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おまけ
佐坂智也と冬のお墓参り
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これはクリスマスが終わり、もうすぐ年も暮れようとしている頃のお話。
智也と未世は夕食の後片付けをしていた。
未世が皿を洗い、智也が皿を受け取ると乾燥機に並べてく。それがいつのまにか二人の間で定着したやり方だった。
元々、料理全般が智也の役割なので、皿洗いも智也の仕事だった。しかし、左腕が使えない間は未世が代わりに行っていた。そのうちに、智也の左腕はよくなっていった。全治三週間と言われていたが、二週間を過ぎる頃にはギプスも取れ、両腕が使えるようになっていった。
しかし、智也の左腕が治っても、未世は料理を手伝うことを申し出た。元々、未世の役割は洗濯である。だから、手伝う必要はない。不思議に思って智也が聞くと、彼女は照れくさそうに「一緒に料理をするのは楽しいから」と言った。その言葉は智也にとってとても嬉しかった。おかげで今では二人で料理をするのが当たり前になっていた。
同時に、後片付けも二人で一緒にするようになっていた。
「ねぇ、智也くん。今度の日曜日空いている?」
突然、未世が皿を洗いながらぽつりとつぶやいた。洗い物ももう少しで終わるという時である。
「え? 空いているけど、どうしたの?」
答えながら智也は皿を受け取り、乾燥機に並べていく。
「うん。ちょっと付き合って欲しいところがあるんだ」
「いいよ。もしかして買い物?」
智也はなんとなく未世の部屋が殺風景なことを思い浮かべた。彼女の私物はかなり少ない。しかし、遠慮しているのか、彼女が何かをほしいと言うことはなかった。おかげでクリスマスにあげるプレゼントも何がいいのかずいぶんと悩んだが、それはまた別の話。
幸い、鈴恵のアドバイスをもとに智也があげたプレゼントを未世は気に入ってくれたようで、とても喜んでいた。それは今も彼女の右手の薬指に付いているシンプルなシルバーのリングだった。
同じものが智也の右手の薬指にも付いている。
「ううん」
未世は首を振ると、口を閉ざした。智也は言葉の続きがないことを不思議に思いながら口を開く。
「じゃあ、どこなの?」
「…………うん」
未世は言いにくそうに頷くとまた口を閉ざす。その姿はなんとなく元気がないようにも見えた。
そういえば、今日は食事中も未世はどこかぼんやりしていたことを智也は思い出した。智也と十和が話しかけてもどこか上の空だったし、大丈夫?と聞いても、困ったように笑っているだけだった。
二度と一人で苦しまない。
そんな二人の約束を未世が簡単に違えるとは思わない。だから、苦しんだり、思い悩んだりしているわけではないと思う。でも、なぜ上の空なのか智也にはわからなかった。
智也はしばらく待っていたが、未世からの言葉がないと代わりに口を開いた。
「もし、言いにくいところだったら言わなくていいよ」
そして、未世を元気づけるために笑顔を浮かべた。
「羽素さんと一緒なら僕はどこでも楽しいし」
智也は自分で言って、自分で照れる。なんとなく沈んでいるように見えた彼女を元気づけたいが為に言ったこととはいえ、歯が浮くような言葉を言うのは恥ずかしかった。
しかし、そんな智也の心境を知らない未世はあっさりと首を振る。
「ありがとう。ただ、そうじゃないの。どう言っていいのかわからなくて」
「?」
智也はよくわからず首をかしげる。未世が何が言いたいのか、全く要領を得なかった。
また、しばらく沈黙が流れる。その間、未世はてきぱきとてを動かし、皿を洗っていた。洗って、智也に渡す。彼女はまるで機械のように淡々とこなしていく。洗うべき皿はどんどんと減っていった。
沈黙に堪えきれなくなって智也が何かを言おうとした時、未世はぽつりとつぶやいた。
「実はお墓参りに行きたいの。うちのお墓参り」
「え?」
予想外の言葉に智也は声を上げる。同時に、さっきの言葉を後悔した。
『羽素さんと一緒なら僕はどこでも楽しいし』
お墓参りにふさわしくない言葉である。軽率だった。
「さっきは楽しいなんて言ってごめん」
智也が頭を下げると、未世はきょとんとした顔で智也を見た。しかし、すぐにその意味に気づいて首を振る。
「え? ああ、ううん。いいの。なかなか言わなかった私が悪いし」
「でも、どうしていきなり?」
未世はそこで最後の皿を洗い終えると、智也に手渡した。智也は乾燥機に入れると、ふたをしてスイッチを押した。ぼーっという乾燥機の音が響く。その音にかき消されそうなくらい小さな声で未世は真っ直ぐ虚空を見つめながら、ぽつりと答える。
「毎年、お盆と年末にお母さんとお墓参りに行ってたの」
それは誰のと智也は聞きたかったが、聞くことはためらわれた。
未世は気にせず言葉を続ける。それは誰かに語るというより、自分で自分の気持ちを確認するような話し方だった。
「私はあまり好きじゃなかったんだけど、お母さんはその行事を欠かしたことはなかった」
智也は黙って未世の言葉を聞く。乾燥機の音が邪魔だったが、スイッチを切ると未世の言葉も止まってしまいそうだったので、ただじっと集中して聞いていた。
「でも、今年のお盆は行けなかったから」
未世の声が辛そうに歪む。その理由を智也は察していた。
脳裏にポニアードが浮かぶ。
智也はポニアードを倒したら未世は普通の生活を送れると思っていた。しかし、現実は違った。さまざまな形でポニアードの影響はまだ生きていた。
料理をする時、未世はまだ肉を切ることができずにいた。
味覚だって本人は大丈夫といっているが、どこまで良くなっているのかわからない。
夜には未世の部屋から、うなされているような声が時々聞こえていた。悪夢を見ているだろうということが容易に想像できた。
未世は未だに苦しんでいる。その事実は智也の心に暗い影を落としていた。
「だから、年末はお墓参りに行った方がいいのかなって思ったの」
そして、未世はぽつりと言葉をつけ足す。
「なんとなくそう思ったの」
そこで未世は、はっと気づいたように智也の方へ振り向く。
「でも、お墓参りなんて迷惑だよね。変なこと言ってごめん。今のは本当に忘れて。大丈夫だから」
慌てた様子で、未世は首を振った。そして、タオルで手を拭くとダイニングから出ようと歩き出す。
「待って」
智也が慌てて呼び止めると、未世は足を止めた。しかし、振り向かなかった。
「一人で行くの?」
