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第4章 解明! 時空の迷路

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 喫茶店での会合の翌日、日曜日の朝。
 俺はまた、高天原学園の最寄り駅、天神駅付近にいた。

 駅周囲にある商店街は学園生の御用達。
 土日のみ外出できるため、皆、遊びに買い物に繰り出すのである。


「この界隈じゃビクス・ドールなんて手に入らないのよね」

「そりゃま、新東京の都心でもないしな。外国製のものだと尚更だろ」

「わかる? 日本の市松人形みたいなものよ。あの時代の文化が詰め込まれてるの!」

「ああね、お化け屋敷とか怪談みたいなやつ。夕日が差し込む部屋の片隅にあるとヤバいよな」

「わかってないじゃない!」

「いてっ!?」


 揶揄いの代償に往来で思い切り叩かれる俺。
 なんの漫才だよ。
 いやさ、そういう精巧な人形って俺の中じゃ怪談でしか出てこねぇんだって。
 市松人形もフランス人形も、暗い部屋の片隅に置いてあったらホラーだろ!?

 ぷんすこと紅の眉を吊り上げて。
 燃え上がるように輝く紅いウェブがかった髪を振り回して怒るその姿は目立っていた。
 理解しなさいよと俺に命令している深紅ガーネットの瞳が吸い込まれそうなほど輝いている。
 俺はそうした立派な芸術品を前にして驚愕のあまり怖気づいているように見えているのかもしれない。


「いい? ビクスは前近代の礎となった文明開化後のフランス文化を色濃く残してるの! サムライが刀を奉るのと同じなの!」

「ああ、そっちなら理解できる。結弦がやってるから」

「もう、男ってどうしてそうやって異性文化に疎いのかしら。あたしもさくらもソフィアも、刀にも理解があるわよ?」

「そこは男を総合しねぇでくれよ。俺が疎いだけなんだしさ」

「ここでの身近な男、兄貴とリアムも似たようなものだわ。成績が良いだけじゃ心の潤いは満たされないっていうのに」


 俺とリアム君の成績は底辺なんだけどな。
 紅い溶鉱炉に追加燃料をくべるつもりもないので、目の前に迫る彼女に黙って賛同の意を示す。
 それに満足したのか彼女はくるりと身体を翻し往来の流れに乗った。


「あんたが付き合うって言ったんだから、そのぶんはお供しなさいよね」

「へいへい」


 ジャンヌとご一緒するときは悪役お嬢様と執事状態。
 こういうのってラリクエじゃソフィア嬢のイメージだったんだけど、現状、ジャンヌのほうが適任となっている。
 というかソフィア嬢が俺の前ではデレっぱなしだからツンツンのジャンヌがよりそう思えるのか。
 なんでラリクエとここまで性格が違うのかなぁ。


「あたしはね、文化を理解しないと人は理解できないと思ってるの」

「ふむ?」

「例えばこう」

「へ!?」


 ジャンヌがいきなりがばっと俺に抱きついてきた。
 ふわっと髪の匂いが漂い、華奢な身体つきが服越しに伝わる。
 あまりに唐突なため身体が固まった。
 顔の隣にある彼女の髪と同じくらい、顔が赤くなった自覚がある。


「ふふ、照れてる?」

「な、な、何をしてんだよ」

「何って? 親愛の挨拶よ」

「挨拶・・・?」


 ジャンヌは俺から身体を離す。
 悪戯が成功したとでもいわんばかりににやりと浮かべた笑み。
 余所行きのそれとはまったく別の、滅多に見せない子供のような笑みだった。


「ほら、わかる? 今、あたしたちに注目しているのは誰?」

「誰って」


 言われて俺は周囲に目を走らせてみる。
 無関心に通り過ぎる人、往来で何をやってんだと俺たちに目を向ける人。
 思ったよりも目を向けていない人が多かった。
 あれ? 普通、往来で抱き合ってるのなんて見たら気になるだろ?

