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第3章 到達! 滴穿の戴天

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 ラリクエ攻略は高天原学園在学中に魔王討伐時のパーティーをどれだけ強化できるかが勝負となる。
 装備然り、道具然り。アトランティス遠征でアイテムやアーティファクトの確保も必須だ。
 RPGの基本である、基礎ステータスとスキルレベルの強化ももちろん必要。
 それらに加え、キズナ・システムによる能力強化が無ければクリアは不可能に近い。
 戦闘時に「回避」や「クリティカル」を天文学的な数値で引けば可能、というレベルだ。

 ラリクエゲームには「ただ強くするためだけに時間を使ってもクリアできない」という縛りがある。
 能力値上昇のために周回をしようとも時間的制約があって限界があるからだ。
 恋愛AVG部分の成果をキズナ・システムでRPGパートに生かすことで、初めてまともに攻略可能になる。
 見事なバランスで作り上げているゲームなのだ。

 その恋愛AVGパートは毎回、好感度の上昇率が違ったり選択肢が異なったりと妙に作りこんでいる。
 つまりAVGのくせに、プレイするたび攻略方法が微妙に変わるのだ。
 だから俺みたいなコアなユーザーからの絶大な支持を集めていた。


 ◇


 ラリクエクリアのための育成は計画的にやる必要がある。
 高天原学園1年次は基礎ステータスやスキルレベルの訓練をする時期。
 加えてAVGパートで固有イベントを発生させて攻略対象の親密度を重点的に上げる。
 そして闘神祭でパートナーと出場し、その訓練の成果を確認する。
 俺の攻略法では闘神祭の戦績がステータスやスキルレベルのバロメーターになる。

 1年生のスサノオの部の結果の目安は準決勝まで進出できればクリア可能。
 闘神祭はAVGパートだから選択肢を選ぶだけの戦闘だったりする。
 そのくせに基礎ステータスやスキルレベルが一定値ないと失敗する仕様だ。

 2年生はフツヌシの部にも出場可能となる。
 そちらはガチの戦闘レベルを要する。
 こっちはAVGパートなのに戦闘画面になるのだ。
 ラリクエが一筋縄ではいかないと言われる所以だ。

 そして求められる能力はかなり高い。
 計画的にステータスを上げないと1年次でトーナメントに勝つのが難しいのだ。
 2年次のフツヌシの部で1回戦でも勝てればクリアレベルに到達していると判断できる。
 そのくらい学生と現役軍人の実力差がある。
 レオンとソフィア嬢攻略時はそれに加えてゲルオクやレベッカに勝たねばならない。
 特にステータスとスキルの強化が欠かせないわけだ。

 で・・・。
 今回、スサノオの部の優勝・準優勝を占めた主人公連中。
 俺の基準からは実力十分ということになる。ひとまず安心。
 レオンもソフィア嬢もフツヌシの部で1回戦は楽勝というくらい圧倒していた。
 サブキャラで5指に入る有能なふたりに、だ。
 これはクリアが十分可能な基礎ステータスやスキルレベルがあると判断できる。
 少なくとも2年次に要されるレベルに達していると思う。
 もちろん親密度を除いて、だが。

 さらに凛花先輩はそのフツヌシの部にて、軍人を一撃で処理していた。
 「狂犬」なんて揶揄されるくらいに強すぎるのは誰が見ても明白だ。
 そりゃね、〇〇ボール並みに身体能力があるってだけでチートだもん。
 他の人にその能力がないってだけで尚更。
 固有能力ネームド・スキルの性能が大当たりすぎんだろ。
 凛花先輩って隠しサブキャラだったんじゃねぇのって思うくらい。
 主人公たちのライバルに位置するゲルオクとレベッカでさえ圧倒したわけだし。

 それを手懐けている聖女様を「白の女神」って言うのは、絶対に裏の意味で取ってんだろ。
 高天原学園の闇をそれだけで感じてしまうほどに。
 俺の知らないラリクエ世界が確かにそこにあった。


 ◇


 以上が俺が闘神祭での主人公連中を考察した結果だ。
 彼らの戦闘レベルは十分に高い。3年生並みに。
 もう俺がどうこうと口を出す必要もないと思う。

 そう考えたからこそ3年次のイベントが発生する可能性は十分にあると判断した。
 これだけ並行して時系列を無視してイベントが起こっているのだから。

 ゆえに俺はアレクサンドラ会長に駄目元で進言をした。
 高天原学園襲撃事件・・・闘神祭で魔物の襲来がある可能性を。
 ソフィア嬢を攻略するときにだけ3年次の闘神祭で発生するからだ。
 ちなみに他の主人公攻略時は12月ごろに発生する。