「………………」
未世は何も言わない。智也は黙ったままの彼女の背中をじっと見つめた。その身体が小刻みに震えているのがわかる。しかし、未世が何を思い、何を考えているのかわからなかった。だから、尋ねる。
「もしかして、迷ってるの?」
未世は小さく頷く。その動きを見た智也はわざとらしく大きな声をあげた。
「じゃあ、行った方がいいんじゃないかな」
未世ははっと振り向く。ようやく智也の方を見た。その顔は泣いてるような、驚いているような複雑な表情だった。
「どうして?」
「なんで迷っているかはわからない。でも、迷っているってことは、少しでも行きたいからなんでしょ。それなら行った方がいい。行かずに後悔するよりずっといい」
智也の脳裏にはいつか自分が犯した取り返しのつかない後悔が浮かぶ。 未世にそんな思いを抱いて欲しくなかった。
「そっか」
そんな智也の気持ちを理解したのか、未世は頷くと、虚空を見つめながら考え始めた。そして、もう一度頷く。
「うん。じゃあ、行こうかな」
その言葉に智也はほっとしたような笑みを浮かべた。
「もし、よかったら僕も一緒に行っていい?」
「え?どうして?」
「あっ、いや」
智也は慌てて首を振るが、そこでふと覚悟を決めたように頷く。そして、口を開いた。
「それは羽素さんにとって大切な行事なんでしょ?」
「うん」
未世はこくりと頷いた。
「だったら、ぜひ一緒に行きたいと思って」
智也は努めて明るく答えた。しかし、すぐにはっと気づく。
「あっ、でも、嫌ならいいんだ。そのプライベートなことだし、無理に一緒にいかなくていいからね」
そこでようやく未世は「くすっ」と笑みを浮かべた。
「嫌じゃないよ。だから、最初に誘ったんだし」
「よかった」
「じゃあ、日曜日よろしくお願いします」
未世は深々と頭を下げた。
「そんなにかしこまらなくていいよ」
「うん。でも、なんだか嬉しくて」
その言葉は智也にとっても嬉しかった。
こうして、智也は日曜日に未世とお墓参りに行く約束をした。
その日は朝から曇っていた。
冬によくあるうっそうとした曇天だった。
智也と未世が向かった先は、電車とバスを乗り継いで、坂道を上り、ようやく辿り着く山の上の霊園だった。
車があればもう少し行きやすかったのだろうが、高校生にそれは無理な話だった。
結局、十和家を出てから霊園に着くまで二時間は経っていた。
「ずいぶん遠くまできたね」
「うん。昔は車で行ってたんだけど、こんなにかかるとは思ってなかった。ごめんね」
「いや、いいんだ。行きたいって言ったのは僕なんだし」
智也は慌てて首を振る。そして、珍しそうに周囲を見渡した。
霊園は山奥にあるだけあって、自然に囲まれていた。周囲は木々が生い茂る。夏に来たら木もれ日が美しそうだった。しかし、今は冬のため木々に葉は無く、灰色の空と相まってどこか物悲しかった。
大きな霊園だったが、年末という時期のためか、周囲の人影ははまばらだった。
「じゃあ、行こっか」
そう言うと未世は歩き出した。智也は未世についていく。
未世はここに来る途中にあった花屋で買った花束を持っていた。花束には淡色系の落ち着いた色合いの花が束ねられている。
さらに、お墓に向かう途中にあった小屋で、二人は貸し出し用の水桶を借り、線香を購入する。
これで準備は万端だ。
霊園は広く、たくさんのお墓があった。それでも未世は歩き慣れた通学路のように迷うことなく進んでいく。
「ここなの」
未世は一つのお墓の前で足を止めた。智也も立ち止まる。
その墓石には、「羽素家」とあった。
未世はじっとそのお墓を見ている。寂しいような、懐かしむような不思議な表情を浮かべていた。彼女がどんな思いで見ているのか智也にはわからなかった。ただ、なんとなく一人になりたいのかなと思った。
「ちょっと水をくんでくる。水道はどこにあるの?」
「あっ、あっちにあるんだ。一緒に行こっか」
そう言って未世が指差す方を智也が見ると、百メートルぐらい先に蛇口が並んでいた。
「僕が行ってくるよ。羽素さんはゆっくりしてて」
「えっ、でも」
「いいから」
「うん」
未世は頷くと、はにかんだ。
「ありがと」
「どういたしまして」
智也はゆっくりと水道に向かう。周りには同じようにお墓参りをしている家族連れが数組いた。
水をくんで、未世の待つお墓に戻る。ふと見ると彼女は墓石の右側面を見ていた。
なんだろうと首をかしげる。
「お待たせ」
智也が声をかけると未世はびくっと体を震わせた。
「あっ、ありがとう」
その顔にはどこか暗い陰が落ちていた。
「どうしたの?」
智也は水桶を地面に置くと、未世のいるところへ近づいていく。その時、突然未世が叫んだ。
「待って」
「え?」
智也は慌てて足を止める。
「あっ、ごめん」
未世は、はっと気づいて慌てて頭を下げた。そして、墓石を見ると震える声で言った。
「その……見てもいいけど驚かないでね」
智也は眉を寄せる。そして、墓石の横に移動するとそこに書いてある文字を見た。途端に智也は声をあげそうになる。しかし、未世に驚かないでねと言われたのをとっさに思いだし、なんとか声を出すのを耐えた。
いくつか書かれた名前の一番左端にはこう彫られていた。
『未世』
その名前は間違いなく隣にいる少女の名前だった。その下には、没年月日が彫られている。
「えへへへ。実は私は幽霊でしたー」
まるでいたずらがバレた子どものように、未世は笑う。それが精一杯の虚勢であることは一目瞭然だった。
「なんてね。本当はポニアードに襲われた日にお母さんと死んだことになってるの。死んだ方が動きやすいんだって、ポニアードが言ってた。だから、今の私の戸籍とかは昔の私と違うみたい。よくわからないんだけどね」
そう言って、未世はあはははと笑った。聞いているだけで心が締め付けられるような、悲しい笑い声だった。
「だから、お墓に名前があるけど幽霊じゃないから安心して。そんなのわかってると思うけどね」
未世は冗談めかしながら言うと、笑顔を浮かべた。その身体は小刻みに震えている。
そんな未世を見ていられなくなって、智也は彼女を強く抱きしめた。
「えっ、智也くん。何するの?」
未世が驚いたような声を上げる。その言葉ではっと気づいた智也は抱きしめた腕を緩め、未世を離した。そして、頭を下げる。
「ごめん」
「どうしたの?いきなり驚いたよ」
「ごめん」
「なんで謝るの?」
未世はきょとんした表情で智也を見た。
「だって。僕が行こうって言ったから」
