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第一章
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シュゼイside
俺は今目の前で楽しそうに話す人を見ていた。ついさっきまでは、俺が話していたがいつの間にか俺は聞き手側に回っている。
彼女は、俺達の主人だ。リリア·ゼル·ユースゼルク=ヘウラ。この国の皇女にしてヘウラ公爵、そして隣国クレイス王国の公爵夫人だ。
俺は…姫さんのことが好きだ。もうずっと昔から。五歳年下の姫さんと出会ったのは今から10年以上前になる。姫さんが5歳、俺が10歳の頃だ。
いつの間にか、俺達を振り回してくる姫さんに恋していた。恋、だなんて俺には似合わない言葉だと思う。平民と皇族。いくら影として側に仕えているとはいえ、流石に身分が違いすぎる。
そのことは理解しているため、この気持ちを姫さんに伝えるつもりはない。
だからせめて、姫さんには自分を幸せにしてくれる。いや、自分と一緒に幸せになってくれる人と結婚してほしかった。
だが、姫さんが結婚したのは文武両道、容姿端麗で身分もあるけど姫さんを見ない人。政略結婚だった。
姫さんが決めたことだし、夫に好かれなくても本当に興味がなさそうだっただけまだましだった。それでも姫さんが結婚した日は、一晩中泣いてしまった。女々しいとも思うが、それでも10年以上好きだったんだ。そう簡単に諦められるわけがなかった。
それなのに、それなのにあいつはスミス公爵は姫さんのことを多分好きになった。散々どうでも良さそうに素っ気なく接していたくせに。おまけにあの男がついていながら、姫さんは襲撃された。
もちろん、傷一つなかったが。セイが言っていた通り、俺は本気で怒り狂った。本気であの男を殺しそうになった。あの男にも影のような側近がいるようだが、正直弱すぎて俺達の足元にも及ばないと思う。
まあ結局、色々あって俺は姫さんを好きでいるのを諦めようとしていたが、やめた。
姫さんを困らせたくないから、この気持ちを伝えるつもりはないけど、それでも姫さんの側に居続けられるようにもっと強くなろうと、目の前で楽しそうに話す姫さんを見て誓った。
(例え姫さんがどんな選択をしようと、俺は姫さんの考えを信じて側にいるから。没落して食べることすら出来なかった俺達を救ってくれた姫さんを俺は絶対に裏切らないから。だから姫さんはいつでも安心して笑っていてよねぇ?俺の大好きなその笑顔で…)
◇
「…はいはい。姫さん、もうシモン皇子大好きなのはよく分かったからさぁ。そろそろやめてあげてくれない?さっきから後ろにシモン皇子がいるけど?」
「え?…あら、シモン。いつからいたの?」
いつの間にかわたくしの後ろまで来ていて、顔を真っ赤にして手で覆っているシモンに話しかける。わざわざ別のテーブルから椅子を持ってきてまでシュゼイと話していたから全く気が付かなかった。
いや、気が付いてはいたけど後ろにいることを思い出す度にすぐ忘れていた。
「…姉上が、シモンは…と言い出した所からですね」
「つまり姫さんがシモン皇子の話を始めた時からずっといるよ?」
「完全に忘れていたわ」
「どういうこと?」
「気配に気付いて、でも直ぐに忘れてしまって、また思い出して、今良いところだから…と思っていたら忘れて。という感じね」
「あははっ!なにそれ姫さん。面白過ぎるんだけど?」
肩を震わせながらシュゼイに言われる。仕方がない、忘れていたものは。
「ライは笑っていますけど、俺は全く笑えないです。結構恥ずかしかったんですけど。姉上が俺のことを好きなのは薄々感じていましたが…」
「はあ~?薄々~?絶対姫さんのはそんなレベルじゃないでしょ。絶対溺愛してるでしょ。ねぇ姫さん」
「今更?わたくしにとって、命に代えてでも守りたいと思える程大切なのはシモンとわたくし直属の影達だけよ?」
本当に今更だと思う。まさか愛されていないとでも思っていたわけでもないだろうに。
「え、俺達もなの?」
「当たり前じゃない」
「…あっそ。俺はもう移動するから」
(ライ、姉上に大切だって言われて顔が赤くなってたんだが…)
「姉上はそんなに私のことが好きだったんですか?」
「そうよ。だってわたくしな弟だもの」
「そ、そうですか。それは…ありがとうございます?」
さも当然とでも言うようにリリアが言うため、シモンまで顔を赤くして戸惑っている。
「…そろそろね」
「ええ」
現在、七時五十九分。八時になった瞬間ーーーー
ホールの電気が消えた。予定通りだ。そしてわたくしが指を鳴らすと…
再び電気がついた。電気が付くとそれぞれ1グループ17人の計6グループが出来ていた。
電気が消えた一瞬の時間で何かを考える間もなく、あらかじめ決めていたグループになるようにみんなを転移させた。
「リリア、これはどういうことなの?」
