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プロローグ
002
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昼休みとなり生徒たちは席から立ち上がった。
ゲームではここから主人公が自由に行動できるようになる。
ラリクエを順当に攻略するなら気になる相手に声をかけるところだ。
例えばさくらさんでレオンを攻略するなら、レオンに話しかけるわけだ。
だから各主人公がどう行動するのかを観察しようと思っていたのだが・・・。
「武様、でしたわね。ちょっとよろしくて?」
「タケシだったっけ?」
「あの・・・僕とお昼を・・・」
「武さん。日本人同士、お昼でも・・・」
・・・。
ソフィア嬢にジャンヌ、リアム君に結弦。
どうして俺のところに一斉に来てんですかね!?
主人公同士、攻略すんじゃねぇのか!?
4人とも同時発声となったため互いに誰あなたと視線で牽制し合っている。
両隣のレオンとさくらさんも驚いていた。
「武、お前、彼らと知り合いか?」
「いや? 初めまして、だが」
「武さん、早速、人たらしですか」
「それ、なんか誤解」
ちょっと待て。予想外過ぎる展開なんだが。
攻略も何もあったもんじゃねぇ。いきなりイレギュラーだよ。
「ええと、ソフィアと、ジャンヌと、リアムと、結弦だったか」
「ええ。お話させていただければ」
「そうよ、よろしく!」
「えっ・・・僕の名前、覚えてくれたんだ」
「そうです。日本人同士ですね」
俺は聖徳太子か!
息を合わせたように同時に喋るんじゃねぇ、聞き取れねぇよ!!
なんかのコントしてんのか!
お前ら少しは周り見て遠慮しろ!
どうすんだよこれ。無かったことにできねぇよな。
もう順に話すしかないか。
「あ~、なんかよく分からんが昼なんだし食堂へ行こうや。食べながら話そう」
「はい、そうしましょう」
「そうだな」
さくらさんとレオンが同調してくれる。
4人とも言いたいことがありそうだったが、大人しく頷いてついてきてくれた。
◇
各自が銘々に食事をトレーに持ち、ぞろぞろと俺の後をついてくる。
1年Aクラスがいきなり大名行列よろしく歩くこの光景。
初日にこれだから当然に衆目の的である。
何の行列だよ、これ。
しかも俺が先頭とかやめてくれ。これじゃ陰から支えるモブ生活できねえじゃねぇかよ。
こいつら主人公連中だけあって見た目が煌びやかで麗しいから俺だけモブ感満載だし。恥ずかしい。
好きなゲームの主人公が勢揃いとか垂涎モノなんだけど今は自重してくれ。
そもそもお前らどうしてモブ以下の俺に興味なんか示してんだ。
お前らのターゲットは互いに周りに居るだろう。
「あそこにしよう」
俺が示したのは円卓。7人座れそうなのでちょうどいい。
俺が座ると左隣にレオン、右隣にさくらさんが座った。
・・・さも当然にいる君たちも俺について来なくて良いんだよ?
ソフィア嬢もジャンヌもリアム君も結弦も、大人しく席についた。
「じゃ、色々話したいことあるだろけど時間もあるし先ずは食べようぜ」
俺がいただきますと挨拶すると各自、目の前の食事に手を付け始めた。
うん、ここのハンバーグ、美味い。
自動調理機でも桜坂中学と比べて味が違うのは機器の性能なのか食材の差なのか。
これではさくらさんのパスタ開発が捗ってしまうじゃないか。
と、下らないことを考えていると6人は互いに牽制し合っているのか目配せだけで会話しない。
何だよこれ、気まずい。
さっきの無神経具合はどこいったんだよ。
当然ゲームではこんな展開などない。
初日の昼休みは攻略対象と話をして知り合うだけのイベントだったはずだ。
もしかして俺の知らないハーレムルートがあったのかもしれないけれど。
それにしたって俺を絡めるのは何か間違っていると思うんだ。
「そんでさ。順にどうして俺んとこ来たのか教えてくれるか? レオンから」
このまま牽制してもらっちゃ休み時間が終わってしまう。
仕方なしに左側のレオンに水を向けてみた。
話せば少しは方向性が見えるかもしれん。
「俺と武とは友だろう。南極で見たお前の生き様は忘れないぞ」
「南極話は長くなんだろ。また今度で。友達だから来たってことな」
そうだよ、南極の話があるんだったよ、こいつと。
あの捨て台詞的なやつを覚えられてるってなんか恥ずかしい。
ゲームではこいつの強力な大剣カリバーンに散々世話になった。
だけど今は弱小ギャンブラーのイメージしかねぇ。
とにかく、こいつは俺が友達だから一緒に来た、ということだな。
それでいいから他5人とも仲良くなってくれ。
「次。ソフィアはどうなんだ?」
「あら、わたくしですの? 改めまして皆様。ソフィア=クロフォードですわ」
食事中のため着席のまま軽く礼をするソフィア嬢。
それでも様になっているあたり生粋のお嬢様なのだと思わせてくれる。
ゲームでも言動から行動からお嬢様の体を崩さなかった素敵なキャラだ。
「武様。わたくしは貴方の魔力に興味がありましてよ」
「魔力?」
「ええ。他の皆様もそうではなくて?」
え? 何の話?