智也は未世に言った言葉を後悔していた。行動せずに後悔することは苦しいと思っていた。でも、行動しても後悔することは苦しかった。一度だけでなく、二度も未世を苦しめたことは智也を絶望的な気分にさせていた。
「それがどうしたの?」
「羽素さんをまた傷つけた」
その言葉に未世は「あっ」と気づく。そして、穏やかな微笑みを浮かべた。
「私は大丈夫だよ。ちょっと驚いただけ。名前が彫ってあるとは思ってなかったから。だから、大丈夫」
元気づけるように、未世は智也の手を両手で優しく包んだ。智也の冷えた手がほのかに温まる。
「それに思い出したんだ」
「何を?」
未世はにこりと微笑むと、智也の手を包み込んでいた手を離し、お墓を見た。そして、墓石に彫られた名前を指さす。そこには『未継(みつぐ)』とあった。
「これが私のお父さん。お母さんの大切な人。私はあまり覚えてないんだけどね」
未世は寂しそうに笑うと言葉を続けた。
「お父さんは私が小さいときに病気で亡くなったから記憶にないんだ。だから、よく知らない人のお墓参りをしているみたいで、ここに来るのはあまり好きじゃなかった」
未世は寂しそうに口元を歪める。
「でも、お母さんは毎回張り切ってた。お弁当をつくって、おめかしして。でも、ある時私は行きたくないって駄々をこねたの。小学四年生の時だったかな。その時にお母さんに言われたの、お墓参りは亡くなった大切な人にできる唯一のことだって。だから、大切な未世と一緒に行きたいって」
その思い出を慈しむように未世は息を吐いた。
「だから、今日は智也くんと来れてよかった。私の大切な人と来れてよかったって思ったの」
智也はその言葉をただじっと聞いていた。
「この思い出を思い出せたのはここに来たからだよ」
未世はそう言うと、父親の名前の隣に彫られた名前を指差す。そこには『佳世(かよ)』とあった。
「これがお母さんの名前。いつも笑っていた。どれだけ疲れていても私のことを気にかけてくれた。最後まで私を守ろうとしてくれた。たくさんのものをくれた。私の大切なお母さん」
未世は慈しむように母親の名前を撫でる。
「素敵なお母さんだったんだね」
「うん。智也くんのお母さんはどんな人だったの?」
「僕の?」
智也は一瞬首をかしげるが、すぐに首を振った。
「実は覚えてないんだ。物心ついたときから孤児院にいたし」
「え?」
未世ははっとして、頭を下げる。
「ごめんなさい」
「うんん、謝らないで。気にしていないし」
智也は穏やかな表情を浮かべながら、言葉を続ける。
「僕は羽素さんのお母さんの話が聞けて嬉しかったんだ。その……羽素さんのことがまた一つ知れたから。よかったらまた聞かせて」
言ってから智也はまた歯が浮くようなことを言ったことに気づき、頬が熱くなる。
「う、うん」
それでも未世は申し訳なさそうにうなだれている。
そんな未世を見ていたくなくて、智也は水桶を手に取った。
「じゃあ、これからどうしたらいいの?」
「えっ、あっ、うん」
未世は突然話題が変わったので驚いていたが、すぐに気を取り戻し、口を開いた。
「まずお墓をきれいにするんだ」
「どうやって?」
「智也くんがくんできてくれた水をお墓にかけていくの」
未世はひしゃくをで水をくみ、墓石にかけようとする。しかし、未世の身長では墓石の一番上まで届かなかったので、智也はひしゃくをもつ未世の手を優しく握って、上まで伸ばした。
「ありがとう」
「うん」
次に側面に水をかける。まんべんなくかけ終えると、未世はひしゃくを水桶に入れた。そして、持ってきた白いタオルで汚れを拭き取る。お墓は見た目よりも塵やほこりで汚れているのか、白いタオルはすぐに黒く染まっていった。
「お母さんはこうやって丁寧にお墓をきれいにしてたの」
「そうなんだ」
未世がお墓をきれいにする姿を智也は慈しむように見守っていた。
「智也くん、ここに水をかけて」
未世に声を掛けられ、智也はお墓の裏面に水をかける。未世は「ありがとう」というと、丁寧にタオルでふいていく。まるで大切な人の身体を洗うように、丁寧に未世はお墓を拭いていった。白かったタオルが黒く染まりきる頃には、お墓はすっかりきれいになっていた。
「次に花とお線香を供えるんだけど」
未世は持ってきた花を二つに分け、お墓の花入れに供える。そして、ひしゃくで水を入れた。
ふと智也はその中に、淡いピンク色をしたきれいな花を見つけた。
「この花は何て言うの?」
「ああ、これはスイートピー。お母さんが好きだった花なんだ」
「そっか。きれいだね」
「うん」
未世は笑顔を浮かべる。そして、線香を供えると数珠を取り出した。
「じゃあ、お参りしよっか」
智也も数珠を取り出す。二人とも自分のものは持っていなかったので十和から借りていた。
未世は手を合わせると、目を閉じて頭を少し下げた。
智也も未世に習って、同じように手を合わせる。
『ごめんなさい』
まず、智也は謝った。自分のせいで未世を苦しめたこと、それから母親を死なすことになってしまったことを謝った。許されるためではない。自分自身のけじめのために謝った。その行為を未世は望まないとわかっていたが、智也は謝らずにはいられなかった。
それから、ちらりと横目で彼女を見た。じっと目を閉じて、手を合わす未世が何を思っているのか智也にはわからない。ただ、智也はそんな彼女の幸せを願った。さんざん苦しんできた、絶望的な目に合ってきた少女の未来が幸福で満ちるように願った。
同時に、いつかの誓いを思い出す。
『どうか羽素さんがこれから幸せに過ごせますように――』
祈るように誓ったことを思い出す。
『――そのために僕はこの力を使おう』
そして、智也はあの時人知れず立てた誓いを、未世の家族にもう一度誓うことにした。
何があってもその誓いが風化してしまうことがないようにと願いながら。
どんなことがあっても未世とずっと一緒にいられるようにと祈りながら。
いつか必ず自分にとって一番大切な人を幸せにすると決意しながら。
『僕が羽素さんを絶対に幸せにします。だから、どうか安心して見守っていてください』
それはまるでプロポーズのようだと思って智也は頬が熱くなった。未世に悟られるかと思い、彼女を見たが、幸いまだ目を閉じていた。
それから、智也は未世が目を閉じて、手を合わす姿を慈しむような表情で眺めながら、じっと待っていた。
「うん」
未世は頷くと両目を開け、合掌を解いた。そして、お墓に優しく語りかける。
「また来年のお盆に来るね」
そして、智也の方を見た。
「待っててくれてありがとう。じゃあ、行こっか」
「もういいの?」
