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本編
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しおりを挟む迷いました……迷いました……とエコーが聞こえるのはきっと気のせい。
青年は足を止め、はぁーーと深いため息をつき、こちらを向いた。
「ほら」と私に手を差し伸べてくださったが、私はびっくりしすぎて彼の顔と手を交互に眺めることしか出来なかった。
「自分で立てるならいいけ「すみませんお願い致します!」
手を引こうとしていたのでペチッと手を乗せた。
(う、わぁ……つがいの手だ。男の人って感じでごつごつしてて大きくて……)
「おい、変な妄想するな」
と眉間にシワを寄せて告げ、グイッと掴んだ手を引っ張った。
「あ、ありがとうございます」
私が立ち上がるのを見るとぱっと手を離した。……何だか寂しい。
「おい、こっち座れ。」
さっさとカウンターに移動した青年……いや、シューズの色からして2年生だから先輩か……はぶっきらぼうにパイプ椅子を1つ出してきて、元からあった椅子の隣に出した。
慌ててカウンターへ向かうと、先輩は奥の椅子を私に示し、自分はパイプ椅子に座った。
私が着席するのを認め、パソコンを操作し始めた。
「このパソコン、古いからすぐ反応しなくなる。もし動かなくなったらすぐ言え。
この画面が基本で、貸出の時はこれ、返却の時はこれをクリックするーーー」
淡々と、でもとても分かりやすく説明を進めてくださったので、仕事自体はすぐに覚えた。
「あとは本の場所だけど、背表紙に3桁番号があるから、この十進分類法のプリントみて。それはやる。…………てことで、説明は以上。さっそくこの5冊戻してこい。実際にした方がすぐ覚えるだろ」
といって先輩はカウンターに置いてあった本を私に押し付けた。
「はいっ、ありがとうございます!」
なんだかんだ丁寧に教えてくださるなんて……と思っているが本心なのか、つがいと少しでも話せて嬉しい……というのが本心なのかは明確には分からない。
ただ、彼がとても優しい人なのはよく分かった。それだけでも大きな収穫だった。
「おい、ニヤニヤするな」
「え、」
「いいから、早く戻してこい。本当に場所分からなかったら聞いていいから」
「はい!」
椅子から立ち上がり、先輩の脇を通るときフワッとまたあの香りがして、幸せな気分になった。
ーーーーやっぱり好きだなぁ、と思った。
つがいだから惹かれる、というのも少なからず原因ではあるのだろうが、彼のちょっとした仕草、気遣い、優しさにすっかり心を奪われたのだ。
気を取り直して、まずは本の場所を探そうと手にある本を見ると、
『骨格のすべて』
『本当は恐ろしい花言葉』
『第二の性がない時代』
『画面の君へ』
『画材カタログ~ベストセレクションXXXX年~』
……なんてラインナップだ。
1人が全部借りたとは言えないが、多分これを借りた人は芸術科の生徒なのだろう。しかし、、、いや、何もない。
一番最初の本の表紙のインパクトが強すぎるというだけである。
とりあえず一番近いのは916だから……………………
カウンターに頬杖をついて、あいつがウロウロと本の場所を探す様子を観察する。
元々金曜日の放課後、俺はこの離館の担当だった。今日から1年生が新しく入るとは言ったが、それが“運命のつがい”の相手だなんて聞いてない。
あいつが扉を開けた時が一番ヤバかった。
α特有の有無を言わせないようなフェロモンに、多分つがいだからだろうか、甘ったるい熟した果実のような貪り付きたくなる匂いが鼻腔に突き刺さった。
そして、あの容姿。ハーフアップにした背中まである黒髪ストレート、つり目がちですっとした鼻筋、淡い唇。
正直に言うと、どストライクで好みだ。
それでも、俺はつがいを持ってはいけない。
熱くなる下腹部を理性で押さえつけて、本能が勝る前に離館から離れようとした。思わず振り払った手のせいで彼女は転んでしまった。
つがいを傷付けるなんて、と絶望しかけたが、理性が効く間に去ろうとした。しかし…………
「図書委員の仕事がまだ分かりません!あと、遅れてすみません!!迷いました!!!」
すんっと本能が収まった。厳密にいうと、軽くなった。
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