おいおい、なんか全員が頷いてるぞ?
「ちょっと待て。魔力なんて見えんのか?」
「見えましてよ。武様のお身体から立ち上る魔力」
えええ。
確かにAR値92だけどさ。
俺自身は見えないし感じないのにそんなオーラ纏ってるの? 俺?
いや待て。
AR値がある程度高い奴は魔力がオーラみたいに見えるって話があったな。
こいつら全員、AR値50超だから見えてても不思議じゃない。
だけどそれならどうして俺は見えねぇんだよ!?
なんかまだ知らねぇ設定でもあんのか!?
「正直、俺は自分の魔力なんて見えねぇから分からん」
「そうなのですわね。でも見える方には見えましてよ」
「ん、ソフィアの理由は気になったからと。分かった」
よく分からんが長くなりそうなので切り上げる。
その言葉にさえゆったりとにこやかに頷く姿に少し目を奪われる。
絵になるってのはこういう所作なんだな。
「次、ジャンヌはどうだ?」
「あたしも同じ。見たことない魔力が漂ってるのよ、気になるじゃない!」
じろり、とジャンヌが俺を見定めるように視線を這わせる。
まぁ逆の立場で考えればひとりだけオーラ纏ってたら何だこいつってなるよな。
ふと俺は思った。
「すまん、逆に質問なんだが。お前ら、お互いの魔力って見えたりしねぇのか?」
「え? 見えないわ?」
「見えませんわね」
他4人を見ても皆、首を横に振っている。
「そっか、俺だけ見えんのか」
え、なにそれ。
AR値60くらいじゃ見えるほど放出されないって?
確かにゲームで日常的にオーラを纏っているシーンなんてなかったから多分そうなんだろけどさ。
戦闘時、技のカットインではしっかりオーラ描かれてたから見えない訳じゃない。
レオンが南極で魔力を目視していたんだし、ある程度の濃度になれば見えるはずなんだ。
ん? てことは・・・。
「なぁ、さくらさん」
「はい♪」
名前呼びで喜んでるよ!
満面の笑みでにこにこしない!
可愛いんだけどさ!
って、そうじゃなくて。
「もしかして俺が南極から戻ってから、ずっと見えてた?」
「あの。・・・はい」
なにその隠しててごめんなさい的な顔。
まぁずっと話せる状況じゃなかったしな。
そうかぁ・・・俺はオーラを纏っているのかぁ・・・。
それ何てラスボス?
つか卒業式でさくらさんと話をしていた時にもオーラ出てたんだろ?
シュールすぎんだろ。
「てことはリアムも同じってか?」
「僕は・・・あの、お友達になりたいなって」
庇護欲をそそるオドオド系リアム君。
ああね、前知識なくその顔を見れば守ってやりたくなるよ。
女の子じゃないのに上目遣いの破壊力あるし。
でもさ、オーラ纏ったラスボスといきなりお友達になりたいっておかしくね?