「うん。たくさん話せたから」
「それはよかった」
智也は水桶を持つ。そして、二人で並んで歩き始めた。
「何を話していたの?」
「今まであったことを報告したの。それから智也くんのことも紹介した」
未世はそう言うと右手の薬指にはめたシルバーリングを優しくなでる。
「お母さんにとってのお父さんと同じくらい、私にとって大切な人だって」
「そっか」
そんな風に言われて智也は照れた。おそらく頬が赤くなっているだろうと思った。
そんな智也を見て未世はくすっと笑みを浮かべる。
水桶を返し、霊園を出て、山道を降りる。
「そうだ。智也くんは何を話していたの?」
「うん。謝っていたんだ」
智也は正直に話した。次の瞬間、未世はそんなことないよというかと智也は思っていた。しかし、彼女の反応は予想に反して「そっか」と頷いただけだった。そして、ぽつりとつぶやく。
「お母さんは許してくれたと思うよ。悪いことをした時、ごめんなさいって言うと、いつも笑って頭をなでてくれたから」
智也は目を見開く。
許される必要はないと思っていた。許されるべきではないと思っていた。
しかし、その言葉に智也は救われた。いつだってそうだった。いつも未世に救われていた。
「ありがとう」
智也の言葉に未世はただこくりと頷く。
いじらしい反応に智也は未世を抱きしめたくなる。しかし、場所が場所だったので我慢した。代わりに家に帰ったら大切な彼女を思い切り抱きしめようと思った。
「話していたのはそれだけ?」
未世はぽつりと尋ねる。
「え? 何で?」
智也はプロポーズのような誓いを思い浮かべて、動揺する。
大丈夫、気づかれていないはず。
そう思いながら、なんとか平生を装う。
「だって顔が赤かったから」
気づかれていた。
「うっ」
智也は観念した。だから、恥ずかしかったが正直に言うことにした。
「……実は、羽素さんを絶対に幸せにしますって」
未世は目を見開くと立ち止まる。その頬は一瞬で真っ赤になっていた。しかし、その表情はすぐに満面の笑みに変わる。
「楽しみにしてるね」
そう言って未世は、智也の腕に自分の腕を絡ませる。そして、もたれかかるように顔を智也の腕に押し当てた。
「はっ、羽素さん」
智也は突然、しなだれるように並んだ未世に戸惑いの声を上げる。
「ちょっとだけこうして歩こう。それとも、智也くんは嫌?」
「嫌じゃないけど」
「じゃあ、ちょっとだけこうさせて」
「うん」
しばらく二人は黙って歩いた。周囲に人影はいない。
冷たく静謐な空気の中、智也は不思議な気持ちだった。
穏やかで、和やかで、胸の中は温かい。なんとなくこれが幸せなのかなと思った。
「そうだ。ねぇ、羽素だとわからないよ」
突然、未世がぽつりとつぶやく。
「え?」
幸せに浸っていた智也は、つい声を上げた。
「さっき羽素さんを幸せにしますって言ってくれたけど、お母さんも羽素だよ」
「あっ、ああ。でも、さすがにそれはわかるんじゃ」
「わからないよ」
「いや、でも、あの状況で羽素さんっていったら、羽素さんのことだし」
智也は自分で言ってて訳がわからなくなる。そんな智也に未世は頬を膨らませた。
「もう!そうじゃない」
そして、腕に顔を埋めながらはっきりと言った。
「名前で呼んで」
「え?」
「智也くんに名前で呼んでほしいの」
未世は恥ずかしかったのか、今度はか細い声に変わっている。しかし、智也の耳にははっきりと聞こえた。
「……う、うん」
頷くが、智也はなかなか言えなかった。今更、名前で呼ぶのは恥ずかしかった。しかし、ここで呼ばなければ多分自分は一生、未世を幸せにはできないと思った。根拠もない。確証もない。ただ、そんな予感があった。だから、智也は勇気を振り絞って口を開く。
「…………未世さん」
蚊の鳴くような声だった。それでも、未世には届いたようにかすかに頷くのが智也の腕を通して伝わってきた。
「うん。これからは名前で呼んでほしいな」
「ええ」
智也はつい上ずった声を上げる。
「嫌?」
上目遣いで未世は見てきた。
「嫌じゃないけど、その、いきなりは恥ずかしいというか」
どぎまぎしながら智也は答える。
「じゃあ、二人きりの時から始めよう」
未世ははっきりと言う。彼女がそこまで智也にお願いすることは珍しかった。それだけ彼女にとって大切なことだと言うことが智也にも伝わってきた。
だから、恥ずかしいという利己的な理由で、彼女の願いを無下にするわけにはいけないと智也は思った。
「うん。わかった。未世さん」
今度ははっきりとした声で智也はその名前を呼んだ。頬が今までにないくらい熱い。きっと真っ赤だろう。でも、そんなことはどうでも良かった。智也はただ未世に喜んでもらいたかった。
智也が未世の名前を読んですぐに彼女の口から笑い声が漏れた。
「あはははっ…………。なんだかくすぐったいね」
それが照れ隠しだと智也はすぐに気づいた。それでも、未世は嬉しそうに笑っていた。
「そうだね」
智也は頷く。恥ずかしかった。照れていた。でも、未世が喜んでくれたことが何より嬉しかった。
心の中で智也は、幸せだなと思った。もし、未世も同じ気持ちならもっと幸せだなと思った。
こうして智也と未世は二人で並んで歩く。
ずっとこうして歩いていけたらいいと思いながら。
ずっとこうして歩いて行こうと思いながら。
「そうだ」
突然、未世が声を上げた。
「どうしたの?」
「来年も一緒に来てくれますか?」
予想外の言葉に智也は一瞬、たじろぐ。しかし、すぐに笑顔で頷いた。
「うん。喜んで」
「ありがとう。智也くん」
「どういたしまして。未世さん」
名前を呼び合いながら笑い合う。
こうして二人のお墓参りは終わる。
人気のない山道を降りて、人の多い通りに出ると、未世は絡めていた腕をほどいた。
「さすがにここじゃ恥ずかしいしね」
「うん」
智也は頷きながら未世の手を取る。そして、指を絡ませた。
「じゃあ、こうしたらどうかな」
「あっ、……うん、いいね」
未世は頬を染めながら頷く。
「これからどうしよっか」
「うーん。そうだ。この近くに水族館があるんだ」
未世が顔を輝かせながら智也に提案する。こんな風に彼女が自分から言うは珍しかった。
「水族館?」
「うん。前にお母さんと行ってね。アザラシがすごく可愛いかったんだ」
「そうなんだ。実は水族館って行ったことなくて」
「じゃあ、ぜひ行って、いっぱい回ろう。イルカショーも見て、体験コーナーも行って」
「案内してくれる?」
「うん。任せて!」
こうして二人は並んで歩く。
ふと曇天の隙間から、陽射しが差し込んだ。
