAR値15前後から。
殺傷能力があるとされるのは30から。
だから新人類の尖兵として魔物と戦う者には、分かりやすく適合値の高さが求められる。
なお新人類の平均値は11.2らしい。
「ーーって、基本的なことだよな」
昨晩、検索で調べた内容を披露した上で俺は確認する。
「うん、そうだね。だから君、京極君がAR値ゼロって何か間違いじゃないかなって思うんだ」
「ゼロってのは今まで居なかったのか?」
「私が知ってる限りはね」
放課後。
俺は部活動の時間に具現化研究同好会に来ていた。
目的はもちろん、AR値を上げる方法を探すためだ。
「そもそも魔力適合って何だろな」
「わたしは気功、チャクラとか、そういった身体の気脈だと考えてるよ」
「でもそれだと誰でも身体の気脈ってありそうだから、AR値が強い弱いって関係なくね?」
「科学的にヒトの細胞レベルで検証したらしいんだ。ほら、このアメリカの論文。具現化の前後や、旧人類・・・2158年以前の生まれの人と比べて、同じだって」
「本当だ。じゃあ、物理的、電磁的な何かじゃないんだな」
「うん。だから気脈説を推してる」
「うーん・・・それだったらもっと昔からありそうなんだよな」
昨日、検索をした限りではそんな事例は無かった。
明らかに大惨事以降に生まれた能力だった。
「魔力が強い人って、オーラみたいに見えるんだよな?」
「そういう話もあるね。本当かどうかは分からないけど」
具現化する前の状態で魔力が見えるかどうか。
人のオーラが見えるかどうかって話だ。
でもそれはAR値の高い人間にしか分からない。
だからAR値が高い人が口を揃えて「見える」って言ってしまえば検証のしようがない。
そういう意味で魔力の存在は研究されてはいるものの、科学的にあるかどうか分からないと言われている。
「ところで京極君。そのテクスタントで検索をできるようにしてあげよう」
「うん? これって勉強以外のことを検索できないんじゃ?」
「ふっふっふ。私を誰だと思っているのかね」
そういうと先輩は俺のテクスタントをあれこれいじりだす。
管理者権限的な何かを動かして設定をしているようだ。
・・・学校配布の端末でどうやってんだ・・・ハッカーなのかこの人。
設定が終わったのか、端末を手渡してきた。
「はい。これでAR値関連の検索ができるようになるよ」
「ありがとう。そういう制限も入ってんだな」
「うん。色々と規制が多いからね。リア研には解除必須だよ~」
なんかこうやって話をしてみると普通に研究してんだよな。
昨日の先輩は一体、何だったのか・・・。
「あ、京極君。これ、食べる?」
「お菓子か、有り難くいただくよ」
透明なパッケージに入ったチョコ菓子だ。
こういう小分けの入れ物が、プラスチックからこのサラサラの謎材質に置き換わってるんだな。
どうして急にお菓子なのか。マイペース過ぎる。
その後、先輩と魔力についての議論をあれこれと重ねた。
俺が知っている限りのファンタジー設定を挙げてみたけれど、どれもしっくりこない。
だって大抵のファンタジー世界って科学発達してないじゃん?
科学と相性が悪いんだよな。
◇
寮に帰るとすぐに夕食だった。
その後、予定通り課題をこなす。
最後にこっそり風呂に入って部屋に戻る。
さてここからなんだが・・・予想通り眠すぎる。
昼間寝たのにどうして眠ぃんだ・・・。
これ、身体が慣れてくれば眠くなくなんのかな?
もし8時間睡眠必須とかだったらヤバいぞ、何もできん。
ともかく寝てしまう前にやろう・・・世界語。
・・・
◇
・・・
ピピピピ・・・
はっ!
うお、まさかの机に突っ伏して朝を迎えるの図。
駄目だ・・・これじゃ勉強にならねぇ。
ベッドで寝てねぇから体力の回復もイマイチだ。
いつになったら身体が慣れるんだ・・・。
くそ、身体が痛い・・・。
5時かぁ・・・二度寝してぇ・・・。
・・・頑張れ俺、生死がかかってるんだ。
走りに行くぞ!
薄暗い朝の冷たい空気が肺に満ちると目が覚める。
昨日走ったコースと同じ土手コースだ。
このあたりは街路樹が綺麗に並んでおり、河川敷も運動場で使われるくらい広い。
良いよなこの場所。俯瞰できて冷静にもなれる。
ぼーっとしたい時はここに来よう。
見渡してみるとこうして朝から走ったり散歩している人は多くない。
日本の人口も相当減ってるからな。
今、1千万くらいだっけ? 少子化もびっくり。
大惨事の爪痕がこういうところに如実に残っているわけだ。
寮に戻ってシャワーを浴びる。
制服に着替えようとして気付いた。
今日、土曜日じゃん・・・学校休みだよ!