「どうして俺?」
「えっと、何となく? そうしたほうがいい気がして」
「どんな気だよ」
俺、そんなフレンドリーな空気は無いはずだけどなぁ。
転移特典でスキルを得たりだとかイケメン化したりだとかも全く無い。
今更ながらひでえ話だよな。ハードすぎる。
唯一、死ぬほど頑張って、というかほぼ死んで手に入れたのがこのAR値だ。
他はリアル学生時代の俺と何ら遜色ないわけだからモテ要素もねぇ。
実際にリアルの高校時代にモテてねぇし。
お前は俺のどこに直感で惹かれたんだ、むしろ教えてくれ。
「まぁあれだ。気になるってだけで、まだお互いに知らねぇだろ? いきなり友達はねぇな」
「え・・・」
敢えて拒否する俺。顔を曇らせるリアム君。
うん、だからその構ってやりたくなる顔は他5人に向けてやってくれ。
牽制したのも興味が俺に向かっちゃ困るからだ。
「次、結弦はどうなんだ?」
「オレは日本人同士、知り合いになりたいと思ったからです。その魔力は気にならないと言うと嘘になりますが」
イケメン男子、結弦。
ちょっと陰がある雰囲気でやはり格好良い。
レオンが陽の格好良さなら結弦は陰の格好良さだ。
で、彼の来た理由は日本人同士だから、か。
Aクラスに他に日本人は俺とさくらさんしか居なかったから気持ちは分かる。
ラスボスオーラ出てても同郷のよしみってやつだな。
「なるほど。俺もやぶさかじゃない」
高天原は全寮制。留学生は半数以上。
日本であって日本じゃない。
だから同郷の知り合いは貴重になる。
「それなら、さくらさんも日本人だから仲良くしてやってよ」
「ええ、そのつもりでした。よろしくお願いします」
「はい、こちらこそよろしくお願いします」
ぺこりと礼儀正しい者同士が頭を下げる。
うんうん、日本人同士だね。
それ以上にこのふたり、物腰はとても丁寧だ。俺の比じゃねぇ。
自分の態度の粗さとかモブ感含め、やっぱり場違い感がある。
「順に聞いてるし、いちおう聞くよ。さくらさんはどうして俺と一緒に?」
「わたしは武さんと添い遂げると決めていますから」
「ごほっ!?」
衝撃で口にした水を咳き込んでしまった・・・。
ちょっと、さくらさん?
確かに卒業の時にそんな感じのこと言われたけどさ。
そもそも今はお友達に戻ったはずでしょ!?
それに今のところ恋人にまで到達してないんじゃない!?
しれっと澄まし顔で「妻です」くらいの爆弾発言をしてますよ。
「さくら様は武様と仲がよろしくて?」
「はい。同じ中学でずっと一緒に過ごしていました」
「なるほど。それで親密なのですね」
「とても良くしていただいております」
含みある発言しないで!
ここで俺との関係を宣言すんのやめてくれ!
今後の話がややこしくなる!
もしかして他5人への牽制!?
皆の視線が痛い。どして?
「それでは武様の1番なのですか?」
「・・・いえ」
あ、さくらさんの表情が曇った。
ソフィア嬢の眉がぴくりと動いたぞ?
そもそもこの話題、今は掘り下げちゃいかんやつだろ。
ほっといたら何を言われるか分かったもんじゃない。
さっさと締めよう。
「そういう俺の個人的な話はまた今度な。皆、答えてくれてありがとう」
しかしどうして俺が取り仕切ってんだろな。
お前らみんな主人公なんだから誰か主体的に動いてくれよ。
「俺は特技なんかねぇから特に話すこともねぇ。で、俺とどうしたいってのはあんのか?」
「あ。ひとつ良い?」
ジャンヌがまたじろりと赤い瞳を俺に向ける。
あまり友好的な雰囲気じゃないけども、その方が今は助かる。
「今度あたしと手合わせして」
「は?」
「お前、強そうだから」
「えええ」
それ俺の知らないオーラのせいですよね!?
俺、特技ないって言ってんじゃねぇか!!
お前スラムとかで喧嘩慣れしてんだろうが!!
ボコボコにされる未来しか見えねぇよ!!
「駄目?」
「考えとく。約束はしねぇ」
「もし勝負するなら俺が立ち会おう」
レオンが名乗り出る。やった! レオン保険ゲット!
ああね、やりすぎないよう審判しててくれ、もしそうなったら。
折角、助かった命を無駄にしたくねぇ。
ジャンヌは血の気が多いからなぁ、怪我なしで終われる気がせん。
今は君たちとの距離感をどうすれば良いか考えられてないから、お茶を濁させてくれ。
「わたくしとはお茶をしていただけませんこと?」
こっちは濁ってないお茶のお誘いだったよ!
