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第二章 開戦

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昨晩、マリナと少し話をした。殿下によるとマリナ達はもうすでにメルリーエンに行った、と。
ロムマリエとの戦争の事後処理が終わる頃には帰ってきていると言っていたが、事後処理はあと一週間もあれば終わる。

本当に大丈夫なのだろうか。何か危ないことをしていそうだ。まあ戦争なのだから危ないことなのは間違いないのだが。

「…?殿下、どうなさいましたか?」
「すまない、キース……すまない……」
「何がですか?」
「いや、何でもない…」

何故か殿下に謝られた。何かあったのか?本当に…胸騒ぎがする。



ついに終戦した。対ロムマリエ戦もメルリーエンも。昨晩メルリーエンがガザード帝国の傘下に入ったことが報せられ、ロムマリエ戦の事後処理も終わったので皇都に帰った。大勢の国民が出迎えてくれ、ようやく一息つくことが出来た。今日は帰還の儀があった。

全国民が幸せに溢れる中俺は、裏を知る一部の者たちは暗い表情をしていた。その理由はマリナだ。マリナはというと、対メルリーエン戦の最大の功労者だが帰還の儀には参加しなかった。いや、出来なかったという方が正しいだろう。

マリナはガザード帝国民をたったの一人も危険にさらさず一人で戦争をおさめた。その代償に彼女の命は今消えかかっている。詳しいことは分からないが、ベルト侯爵家に代々伝わっている秘技を使ったのだそうだ。
 戦争を終えた直後の俺たちが戦っても勝率は限りなくゼロに近かった。マリナが力を使わなければこの国は無事ではいられなかった。分かっている、分かっていてもそのせいでマリナが死んでしまうと考えると耐えられなかった。

公爵家のベッドの中、昏睡状態のマリナの手を握るが冷たく冷え切っている。彼女が倒れているのを見つけたのは彼女の家族だ。倒れているところを見つけられただけまだマシ。生存確率は1%あればいいくらい。どんどん身体から体温が抜けていき、今やマリナの肌は真っ白。いつ死んでもおかしくない状態だ。

「マリナ…」
「失礼致します。旦那様、そろそろ休まれた方が…」
「この状況では休みたくても休めない。タオル、ありがとう。俺のことは気にしなくていい」
「…失礼しました」

熱湯に近い温度に漬けたタオルで彼女を温めるも全然効果がない。マリナのあの時の顔は、殿下が俺に謝っていたのはこういうことだったのかと後になって理解した。彼女の家族は一旦お帰り頂いた。彼らも疲れているだろうから。

メルリーエンについてはすでに皇帝陛下が動いている。他の国に関しては心配いらないのでもう安心だろう。あとはマリナさえ目を覚ましてくれたら、この国にとっては全てが丸く収まる。

このままずっと目を覚まさないのだろうか。二度とあの声で俺の名前を呼んではもらえないのだろうか?即死してもおかしくなかったという。いまだ息をしていることが奇跡だと。
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