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第一章

番外編 スミス公爵領で夏祭りデートする話

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「リリア、今日の夜は街で夏祭りがあるんだが一緒に行かないか?」
「夏祭り、ですか?」
「ああ。食べ物に飲み物、遊戯など様々な屋台が出るんだ。楽しいぞ」
「本当ですか!行ってみたいです!」

毎年スミス公爵領では夏祭りが開催される。領外から来る人も多いらしく、ダンスとは違った踊りなども見れるらしい。

「そうか。食べ物などもあると言ったが、夕食はそれでいいか?」
「はい。楽しみです」
「スミス公爵領の夏祭りでは浴衣という服を着る人が多い。昔、母上が着ていたものがあるから着てみるか?」

浴衣とはなんだろうか。聞いたことがない。

「勝手にお借りしてよろしいのですか?」
「ああ、良いと言っていたぞ。デリアたちが着付け方を知っているから着替えてこい」
「分かりました」

部屋に戻ってみると、準備万端で着飾る気満々のデリアとメアリがいてちょっとびっくりした。それに、浴衣というのはドレスとは全く違うものでどうやって着るのか分からない。

「さあさあ、リリア様。綺麗に仕上げますよ!」
「きゃあ!?」

あれよあれよという間に着せられ、髪も整えられた。お腹のところで固定されているようだ。ドレスよりも歩きづらいがとても可愛い服だと思う。
髪はコテでぐるぐるに巻かれ、両耳の下でまとめている。たくさんの花や簪というシャラシャラしたもので飾り付けられた。

「やっぱり素敵です!リリア様は何でもお似合いになられますね」
「ありがとう。行ってくるわ」

エントランスで待っていたリュードはリリアとは少し違うが似たような服だった。履いているものもいつもと違って歩きづらいが、近くの街なので歩いて行くことになった。

「着いたぞ」
「わぁ…!」

紙のようなもので火を覆ったランタンのような赤い光がたくさんある。それにリリアやリュードと同じような服を着ている人も多い。たくさんの人が集まって楽しそうにしている。

「すごいですね!あ、リュード様、あれは何ですか?」
「あれはわたあめというお菓子だな。食べてみるか?」
「はい!」

早速ふわふわした雲のようなものを見つると、リュードが買いに行ってくれた。

「ほら」
「ありがとうございます。…ん、甘くて美味しいですね」

口に入れた瞬間とけて、ほんのりと甘い味が口いっぱいに広がった。

「リュード様もどうぞ」
「ああ」

二人で色々買いながら散策してみる。美味しいものがたくさんあったし、今は射的という普段リリアが使うものより長い銃を使って的を当てるゲームをした。

リリアは一つしか当たらなかったがリュードはなんと全てど真ん中に当てており、屋台のおじさんも呆気にとられていた。

「リリア、少し髪に触るぞ」
「?はい──これは?」
「景品だ。俺は使わないからな」

小さい花のヘアピンだった。ピンクゴールドがキラキラしていて可愛らしい。

「ありがとうございます」
「お。お二人さん、カップルかい?じゃ、これもおまけしとくよ」
「良いのか?ありがとう」
「あいよ!」

おまけの景品までもらい(特にリュードが)注目される中、リリアたちはその場を後にした。そのあともダンスではない踊りや花火を見たりした。

「あ。リュード様、ちょっとここで待っていてください」
「分かったが危ないから早く戻ってくるんだぞ?」
「子供ではないのですけど」

子供ではないから危ないんだとか何とか呟くリュードを置いて、リリアはある屋台に近づく。

「すみません、これくださいな」
「はい、どうぞー」
「ありがとうございます」

一応待たせてしまっているので急いで戻る。が、途中で男二人組に引き留められた。

「急いでいるのですけど」
「えー?でも君、一人じゃん。ちょっと俺たちと遊ぼうよ」
「お断りします」
「そんなこと言って、ほんとは声かけられて嬉しいんじゃないの?だってずっと笑顔だし」

うるさい。笑顔はいつものことだ。変に格好つけて話しかけてくるが全然、まったく、これっぽっちも格好よくはない。残念ながら。

「急いでいると言ったのですが」
「あっそ。じゃ、無理矢理連れていくとするかー」

腕を掴まれ、物陰に引きずられそうになる。仕方ないか、と思った時バキィ…ボキボキッ!と骨が軋む音がした。そちらを見るとすでに自警団を呼んでいたようで、手際よく連行されていった。

「だから危ないと言っただろう」
「ですから蹴りを入れて不能にしようかと思ったのですけど…残念です」
「え、ふの…」
「あらそんなこと言ってませんわよ。おほほほほ」

大丈夫、誤魔化せたはずだ。真っ青になって固まっているがどうかしたのだろうか?

「いや…うん、まあそうだな。自業自得だしな。……恐ろしっ…」

聞こえている。彼の言う通りではあるが、そんなに恐ろしいものなのだろうか?ああいった輩にはよく遭遇するので、これまでも何度か……いや、なんでもない。

「そろそろ帰るか」
「そうですね」

また同じような種類の人間に合わないとも限らない。十分に楽しんだので今日はもう満足だ。

「それで、何しに行ってたんだ?」
「ああ、そうでしたわ。これどうぞ。ふふふふふ」
「…………」

何だこれは、とでも言いたげに大変白けた目を向けてくる。そんな顔しなくても良いのに。

(リュード様がつけたら絶対に面白い……ゴホンッ、お似合いになると思ったのよね。見つけたとき)

「とりあえずつけてみてください」
「はあ……何だこれは。ひょっとことか言うやつだったか?」

正解だ。奇妙なお面を見つけたので買ってきたのである。ため息をつきながらもちゃんと着けてくれるあたり律儀だと思うが予想通り面白い。

(これは……っ!)

「ふ、ふふ……」
「……笑いたいなら笑え。お前が買ってきたものだがな」
「いえっ、ふふふっ!」

ちょっと面白すぎる、これはやばい。

「……まあいい。楽しかったか?」
「はい、とっても!」
「それは良かった。また来年もデートしよう」

デート…?デートの定義を考えると間違っていない。間違っていないが…………

(これってデートだったの!?じゃあ私にとって初デートだわ!)

ちょっと論点が違う。ちょっとズレている。

「は…はい……」

珍しくリリアが頬を染め、これまた珍しく余裕があるリュードは一瞬ぽかんとしたあと嬉しそうに微笑み、二人にとっての初デートは幕を下ろしたのだった。



ちなみに城に戻った二人は使用人たちに出迎えられるが、リュードが頭の横の方にお面をつけているのを見て全員一斉に顔を反らしたのはまた別の話……
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