 もう一周、目を走らせた。
 まだこちらに向けられている視線。
 それらはどれも黒髪で褐色の瞳だった。


「見てるのは日本人、アジア人だけか」

「そう。つまり東洋人には理解できないのよ、こういったハグの挨拶はね」

「なるほど」


 つまり。ジャンヌは軽い挨拶をした。
 俺はそれを勝手に性的な好意として照れた。
 そこに文化の溝があるということだ。


「挨拶ひとつでこれよ。文化は人の情動の結晶、感動の坩堝。そういったものへの理解なしで、人のことはわからないわ」


 今日は彼女が外へ行くというのでご一緒させてもらっている。
 行き先を尋ねるとこの商店街というからウィンドウショッピングでもするのかと思っていた。
 それがこんな高尚な研究が目的とは。


「勉強家なんだな」

「ふふん、尊敬なさい」


 その筋の通った主張に感心する。
 これが口だけで造詣の破片もないならスルーするところなんだけど。
 こいつは諜報員として実際に多文化への理解が凄まじい。
 あのシミュレーターで見たその片鱗はこうやって培われているのだ。
 最初はちょっと揶揄ったけど、地道な努力を絶やさないところが素敵だと思った。


「さすがジャンヌ。地で実践してるのはマジで尊敬する」

「な、なによ、急に褒めても何も出ないわよ」

「俺にはできねぇ芸当だからさ。何かあったら頼りにしてるぜ」


 煽ててみると満更でもないように顔を逸らして頬を少し赤くしている。
 ああね、こういう煽てには弱いのか。
 それとも日本文化を理解しすぎて日本人感覚がわかってるせいか?


「それにしても珍しいわね。あんたがあたしと一緒したいなんて」

「闘神祭で皆、頑張ってたろ? 参加賞ってわけじゃねぇけど少しくらい一緒に過ごそうかなって」

「ふぅん。ま、あんたから言ってくれるなら嬉しいわ。それじゃ、あたしのお勧めを見せてあげる」


 そうして彼女に連れられてたどり着いた先は図書喫茶。
 インテリア的に配置したモニターに表示される本をダウンロードして閲覧しながら寛げる喫茶店だ。
 お洒落な空間でお洒落にドリンクを頼んで。
 奥まった席でふたり座って。

 そして俺は口を噤んだ。
 ジャンヌにお勧めと言われて渡されたテクスタントで表示されたものを前にして。
 目の前に並んでいる物語のタイトルがあまりに自己主張が強いからだ。


「それ、今のお気に入り! あたしの一押しなの! ほら、読んでみてよ」

「お、おう」


 ホログラムに表示されているもの。

 『奉られた公爵様の基礎工事は円卓の騎士にお任せください』
 赤い薔薇の花弁が舞っている表紙に見つめ合う貴族と騎士の美男子がふたり。

 『正義から悪へ落とされた令嬢様をわたくしメイドが彩ります』
 白い鉄砲百合の咲き乱れる丘で抱き合う可憐な令嬢と美少女メイド。

 リアルだったら同人誌界隈で人気だったであろう作品たち。
 この作品たちはどうもそういった時代の復刻版らしい。

 ・・・うん。表紙だけでもうお腹いっぱい。

 目の前でキラキラと目を輝かせて俺が読むのを待っているジャンヌ。
 付き合うと言った手前、無碍にして読まないという選択肢はない。

 ああよ、ラリクエ攻略で薔薇も百合も見たけどさ。
 それって・・・お前らの人と成りをよく理解したからこそ受け入れられてたんだ。
 まったく知らねぇ奴らの薔薇や百合を理解できる気がしねぇ。
 感情移入なんて無理だし、昂ったりもできねぇ。

 だから少なくとも人前で前者を開く勇気はなかった。
 異性ならまだいけるかもと後者のページを捲った。

 いきなり接吻の表現から始まり激しい嬌声をあげながら昂るシーンが綴られてる。
 いやね、これが部屋にひとりで居て準備万端ならいいよ?
 日々、我慢しているリビドーを解放する準備したりしてさ。
 真昼間から素敵な異性ジャンヌの前で感情移入して読める代物じゃねぇ。


「・・・あのさ」

「なによ?」

「これ、人前で読む内容じゃなくね?」

「失礼ね! この店にだって堂々と置いてあるでしょ? そんな卑猥な本じゃないわよ!」

「いや卑猥だろ!?」


 えええええ。
 百合でも薔薇でも、アレがああなるシーンが描かれてりゃ卑猥だと思うんだけど。
 俺の価値基準がこの世界とずれてるのか?
 そもそもこういうの、大っぴらに開きながら会話できるもんなの!?