太陽に照らされた二つの影は並びながら、ほんの少し前に伸びていた。
『佐坂智也と冬のお墓参り』(了)
智也と未世は夕食の後片付けをしていた。
未世が皿を洗い、智也が皿を受け取ると乾燥機に並べてく。それがいつのまにか二人の間で定着したやり方だった。
元々、料理全般が智也の役割なので、皿洗いも智也の仕事だった。しかし、左腕が使えない間は未世が代わりに行っていた。そのうちに、智也の左腕はよくなっていった。全治三週間と言われていたが、二週間を過ぎる頃にはギプスも取れ、両腕が使えるようになっていった。
しかし、智也の左腕が治っても、未世は料理を手伝うことを申し出た。元々、未世の役割は洗濯である。だから、手伝う必要はない。不思議に思って智也が聞くと、彼女は照れくさそうに「一緒に料理をするのは楽しいから」と言った。その言葉は智也にとってとても嬉しかった。おかげで今では二人で料理をするのが当たり前になっていた。
同時に、後片付けも二人で一緒にするようになっていた。
「ねぇ、智也くん。今度の日曜日空いている?」
突然、未世が皿を洗いながらぽつりとつぶやいた。洗い物ももう少しで終わるという時である。
「え? 空いているけど、どうしたの?」
答えながら智也は皿を受け取り、乾燥機に並べていく。
「うん。ちょっと付き合って欲しいところがあるんだ」
「いいよ。もしかして買い物?」
智也はなんとなく未世の部屋が殺風景なことを思い浮かべた。彼女の私物はかなり少ない。しかし、遠慮しているのか、彼女が何かをほしいと言うことはなかった。おかげでクリスマスにあげるプレゼントも何がいいのかずいぶんと悩んだが、それはまた別の話。
幸い、鈴恵のアドバイスをもとに智也があげたプレゼントを未世は気に入ってくれたようで、とても喜んでいた。それは今も彼女の右手の薬指に付いているシンプルなシルバーのリングだった。
同じものが智也の右手の薬指にも付いている。
「ううん」
未世は首を振ると、口を閉ざした。智也は言葉の続きがないことを不思議に思いながら口を開く。
「じゃあ、どこなの?」
「…………うん」
未世は言いにくそうに頷くとまた口を閉ざす。その姿はなんとなく元気がないようにも見えた。
そういえば、今日は食事中も未世はどこかぼんやりしていたことを智也は思い出した。智也と十和が話しかけてもどこか上の空だったし、大丈夫?と聞いても、困ったように笑っているだけだった。
二度と一人で苦しまない。
そんな二人の約束を未世が簡単に違えるとは思わない。だから、苦しんだり、思い悩んだりしているわけではないと思う。でも、なぜ上の空なのか智也にはわからなかった。
智也はしばらく待っていたが、未世からの言葉がないと代わりに口を開いた。
「もし、言いにくいところだったら言わなくていいよ」
そして、未世を元気づけるために笑顔を浮かべた。
「羽素さんと一緒なら僕はどこでも楽しいし」
智也は自分で言って、自分で照れる。なんとなく沈んでいるように見えた彼女を元気づけたいが為に言ったこととはいえ、歯が浮くような言葉を言うのは恥ずかしかった。
しかし、そんな智也の心境を知らない未世はあっさりと首を振る。
「ありがとう。ただ、そうじゃないの。どう言っていいのかわからなくて」
「?」
智也はよくわからず首をかしげる。未世が何が言いたいのか、全く要領を得なかった。
また、しばらく沈黙が流れる。その間、未世はてきぱきとてを動かし、皿を洗っていた。洗って、智也に渡す。彼女はまるで機械のように淡々とこなしていく。洗うべき皿はどんどんと減っていった。
沈黙に堪えきれなくなって智也が何かを言おうとした時、未世はぽつりとつぶやいた。
「実はお墓参りに行きたいの。うちのお墓参り」
「え?」
予想外の言葉に智也は声を上げる。同時に、さっきの言葉を後悔した。
『羽素さんと一緒なら僕はどこでも楽しいし』
お墓参りにふさわしくない言葉である。軽率だった。
「さっきは楽しいなんて言ってごめん」
智也が頭を下げると、未世はきょとんとした顔で智也を見た。しかし、すぐにその意味に気づいて首を振る。
「え? ああ、ううん。いいの。なかなか言わなかった私が悪いし」
「でも、どうしていきなり?」
未世はそこで最後の皿を洗い終えると、智也に手渡した。智也は乾燥機に入れると、ふたをしてスイッチを押した。ぼーっという乾燥機の音が響く。その音にかき消されそうなくらい小さな声で未世は真っ直ぐ虚空を見つめながら、ぽつりと答える。
「毎年、お盆と年末にお母さんとお墓参りに行ってたの」
それは誰のと智也は聞きたかったが、聞くことはためらわれた。
未世は気にせず言葉を続ける。それは誰かに語るというより、自分で自分の気持ちを確認するような話し方だった。
「私はあまり好きじゃなかったんだけど、お母さんはその行事を欠かしたことはなかった」
智也は黙って未世の言葉を聞く。乾燥機の音が邪魔だったが、スイッチを切ると未世の言葉も止まってしまいそうだったので、ただじっと集中して聞いていた。
「でも、今年のお盆は行けなかったから」
未世の声が辛そうに歪む。その理由を智也は察していた。
脳裏にポニアードが浮かぶ。
智也はポニアードを倒したら未世は普通の生活を送れると思っていた。しかし、現実は違った。さまざまな形でポニアードの影響はまだ生きていた。
料理をする時、未世はまだ肉を切ることができずにいた。
味覚だって本人は大丈夫といっているが、どこまで良くなっているのかわからない。
夜には未世の部屋から、うなされているような声が時々聞こえていた。悪夢を見ているだろうということが容易に想像できた。
未世は未だに苦しんでいる。その事実は智也の心に暗い影を落としていた。
「だから、年末はお墓参りに行った方がいいのかなって思ったの」
そして、未世はぽつりと言葉をつけ足す。
「なんとなくそう思ったの」
そこで未世は、はっと気づいたように智也の方へ振り向く。
「でも、お墓参りなんて迷惑だよね。変なこと言ってごめん。今のは本当に忘れて。大丈夫だから」
慌てた様子で、未世は首を振った。そして、タオルで手を拭くとダイニングから出ようと歩き出す。
「待って」
智也が慌てて呼び止めると、未世は足を止めた。しかし、振り向かなかった。
「一人で行くの?」
「………………」
未世は何も言わない。智也は黙ったままの彼女の背中をじっと見つめた。その身体が小刻みに震えているのがわかる。しかし、未世が何を思い、何を考えているのかわからなかった。だから、尋ねる。
