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第1章 歓迎! 戦慄の高天原

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 引き続き、俺と主人公達の舞闘会参加をかけた勝負。
 俺は右拳の骨折と胴を強打して肋骨に少しひびが入っている状態。
 かなり不利だ。呼吸が乱れる。


「武も実戦に慣れてきたろう。そろそろレベルを上げて2対1にしよう」

「だからルール変更やめて!」

「あ~、リタイアか?」

「・・・はい、やります」


 この凛花先輩とのやり取りもお馴染みになったね!
 こうなったらもう後先考えねぇぞ、本気でやってやんよ!


「それでしたら、わたくしと結弦様で参りましょう」

「武さん、よろしくお願いします」

「ああよろしく。でもお前らは参加させねぇからな!」


 ソフィア嬢。華麗な金髪縦ロールのお嬢様。
 所作は上品ながらも黄玉トパーズの吊り目はいつも強く彼女の主張を伝えてくる。
 自らの想いを実現するための躊躇しない姿が美しい。
 だが今回、俺はそれを正面から否定しなければならない。
 刃渡り1メートルの銀に輝くエストック。
 あれを受け流すように。

 後ろに立つのは結弦。
 濡羽烏の艶のある長い黒髪から覗く褐色の瞳。
 典型的な日本人なのに、はっと息を飲んでしまうような美形。
 ゆっくりと一歩一歩、彼は目標に向けて歩む。
 この挑戦もそのひとつだというのか。
 俺は彼の壁とならねばならない。

 このふたり組も板について来たようだ。
 嬉しいけども今回ばかりは裏目だよ、くそ。
 連携なんてされないうちに勝負をつけてやる。


「始め!」

「え?」


 だから早すぎんだよ!!
 まだあいつら並んでもねぇだろ!


「は!」

「どわっ!? まだ準備してねぇって!!」


 ソフィア嬢の先制が迫る。
 高速突きを気合いで避けた。
 あんな長い剣、当たったら文字通り串刺しだよ。恐ろしい!
 背筋冷えるぅ!

 後ろに控えている結弦は攻めてこないのか。
 居合はカウンターだろうから先にソフィア嬢だ。


「武様! 足手纏いでないことをお示しいたしますわ!」

「強いの知ってるって言ってんじゃん!!」


 速い速い!!
 踏み込んでからのエストックの突きが止まらない。
 俺は必死でその切先を避ける。


「でしたら参加をお認めくださいませ!」

「駄目だって! おわったった!!」


 さくらの弓の後だから何とか視認できるレベル。
 擬似化で強化されてなけりゃ当たってんぞ!
 つーか、無手で突きを避けるの限界!


「悪いが速攻で行くぞ!」


 俺はバックステップで距離を取り走り始める。
 純粋な脚力では俺が有利。
 ペースを何とか奪い返す。


「・・・ぐっ!?」


 息を大きく吸い込むとずきりと胸が痛む。
 くそっ、呼吸が激しくなると痛みが・・・!
 やはり長期戦は無理だ。
 防御しながら一気にいこう!

 すう、くら、とん!
 この集魔も慣れて来た。訓練の成果だ!
 気を高めて右腕の防御、左腕の丹撃を準備する。

 ソフィア嬢は距離が空いたのを警戒してか結弦の傍に立っている。
 地面と垂直にエストックを構えているのは騎士の礼のよう。
 ああ、その一枚絵スチルとなる凛々しい姿をゆっくり眺めていたい!
 その切先が俺に向かっていなければな!

 機先を制して連撃をさせない。
 それが今回の戦略。
 俺は横方向に地面を蹴った。
 ソフィア嬢の左側、結弦がちょうど彼女の影になる位置まで。
 これで俺とふたりが一直線に並んでいる。
 ここだ!


「いくぞぉ!!」


 叫んで注意を引く。
 さくらと同じく正面からの突撃だ。
 同じような手だが正面から来られると迎撃するしかない。
 避ければ後ろの結弦に向かうのだから。


「はっ!」


 彼女も読みどおり正面から突いてくる。
 ソフィア嬢は俺が矢以外の物理武器を弾くのを見ていない!
 だから右腕で弾かれると思っていないと読んだ! どうだ!?

 ぎぃぃん!