ずっと寝てられんじゃん、パラダイスじゃん!
必死過ぎて忘れてた。
よし、食べたら二度寝だ。
食堂に行くと私服で食べてる人が大半。
一部、制服や体操服の人は部活で学校へ行くんだな。
俺は今日、寝るんだ・・・!
「おはようございます、京極さん」
「んあ、おはよう」
眠そうにやる気がない様子の俺に声をかけてくれるのは九条さん。
ほんと礼儀正しいし良い子だよな。
喋る時は軽い会釈までしてくれるから癒されるよ。
「今日はどうされるのですか?」
「えっと・・・午前中はだらだらするよ。眠いんだ・・・」
「ふふ、いつもお疲れですね」
ほんとだよ、意図せずこうなってんだよ。
体力のつけかた教えてくれよ・・・。
「九条さんは?」
「わたしは散歩します。まだ越してきたばかりで街のこと知りませんから」
「そっか。川岸の土手はもう歩いた? あそこからだと学校と桜がよく見えるよ」
「そうなのですね。行ってみます!」
学校との往復だと反対側って行かないからな。
俺の唯一のお気に入りだ、楽しんでもらいたい。
部屋に戻った俺は予定通り二度寝する。
そうだよ、週1でこうやって寝溜めすれば身体も回復する!
当面はこれだ!
てことでおやすみぃ・・・
◇
・・・
コンコン・・・
ん?
・・・この控え目なノックは九条さんかな?
散歩に行ったはずじゃ?
さっき寝たばかりなのになぁ。
・・・外の日が高い。
もしかして結構、時間が経った?
げ、もう12時じゃん!
「はい、起きてます!」
扉を開けるとやはり九条さんだった。
何度目だよこのパターン。やっぱり目覚ましに立候補してもらおうかな・・・。
「ごめんなさい、起こしてしまいましたか?」
「いや、起きてゴロゴロしてたとこだよ」
嘘です、今さっきまで寝てました。
「えっと、外食、ご一緒しませんか? 土日はお昼がありませんから」
「うん、行こう行こう。ちょっと待って」
上着を羽織って少しだけ髪を整える。
顔を洗って財布代わりのカードを持って準備OK。
リアルでもカード1枚でいけるけど、ほぼ全ての会計を1種類のカードってところまでは来てない。
そういう意味で未来感が溢れるな。
ふたりで並んで歩くとやたら視線を感じる。
これは九条さんだな・・・。
アルビノって日本じゃインパクトあるからなぁ。
ただでさえ色白美少女だ。
この整った顔つきってだけでも惹かれてしまう。
俺がただの中学生なら告白して玉砕コースだな。
入った店はおしゃれパスタ屋さん。
九条さんが午前中に散歩して見つけたそうだ。
うんうん、ひとり飯はレベル高いしね。中学生なら尚更。
「パスタ、好きなんだね」
「はい、実家ではいつも和食でしたから。外では洋食にしたいのです」
でも毎回パスタじゃない? どして?
「中華料理とかは食べない? 麻婆豆腐とか炒飯とか」
「あんな唐辛子漬けの食べ物なんて邪道です!!」
えええ、何この拒絶反応。なんか地雷踏んだ?
というより辛いもの嫌い?
「もしかして、辛いものが?」
「・・・はい、お恥ずかしながら」
「和食ばかり食べていたから唐辛子が苦手?」
「そうなのです・・・ちょっと子供っぽくて嫌なのですが」
てへっ、と舌を出す姿も絵になる。可愛い。
ゲームなら一枚絵のシーンだろこれ。
・・・なんか苦手って聞くと悪戯したくなる。
今日はしないよ? またいずれ・・・
九条さんの気遣いのお陰で、寝て終わるだけだった休日に彩りができた。
ありがとう、さすがヒロイン!
友達宣言して良かった・・・!