 安全なはずの高天原学園にいきなり「魔物が襲って来る可能性があります」なんて説明したのだ。
 誰の仕業か、目的が何か、その点はまったくの説明もなしに。
 ゲームのイベントがあるからというだけで、その背景さえ説明せずに。
 ところが会長は「君が言うのだからそうなのだろう」と疑いもせず汲んでくれた。
 言った俺が言うのもなんだが・・・頭、おかしいんじゃない?
 根拠もなしに信じるのなんて荒唐無稽すぎるだろ。
 今日のフツヌシの部へのお礼参りだってそうだ。
 高天原学園生からもブーイングが起きるほどに強引だったわけで。

 それもこれも、アレクサンドラ会長が俺を重用してくれているから実現したことだ。
 俺の意向を慮って動いた結果、現在、こうして迅速に対応ができている。

 有り難いんだけど・・・この騒ぎが終わった後が怖い。
 予言した俺のことを詰問するんじゃなかろうか。
 或いはスパイとして疑うんじゃなかろうか。
 今更ながら、勢い余って自分がやらかしてしまっていることに後悔していた。


 ◇


 現在はその襲撃事件の最中。
 標的の魔物は学園を取り囲むように6体出現した。
 出入口のある3か所はすべて塞がれている。
 戦わずに済む選択肢はない。
 ちなみに6体なのは主人公によって倒すべき敵が異なるからだったりする。


「武、保健室へ行くのだろう?」


 迎撃部隊Fとしての行動中。
 この部隊の通り道にある事務棟前で凛花先輩が声をかけてくれた。
 よし、小鳥遊さんと工藤さんを連れて来るぞ!


「ありがとう、ちょっと待っててくれ」

「私も行く!」


 俺が事務棟へ飛び込むと香がついて来た。
 来るなと言おうと思ったけど。
 女子特有の事情があったりするかもしれないから許した。


「ね、こんなときに不謹慎なんだけど」

「あん?」

「武が活躍する姿を見るのって、私を助けてくれたとき以来」

「あ~、俺、運動部でもねぇしな。動くの見せたのは入学前の朝練くらいか」

「うん。だからさっきの試合、格好良かった!」

「む・・・ありがと」


 さらっと嬉しいことを言ってくれる。
 こんなときなのにどきりとしてしまった。

 でも試合って・・・飛び蹴りだけしかしていないというのに。
 レベッカの槍を掴んだこと? 他に格好良い要素ってあった?
 疑問ばかりで気の利いた返事が思い浮かばない。
 考える間もなく目的地の保健室へ到着した。
 俺は大声で叫びながら駆け込んだ。


「工藤さん、小鳥遊さん! ここは危ねぇから・・・!」


 平時のようにしんと静まり返った空間。
 俺の声が誰もいない部屋に空しく響いた。


「あれ?」

「どうしたの、武!」


 追いついた香が立ち尽くす俺に声をかけた。


「いや、ふたりとも居ねぇんだ」

「ん、目が覚めて帰宅したか、学園祭を楽しんでいたか、ね」

「・・・怖い思いさせちまったしな、帰ってる可能性もあるか。香、ふたりのPEは登録してるか?」

「ううん。あ、恵さんならやってると思う」

「よし、飯塚先輩に聞こう。戻るぞ!」


 香に走るよう促し、俺も続いて保健室を出る。
 後を追おうとしたところで視界の端に人影が見えた。
 香が行った出口方向とは逆。
 誰もいないはずの廊下の先。


「・・・?」


 保健室が空室だった今、この建物には誰もいるはずがない。
 小鳥遊さんたちだったら出口に向かうだろうからすれ違うはず。
 だったらあれは誰だ。非常事態の放送があったのだから誰もいるはずがないのに。
 逃げ遅れか、或いは・・・。


