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第三章
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旭は、張形を前に途方に暮れていた。
緑狸が置いていったそれは、確かに小ぶりなものだが、形はしっかりと男性器のそれだ。
問答をしたが、商人に口で敵うわけもなく。
費用はいらないからとあれよあれよという間に押しつけられたそれは、香油の入った瓶と一緒に、緑狸が帰った後も客間にあった。
そのまま客間に置いておくわけにもいかず自室に持って帰り、引き出しに入れて数日。
とうとう勇気を出して風呂にそれを持ち込み、旭は張形と対峙している。
旭はそもそも、性処理すらおろそかにして生きてきた。
性行為について知ってることも、あまりない。
なんせ物心がついてからの記憶は、白蛇様でいっぱいだ。
村の女性陣と一緒に作業をしていたって、二人きりになったって、欲情するようなことはなかった。
(男同士は、これを尻に……)
緑狸から教わったことを想像して、ぞっとした。
これが入るなんて、信じられないことだった。
「絶対、無理……」
(大体、白蛇さまがおれを相手にしてそういうことをするなんて……)
旭は首筋をすりすりとなぞって、白蛇の私室で触れられたことを思い出す。
――思い出の中で、白蛇の手が、鎖骨から肋骨を辿って、尖りを掠める。
その記憶を辿るだけでじくじくと疼く胸の突起に、旭はおそるおそる触れた。
「……ん、っ」
小さく主張の薄いそこを、旭は爪で引っ掻くようにして弄る。
胸の奥に弾けるように広がる痺れに、小さく息を零す。
摘まんでから少しだけ引っ張ると気持ちが良くて、それを繰り返した。
「ん、ふ……っ」
白蛇が一瞬掠めただけの指先の感覚を思い出して、ぐりぐりと刺激する。
「……あ、」
旭は自身の下腹部を見て、声を漏らす。
はしたなく上を向いたそこを、白蛇がしたように握った。
「ッ……ん、」
自分の手で触っているはずなのに、白蛇のやり方をなぞるだけで、いつもよりもずっと気持ちが良かった。
はしたないところをあの赤い瞳に全部見られて、解放した精。
(それで、終わりじゃないんだ……)
その先があることを、旭は知ってしまった。
旭は湯船の縁に腕をかけ、そこに胸から上を乗せて上半身を預ける。
足を少し開いて、四つん這いに近い体勢になった。
そろりと、指を後ろへ持って行く。
中指が後ろの窄まりに触れ、旭はびくりと体を強ばらせた。
「う……っ」
乾いたそこは、指ですら侵入を拒む。
旭は香油を渡されていたことを思い出して、香油を指に垂らした。
再度、怖々と指を這わせる。
「……んん、」
つぷ、と指の先が後孔を広げた。
第一関節まで入れて、旭はここからどうすればいいのか戸惑う。
勢いよく突き入れて良いものか、それとも馴染むまで留まらせるべきなのか。
性への好奇心がなかったせいで、その手の知識が旭には欠落していた。
(あの張形を入れるためには、多分もう少し指が入らないと……)
視界に入った張形を目標にして、旭は指を押し進めた。
「ふ……う……ッ」
けれど、指を押し入れてもなんとも言えない感覚が広がるだけで、気持ちよさの欠片も感じない。
手の届くギリギリまで指を入れて、旭は冷や汗をかいた。
(いっそ、指でやるより張形を入れてしまった方が早い……?)
気持ち悪さと格闘しながら指を引き抜いて、張形を手に取る。
旭は張形を温泉に浸けて温め、空洞に手拭いを押し込んだ。
そして香油を擦り付けて、後ろに宛がう。
ぐっと力を入れて無理矢理入れようとして、旭はぞわりと這い上がる不快感に張形を手放した。
(やっぱり、無理だ……っ)
白蛇の手を記憶で辿っている間に盛り上がっていた気持ちが、冷や水をかけられたように盛り下がる。
指で十分に広げないといけないが、指を入れるのも気持ち悪い。
張形は、道具を自身の後孔に挿入するという不快感に耐えられない。
(だって……、白蛇さまじゃない、から……)
白蛇の逸物を見たことがないから、旭には想像がつかない。
張形は旭の想像力を補えるわけでもない。
もし、もしも白蛇とそういう状況になったら、旭は喜んで身を差し出す。
その時に旭が何も準備の出来ていない体だったら、白蛇はがっかりするかもしれない。
そう思うのに、張形を後孔に挿入できるようになるまで頑張る気力は湧いてこなかった。
旭はがっくりと肩を落とす。
萎えてしまった自身の下腹部を見て、旭は自嘲気味に笑った。
これ以上は続けられそうにない。
旭は湯に浸かって冷えた体を温めて、早々に床につく。
張形は、見えないように引き出しの奥に追いやった。
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