◇
こうして休日をだらけることで、俺は生活リズムを何とか整えていった。
2週間も過ぎる頃には夜まで寝落ちすることはなくなった。
問題は、その間に授業で寝てしまった世界語が出遅れてしまったことなんだが・・・。
まずは身体作り。
朝は5時起床。
すぐにストレッチして軽くジョグで土手を走る。
1時間で帰ってきて、筋トレを30分。
その後シャワーを浴びて7時に食事。
これで運動部をやってる連中と同じくらいは動いてるはずだ。
放課後は18時まで自由時間。
部活はこの時間に当てる。
当面はAR値の調査に費やすことになりそうだ。
夕食後、風呂が混むのでギリギリの20時50分くらいに入る。
そこまでは学校の課題をやる。
実は桜坂中学って難関高校も視野に入る進学校だ。
だから課題の量も多い。毎日1時間はかかる。
成績トップを目指すのだから課題は当たり前にやる。
で、入浴後の時間。
ここは世界語の勉強を中心に追加の勉強だ。
恐らく朝が早いので夜は眠い。
なので遅くても0時と決めて頑張れるだけやる。
語学みたいに記憶するのが中心の勉強は寝る前がよく覚えられるって言うしね。
正直、リアルの学生時代はこんなに頑張れなかった。
とにかく楽しく過ごしていた俺だ。
ただ四十路まで生きてみると学生時代の後悔というか「ああしておけば」というものを抱くようになった。
え、あるよね、皆? ない? リア充爆発しろ!
とにかく、若ければ若いほど、費やした時間的比重による価値が高まり輝くと思うんだ。
こうやってもう1度、機会が与えられたんだ。やろうってもんだろう。
AR値で悩んでも始まらない。出来ることからやる。
動いたほうが結果もついてくる!!
◇
なんて思っていた自分がいた。
眠ぃ、眠すぎるよ・・・。
世界語の授業が頭に入らねぇ・・・。
早起きなんてすんじゃなかった。
考えてみりゃ睡眠時間5時間だよ。
成長期にすることじゃねぇ。
「・・・さん、京極さん」
身体が揺さぶられて目が覚める。
周りには人が少ない。
げ、昼休みじゃん!?
「九条さん、起こしてくれてありがとう!」
「またお疲れなのですね?」
「メンタル弱くてさぁ、寝付けないんだ」
なんで俺は九条さんに起こされてばっかなんだ。
情けねぇ・・・。
「とにかく食堂に行こう。食べ損ねちまう」
「はい、行きましょう」
もういっそ、九条さんに目覚まし役を頼むか?
いやいやいや、九条さん幼馴染ポジションじゃねぇんだから!
俺の身体を慣らしていくしかねぇ。
お昼は俺がハンバーグ定食、九条さんはパスタを選んだ。
九条さん、寮が和食だからパスタなんだよね?
同じので飽きないのかな。
「ところで、九条さんは弓道部で決まり?」
「はい。ここは設備が良いので練習に身も入りそうです」
「なるほど、良かった」
「京極さんは決めたのですか?」
「俺は具現化研究同好会にしたよ」
「え? そんな部活動あるのですね?」
「同好会だしな。部員も先輩ひとりしかいねぇ」
「ふたりきり、なのですね・・・」
ん? なんか含みない?
あの残念先輩だとラブロマンスの破片もねぇぞ?
そもそも男も女とも分からねぇじゃねぇか。
・・・て、自意識過剰だな、俺。
「あー、ほら。ホントは勉強したかったからさ、帰宅部にしたいんだ。でも活動してるとこにすると迷惑かかるから小さいとこにしたんだ」
「そうなのですね。その・・・夜遅いのは勉強されてるのですか?」
「そうそう。落第しないように必死だよ」
げっ! 言ってから、さっき寝付けないからって言い訳したのと矛盾してることに気付いた。
やばい、考えなしすぎるぞ俺。
・・・九条さんは気付かなかったようで、納得したように何も言わない。
まぁ部屋で俺が何をやっていようが彼女には関係がない。
寝不足だけ気をつけるようにしよう。
一昨日、高天原宣言したからな、俺が勉強漬けでも不自然じゃない。
AR値のことが知られないようにしないとな。
◇
AR値。
正式名称、適合値(Adaptation Ratio)。
人類に宿った魔力が、身体にどれだけ適合しているかを示す値だ。
生まれながらに適合している人類を、新人類と呼ぶ。
この呼称は、魔物へ復讐する力のある者たちへの、復讐者としての期待と畏怖を込めて設定された。