「どうしたの、武! 早く!」

「悪ぃ、先に戻って先輩に小鳥遊さんと工藤さんの安否を確認してもらってくれ」

「うん! 貴方は?」

「人影が見えたんで追う。見間違いならすぐ追いつくから凛花先輩に言って先に進んでくれ!」

「・・・わかった。無理はしないでよ!」


 香が素直に戻ってくれた。
 危なそうなことに付き合わせられねぇからな。
 彼女としても言いたいことがあっただろうに、表情だけで俺の意図を汲んだんだろう。
 相変わらず聡すぎる出来た女だぜ。

 ・・・よし。
 俺は気を入れてダッシュでその影を追った。
 角を曲がった先には中庭に出る扉があった。
 その扉が開放されていることが誰かいたことを裏付ける。
 こんな時にこんな場所に、いったい何があるというんだ。


「誰かいるのか!」


 俺は中庭に出た。
 敢えて声を出しながら。
 凛花先輩にかけてもらっていた疑似化があったので逃げるにしろ戦うにしろどうにかなる。
 防御だけなら数秒間の具現化無敵があるし。


「いるなら出てこい!」


 声をかけながら庭の中へ進む。
 中央に大きな木があり、その反対側から誰かが姿を現した。


「また下民か、鼻がよく利くものだ」

「ゲルオク!」


 こいつ・・・!
 巻き添え食らわないよう逃げたんじゃねぇのかよ!


「てめぇ、謝れって約束を反故にして逃げやがって」

「状況が変わっただけである。貴様は悉く吾輩の邪魔をしてくれる」


 相変わらずの態度。だがこいつの謝罪は確定事項だ!
 逃亡なんて許さねぇ!


「大人しく来てもらうぞ!」

「ふむ。吾輩の用事が済んだら付き合おう」


 人を見下す態度のまま視線は別の場所を見ている。
 俺など眼中にないような仕草。
 こうして近付いても問題にさえならないと言わんばかりに。
 本当に腹が立つ。

 とにかくこいつを逃げないよう捕まえて・・・。
 そうして超然としているゲルオクに掴みかかろうとしたところで立ち止まった。


「・・・レベッカはどこだ?」


 この事態の最中に。
 こんな何もないはずの場所でこいつは何をしている?
 それに相方の女の姿が見えない。
 違和感が大きくなったところで、俺は自らフラグを立てたことを直感した。
 ついドラマのようなセリフを吐いた自分を後悔するほどに。


「ぐがっ!?」

「愚問であったな」

「ふん、殴るのも汚らわしいわ」


 背後から後頭部を強打。
 そんな古典的な方法でも、油断して魔力を流していなかった俺の意識を刈り取るには十分だった。
 視界が暗転して意識が薄れていく。
 くそっ・・・油断した・・・!
 ・・・・・・!
 ・・・


 ◇

■■レオン=アインホルン ’s View■■


「レオンさん、アレクサンドラ会長からの言伝です」


 迎撃部隊Aを率いて対象へ向かっている最中。
 後衛のリーダーを務めるさくらが、先頭を歩く俺のところへ来た。


「うん? 各個撃破だけではないのか」

「追加の指示が届きました。『可及的速やかに事を為し学園広場へ集合せよ』とのことです」

「ふむ。会長の言だ、それにも意義があってのことだろう。よし、急ぐぞ」

「はい!」


 凛とした返事で彼女は後衛の立ち位置に戻っていく。
 先頭を歩く俺は移動速度を上げるようメンバーに指示した。

 迎撃部隊Aは練度の高いメンバーが揃っている。
 部活同士での試合で競り合った者や、スサノオの部で闘った者が多いからだ。
 共闘経験はないので連携は期待できないが個々の役割は十分に果たしてくれるだろう。

 前衛は俺を中心に8人。
 剣士ばかりだが、武器種が同じならば戦術も立てやすい。
 後衛はさくらを中心に12人。弓、銃と水魔法が中心の部隊。
 上級生も多いが互いの実力を知っているので妙な忖度はない。
 理解のある者が多くて助かる。