「え? 話がしたいって?」
「ええ、貴方に興味がありますから」
素直にそう言われるのは嬉しい。
だけど隣にいるさくらさんから、なんかオーラ出てるの感じるんだよね!?
おかしいな、俺にはオーラが見えないのに!?
「そのときはわたしもご一緒させてください」
「ええ、よろしくてよ。さくら様ともじっくりお話したいですから」
「はい、お願いしますね」
にこやかに、しかし芯では笑っていないさくらさん。
ホホホ、と扇子で口元を隠して笑うソフィア嬢。お前も目が笑ってねぇぞ。
何故にソフィア嬢は悪役令嬢っぽい雰囲気になってんだ。
強気なだけで性格が悪いわけじゃないはずなんだが。
対抗意識を燃やし始めてるさくらさんの方が問題かも。
いつぞやのさくらさんと香の構図に見える。
と、ちょっと剣呑だなと思っていたところにリアム君が発言した。
「あの。僕は一緒に図書館へ行ってほしい」
「なんで俺を誘う会になってんだよ」
「ジャンヌさんとソフィアさんは良くて、僕は駄目?」
またその、眉間に皺を寄せた上目遣い。俺は庇護欲になんか流されねぇぞ。
それ、周りにやってくれ。
「ああもう、分かったよ」
けれど、もうどうでも良くなってきたので承諾してしまった。
どうすれば良いのか方針を立ててないので正解が分からんし。
この際、話すきっかけを作れたと前向きに考えておこう。
「これ、オレも何か約束したほうが良い流れですか?」
「無理に何か言わんでも良いじゃねぇか。こうして知り合いになれば十分だろ」
「ですね。またご飯を一緒に食べたりしましょう。その時にでも」
さすが日本人、結弦は良識派だ!
もしかしてこの中で一番、まともに話せる人かも?
初日からどうして気苦労があるんだよ。
◇
こうしてお昼休みの時間とともに主人公たちとの初顔合わせは終わった。
ひとりずつ追っかけて顔見知りになる手間が無くて良かったといえば良かった。
だけど中学時代に頑張って作った攻略ノートが役に立たなくなる予感しかしねぇ。
こんなんで大丈夫なのか?
ゲームではここから主人公が自由に行動できるようになる。
ラリクエを順当に攻略するなら気になる相手に声をかけるところだ。
例えばさくらさんでレオンを攻略するなら、レオンに話しかけるわけだ。
だから各主人公がどう行動するのかを観察しようと思っていたのだが・・・。
「武様、でしたわね。ちょっとよろしくて?」
「タケシだったっけ?」
「あの・・・僕とお昼を・・・」
「武さん。日本人同士、お昼でも・・・」
・・・。
ソフィア嬢にジャンヌ、リアム君に結弦。
どうして俺のところに一斉に来てんですかね!?
主人公同士、攻略すんじゃねぇのか!?
4人とも同時発声となったため互いに誰あなたと視線で牽制し合っている。
両隣のレオンとさくらさんも驚いていた。
「武、お前、彼らと知り合いか?」
「いや? 初めまして、だが」
「武さん、早速、人たらしですか」
「それ、なんか誤解」
ちょっと待て。予想外過ぎる展開なんだが。
攻略も何もあったもんじゃねぇ。いきなりイレギュラーだよ。
「ええと、ソフィアと、ジャンヌと、リアムと、結弦だったか」
「ええ。お話させていただければ」
「そうよ、よろしく!」
「えっ・・・僕の名前、覚えてくれたんだ」
「そうです。日本人同士ですね」
俺は聖徳太子か!
息を合わせたように同時に喋るんじゃねぇ、聞き取れねぇよ!!
なんかのコントしてんのか!
お前ら少しは周り見て遠慮しろ!