「只今より、グループ対抗のゲームを始めます!ルールは簡単。各グループがトーナメント式で戦って貰います!」
「一勝するごとに、姉上より一人あたり1万Gが支払われる。決勝まで勝ち上がったグループには追加で3万G、優勝グループにはなんと100万Gが支払われる」
「もちろん、わたくしの私財からだし、負けてもペナルティはないわ。相手が気絶するかギブアップしたら試合終了。致命傷でない限りいくらでも傷つけていいわ」
一勝するごとに1万G。勝ち上がれば上がるほど多額のお金が得られるとなれば、やる気になってくれるだろう。
「どのグループも同じくらいの強さになるように分けたわ。戦闘範囲は第二訓練場全て。一試合に付き制限時間は三十分。時間になってまだ立っている者がいれば人数の多い方が勝ち。裏の意味など考えずとにかく戦って貰うわ」
「リリア、ルールを一つ追加しても良いか?」
わたくしに聞いてきたのはシュナ。何か面白いことでも考えたのだろうか。
「何かしら?」
「このルールだと人任せになる者がいるかも知れない。だから私達皇族からして、活躍していたり戦闘法が気に入ったりと評価出来る点があればそれに応じて私達からも個人的にボーナスを出すというのはどうだ?」
「面白いわね。良いわよ」
わたくしが許可を出したため、余計にやる気が出たようだ。適当にやろうとする者がいないようで何より。最もわたくしはその場合、その人には賞金なしのつもりだったが、まあそのルールは無しとしよう。
「では一回戦目はくじ引きで対戦相手を決めて貰うわ。各グループのリーダーはわたくし直属の六人にお願いするわ」
「御意」
くじ引きの結果、一回戦目はレイグループ(以下略)対アイ、セイ対ルイ、メイ対ライになった。どのグループが勝ってもおかしくない。楽しみにしていよう。
「では、レイ対アイからね。ここの屋敷内に入るのは禁ずるから戦わない人はここにいてね。ではレイグループは北、アイグループは南に転移させるわ。転移先に着いた瞬間スタートよ」
「では…"転移"!」
ゲーム開始だ。さて、どのグループが勝ち上がってくるだろうか。ちなみに、対戦中のグループの状況はわたくしが空から撮影し、リアルタイムで屋敷の中で見れるようにしてある。
「姉上もよくこんなことばかり思い付きますよね」
「楽しければ良いでしょう」
「その楽しさのために私財まで使うあたり、本当に姉上らしいです」
「そう?わたくしはもう行くわ。では皆様、ここから楽しんで下さいまし。"空移"!」
バルコニーに出て、宙に浮く。折角だから実況でもしてみようか。
俺は今目の前で楽しそうに話す人を見ていた。ついさっきまでは、俺が話していたがいつの間にか俺は聞き手側に回っている。
彼女は、俺達の主人だ。リリア·ゼル·ユースゼルク=ヘウラ。この国の皇女にしてヘウラ公爵、そして隣国クレイス王国の公爵夫人だ。
俺は…姫さんのことが好きだ。もうずっと昔から。五歳年下の姫さんと出会ったのは今から10年以上前になる。姫さんが5歳、俺が10歳の頃だ。
いつの間にか、俺達を振り回してくる姫さんに恋していた。恋、だなんて俺には似合わない言葉だと思う。平民と皇族。いくら影として側に仕えているとはいえ、流石に身分が違いすぎる。
そのことは理解しているため、この気持ちを姫さんに伝えるつもりはない。
だからせめて、姫さんには自分を幸せにしてくれる。いや、自分と一緒に幸せになってくれる人と結婚してほしかった。
だが、姫さんが結婚したのは文武両道、容姿端麗で身分もあるけど姫さんを見ない人。政略結婚だった。
姫さんが決めたことだし、夫に好かれなくても本当に興味がなさそうだっただけまだましだった。それでも姫さんが結婚した日は、一晩中泣いてしまった。女々しいとも思うが、それでも10年以上好きだったんだ。そう簡単に諦められるわけがなかった。
それなのに、それなのにあいつはスミス公爵は姫さんのことを多分好きになった。散々どうでも良さそうに素っ気なく接していたくせに。おまけにあの男がついていながら、姫さんは襲撃された。
もちろん、傷一つなかったが。セイが言っていた通り、俺は本気で怒り狂った。本気であの男を殺しそうになった。あの男にも影のような側近がいるようだが、正直弱すぎて俺達の足元にも及ばないと思う。
まあ結局、色々あって俺は姫さんを好きでいるのを諦めようとしていたが、やめた。
姫さんを困らせたくないから、この気持ちを伝えるつもりはないけど、それでも姫さんの側に居続けられるようにもっと強くなろうと、目の前で楽しそうに話す姫さんを見て誓った。
(例え姫さんがどんな選択をしようと、俺は姫さんの考えを信じて側にいるから。没落して食べることすら出来なかった俺達を救ってくれた姫さんを俺は絶対に裏切らないから。だから姫さんはいつでも安心して笑っていてよねぇ?俺の大好きなその笑顔で…)
◇
「…はいはい。姫さん、もうシモン皇子大好きなのはよく分かったからさぁ。そろそろやめてあげてくれない?さっきから後ろにシモン皇子がいるけど?」