 よし弾いた!
 ・・・痛ってぇ!! 使うたびに痛いよ右手!


「はい!?」


 無手の俺が武器を弾くと思っていなかったのだろう。
 迫る俺をソフィア嬢は慌てて横に飛んで避けた。
 驚きの表情を浮かべる彼女を横目に俺はそのまま直進する。
 いいぞ、ここまで読みどおり!

 その後ろに控えるのは結弦。
 狙いはお前だ!
 ソフィア嬢で視覚を遮っていたんだ、油断してるだろ!
 居合を制してまずはお前を倒す!


「・・・!」


 結弦は腰を落として居合の構え。
 虎徹に手を掛けこちらを睨む。
 その間合いに飛び込む直前、どくん、と俺の鼓動が跳ねた。

 え?
 隙がない?
 俺の直感が危険だと訴えている。
 待て! こんな勢いあったら止まれねえよ!?
 行くしかねぇだろ!

 右腕に強めに魔力を流し防御を強化する。
 ソフィア嬢の突きを正面から弾いたんだ、何とか耐えられるはず!
 彼の間合いに入った!


「ふっ!」 


 刹那、俺の右側には刃が迫っていた!
 うえ!?
 声など出る暇もない。

 攻撃が見えてから位置を修正するつもりだった、中途半端に構えた右腕。
 抜刀速度を甘く見ていた!
 腕の移動が間に合わねぇ!?
 喰らうしかない! 全身に魔力を・・・!

 がきぃぃぃん!!

 白と黄色の火花が散った。
 身体に右側から強烈な圧力を感じた。
 喰らった・・・!!
 中途半端な状態だからダメージ入ったぞ!?
 くそっ! 飛ばされる前に結弦に一撃を・・・!
 狙いは刀を持つ右腕だ!!


「があぁぁぁぁ!!」


 気合で左腕を振り抜く!
 当たれぇ! 丹撃!!

 ばきぃぃぃん!

 え!?
 金属音!?

 必死に振り抜いた俺の左拳。
 その先には鞘があった。
 あ、これ。虎徹の鞘。


「二の型、双撃!」


 あったね! そんな抜刀技!!
 抜刀のあとに鞘で二段攻撃するやつ!!
 そこまでを認識できた俺は、居合をもろに受けた衝撃で身体ごと吹き飛ばされた。


「ぐうぅぅぅぅ!!」


 飛距離、およそ20メートル。
 全身強化で斬撃を耐えたとはいえ右半身にもろに居合抜きを喰らった。
 飛距離がその威力というのなら、あの居合は相当な力と速度だということだ。

 そんな感心をしていたのは俺が宙に浮いていた一瞬だけ。
 地面に身体がつきゴロゴロと視界ごと回転した時点で意識が飛びそうになった。
 俺はその場で平伏した。


「そこまで! 勝者、ソフィア、結弦!」


 そして凛花先輩の合図が入る。
 ああね、負けだよ!
 意識はあるけど強打したせいで声も出せねぇよ!
 さっきの肋骨ダメージに上乗せだよ! 痛すぎる!


「ぐ、くぅぅぅぅ・・・」


 思わず唸る俺。
 彼らは勝利に喜んでいたようだけど聞き取る余裕もない。
 連戦の疲労と痛みで精神的にもヤバい。


「はぁ、はぁ、はぁ・・・」


 くそくそくそ!
 理不尽すぎる!!
 具現化が使えたって勝てねぇよ!
 こんなんじゃ明日だって勝てるわけねぇ!


「武、リタイアか?」

「はぁ、はぁ、はぁ・・・」


 拒否の言葉が出ない。
 このまま頷きたい。
 どうして本番でもねぇのにこんなに追い詰められんだよ!
 いじめじゃねぇかよ・・・。

 くそ、情けねぇ。
 あいつらも立ち上がれない俺を残念に思ってんだろうな。
 その顔を見上げる気力もねぇ。


「おい武」

「はぁっ、はぁっ・・・」


 凛花先輩の迫る声に反応できねぇよ。
 もう終わりか・・・。

 ・・・。
 ・・・。
 いじめ、か・・・。
 往年の主席は毎年、こういう理不尽さを体験したんだろう。
 衆目の前で痛めつけられて。
 立ち上がれない状態を晒して。
 そのうえで学生生活にも理不尽を重ねられる。

 ・・・。
 こんな屈辱。
 今のこの俺以上の理不尽さを重ねられるんだろ!?
 許せるわけねぇだろ!
 それを甘受しようとしてるお前らが参加するのもな!!