どうすんだよこれ。無かったことにできねぇよな。
もう順に話すしかないか。
「あ~、なんかよく分からんが昼なんだし食堂へ行こうや。食べながら話そう」
「はい、そうしましょう」
「そうだな」
さくらさんとレオンが同調してくれる。
4人とも言いたいことがありそうだったが、大人しく頷いてついてきてくれた。
◇
各自が銘々に食事をトレーに持ち、ぞろぞろと俺の後をついてくる。
1年Aクラスがいきなり大名行列よろしく歩くこの光景。
初日にこれだから当然に衆目の的である。
何の行列だよ、これ。
しかも俺が先頭とかやめてくれ。これじゃ陰から支えるモブ生活できねえじゃねぇかよ。
こいつら主人公連中だけあって見た目が煌びやかで麗しいから俺だけモブ感満載だし。恥ずかしい。
好きなゲームの主人公が勢揃いとか垂涎モノなんだけど今は自重してくれ。
そもそもお前らどうしてモブ以下の俺に興味なんか示してんだ。
お前らのターゲットは互いに周りに居るだろう。
「あそこにしよう」
俺が示したのは円卓。7人座れそうなのでちょうどいい。
俺が座ると左隣にレオン、右隣にさくらさんが座った。
・・・さも当然にいる君たちも俺について来なくて良いんだよ?
ソフィア嬢もジャンヌもリアム君も結弦も、大人しく席についた。
「じゃ、色々話したいことあるだろけど時間もあるし先ずは食べようぜ」
俺がいただきますと挨拶すると各自、目の前の食事に手を付け始めた。
うん、ここのハンバーグ、美味い。
自動調理機でも桜坂中学と比べて味が違うのは機器の性能なのか食材の差なのか。
これではさくらさんのパスタ開発が捗ってしまうじゃないか。
と、下らないことを考えていると6人は互いに牽制し合っているのか目配せだけで会話しない。
何だよこれ、気まずい。
さっきの無神経具合はどこいったんだよ。
当然ゲームではこんな展開などない。
初日の昼休みは攻略対象と話をして知り合うだけのイベントだったはずだ。
もしかして俺の知らないハーレムルートがあったのかもしれないけれど。
それにしたって俺を絡めるのは何か間違っていると思うんだ。
「そんでさ。順にどうして俺んとこ来たのか教えてくれるか? レオンから」
このまま牽制してもらっちゃ休み時間が終わってしまう。
仕方なしに左側のレオンに水を向けてみた。
話せば少しは方向性が見えるかもしれん。
「俺と武とは友だろう。南極で見たお前の生き様は忘れないぞ」
「南極話は長くなんだろ。また今度で。友達だから来たってことな」
そうだよ、南極の話があるんだったよ、こいつと。
あの捨て台詞的なやつを覚えられてるってなんか恥ずかしい。
ゲームではこいつの強力な大剣カリバーンに散々世話になった。
だけど今は弱小ギャンブラーのイメージしかねぇ。
とにかく、こいつは俺が友達だから一緒に来た、ということだな。
それでいいから他5人とも仲良くなってくれ。
「次。ソフィアはどうなんだ?」
「あら、わたくしですの? 改めまして皆様。ソフィア=クロフォードですわ」
食事中のため着席のまま軽く礼をするソフィア嬢。
それでも様になっているあたり生粋のお嬢様なのだと思わせてくれる。
ゲームでも言動から行動からお嬢様の体を崩さなかった素敵なキャラだ。
「武様。わたくしは貴方の魔力に興味がありましてよ」
「魔力?」
「ええ。他の皆様もそうではなくて?」
え? 何の話?
おいおい、なんか全員が頷いてるぞ?
「ちょっと待て。魔力なんて見えんのか?」
「見えましてよ。武様のお身体から立ち上る魔力」
えええ。
確かにAR値92だけどさ。
俺自身は見えないし感じないのにそんなオーラ纏ってるの? 俺?
いや待て。
AR値がある程度高い奴は魔力がオーラみたいに見えるって話があったな。
こいつら全員、AR値50超だから見えてても不思議じゃない。
だけどそれならどうして俺は見えねぇんだよ!?
なんかまだ知らねぇ設定でもあんのか!?
「正直、俺は自分の魔力なんて見えねぇから分からん」
「そうなのですわね。でも見える方には見えましてよ」
「ん、ソフィアの理由は気になったからと。分かった」
よく分からんが長くなりそうなので切り上げる。
その言葉にさえゆったりとにこやかに頷く姿に少し目を奪われる。
絵になるってのはこういう所作なんだな。
「次、ジャンヌはどうだ?」
「あたしも同じ。見たことない魔力が漂ってるのよ、気になるじゃない!」
じろり、とジャンヌが俺を見定めるように視線を這わせる。
まぁ逆の立場で考えればひとりだけオーラ纏ってたら何だこいつってなるよな。
ふと俺は思った。
「すまん、逆に質問なんだが。お前ら、お互いの魔力って見えたりしねぇのか?」
「え? 見えないわ?」
「見えませんわね」
他4人を見ても皆、首を横に振っている。
「そっか、俺だけ見えんのか」
え、なにそれ。
AR値60くらいじゃ見えるほど放出されないって?
