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第四章
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しおりを挟む何度絶頂しても気をやることがなかったのは、丸薬のおかげだろう。
白蛇が離してやれそうにない、と言っていた本当の意味が分かったのは、随分と時間が経ってからだった。
熱く滾る体液を体内に注がれたにも拘わらず白蛇の硬度は変わらない。
挿入されっぱなしで至る所を触れられ、舐られ、旭はどこもかしこも性感帯にされてしまった。
(すき……白蛇さま、すき……きもちいい、)
蕩けた脳では考えもまとまらず、旭の口からは言葉にならない嬌声が上がる。
反転させられ、尻を高く上げた体勢で後ろから突かれたり、白蛇のあぐらの上で揺さぶられるのも気持ちが良かった。
快楽をどうにかしようと少しでも逃げる素振りを見せればぎゅっと抱きしめられ、また快楽の海に引きずり落とされる。
執着されている、と思えば一層気持ちが良かった。
「……旭……っ、」
「は、ぁ、あ……っ」
名前を呼ばれると、芯からぞくぞくと痺れが巡る。
返事をしたいのに、旭の口はうまく動かなかった。
白蛇の美しい相貌が情欲をたたえて歪む。
最奥に迸る飛沫を感じて、旭は恍惚にへらりと笑みを零したのだった。
***
――とうとう、春になった。
雪は溶け、土の間から小さな芽が顔を出している。
旭は白蛇と共に、緑狸を出迎えた。
「やあやあ。お二人ともお元気そうで何より」
「緑狸さまのおかげです」
「いえいえ、お二人の愛の力というやつですよ。白蛇さまから『心配無用』の文が届いて驚くやら安心するやらで。もう一度くらい様子を見に行こうとしておりましたから」
緑狸から貰った特殊な折り方の文は、結局使わなかった。
あの日、旭が風呂で準備していた間に、白蛇から緑狸に連絡を取っていたらしい。
「今日は、ご友人に渡す白無垢の検分でしたね」
「はい。これから白蛇様にご加護をつけてもらうのですが、その前に緑狸さまにも見ていただこうと思って……」
「――――これはこれは。素晴らしい! 文句なしの一等品ですよ」
百合に渡そうと準備をしていた白無垢を緑狸に見せると、緑狸が目をまん丸にして感心する。
「加護のことなのですが、ひとつ確認しておいた方が良いのではないかと思うことがあります。白蛇様も、気になっていたのではないですか?」
「――ああ」
「何のことですか?」
「旭様の、お力のことです。白蛇様の伴侶として神に成ったので、もしかするとお力が顕現しているのではないかと思いまして……こちらを」
丸い水晶が、旭の目の前に置かれる。
「これは……」
「神の力を測る水晶です。持っている御利益によって、色が変わるのです。商売繁盛の私なら……ほら、この通り金色に」
「わ……」
「一度試しておいて損はないと思います。ささ、お手を拝借」
「は、はい」
旭が手を水晶にかざすと、桃色の光が淡く水晶に宿った。
「桃色……」
「なんとなんと! 縁結び!」
「え、縁結び……ですか?」
「ええ、ええ。良いご縁を結ぶ力です。旭様の思いの強さが、白蛇様とのご縁を結んだことで、そのお力が強くなったのかもしれませんね」
「でも、おれには神の使いになるほどの力もなかったのでは……、」
旭は自分の手のひらを握ったり閉じたりして眺める。
とてもそんな大層な御利益が自分にあるとは思えなかった。
「そうだな。確かにあの時点では神の使いとなる力はなかった。俺と交わったことで、おまえの祈りの強さが、力となって顕現したのだろう」
「ええ、ええ。縁結びに、五穀豊穣! 花嫁の加護としては、これ以上ない強い加護になるでしょう。白蛇様と共に、ご加護をつけてあげてください」
「はい」
「ここに、手をかざせ」
旭は頷いて、白無垢の上に手をかざした。
「おまえの友人の幸を祈れば、それが加護になる」
「わかりました」
旭は目を閉じて、百合と泰治の顔を思い浮かべた。
(二人の縁が、二人の幸せが、いつまでも続きますように)
そっと手が重ねられ、旭は目を開ける。
白蛇の手から発せられた光と、旭の手から出る光が淡く混じり合って、白無垢に落ちた。
二人の縁がきつく結ばれ、実りある人生を送れるように。
旭はそう、強く祈った。
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