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本編
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画材コーナーに戻ると、ちょうど悠くんが会計を済ませて私を探そうとしているところに合流した。
「ごめん、待たせたな」
「いえ、楽しそうだったので良いのですよ」
画材より自分の方を見て欲しい、という思いは笑顔の下に隠した。
時間が経つのはあっという間で、17時になった街はオレンジ色に染まろうとしている。
家の最寄り駅の電車で降りた私たちは、ベビーカーを押して大荷物を持った女性に抜かされるほど、ゆっくり歩いていた。
一日中一緒に居て会話のネタはとっくの昔に底を尽きているが、沈黙は全く気にならない。
今はただ、繋いだ手の温かさと、温泉での記憶に思いを馳せている。
「……悠くん、私…………帰りたくないです」
ぎゅっと手に力を込めた。
「…………雅、登下校歩けるか?」
「え?は、はい。頑張れば」
「じゃあ、明日7時に迎えに行く。帰りもパソコン室に行くから……一緒に歩こう?」
「はい!歩きます!!えへへ、嬉しいです」
「ふっ…………前田さんには申し訳ないけどな」
どうして前田さん?と思ったが、朝も放課後も一緒に居られるという嬉しさが勝って、すぐに忘れてしまった。
自宅の前に着き、門のインターホンを押して中からロックを解除してもらった。
門までで良い、と言ったのだが、最後まで荷物を持つと悠くんに押し切られ、玄関の前まで来た。
「2日間ありがとうございました。また明日」
「ああ、また明日」
荷物を受け取り、見送ろうとした時ーーー
ーーーーーぐっ、と肩を寄せられ、唇が重なった。
それはすぐに離れ、悠くんは「じゃあな」と照れくさそうに早足で去っていった。
私は呆然と彼を見送ったが、玄関が内側から開いて、お母様がニヤニヤしながら出てきた。
「みやびちゃ~ん?ここ、監視カメラついてるから」
ヒッと思わず声が出た。もしかしなくても見られていたのだろう。
「悠くん、だっけ?キザだなー!あ、おかえり」
順番が違います、とツッコミを入れつつ扉の中に入った。
家に辿り着いた俺は、ポストの中身を取ってから家に入った。
リビングに顔を出すと、母は米を研いでいるところだった。
「ただいま」
「おかえり、楽しかった?」
「ああ、楽しかった……あと、大事な話があるから、ご飯食べた後聞いてくれるか?」
クエスチョンマークを頭の上に浮かべながら母は頷いた。
(俺の話……母さんは聞けるかな……でも、話さない訳にはいかないな)
荷物を部屋に置いた俺は、リビングに戻って調理を手伝った。
今日の鯖の味噌煮は我ながら上手くできたと思う。
母も美味しいと言ってくれた。
さて、ここからが問題だ。
温かいお茶をいれ、テーブルを挟んで向き合った俺は、一呼吸置いて話し始めた。
「母さん、落ち着いて聞いてほしいんだけど、その…………俺に、つがいができた」
母の目が少し揺れた。
「相手は永冨家のお嬢様のαで、昨日の夜つがいの契約をした。もちろん避妊はしてもらった。だから……」
「分かってるよ」
母は1口お茶をこくり、と飲んだが、湯のみを持つ手は震えていた。
「お前が帰って来た時、においが消えてたから。……ごめんね、俺が父さんに捨てられたから一時期やばかったし……気をつかってくれたんだよね?」
俺もお茶を1口飲んだ。
「お前がこの歳でそこまで踏み切ったってことは、“運命”なんでしょ?幸せになれよ」
「うん……ありがとう」
2人で薄く笑い合い、俺はお茶を一気飲みして流し台に湯のみを置き、自分の部屋に戻った。
「ごめん、待たせたな」
「いえ、楽しそうだったので良いのですよ」
画材より自分の方を見て欲しい、という思いは笑顔の下に隠した。
時間が経つのはあっという間で、17時になった街はオレンジ色に染まろうとしている。
家の最寄り駅の電車で降りた私たちは、ベビーカーを押して大荷物を持った女性に抜かされるほど、ゆっくり歩いていた。
一日中一緒に居て会話のネタはとっくの昔に底を尽きているが、沈黙は全く気にならない。
今はただ、繋いだ手の温かさと、温泉での記憶に思いを馳せている。
「……悠くん、私…………帰りたくないです」
ぎゅっと手に力を込めた。
「…………雅、登下校歩けるか?」
「え?は、はい。頑張れば」
「じゃあ、明日7時に迎えに行く。帰りもパソコン室に行くから……一緒に歩こう?」
「はい!歩きます!!えへへ、嬉しいです」
「ふっ…………前田さんには申し訳ないけどな」
どうして前田さん?と思ったが、朝も放課後も一緒に居られるという嬉しさが勝って、すぐに忘れてしまった。
自宅の前に着き、門のインターホンを押して中からロックを解除してもらった。
門までで良い、と言ったのだが、最後まで荷物を持つと悠くんに押し切られ、玄関の前まで来た。
「2日間ありがとうございました。また明日」
「ああ、また明日」
荷物を受け取り、見送ろうとした時ーーー
ーーーーーぐっ、と肩を寄せられ、唇が重なった。
それはすぐに離れ、悠くんは「じゃあな」と照れくさそうに早足で去っていった。
私は呆然と彼を見送ったが、玄関が内側から開いて、お母様がニヤニヤしながら出てきた。
「みやびちゃ~ん?ここ、監視カメラついてるから」
ヒッと思わず声が出た。もしかしなくても見られていたのだろう。
「悠くん、だっけ?キザだなー!あ、おかえり」
順番が違います、とツッコミを入れつつ扉の中に入った。
家に辿り着いた俺は、ポストの中身を取ってから家に入った。
リビングに顔を出すと、母は米を研いでいるところだった。
「ただいま」
「おかえり、楽しかった?」
「ああ、楽しかった……あと、大事な話があるから、ご飯食べた後聞いてくれるか?」
クエスチョンマークを頭の上に浮かべながら母は頷いた。
(俺の話……母さんは聞けるかな……でも、話さない訳にはいかないな)
荷物を部屋に置いた俺は、リビングに戻って調理を手伝った。
今日の鯖の味噌煮は我ながら上手くできたと思う。
母も美味しいと言ってくれた。
さて、ここからが問題だ。
温かいお茶をいれ、テーブルを挟んで向き合った俺は、一呼吸置いて話し始めた。
「母さん、落ち着いて聞いてほしいんだけど、その…………俺に、つがいができた」
母の目が少し揺れた。
「相手は永冨家のお嬢様のαで、昨日の夜つがいの契約をした。もちろん避妊はしてもらった。だから……」
「分かってるよ」
母は1口お茶をこくり、と飲んだが、湯のみを持つ手は震えていた。
「お前が帰って来た時、においが消えてたから。……ごめんね、俺が父さんに捨てられたから一時期やばかったし……気をつかってくれたんだよね?」
俺もお茶を1口飲んだ。
「お前がこの歳でそこまで踏み切ったってことは、“運命”なんでしょ?幸せになれよ」
「うん……ありがとう」
2人で薄く笑い合い、俺はお茶を一気飲みして流し台に湯のみを置き、自分の部屋に戻った。
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