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第一章

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ホールに向かう途中、影達はそれぞれ嬉しそうに相手を褒め合っている。影になる条件に見た目の良さも関係しているのではないかと言うくらいに、皆それぞれ系統は違うものの整った顔立ちにスタイルも良い。

健康的な細さで、綺麗な付き方ではあるがちゃんと筋肉も付いているあたりさすがは影、と言ったところだろう。
この世界では珍しい金髪碧眼はいないが、金髪だけ碧眼だけやプラチナブロンドなどもいる。

髪型もまとめられた方が邪魔にならないからと言って、みんな伸ばしている。先程は非常に着飾りがいがあった。

「姉上、準備は宜しいですか?」
「もちろんよ!」

先に来ていたシモン達にはホールの前で待って貰っていた。

「今から同性でも異性でも構わないから、ペアを作ってくれ。入場する時のみのパートナーだ。私と姉上は先に入場する」
「ぎょ、御意…?」
「では行きましょう、姉上」
「ええ」

シモンにエスコートして貰いながらホールに入る。まあ中には誰もいないが。

「そう言えば姉上、今日もお綺麗ですよ」
「あら…シモンでもそんなこと言うのね。ふふ、ありがとう。貴方も中々素敵だと思うわよ?」
「ありがとうございます。それと姉上は私を何だと思っているのです?」
「ん~、素直ではない子?」
「…そうですか。でも思ったことはちゃんと伝えますよ、大体の時は」
「あらそう?」
「そうです」

まさかシモンに褒められるとは思っていなかった。今日のわたくしのドレスは、ヘウラ様の瞳を思わせる綺麗な碧色から青、紫と変わっていくグラデーションのプリンセスラインのものだ。

髪はサイドを編み込んで左へ流して、青系の花を飾っている。耳には金色がアクセントの花のイヤリング、ネックレスは小さなダイヤをたくさん使ったもので、指には王帝印の指輪を着けている。

王帝印の指輪は国紋が彫られていて、普通にアクセサリーとして着けても見映えが良い。


対するシモンは、黒に近い青の生地に金糸で刺繍をされた衣装だ。髪は普段と違い、右目の上で分けられている。
碧色の丸いシンプルなデザインの耳飾りに、わたくしと同じく王帝印の指輪。

見た目だけなら、皇族で誰よりも正統派皇子様と言った風だ。見た目だけなら。

「何か失礼なことを考えているでしょう、姉上」
「そ、そんなことないわよ…?それより、そろそろ準備が出来たと思うから曲を流しましょう」

今日は本格的にやる。曲を流して、入場の時は名前を呼ぶ。本当の夜会では基本皇族しか呼ばれないが、たまには良いだろう。先に皇族一同に入場して貰い、自分の直属は自分で名前を呼んで貰う。

わたくし達が曲を流し始めたので、皇帝夫妻から入場してくる。

「ユースゼルク大帝国皇帝、カーマイン·ゼル·ユースゼルク陛下並びに皇后、エリン·ゼル·ユースゼルク陛下!」

さすがは皇帝夫妻。綺麗な所作で入場してくる。身内だけとあって若干距離が近すぎる気もするが、気のせいと言うことにしておこう。

「続きまして、ユースゼルク大帝国大公、カーティス·ゼル·ユースゼルク閣下並びに大公夫人、ローズ·ゼル·ユースゼルク夫人」

皇族一同はわたくしとシモンで交互に名前を呼ぶことになっている。入場してくる順番は決めていなかったため、ホールに入ってきてから名前を呼んでいる。

その後も皇太子夫妻、エリスティア次期公爵夫妻の順に入場してきた。
皇族一同揃ったところで、いよいよ今日の主役達、影の入場だ。

「あら…わたくしの直属はレイとルイ、セイとライ、メイとレオ、アイとアオなのね。メイやアイは少し以外だわ」
「そうですね。どうします、姉上?」
「普通にメイはわたくし、レオはシモン、のようにすれば良いんじゃない?」
「そうですね」