現状、2158年の大惨事の後に生まれた世代は皆、新人類とされている。
何せ、誰もが多かれ少なかれ魔力適合しているからだ。
これは世界に魔力が撒き散らされた後に生まれたせいであると考えられていた。
ただし、魔力を実際に使うには相応の適合を要する。
実際に目に見えるかたちで魔力を発現できるのはAR値15前後から。
殺傷能力があるとされるのは30から。
だから新人類の尖兵として魔物と戦う者には、分かりやすく適合値の高さが求められる。
なお新人類の平均値は11.2らしい。
「ーーって、基本的なことだよな」
昨晩、検索で調べた内容を披露した上で俺は確認する。
「うん、そうだね。だから君、京極君がAR値ゼロって何か間違いじゃないかなって思うんだ」
「ゼロってのは今まで居なかったのか?」
「私が知ってる限りはね」
放課後。
俺は部活動の時間に具現化研究同好会に来ていた。
目的はもちろん、AR値を上げる方法を探すためだ。
「そもそも魔力適合って何だろな」
「わたしは気功、チャクラとか、そういった身体の気脈だと考えてるよ」
「でもそれだと誰でも身体の気脈ってありそうだから、AR値が強い弱いって関係なくね?」
「科学的にヒトの細胞レベルで検証したらしいんだ。ほら、このアメリカの論文。具現化の前後や、旧人類・・・2158年以前の生まれの人と比べて、同じだって」
「本当だ。じゃあ、物理的、電磁的な何かじゃないんだな」
「うん。だから気脈説を推してる」
「うーん・・・それだったらもっと昔からありそうなんだよな」
昨日、検索をした限りではそんな事例は無かった。
明らかに大惨事以降に生まれた能力だった。
「魔力が強い人って、オーラみたいに見えるんだよな?」
「そういう話もあるね。本当かどうかは分からないけど」
具現化する前の状態で魔力が見えるかどうか。
人のオーラが見えるかどうかって話だ。
でもそれはAR値の高い人間にしか分からない。
だからAR値が高い人が口を揃えて「見える」って言ってしまえば検証のしようがない。
そういう意味で魔力の存在は研究されてはいるものの、科学的にあるかどうか分からないと言われている。
「ところで京極君。そのテクスタントで検索をできるようにしてあげよう」
「うん? これって勉強以外のことを検索できないんじゃ?」
「ふっふっふ。私を誰だと思っているのかね」
そういうと先輩は俺のテクスタントをあれこれいじりだす。
管理者権限的な何かを動かして設定をしているようだ。
・・・学校配布の端末でどうやってんだ・・・ハッカーなのかこの人。
設定が終わったのか、端末を手渡してきた。
「はい。これでAR値関連の検索ができるようになるよ」
「ありがとう。そういう制限も入ってんだな」
「うん。色々と規制が多いからね。リア研には解除必須だよ~」
なんかこうやって話をしてみると普通に研究してんだよな。
昨日の先輩は一体、何だったのか・・・。
「あ、京極君。これ、食べる?」
「お菓子か、有り難くいただくよ」
透明なパッケージに入ったチョコ菓子だ。
こういう小分けの入れ物が、プラスチックからこのサラサラの謎材質に置き換わってるんだな。
どうして急にお菓子なのか。マイペース過ぎる。
その後、先輩と魔力についての議論をあれこれと重ねた。
俺が知っている限りのファンタジー設定を挙げてみたけれど、どれもしっくりこない。
だって大抵のファンタジー世界って科学発達してないじゃん?
科学と相性が悪いんだよな。
◇
寮に帰るとすぐに夕食だった。
その後、予定通り課題をこなす。
最後にこっそり風呂に入って部屋に戻る。
さてここからなんだが・・・予想通り眠すぎる。
昼間寝たのにどうして眠ぃんだ・・・。
これ、身体が慣れてくれば眠くなくなんのかな?
もし8時間睡眠必須とかだったらヤバいぞ、何もできん。
ともかく寝てしまう前にやろう・・・世界語。
・・・
◇
・・・
ピピピピ・・・
はっ!
うお、まさかの机に突っ伏して朝を迎えるの図。
駄目だ・・・これじゃ勉強にならねぇ。
ベッドで寝てねぇから体力の回復もイマイチだ。
いつになったら身体が慣れるんだ・・・。
くそ、身体が痛い・・・。
5時かぁ・・・二度寝してぇ・・・。
・・・頑張れ俺、生死がかかってるんだ。
走りに行くぞ!