「え?…あら、シモン。いつからいたの?」
いつの間にかわたくしの後ろまで来ていて、顔を真っ赤にして手で覆っているシモンに話しかける。わざわざ別のテーブルから椅子を持ってきてまでシュゼイと話していたから全く気が付かなかった。
いや、気が付いてはいたけど後ろにいることを思い出す度にすぐ忘れていた。
「…姉上が、シモンは…と言い出した所からですね」
「つまり姫さんがシモン皇子の話を始めた時からずっといるよ?」
「完全に忘れていたわ」
「どういうこと?」
「気配に気付いて、でも直ぐに忘れてしまって、また思い出して、今良いところだから…と思っていたら忘れて。という感じね」
「あははっ!なにそれ姫さん。面白過ぎるんだけど?」
肩を震わせながらシュゼイに言われる。仕方がない、忘れていたものは。
「ライは笑っていますけど、俺は全く笑えないです。結構恥ずかしかったんですけど。姉上が俺のことを好きなのは薄々感じていましたが…」
「はあ~?薄々~?絶対姫さんのはそんなレベルじゃないでしょ。絶対溺愛してるでしょ。ねぇ姫さん」
「今更?わたくしにとって、命に代えてでも守りたいと思える程大切なのはシモンとわたくし直属の影達だけよ?」
本当に今更だと思う。まさか愛されていないとでも思っていたわけでもないだろうに。
「え、俺達もなの?」
「当たり前じゃない」
「…あっそ。俺はもう移動するから」
(ライ、姉上に大切だって言われて顔が赤くなってたんだが…)
「姉上はそんなに私のことが好きだったんですか?」
「そうよ。だってわたくしな弟だもの」
「そ、そうですか。それは…ありがとうございます?」
さも当然とでも言うようにリリアが言うため、シモンまで顔を赤くして戸惑っている。
「…そろそろね」
「ええ」
現在、七時五十九分。八時になった瞬間ーーーー
ホールの電気が消えた。予定通りだ。そしてわたくしが指を鳴らすと…
再び電気がついた。電気が付くとそれぞれ1グループ17人の計6グループが出来ていた。
電気が消えた一瞬の時間で何かを考える間もなく、あらかじめ決めていたグループになるようにみんなを転移させた。
「リリア、これはどういうことなの?」
「只今より、グループ対抗のゲームを始めます!ルールは簡単。各グループがトーナメント式で戦って貰います!」
「一勝するごとに、姉上より一人あたり1万Gが支払われる。決勝まで勝ち上がったグループには追加で3万G、優勝グループにはなんと100万Gが支払われる」
「もちろん、わたくしの私財からだし、負けてもペナルティはないわ。相手が気絶するかギブアップしたら試合終了。致命傷でない限りいくらでも傷つけていいわ」
一勝するごとに1万G。勝ち上がれば上がるほど多額のお金が得られるとなれば、やる気になってくれるだろう。
「どのグループも同じくらいの強さになるように分けたわ。戦闘範囲は第二訓練場全て。一試合に付き制限時間は三十分。時間になってまだ立っている者がいれば人数の多い方が勝ち。裏の意味など考えずとにかく戦って貰うわ」
「リリア、ルールを一つ追加しても良いか?」
わたくしに聞いてきたのはシュナ。何か面白いことでも考えたのだろうか。
「何かしら?」
「このルールだと人任せになる者がいるかも知れない。だから私達皇族からして、活躍していたり戦闘法が気に入ったりと評価出来る点があればそれに応じて私達からも個人的にボーナスを出すというのはどうだ?」
「面白いわね。良いわよ」
わたくしが許可を出したため、余計にやる気が出たようだ。適当にやろうとする者がいないようで何より。最もわたくしはその場合、その人には賞金なしのつもりだったが、まあそのルールは無しとしよう。
「では一回戦目はくじ引きで対戦相手を決めて貰うわ。各グループのリーダーはわたくし直属の六人にお願いするわ」
「御意」
くじ引きの結果、一回戦目はレイグループ(以下略)対アイ、セイ対ルイ、メイ対ライになった。どのグループが勝ってもおかしくない。楽しみにしていよう。
「では、レイ対アイからね。ここの屋敷内に入るのは禁ずるから戦わない人はここにいてね。ではレイグループは北、アイグループは南に転移させるわ。転移先に着いた瞬間スタートよ」
「では…"転移"!」
ゲーム開始だ。さて、どのグループが勝ち上がってくるだろうか。ちなみに、対戦中のグループの状況はわたくしが空から撮影し、リアルタイムで屋敷の中で見れるようにしてある。
「姉上もよくこんなことばかり思い付きますよね」
「楽しければ良いでしょう」
「その楽しさのために私財まで使うあたり、本当に姉上らしいです」
「そう?わたくしはもう行くわ。では皆様、ここから楽しんで下さいまし。"空移"!」
バルコニーに出て、宙に浮く。折角だから実況でもしてみようか。
応援ありがとうございます!
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