「もしかして、迷ってるの?」
未世は小さく頷く。その動きを見た智也はわざとらしく大きな声をあげた。
「じゃあ、行った方がいいんじゃないかな」
未世ははっと振り向く。ようやく智也の方を見た。その顔は泣いてるような、驚いているような複雑な表情だった。
「どうして?」
「なんで迷っているかはわからない。でも、迷っているってことは、少しでも行きたいからなんでしょ。それなら行った方がいい。行かずに後悔するよりずっといい」
智也の脳裏にはいつか自分が犯した取り返しのつかない後悔が浮かぶ。 未世にそんな思いを抱いて欲しくなかった。
「そっか」
そんな智也の気持ちを理解したのか、未世は頷くと、虚空を見つめながら考え始めた。そして、もう一度頷く。
「うん。じゃあ、行こうかな」
その言葉に智也はほっとしたような笑みを浮かべた。
「もし、よかったら僕も一緒に行っていい?」
「え?どうして?」
「あっ、いや」
智也は慌てて首を振るが、そこでふと覚悟を決めたように頷く。そして、口を開いた。
「それは羽素さんにとって大切な行事なんでしょ?」
「うん」
未世はこくりと頷いた。
「だったら、ぜひ一緒に行きたいと思って」
智也は努めて明るく答えた。しかし、すぐにはっと気づく。
「あっ、でも、嫌ならいいんだ。そのプライベートなことだし、無理に一緒にいかなくていいからね」
そこでようやく未世は「くすっ」と笑みを浮かべた。
「嫌じゃないよ。だから、最初に誘ったんだし」
「よかった」
「じゃあ、日曜日よろしくお願いします」
未世は深々と頭を下げた。
「そんなにかしこまらなくていいよ」
「うん。でも、なんだか嬉しくて」
その言葉は智也にとっても嬉しかった。
こうして、智也は日曜日に未世とお墓参りに行く約束をした。
その日は朝から曇っていた。
冬によくあるうっそうとした曇天だった。
智也と未世が向かった先は、電車とバスを乗り継いで、坂道を上り、ようやく辿り着く山の上の霊園だった。
車があればもう少し行きやすかったのだろうが、高校生にそれは無理な話だった。
結局、十和家を出てから霊園に着くまで二時間は経っていた。
「ずいぶん遠くまできたね」
「うん。昔は車で行ってたんだけど、こんなにかかるとは思ってなかった。ごめんね」
「いや、いいんだ。行きたいって言ったのは僕なんだし」
智也は慌てて首を振る。そして、珍しそうに周囲を見渡した。
霊園は山奥にあるだけあって、自然に囲まれていた。周囲は木々が生い茂る。夏に来たら木もれ日が美しそうだった。しかし、今は冬のため木々に葉は無く、灰色の空と相まってどこか物悲しかった。
大きな霊園だったが、年末という時期のためか、周囲の人影ははまばらだった。
「じゃあ、行こっか」
そう言うと未世は歩き出した。智也は未世についていく。
未世はここに来る途中にあった花屋で買った花束を持っていた。花束には淡色系の落ち着いた色合いの花が束ねられている。
さらに、お墓に向かう途中にあった小屋で、二人は貸し出し用の水桶を借り、線香を購入する。
これで準備は万端だ。
霊園は広く、たくさんのお墓があった。それでも未世は歩き慣れた通学路のように迷うことなく進んでいく。
「ここなの」
未世は一つのお墓の前で足を止めた。智也も立ち止まる。
その墓石には、「羽素家」とあった。
未世はじっとそのお墓を見ている。寂しいような、懐かしむような不思議な表情を浮かべていた。彼女がどんな思いで見ているのか智也にはわからなかった。ただ、なんとなく一人になりたいのかなと思った。
「ちょっと水をくんでくる。水道はどこにあるの?」
「あっ、あっちにあるんだ。一緒に行こっか」
そう言って未世が指差す方を智也が見ると、百メートルぐらい先に蛇口が並んでいた。
「僕が行ってくるよ。羽素さんはゆっくりしてて」
「えっ、でも」
「いいから」
「うん」
未世は頷くと、はにかんだ。
「ありがと」
「どういたしまして」
智也はゆっくりと水道に向かう。周りには同じようにお墓参りをしている家族連れが数組いた。
水をくんで、未世の待つお墓に戻る。ふと見ると彼女は墓石の右側面を見ていた。
なんだろうと首をかしげる。
「お待たせ」
智也が声をかけると未世はびくっと体を震わせた。
「あっ、ありがとう」
その顔にはどこか暗い陰が落ちていた。
「どうしたの?」
智也は水桶を地面に置くと、未世のいるところへ近づいていく。その時、突然未世が叫んだ。
「待って」
「え?」
智也は慌てて足を止める。
「あっ、ごめん」
未世は、はっと気づいて慌てて頭を下げた。そして、墓石を見ると震える声で言った。
「その……見てもいいけど驚かないでね」
智也は眉を寄せる。そして、墓石の横に移動するとそこに書いてある文字を見た。途端に智也は声をあげそうになる。しかし、未世に驚かないでねと言われたのをとっさに思いだし、なんとか声を出すのを耐えた。
いくつか書かれた名前の一番左端にはこう彫られていた。
『未世』
その名前は間違いなく隣にいる少女の名前だった。その下には、没年月日が彫られている。
「えへへへ。実は私は幽霊でしたー」
まるでいたずらがバレた子どものように、未世は笑う。それが精一杯の虚勢であることは一目瞭然だった。
「なんてね。本当はポニアードに襲われた日にお母さんと死んだことになってるの。死んだ方が動きやすいんだって、ポニアードが言ってた。だから、今の私の戸籍とかは昔の私と違うみたい。よくわからないんだけどね」
そう言って、未世はあはははと笑った。聞いているだけで心が締め付けられるような、悲しい笑い声だった。
「だから、お墓に名前があるけど幽霊じゃないから安心して。そんなのわかってると思うけどね」
未世は冗談めかしながら言うと、笑顔を浮かべた。その身体は小刻みに震えている。
そんな未世を見ていられなくなって、智也は彼女を強く抱きしめた。
「えっ、智也くん。何するの?」
未世が驚いたような声を上げる。その言葉ではっと気づいた智也は抱きしめた腕を緩め、未世を離した。そして、頭を下げる。
「ごめん」
「どうしたの?いきなり驚いたよ」
「ごめん」
「なんで謝るの?」
未世はきょとんした表情で智也を見た。
「だって。僕が行こうって言ったから」
智也は未世に言った言葉を後悔していた。行動せずに後悔することは苦しいと思っていた。でも、行動しても後悔することは苦しかった。一度だけでなく、二度も未世を苦しめたことは智也を絶望的な気分にさせていた。
「それがどうしたの?」
「羽素さんをまた傷つけた」