確かにゲームで日常的にオーラを纏っているシーンなんてなかったから多分そうなんだろけどさ。
戦闘時、技のカットインではしっかりオーラ描かれてたから見えない訳じゃない。
レオンが南極で魔力を目視していたんだし、ある程度の濃度になれば見えるはずなんだ。
ん? てことは・・・。
「なぁ、さくらさん」
「はい♪」
名前呼びで喜んでるよ!
満面の笑みでにこにこしない!
可愛いんだけどさ!
って、そうじゃなくて。
「もしかして俺が南極から戻ってから、ずっと見えてた?」
「あの。・・・はい」
なにその隠しててごめんなさい的な顔。
まぁずっと話せる状況じゃなかったしな。
そうかぁ・・・俺はオーラを纏っているのかぁ・・・。
それ何てラスボス?
つか卒業式でさくらさんと話をしていた時にもオーラ出てたんだろ?
シュールすぎんだろ。
「てことはリアムも同じってか?」
「僕は・・・あの、お友達になりたいなって」
庇護欲をそそるオドオド系リアム君。
ああね、前知識なくその顔を見れば守ってやりたくなるよ。
女の子じゃないのに上目遣いの破壊力あるし。
でもさ、オーラ纏ったラスボスといきなりお友達になりたいっておかしくね?
「どうして俺?」
「えっと、何となく? そうしたほうがいい気がして」
「どんな気だよ」
俺、そんなフレンドリーな空気は無いはずだけどなぁ。
転移特典でスキルを得たりだとかイケメン化したりだとかも全く無い。
今更ながらひでえ話だよな。ハードすぎる。
唯一、死ぬほど頑張って、というかほぼ死んで手に入れたのがこのAR値だ。
他はリアル学生時代の俺と何ら遜色ないわけだからモテ要素もねぇ。
実際にリアルの高校時代にモテてねぇし。
お前は俺のどこに直感で惹かれたんだ、むしろ教えてくれ。
「まぁあれだ。気になるってだけで、まだお互いに知らねぇだろ? いきなり友達はねぇな」
「え・・・」
敢えて拒否する俺。顔を曇らせるリアム君。
うん、だからその構ってやりたくなる顔は他5人に向けてやってくれ。
牽制したのも興味が俺に向かっちゃ困るからだ。
「次、結弦はどうなんだ?」
「オレは日本人同士、知り合いになりたいと思ったからです。その魔力は気にならないと言うと嘘になりますが」
イケメン男子、結弦。
ちょっと陰がある雰囲気でやはり格好良い。
レオンが陽の格好良さなら結弦は陰の格好良さだ。
で、彼の来た理由は日本人同士だから、か。
Aクラスに他に日本人は俺とさくらさんしか居なかったから気持ちは分かる。
ラスボスオーラ出てても同郷のよしみってやつだな。
「なるほど。俺もやぶさかじゃない」
高天原は全寮制。留学生は半数以上。
日本であって日本じゃない。
だから同郷の知り合いは貴重になる。
「それなら、さくらさんも日本人だから仲良くしてやってよ」
「ええ、そのつもりでした。よろしくお願いします」
「はい、こちらこそよろしくお願いします」
ぺこりと礼儀正しい者同士が頭を下げる。
うんうん、日本人同士だね。
それ以上にこのふたり、物腰はとても丁寧だ。俺の比じゃねぇ。
自分の態度の粗さとかモブ感含め、やっぱり場違い感がある。
「順に聞いてるし、いちおう聞くよ。さくらさんはどうして俺と一緒に?」
「わたしは武さんと添い遂げると決めていますから」
「ごほっ!?」
衝撃で口にした水を咳き込んでしまった・・・。
ちょっと、さくらさん?
確かに卒業の時にそんな感じのこと言われたけどさ。
そもそも今はお友達に戻ったはずでしょ!?
それに今のところ恋人にまで到達してないんじゃない!?
しれっと澄まし顔で「妻です」くらいの爆弾発言をしてますよ。
「さくら様は武様と仲がよろしくて?」
「はい。同じ中学でずっと一緒に過ごしていました」
「なるほど。それで親密なのですね」
「とても良くしていただいております」
含みある発言しないで!