「がぁぁぁぁ! まだやるぞ!」


 俺は気合で立ち上がった。
 視界はぐわんぐわん揺れるし痛みで意識が持っていかれそうだ。
 こんな状態で魔力を循環させるのなんて無理っぽい。
 ・・・だけどやるしかねぇんだよ!


「よし、次で最後だ。ジャンヌ、リアム。前へ」

「・・・満身創痍ね」

「武くん、大丈夫?」

「・・・やる」


 ひとこと。
 俺が言えることはそれだけ。
 自分の状態さえ十分に把握できない。
 ただ、戦って勝たなければという気力だけだった。


「ジャンヌ、リアム。これも勝負だ。相手が手負いだからと油断するな」

「わかってるわよ」

「う、うん」


 返事はするが訝しげなジャンヌ。
 躊躇する様子のリアム君。
 ふたりともこの模擬戦自体に疑念を抱いている。
 だがよ、その疑念は俺の拒否の肯定だ。
 お前ら本当にそれでいいのか。

 ふたりの逡巡で若干の間があった。
 俺は何とか戦える程度の意識を取り戻した。

 脚は何とか動く。
 右腕はもうだめ。
 右半身も痛い。骨がいってるな。
 自由なのは左腕だけだ。
 これ防御したら攻撃できねぇじゃん。
 槍相手にどうやって攻撃すんだよ。
 特攻しろってか?


「始め!」


 凛花先輩の合図が入る。
 くそ、戦術を組み立てる余裕もない。


「タケシ、いくわよ!」


 ジャンヌが斧槍ハルベルトを大上段から振り下ろしてきた。

 お前・・・。
 掛け声をつけて大振りするなんて、油断を通り越して気遣いだろ?
 俺がふらふらだから避けられるかどうか試すって?
 お前、喧嘩慣れしてんだろうよ、どうして様子見してるんだ。
 こんなところでデレんなよ。

 その大きな隙は俺の思考を一気に加速させた。
 さっきの戦いで練った魔力。
 まだ身体でくすぶっていたその残滓を脚に流す。
 脚力が強化され一気に俺は加速した。


「え!?」


 死にそうに見える俺が急に加速するなど夢にも思わなかったのだろう。
 ジャンヌが油断しましたという声をあげた時には、俺は彼女の眼前にいた。


「悪い!」


 斧槍が振り下ろされ地面に刺さると同時。
 俺はジャンヌの胴に左エルボーをめり込ませていた。


「くはっ・・・!?」


 鳩尾にめり込んだその一撃。
 悲鳴にならない声をあげて彼女は後ろへ吹き飛んだ。
 体格差から容易に打撃で押し飛ばせた。


「え! ジャンヌ!?」


 驚きの声をあげたのはリアム君。
 俺の状態が悪かったので余裕と思ったのか、開始直後に十分に距離を取っていなかった。
 銃を担いで背を向けて、ある程度の距離を稼いでいるところ。
 その彼の横にジャンヌが身体をくの字に曲げて飛んできたのだから。


「余所見したら負けだぜ」


 ジャンヌを吹き飛ばした勢いで一気にリアム君へ近付いた俺。
 彼女に気を取られていたリアム君の後ろに立つとその背中に丹撃を入れた。
 大して力の入らない左手で。


「うわあぁぁぁ!!」


 ばちん! とリアム君の身体が跳ねた。
 その丹撃はもう相当に威力が弱かったはずだ。
 ふらふらの俺が残った魔力で放ったものだったから。
 これで俺の手札は品切れ。

 それでもまともに喰らったのだ。
 全身が痺れるような衝撃に晒されたリアム君は悲鳴と共に地面に伏せた。


「そこまで! 勝者、武」

「・・・ったぁ・・・!!」


 やった! 勝った・・・!!

 声にならない声をあげて。
 俺はその場に膝をついて、腕をついて。
 目眩とともに地面に身体を預けた。

 ふたりは、ふたりは守れたよ。
 良かった・・・。




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