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本編
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しおりを挟む角野部長は一度パソコン室を出た後、「あ、そうだ」と引き返して写真部の皆さんに「自由に撮って回って!帰りはいつも通り!!」と声をかけた。丸山部長も負けじと「作品の続きを~~!」と指示を出していた。
角野部長に引き摺られて、私と丸山部長を含め3人が理事長室前に到着した。
「何でワタクシも……」と零す丸山部長を横目に、角野部長が私に向けて頷いた。
ふぅ、と小さくため息をつき、理事長室の扉をノックした。
「どうぞ」
室中から祖父の畏まった声が聞こえたので、「失礼します」と扉を開けた。
「あれ、雅ちゃん!?どうしたの?」
ガタッと椅子から立ち上がった紳士は、パッと見50代のように見えるが実は62歳だ。
背が高くてグレーのスーツを着こなし、白髪混じりの黒髪をセットしている様はどう見ても品のある老紳士なのだが……
(瑞希はきっとこういうのも好きね)
「おじい様、実は私写真部に入部したのですが、活動拠点のパソコン室を美術部の方も使いたいということで……」
「あ、じゃあ部室作っちゃおうか」
か、軽い!!
「グラウンドの整備とかナイターの設置とか手配しようと思ってたから、ちょうど良かった!芸術科棟に1つ物置部屋あったよね?あそこ改造しちゃおう!何しろ孫娘も入部してることだし~写真部まあまあの人数いるし~」
軽いしデレデレしているが、金銭的に大丈夫なら良しとしよう。
「え、あの物置部屋は美術部が作品置いているのですが……」
と出たのは丸山部長。
「うーん、美術部の部室結構広いし、ちゃんと片付けてね!作品に熱を込めるのも良いけど、踏ん切りをつけるのも大事だよ」
おじい様はニコニコとしているが、ビジネスマンとしての顔が垣間見えた気がする。実際、現在の当主は私の父だが、祖父が当主だった頃は投資やら何やらで永冨家はますます資金を貯え、力をつけた……と言われている。
「すみません……」
大人しく引き下がった丸山部長は、背が低いのがいっそう縮んだような気がするほど小さくなっている。
「その代わり、彫刻刀とかを研磨出来る機械導入するね」
その言葉を聞いた途端、丸山部長の目が輝いた。
「ほ、本当ですか!?ありがとうございます!部員も喜びます!!」
流石おじい様、飴と鞭の使い方を心得ていらっしゃる。
部室の案が整ったら部長に連絡をする、ということで一先ず話が纏まり、私達3人は理事長室から出た。
「では、私はこれで。永冨さん、本当にありがとう!」
中央棟から出た時、丸山部長は私達にニヤニヤしながら声をかけて、芸術科棟へ帰っていった。
……見るからにルンルンしている。お下げが揺れ動いている。
「永冨さん、本当にありがとう。ごめんなさいね、無理やり引き摺って。今日はカメラをいじってみようっていう計画だったから、自由に写真を撮って回ってかまわないわ。18:30になったら勝手に帰って大丈夫よ。カメラの使い方が分からなかったら聞いて。じゃあね」
角野部長は正門の小庭園へ向かっていった。…………角野部長もルンルンしている。
カメラごと荷物をパソコン室に放置しているので、とりあえず芸術科棟に足を運んだ。
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