薄暗い朝の冷たい空気が肺に満ちると目が覚める。
昨日走ったコースと同じ土手コースだ。
このあたりは街路樹が綺麗に並んでおり、河川敷も運動場で使われるくらい広い。
良いよなこの場所。俯瞰できて冷静にもなれる。
ぼーっとしたい時はここに来よう。
見渡してみるとこうして朝から走ったり散歩している人は多くない。
日本の人口も相当減ってるからな。
今、1千万くらいだっけ? 少子化もびっくり。
大惨事の爪痕がこういうところに如実に残っているわけだ。
寮に戻ってシャワーを浴びる。
制服に着替えようとして気付いた。
今日、土曜日じゃん・・・学校休みだよ!
ずっと寝てられんじゃん、パラダイスじゃん!
必死過ぎて忘れてた。
よし、食べたら二度寝だ。
食堂に行くと私服で食べてる人が大半。
一部、制服や体操服の人は部活で学校へ行くんだな。
俺は今日、寝るんだ・・・!
「おはようございます、京極さん」
「んあ、おはよう」
眠そうにやる気がない様子の俺に声をかけてくれるのは九条さん。
ほんと礼儀正しいし良い子だよな。
喋る時は軽い会釈までしてくれるから癒されるよ。
「今日はどうされるのですか?」
「えっと・・・午前中はだらだらするよ。眠いんだ・・・」
「ふふ、いつもお疲れですね」
ほんとだよ、意図せずこうなってんだよ。
体力のつけかた教えてくれよ・・・。
「九条さんは?」
「わたしは散歩します。まだ越してきたばかりで街のこと知りませんから」
「そっか。川岸の土手はもう歩いた? あそこからだと学校と桜がよく見えるよ」
「そうなのですね。行ってみます!」
学校との往復だと反対側って行かないからな。
俺の唯一のお気に入りだ、楽しんでもらいたい。
部屋に戻った俺は予定通り二度寝する。
そうだよ、週1でこうやって寝溜めすれば身体も回復する!
当面はこれだ!
てことでおやすみぃ・・・
◇
・・・
コンコン・・・
ん?
・・・この控え目なノックは九条さんかな?
散歩に行ったはずじゃ?
さっき寝たばかりなのになぁ。
・・・外の日が高い。
もしかして結構、時間が経った?
げ、もう12時じゃん!
「はい、起きてます!」
扉を開けるとやはり九条さんだった。
何度目だよこのパターン。やっぱり目覚ましに立候補してもらおうかな・・・。
「ごめんなさい、起こしてしまいましたか?」
「いや、起きてゴロゴロしてたとこだよ」
嘘です、今さっきまで寝てました。
「えっと、外食、ご一緒しませんか? 土日はお昼がありませんから」
「うん、行こう行こう。ちょっと待って」
上着を羽織って少しだけ髪を整える。
顔を洗って財布代わりのカードを持って準備OK。
リアルでもカード1枚でいけるけど、ほぼ全ての会計を1種類のカードってところまでは来てない。
そういう意味で未来感が溢れるな。
ふたりで並んで歩くとやたら視線を感じる。
これは九条さんだな・・・。
アルビノって日本じゃインパクトあるからなぁ。
ただでさえ色白美少女だ。
この整った顔つきってだけでも惹かれてしまう。
俺がただの中学生なら告白して玉砕コースだな。
入った店はおしゃれパスタ屋さん。
九条さんが午前中に散歩して見つけたそうだ。
うんうん、ひとり飯はレベル高いしね。中学生なら尚更。
「パスタ、好きなんだね」
「はい、実家ではいつも和食でしたから。外では洋食にしたいのです」
でも毎回パスタじゃない? どして?
「中華料理とかは食べない? 麻婆豆腐とか炒飯とか」
「あんな唐辛子漬けの食べ物なんて邪道です!!」
えええ、何この拒絶反応。なんか地雷踏んだ?
というより辛いもの嫌い?
「もしかして、辛いものが?」
「・・・はい、お恥ずかしながら」
「和食ばかり食べていたから唐辛子が苦手?」
「そうなのです・・・ちょっと子供っぽくて嫌なのですが」
てへっ、と舌を出す姿も絵になる。可愛い。
ゲームなら一枚絵のシーンだろこれ。
・・・なんか苦手って聞くと悪戯したくなる。
今日はしないよ? またいずれ・・・
九条さんの気遣いのお陰で、寝て終わるだけだった休日に彩りができた。
ありがとう、さすがヒロイン!
友達宣言して良かった・・・!
◇
こうして休日をだらけることで、俺は生活リズムを何とか整えていった。
2週間も過ぎる頃には夜まで寝落ちすることはなくなった。
問題は、その間に授業で寝てしまった世界語が出遅れてしまったことなんだが・・・。
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上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
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