早速、レイとルイが入場してきた。少し緊張しているのが分かる。

「わたくし、リリア·ゼル·ユースゼルク=ヘウラの直属。アス·レイナルド並びにアス·アルティナ~!」

アスは皇家直属の影に付けられるミドルネームだが、姓がない者はミドルネームが先にくる。今呼んだ名前は二人の本名になる。

レイナルドはレイ、アルティナはルイ。ぎこちないが、ちゃんとルイをエスコートして入ってきた。二人は元暗殺者だ。

「同じくわたくしの直属。ソルティアス·アス·ラーゼ並びにアス·シュゼイ!」

ソルティアスはセイ、シュゼイはライ。セイは有名なラーゼ商会の三男でライは元男爵令息とあって、マナーは完璧だ。セイは世界一の商会の息子だが、商会長である父親は自分の子供達を、縛り付けるタイプではないため、わたくしの直属になれた。ちなみに、セイとシモン直属のセオは一卵性の双子でセイが兄だ。

「同じくわたくしの直属。アス·ローレライ並びに……」
「私の直属。アス·レオ!」

ローレライはメイ、レオはそのままレオだ。メイもレイやルイと同じく元暗殺者でレオは元孤児で名前がないため、コードネームをそのまま名前としている。

二人は同い年だから気が合うのだろうか?楽しそうにしている。

「わたくしの直属。アス·マリー並びに……」
「私の直属。アス·ルドアオ」

マリーはアイ、ルドアオはアオ。これまた同じくアイは元暗殺者だ。わたくし直属の影の内、四人が元暗殺者。アオも元暗殺者だ。

ここまでで気付いたかもしれないが、それぞれのコードネームはリーダーの名前の一部から取っている。
レイは本名がレイナルドだから、上二文字をコードネームとし、他の人はイを統一している。
アオや他の直属も同じだ。



あの後、続けてシモン、伯父上、伯母上…と自分の直属が入場するときに名前を呼んでいった。
そして最後の二人が入場し、ようやくパーティーが始まった。

曲はずっと流しているため、踊りたい者は踊り、話したい者は話し、食事をしたい者は食事をし…となっている。
別にパートナーと一緒にいなくてもいいが、特に話し相手もいないためシモンと一緒にいる。

「……姉上、お暇でしょう?」
「ええそうね」
「では、一曲踊って頂けますか?」
「良いわよ」

今はわたくし達以外に誰も踊っていない。というか、始まってから誰も踊っていないため、最初に踊るのは勇気がいるのだろう。そのことを考えてシモンはわたくしを誘ったのだと思う。

「シモン、相変わらずダンスが上手いわね」
「ありがとうございます。でも姉上だけには言われたくないですよ。姉上ほどダンスが上手い人を私は知りません」
「そんなことないわよ。リズ様とか、とてもお上手でしょう?」
「それはそうですが、姉上程ではないと思います」

シモンはわたくしを買いかぶりすぎだと思う。素直じゃないながらもよく褒めて?くれるが、わたくしはシモンが言うほど完璧ではない。

もちろん、謙遜しているつもりはなくちゃんと自分の実力は理解しているつもりだ。

「ねえ、シモン。リズ様の話をしたらリズ様に会いたくなってきたわ」
「知りませんよ、そんなこと。それなら早く仕事を終わらせてクレイス王国に戻れば良いのでは?」
「分かっていて言っているでしょう。わたくし、リズ様にはお会いしたいけれどユースゼルクにいたいの。クレイス王国も悪いところではないけれど、こちらの方が隠していることが少なくて楽だもの」
「それもそうですね」

一曲踊ったので、シモンと食べ物を取りに行く。晩餐も兼ねているため、コルセットはあまり絞めていない。
ふと、ホールの端の方に用意したテーブルを見ると、レイとセイとライが飲み比べ対決をしていた。

三人とも以外と飲めるのか、早速大量の空のワイングラスがテーブルにおいてあるが、まだまだいけそうだ。

「よく飲むわね…」
「姉上だってどれだけ飲んでも酔わないでしょう。姉上の場合飲むだけではなくよく食べる、というのもありますけど」
「スタイルキープ出来ているから問題ないわ」
「本当ですよ。その大量の食べ物が姉上のどこに消えているのでしょうね」
「そういうことは考えなくていいの!」
「はいはい」
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