「レオン、偵察から戻ったぞ。報告のとおりでっかい亀だった」

「亀か。手足は鱗があってサイズは20メートル級か?」

「そう、そのくらいだ」

「ならば竜種で間違いないだろう。地竜の類かもしれない」


 斥候の役を買って出た3年生からの報告。
 与えられた情報だけでなく現況を確認するのは基本だ。
 誤報あるいは確認不足で不利になるなど目も当てられない。

 地面が僅かにずしんと揺れた。
 おそらく、奴はすぐ先にいる。


「よし、ここで戦術の確認をする」


 俺は皆を呼び集めた。
 それぞれが闘う意思をもった表情をしている。頼もしい限りだ。


「対象は地竜と判明した」

「地竜・・・!?」


 ざわ、と一堂に驚愕の表情が浮かぶ。
 『大型の魔物』とだけ聞かされていたが、その対象が地竜とは。
 まだ実戦経験のない1年生数名が狼狽していた。
 さくらも魔物との戦闘は未経験だが、話によれば戦闘経験はあるようだ。


「落ち着いて。敵がわかっていれば対策の立てようもあるわ」


 アトランティス遠征の経験がある3年生が皆に説明を始めた。
 経験的な意味では彼女が全体リーダーに相応しい。
 俺はあくまで戦術の要という意味でのリーダーだ。


「地竜は見た目が大きな亀。動きは重機のように鈍いけど身体が大きいから、頭や尾を振り回すと速い」

「物理的な攻撃だけなの?」

「地属性の魔法も使う。特に気を付けるべきは地槍撃アースグレイブ大震撃クエイク

「魔法見識学でやったやつだ。地槍撃アースグレイブは地面から岩の槍が突出するんだっけ?」

「そう。その槍の数、大きさ、速さ、出現範囲は術者の魔力による。近くなら常に自分の下に出ると思ったほうがいい」

「うえ!? 地竜なんて魔力が相当でしょ!? それじゃ近付けないじゃない!」

「だから最初はデコイが必要。斥候が地竜の攻撃を攪乱して、その隙に近づくの」

「なるほど」

「でも長居するとすぐに槍衾だからね。一撃離脱を意識して」

「はい!」


 先達の説明に皆が自分の動きを想像する。
 戦術の有無が生死を分けるのだから無用な知識など無い。


「遠距離からの攻撃だけでは?」

「甲羅に閉じこもって無効ね。だから接近して甲羅の穴を突く必要がある」

「でも近付こうとすると頭や尻尾の攻撃と岩の槍の嵐、と」

「そう。だから接近と離脱の間にデコイや主力が攻撃されないよう、遠距離攻撃で牽制するわけ」

「なるほど」


 基本戦術はこの説明のとおりで良いだろう。


「それに大震撃クエイクも注意が必要。地面全体を突き崩す魔法だから」

「相当な魔力が必要なはずだ。連発はできまい」

「うん、たまに使う程度。でも使われると全員の態勢が崩れるから危ない」

「全員が行動不能状態スタンに陥る可能性もあるということだな」


 恐らくは不利な状況を覆すために使うのだろう。
 足場が崩れれば誰もが転倒する。接近中は危険極まりない。


「弱点はあるのか?」

「土属性だから風属性の攻撃は効く。でも下手に撃っても相殺されちゃうから」

「強力な魔力防御を突破できる部位や、効果的な場所で撃つ必要があると」

「それに手足や頭、尻尾は竜鱗で相当に硬いから物理的な魔法じゃ傷もつかない」

「やるとするならば直接、体内に叩き込むわけか。風属性の者はいるか?」


 問いかけると手を挙げる風撃部の者が1人。
 短髪黒髪の黒人男性だ。


風圧撃ウィンドブラストなら出力に自信がある」

「名は確かジャミルと言ったか」

「そうだ。だが亀の体内など届かないぞ」

「届けるのだ。手足を切り落とすか、甲羅を割るかでな」

「甲羅を割るなんてできるの?」

「俺ならば一点に集中すれば可能性がある。チャンスが出来たときは惜しみなく撃て」

「了解。タイミングはリーダーのレオンに任せる」


 これで戦術は整った。
 あとは速やかに闘うだけだ。
 俺が片手を挙げて合図をする。
 具現化で武器を生成し、或いはステッキや杖を用意し、それぞれが近場の物陰に隠れた。
 全員が臨戦態勢に入ったことを確認して。

 まさに戦闘を開始しようとしたところで、近くにいたさくらが声をあげた。


「え・・・!?」

「どうした、さくら?」


 戦闘が始まろうとしている。
 試合でもない、本気の命のやり取りが始まるそのときに。


「橘先輩から! 武さんが行方不明で連絡が取れないって!」

「なに!?」


 俺もさくらも、冷静さを欠いたままその討伐を始めることになってしまった。




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