その言葉に未世は「あっ」と気づく。そして、穏やかな微笑みを浮かべた。
「私は大丈夫だよ。ちょっと驚いただけ。名前が彫ってあるとは思ってなかったから。だから、大丈夫」
元気づけるように、未世は智也の手を両手で優しく包んだ。智也の冷えた手がほのかに温まる。
「それに思い出したんだ」
「何を?」
未世はにこりと微笑むと、智也の手を包み込んでいた手を離し、お墓を見た。そして、墓石に彫られた名前を指さす。そこには『未継(みつぐ)』とあった。
「これが私のお父さん。お母さんの大切な人。私はあまり覚えてないんだけどね」
未世は寂しそうに笑うと言葉を続けた。
「お父さんは私が小さいときに病気で亡くなったから記憶にないんだ。だから、よく知らない人のお墓参りをしているみたいで、ここに来るのはあまり好きじゃなかった」
未世は寂しそうに口元を歪める。
「でも、お母さんは毎回張り切ってた。お弁当をつくって、おめかしして。でも、ある時私は行きたくないって駄々をこねたの。小学四年生の時だったかな。その時にお母さんに言われたの、お墓参りは亡くなった大切な人にできる唯一のことだって。だから、大切な未世と一緒に行きたいって」
その思い出を慈しむように未世は息を吐いた。
「だから、今日は智也くんと来れてよかった。私の大切な人と来れてよかったって思ったの」
智也はその言葉をただじっと聞いていた。
「この思い出を思い出せたのはここに来たからだよ」
未世はそう言うと、父親の名前の隣に彫られた名前を指差す。そこには『佳世(かよ)』とあった。
「これがお母さんの名前。いつも笑っていた。どれだけ疲れていても私のことを気にかけてくれた。最後まで私を守ろうとしてくれた。たくさんのものをくれた。私の大切なお母さん」
未世は慈しむように母親の名前を撫でる。
「素敵なお母さんだったんだね」
「うん。智也くんのお母さんはどんな人だったの?」
「僕の?」
智也は一瞬首をかしげるが、すぐに首を振った。
「実は覚えてないんだ。物心ついたときから孤児院にいたし」
「え?」
未世ははっとして、頭を下げる。
「ごめんなさい」
「うんん、謝らないで。気にしていないし」
智也は穏やかな表情を浮かべながら、言葉を続ける。
「僕は羽素さんのお母さんの話が聞けて嬉しかったんだ。その……羽素さんのことがまた一つ知れたから。よかったらまた聞かせて」
言ってから智也はまた歯が浮くようなことを言ったことに気づき、頬が熱くなる。
「う、うん」
それでも未世は申し訳なさそうにうなだれている。
そんな未世を見ていたくなくて、智也は水桶を手に取った。
「じゃあ、これからどうしたらいいの?」
「えっ、あっ、うん」
未世は突然話題が変わったので驚いていたが、すぐに気を取り戻し、口を開いた。
「まずお墓をきれいにするんだ」
「どうやって?」
「智也くんがくんできてくれた水をお墓にかけていくの」
未世はひしゃくをで水をくみ、墓石にかけようとする。しかし、未世の身長では墓石の一番上まで届かなかったので、智也はひしゃくをもつ未世の手を優しく握って、上まで伸ばした。
「ありがとう」
「うん」
次に側面に水をかける。まんべんなくかけ終えると、未世はひしゃくを水桶に入れた。そして、持ってきた白いタオルで汚れを拭き取る。お墓は見た目よりも塵やほこりで汚れているのか、白いタオルはすぐに黒く染まっていった。
「お母さんはこうやって丁寧にお墓をきれいにしてたの」
「そうなんだ」
未世がお墓をきれいにする姿を智也は慈しむように見守っていた。
「智也くん、ここに水をかけて」
未世に声を掛けられ、智也はお墓の裏面に水をかける。未世は「ありがとう」というと、丁寧にタオルでふいていく。まるで大切な人の身体を洗うように、丁寧に未世はお墓を拭いていった。白かったタオルが黒く染まりきる頃には、お墓はすっかりきれいになっていた。
「次に花とお線香を供えるんだけど」
未世は持ってきた花を二つに分け、お墓の花入れに供える。そして、ひしゃくで水を入れた。
ふと智也はその中に、淡いピンク色をしたきれいな花を見つけた。
「この花は何て言うの?」
「ああ、これはスイートピー。お母さんが好きだった花なんだ」
「そっか。きれいだね」
「うん」
未世は笑顔を浮かべる。そして、線香を供えると数珠を取り出した。
「じゃあ、お参りしよっか」
智也も数珠を取り出す。二人とも自分のものは持っていなかったので十和から借りていた。
未世は手を合わせると、目を閉じて頭を少し下げた。
智也も未世に習って、同じように手を合わせる。
『ごめんなさい』
まず、智也は謝った。自分のせいで未世を苦しめたこと、それから母親を死なすことになってしまったことを謝った。許されるためではない。自分自身のけじめのために謝った。その行為を未世は望まないとわかっていたが、智也は謝らずにはいられなかった。
それから、ちらりと横目で彼女を見た。じっと目を閉じて、手を合わす未世が何を思っているのか智也にはわからない。ただ、智也はそんな彼女の幸せを願った。さんざん苦しんできた、絶望的な目に合ってきた少女の未来が幸福で満ちるように願った。
同時に、いつかの誓いを思い出す。
『どうか羽素さんがこれから幸せに過ごせますように――』
祈るように誓ったことを思い出す。
『――そのために僕はこの力を使おう』
そして、智也はあの時人知れず立てた誓いを、未世の家族にもう一度誓うことにした。
何があってもその誓いが風化してしまうことがないようにと願いながら。
どんなことがあっても未世とずっと一緒にいられるようにと祈りながら。
いつか必ず自分にとって一番大切な人を幸せにすると決意しながら。
『僕が羽素さんを絶対に幸せにします。だから、どうか安心して見守っていてください』
それはまるでプロポーズのようだと思って智也は頬が熱くなった。未世に悟られるかと思い、彼女を見たが、幸いまだ目を閉じていた。
それから、智也は未世が目を閉じて、手を合わす姿を慈しむような表情で眺めながら、じっと待っていた。
「うん」
未世は頷くと両目を開け、合掌を解いた。そして、お墓に優しく語りかける。
「また来年のお盆に来るね」
そして、智也の方を見た。
「待っててくれてありがとう。じゃあ、行こっか」
「もういいの?」
「うん。たくさん話せたから」
「それはよかった」
智也は水桶を持つ。そして、二人で並んで歩き始めた。
「何を話していたの?」
「今まであったことを報告したの。それから智也くんのことも紹介した」