 いやでもさっきのハグからすると、日本人と外国人の違い・・・?
 それともLGBTに関することはオープンにするって価値観なの?
 駄目だわからねぇ・・・。


「これでポルノだなんて。あんた、どんだけ草食なの?」

「待て待て! ちょっと待て! 俺には刺激が強すぎんだよ!」

「待たないわ。前から思ってたけど、あんたちょっと初心過ぎない?」

「逆だよ! お前が破廉恥なんだよ!」


 静かな喫茶店の奥でぎゃあぎゃあと叫びながら。
 俺は彼女から滾々と薔薇と百合の心得を説かれることとなった。
 心の奥底にある価値観の一部が変わってしまうくらいにその情熱を浴びてしまう。
 あああ・・・俺はノーマルのはずなのに。

 軽い気持ちでご一緒した散歩で、価値観までご一緒されてしまうのだった。


 ◇


 誰かの居室へ行くとインテリアが目に入る。
 その人の趣味を主張するそれは、話題作りにもなるし家主への理解を促進してくれる。
 そうしたもののひとつに組み立てものがある。
 プラモデルとかフィギュアとか、造形もの。
 棚とかにさり気なく置いてあると人の関心を買うやつ。

 口の細いガラス瓶の外側から材料を入れて、瓶の中でクラフトするボトルシップもそうだ。
 ジャンヌとのお出かけ後、俺は寮のリアム君の居室にいた。
 俺の目の前には精巧に造られたミニチュアのガレオン船が飾られていた。


「すげえな、これ。試験勉強した時にはなかったぞ」

「うん、夏休みに手持無沙汰だったから作ったんだ」

「これを!? お前、すげえ器用だな・・・」

「あはは、僕、趣味らしい趣味が他になくてさ」

「これ、十分に自慢できるぜ」


 入口は直径3センチメートルもないのにボトルは20センチメートルくらいの太さ。
 その中に長さ30センチメートルはある帆船の模型があった。
 こういうのって作るのはだいたい帆船だよな。中世の外洋船。
 船体の木材は使い古したような焦げ茶の色付けがしてあってリアリティがある。
 マストに張られた布地もやたら凝っていて、全体の重厚さが目を奪う。
 こうした技巧を、まさかリアム君が身に着けているとは。


「は~・・・立派な趣味だぜ、これ。前に来たときはアリゾナの写真とかあったけどさ、すっかり壁が綺麗になってんじゃん」

「・・・あはは。故郷に未練があるみたいで恥ずかしかったから」

「んなの誰でもそうだろ。俺だって故郷に帰れるなら帰りたいって思うんだし」


 間があったのは照れ隠しか?
 前みたいな変な闇も無さそうだし心配は要らなそうだ。

 ・・・故郷か。
 流れで適当に話を合わせたけど、俺も帰りたいんだよ。
 雪子の顔を見たい。剛も、楓も。もう長いこと見ていない。
 リアム君は天涯孤独になってしまったけれど。
 俺は俺で元の世界に帰れなければ同じく天涯孤独なのだから。


「故郷といえば、武くんのご両親も亡くなったんだよね」

「ああ・・・さくらから聞いたのか」

「うん、勝手にゴメンね? 武くんのこと、知りたいって思ったから無理に聞いちゃった」


 そいや、主人公連中にそういった話を振られた記憶がねぇ。
 こうやって知らぬ間に話が伝わり気を遣われていたのかもしれない。
 正直、この世界の両親の記憶は電話の声とあの葬儀で見た写真だけ。
 寂しさは感じないけれど・・・。
 俺と血の繋がった人がこの世界にいないというのはリアム君と同じ。
 このまま戻れないのかも、と思うと急にぞくりとしてしまう。


「武くん?」

「・・・あ、ああ」


 少し考え込んでしまった。
 心配されたのか、俺の顔を覗き込むようにリアム君の顔が目の前にあった。
 やばい、家族の話題とか踏み込んで欲しくねぇんだから、もっと自然にしねぇと。


「大丈夫だよ、寂しくない。僕と武くんは家族なんだから!」

「え? うわっ!」


 いきなり抱き着いてくるリアム君。
 急だったのでびっくりした。

 さっきジャンヌから挨拶文化を説かれた後なので少し冷静だった。
 同性だということもある。
 そう、これは家族の親愛の挨拶だ。
 部屋に入ってすぐにボトルシップの話をしただけ。
 だから改めての挨拶だ。

 男子なのに良い匂いのする栗毛色の髪。
 トレードマーク的な丸眼鏡が軋むくらいに俺の胸に顔を押し付けている。
 暑苦しいほどに彼の存在を押し付けてくる。
 おいおい、それじゃフレームが曲がっちまうぞ。

 ちょっと過剰な気がするけど彼の親愛表現。
 拒否するのではなく受け入れてやらんと。
 そう思って俺は彼の背中に腕を回して抱き返してやった。
 小柄すぎて壊れそうな華奢な身体。
 俺が触れるとぴくんと跳ねたけれど、少し驚いただけだったようだ。


「んむ~~~♪」


 リアム君はそのままぐりぐりと額を押し付けてくる。
 嬉しそうに気持ちよさそうな声を出しながら。
 ・・・あれ? 挨拶だよね、これ?
 なんか過多な愛情表現に思えるんだけど?