ここで俺との関係を宣言すんのやめてくれ!
今後の話がややこしくなる!
もしかして他5人への牽制!?
皆の視線が痛い。どして?
「それでは武様の1番なのですか?」
「・・・いえ」
あ、さくらさんの表情が曇った。
ソフィア嬢の眉がぴくりと動いたぞ?
そもそもこの話題、今は掘り下げちゃいかんやつだろ。
ほっといたら何を言われるか分かったもんじゃない。
さっさと締めよう。
「そういう俺の個人的な話はまた今度な。皆、答えてくれてありがとう」
しかしどうして俺が取り仕切ってんだろな。
お前らみんな主人公なんだから誰か主体的に動いてくれよ。
「俺は特技なんかねぇから特に話すこともねぇ。で、俺とどうしたいってのはあんのか?」
「あ。ひとつ良い?」
ジャンヌがまたじろりと赤い瞳を俺に向ける。
あまり友好的な雰囲気じゃないけども、その方が今は助かる。
「今度あたしと手合わせして」
「は?」
「お前、強そうだから」
「えええ」
それ俺の知らないオーラのせいですよね!?
俺、特技ないって言ってんじゃねぇか!!
お前スラムとかで喧嘩慣れしてんだろうが!!
ボコボコにされる未来しか見えねぇよ!!
「駄目?」
「考えとく。約束はしねぇ」
「もし勝負するなら俺が立ち会おう」
レオンが名乗り出る。やった! レオン保険ゲット!
ああね、やりすぎないよう審判しててくれ、もしそうなったら。
折角、助かった命を無駄にしたくねぇ。
ジャンヌは血の気が多いからなぁ、怪我なしで終われる気がせん。
今は君たちとの距離感をどうすれば良いか考えられてないから、お茶を濁させてくれ。
「わたくしとはお茶をしていただけませんこと?」
こっちは濁ってないお茶のお誘いだったよ!
「え? 話がしたいって?」
「ええ、貴方に興味がありますから」
素直にそう言われるのは嬉しい。
だけど隣にいるさくらさんから、なんかオーラ出てるの感じるんだよね!?
おかしいな、俺にはオーラが見えないのに!?
「そのときはわたしもご一緒させてください」
「ええ、よろしくてよ。さくら様ともじっくりお話したいですから」
「はい、お願いしますね」
にこやかに、しかし芯では笑っていないさくらさん。
ホホホ、と扇子で口元を隠して笑うソフィア嬢。お前も目が笑ってねぇぞ。
何故にソフィア嬢は悪役令嬢っぽい雰囲気になってんだ。
強気なだけで性格が悪いわけじゃないはずなんだが。
対抗意識を燃やし始めてるさくらさんの方が問題かも。
いつぞやのさくらさんと香の構図に見える。
と、ちょっと剣呑だなと思っていたところにリアム君が発言した。
「あの。僕は一緒に図書館へ行ってほしい」
「なんで俺を誘う会になってんだよ」
「ジャンヌさんとソフィアさんは良くて、僕は駄目?」
またその、眉間に皺を寄せた上目遣い。俺は庇護欲になんか流されねぇぞ。
それ、周りにやってくれ。
「ああもう、分かったよ」
けれど、もうどうでも良くなってきたので承諾してしまった。
どうすれば良いのか方針を立ててないので正解が分からんし。
この際、話すきっかけを作れたと前向きに考えておこう。
「これ、オレも何か約束したほうが良い流れですか?」
「無理に何か言わんでも良いじゃねぇか。こうして知り合いになれば十分だろ」
「ですね。またご飯を一緒に食べたりしましょう。その時にでも」
さすが日本人、結弦は良識派だ!
もしかしてこの中で一番、まともに話せる人かも?
初日からどうして気苦労があるんだよ。
◇
こうしてお昼休みの時間とともに主人公たちとの初顔合わせは終わった。
ひとりずつ追っかけて顔見知りになる手間が無くて良かったといえば良かった。
だけど中学時代に頑張って作った攻略ノートが役に立たなくなる予感しかしねぇ。
こんなんで大丈夫なのか?
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13話目くらいから話が動きますので、気長にお付き合いください!
最初はとっつきにくいかもしれませんが、どうか続きを読んでみてくださいね^^
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