未世はそう言うと右手の薬指にはめたシルバーリングを優しくなでる。
「お母さんにとってのお父さんと同じくらい、私にとって大切な人だって」
「そっか」
そんな風に言われて智也は照れた。おそらく頬が赤くなっているだろうと思った。
そんな智也を見て未世はくすっと笑みを浮かべる。
水桶を返し、霊園を出て、山道を降りる。
「そうだ。智也くんは何を話していたの?」
「うん。謝っていたんだ」
智也は正直に話した。次の瞬間、未世はそんなことないよというかと智也は思っていた。しかし、彼女の反応は予想に反して「そっか」と頷いただけだった。そして、ぽつりとつぶやく。
「お母さんは許してくれたと思うよ。悪いことをした時、ごめんなさいって言うと、いつも笑って頭をなでてくれたから」
智也は目を見開く。
許される必要はないと思っていた。許されるべきではないと思っていた。
しかし、その言葉に智也は救われた。いつだってそうだった。いつも未世に救われていた。
「ありがとう」
智也の言葉に未世はただこくりと頷く。
いじらしい反応に智也は未世を抱きしめたくなる。しかし、場所が場所だったので我慢した。代わりに家に帰ったら大切な彼女を思い切り抱きしめようと思った。
「話していたのはそれだけ?」
未世はぽつりと尋ねる。
「え? 何で?」
智也はプロポーズのような誓いを思い浮かべて、動揺する。
大丈夫、気づかれていないはず。
そう思いながら、なんとか平生を装う。
「だって顔が赤かったから」
気づかれていた。
「うっ」
智也は観念した。だから、恥ずかしかったが正直に言うことにした。
「……実は、羽素さんを絶対に幸せにしますって」
未世は目を見開くと立ち止まる。その頬は一瞬で真っ赤になっていた。しかし、その表情はすぐに満面の笑みに変わる。
「楽しみにしてるね」
そう言って未世は、智也の腕に自分の腕を絡ませる。そして、もたれかかるように顔を智也の腕に押し当てた。
「はっ、羽素さん」
智也は突然、しなだれるように並んだ未世に戸惑いの声を上げる。
「ちょっとだけこうして歩こう。それとも、智也くんは嫌?」
「嫌じゃないけど」
「じゃあ、ちょっとだけこうさせて」
「うん」
しばらく二人は黙って歩いた。周囲に人影はいない。
冷たく静謐な空気の中、智也は不思議な気持ちだった。
穏やかで、和やかで、胸の中は温かい。なんとなくこれが幸せなのかなと思った。
「そうだ。ねぇ、羽素だとわからないよ」
突然、未世がぽつりとつぶやく。
「え?」
幸せに浸っていた智也は、つい声を上げた。
「さっき羽素さんを幸せにしますって言ってくれたけど、お母さんも羽素だよ」
「あっ、ああ。でも、さすがにそれはわかるんじゃ」
「わからないよ」
「いや、でも、あの状況で羽素さんっていったら、羽素さんのことだし」
智也は自分で言ってて訳がわからなくなる。そんな智也に未世は頬を膨らませた。
「もう!そうじゃない」
そして、腕に顔を埋めながらはっきりと言った。
「名前で呼んで」
「え?」
「智也くんに名前で呼んでほしいの」
未世は恥ずかしかったのか、今度はか細い声に変わっている。しかし、智也の耳にははっきりと聞こえた。
「……う、うん」
頷くが、智也はなかなか言えなかった。今更、名前で呼ぶのは恥ずかしかった。しかし、ここで呼ばなければ多分自分は一生、未世を幸せにはできないと思った。根拠もない。確証もない。ただ、そんな予感があった。だから、智也は勇気を振り絞って口を開く。
「…………未世さん」
蚊の鳴くような声だった。それでも、未世には届いたようにかすかに頷くのが智也の腕を通して伝わってきた。
「うん。これからは名前で呼んでほしいな」
「ええ」
智也はつい上ずった声を上げる。
「嫌?」
上目遣いで未世は見てきた。
「嫌じゃないけど、その、いきなりは恥ずかしいというか」
どぎまぎしながら智也は答える。
「じゃあ、二人きりの時から始めよう」
未世ははっきりと言う。彼女がそこまで智也にお願いすることは珍しかった。それだけ彼女にとって大切なことだと言うことが智也にも伝わってきた。
だから、恥ずかしいという利己的な理由で、彼女の願いを無下にするわけにはいけないと智也は思った。
「うん。わかった。未世さん」
今度ははっきりとした声で智也はその名前を呼んだ。頬が今までにないくらい熱い。きっと真っ赤だろう。でも、そんなことはどうでも良かった。智也はただ未世に喜んでもらいたかった。
智也が未世の名前を読んですぐに彼女の口から笑い声が漏れた。
「あはははっ…………。なんだかくすぐったいね」
それが照れ隠しだと智也はすぐに気づいた。それでも、未世は嬉しそうに笑っていた。
「そうだね」
智也は頷く。恥ずかしかった。照れていた。でも、未世が喜んでくれたことが何より嬉しかった。
心の中で智也は、幸せだなと思った。もし、未世も同じ気持ちならもっと幸せだなと思った。
こうして智也と未世は二人で並んで歩く。
ずっとこうして歩いていけたらいいと思いながら。
ずっとこうして歩いて行こうと思いながら。
「そうだ」
突然、未世が声を上げた。
「どうしたの?」
「来年も一緒に来てくれますか?」
予想外の言葉に智也は一瞬、たじろぐ。しかし、すぐに笑顔で頷いた。
「うん。喜んで」
「ありがとう。智也くん」
「どういたしまして。未世さん」
名前を呼び合いながら笑い合う。
こうして二人のお墓参りは終わる。
人気のない山道を降りて、人の多い通りに出ると、未世は絡めていた腕をほどいた。
「さすがにここじゃ恥ずかしいしね」
「うん」
智也は頷きながら未世の手を取る。そして、指を絡ませた。
「じゃあ、こうしたらどうかな」
「あっ、……うん、いいね」
未世は頬を染めながら頷く。
「これからどうしよっか」
「うーん。そうだ。この近くに水族館があるんだ」
未世が顔を輝かせながら智也に提案する。こんな風に彼女が自分から言うは珍しかった。
「水族館?」
「うん。前にお母さんと行ってね。アザラシがすごく可愛いかったんだ」
「そうなんだ。実は水族館って行ったことなくて」
「じゃあ、ぜひ行って、いっぱい回ろう。イルカショーも見て、体験コーナーも行って」
「案内してくれる?」
「うん。任せて!」
こうして二人は並んで歩く。
ふと曇天の隙間から、陽射しが差し込んだ。
太陽に照らされた二つの影は並びながら、ほんの少し前に伸びていた。
『佐坂智也と冬のお墓参り』(了)
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