 
「良い匂い~♪ もっとぎゅっとして~」

「あ、ああ・・・」


 注文通り腕に強めの力を入れる。
 きゅう、と音がするほど彼は圧迫されている。
 満足しないのか、彼はさらに顔をぐりぐりと擦り付けてきた。
 そして俺の身体をそのままぐいぐいと後ろへ押し始めた。


「お、おい。ちょ、押すなって・・・」

「ん~~♪」


 狭い部屋でそんなに歩ける場所はない。
 すぐ後ろにはベッド。
 小柄だったリアム君だけど密着した俺を押すぶんには力が十分なわけで。


「あ、うわっ!?」


 そのまま膝裏がベッドに当たり、俺は後ろに倒れた。
 リアム君を抱きしめたまま。
 文字通り押し倒されていた。

 まさか、そのまま話が進まないよね・・・?
 恐る恐るリアム君の様子を確認する。
 俺の胸に顔を押し付けたまま彼は動かなかった。


「おい、リアム」

「んむー♪ ・・・このまま~・・・」

「・・・・・・」


 ぎゅっと俺に抱き着いたまま、甘い声を出している。
 何だかよくわからねぇけど。
 甘えたい気分なのかな?
 押し倒されたのかと思ってちょっと焦ったけれど。
 彼の気の済むまで俺はされるがままにすることにした。

 ・・・。
 しばらく時間が過ぎた。
 抱きしめたままのリアム君の胸が、いつの間にか規則正しく上下している。
 俺の胸の上ですぅすぅと寝息があがっていた。


「すぅ・・・」

「・・・寝たか」


 俺に回していた腕をゆっくりと外し、身体をベッドに横たえてやる。
 安心したように笑みを浮かべていた。

 駄目だなぁ、俺は共感が薄いのかもしれん。
 鈍感じゃねぇって思ってたけど、こういう機敏が理解できん。
 家族に甘えたいってんなら胸くらい貸してやるけどさ。

 寝入った彼を横目に部屋を改めて見渡す。
 前にも同じようなシチュエーションがあったような。
 アリゾナの写真がすっかり無くなってしまって、青白い壁紙が寂しく思える。
 実家に帰って吹っ切れたんだよな。

 彼が寝てしまったし部屋を後にしようかと思い。
 部屋に入ってから抱いていた違和感の正体に気付いた。


「あれ? なんで壁紙が青白いんだ?」


 そう、俺の部屋の壁紙は白。
 レオンの部屋も、結弦の部屋もそうだった。
 どうしてこの部屋のこの壁だけ青白いんだ?

 壁に近付いて触ってみる。
 普通の壁紙だ。

 ・・・上から貼ったのか?
 そう思って壁の端を見ると、少しだけ壁紙が浮いている部分がある。
 ああ、やっぱり。
 この壁紙は上から貼られている。

 ・・・。
 ・・・。
 で。
 それを剝がして下を見る?
 リアム君がこうして隠してるのを?
 ・・・。
 ・・・。

 すっかり寝息を立てているリアム君。
 経験上、すぐに起きそうもない。

 ・・・。
 ・・・。
 いやさ、好奇心ってあるじゃん?
 理性に負けて無くしちゃったら老けちゃうわけだし。
 この、見てくださいって言わんばかりの端っこがぺろってなってるのは誘われてんだよ。
 ちょっと剥がして、すぐ戻せば良いよね?

 俺は端っこへ移動して浮いている壁紙の端を持った。
 ちょろっと見て、すぐに戻す。
 それで終わり。うん。

 手に力を入れると、音もなく壁紙が浮いていく。
 あ、白い壁紙が下にある。やっぱり。
 丸まったりしないよう慎重に横に引っ張る。
 そうして隙間から光が入って裏側が見えるように・・・。
 その先は・・・あれ、ポスター?
 なんだこれ・・・!?


「これは・・・」

「見ちゃったね」

「ぎゃああああぁぁぁぁ!?」


 背後から声をかけられて叫ぶ俺。
 勢い余って壁紙を全力で引っ張ってしまう。
 はらりと落ちたそれがベッドにふわりと折れながら落ちて。
 白い壁紙に貼られたポスターたちがその存在を主張する。

 メイド服姿でキャピッとお盆を持ってポーズをきめる女の子。
 軍服で銃を抱き着くように持っている女の子。
 水着姿で波打ち際を走る女の子。
 どれも紅いウェブがかった髪の、小柄な女の子の姿。


「は? え? これ・・・? え?」

「僕と彼女の秘密なんだ」

「おおお、俺は何も見てねぇぞ!? うん、壁は青白かったんだ!」


 どれもとても見覚えのある、よく見知った彼女。
 むしろさっき説教を受けてきたばかりの彼女。
 彼が慕っているのはよく知っている。

 すべてがジャンヌのコスプレ写真だった!


「武くん・・・」

「リアム、大丈夫だ。俺は口が堅いんだ! 信じろ!」


 にぱっと笑顔を浮かべて迫るリアム君。
 笑顔なのに背景にどす黒いオーラが浮かんで地鳴りが聞こえてくるよう。
 部屋の端なので逃げ場もなく、近づけてくる顔から視線を逸らすのが精一杯だった。


「ほら、そんなに見ちゃって・・・」

「あ、え!? いや、違う、これはそうじゃなくて・・・!」


 視線を逸らした先がポスター。
 目を奪われてるって思ってんの!?
 お前、そんな気迫を放つキャラじゃねえだろ!?


「も~、そんなに興味があるなら言ってくれればよかったのに」

「は?」

「これね、最近ジャンヌと始めた日本文化の研究なんだ!」

「え?」


 彼のイケナイ秘密を覗いてしまったのかと思ったが、そうでもないらしい。
 日本文化の研究・・・?


「恥ずかしいからってジャンヌは隠してくれって言うんだけどさ。こうすると彼女を近くに感じられて良いよね!」

「お、おう・・・」


 ジャンヌェ・・・。
 ポーズとか表情とかノリノリだよ。
 さっきの薔薇百合文化への理解といい、全力でオタク道を突っ走ってるように見えるんだが。
 なんだろう、異文化への理解とか言いながら趣味全開のようにしか思えない。
 しかもこういうのって、女性を性的に見るっていうリアルの価値観のような気が・・・。
 事実、この世界では性を強調したポスターはあまり見ない。
 化粧品でさえ男優が使われているくらいだし。


「ここにさぁ、武くんの写真も加えたいんだよ! 僕のお気に入り!」

「俺の?」

「うん! 想像するシチュエーションの姿って、くるよね?」

「ああ・・・・・・」


 よくコスプレ写真を見ると、メイド服も軍服も精巧に作られている。
 貸衣装って感じでもなくてジャンヌのサイズにぴったり合わせて。
 妄想でこういうCGを作るサービスがあるような気がしないでもないけど。
 俺が見る限り現物・・・本人が着ているように見える。


「ねぇ、武くん。これ、着てみてよ?」


 いつの間にかリアム君の手には執事服。
 え? どっからそれ用意したの?
 そもそもどうして持ってんの?

 もしかして。
 いや、もしかしなくても。
 これって、リアム君の趣味?
 縫物とかいろいろできんの?


「武くんのサイズ、さっき触ってわかったからさ。もうちょっと正確に作れると思うんだ」

「は?」


 さっきの抱きつきで俺のサイズを図ってたって?


「良い身体つきしてるよね~。ずっと触ってたいくらいだよ~」

「・・・・・・」


 待て。
 そもそもさっき寝てたのは何だったんだよ!?
 こうして俺を誘い込む罠か!?
 雲行きが怪しくなってきた。


「ああ、まぁ。今度、時間があるときに写真撮影くらいなら付き合ってやるから」

「ほんと!? なら今からでも良いんだよ!」

「悪い、今日はこの後用事があってだな・・・」

「うん、すぐに終わるから! 1枚撮らせてよ!」

「いやだから行くところが・・・おい待て! ボタンを外すな!」

「あはは、照れ屋さんなんだから! ほら、手伝ってあげるね!」

「ぎゃああ、ズボンをおろすんじゃねぇ!?」


 やたら手際のよいリアム君によって制服をひん剥かれて。
 彼の希望どおり、俺は執事服で撮影されてしまったのだった。

 お願い、身内に広めるの止めて・・・。





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