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番外編
セインの悩み①
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「…………」
「……ねぇ、さっきからどうしたの? ずっと暗い顔してるけどなにかあった?」
今日もいつも通りセインくん、ランスロットくん、エリオットくん、俺、アリスの五人で帰る予定だったんだけど、ランスロットくん達に急遽予定が入ったから俺はセインくんと中庭のベンチで待っている。
……なんだけど、さっきから……というか今日一日ずっとセインくんが溜め息を吐いて暗い顔をしてる。さっきまではクラスメイトに心配をかけないためか隠していたみたいだけど、今日のセインくんは朝からずっと纏う空気が暗いからなにか悩んでるのかなーと思って見てた。
だけど放課後になっても元気がないとさすがに心配になってくる。
「すみません、ご不快でしたか?」
「不快ではないけど心配だなって。話せるなら聞いてあげるよ?」
「……ではお言葉に甘えて。実は僕の婚約者候補であるイレーナ嬢の話なのですが」
「アリスと仲が良いランスロットくんの従妹の子だよね?」
「はい。その、僕は彼女のことが好きなんですけど……」
「うん」
……なんだろ、この自分の好きな子を教えるだけで恥ずかしがるような初々しい感じ。こういう人を俺は久しぶりに見た気がする。俺にこの種類の羞恥心はないし、周りもルーやシルフのような既婚者ばっかりだからさ。
たしかイレーナちゃんの方もセインくんのこと好きじゃなかったっけ? ということは両片想いの状態ってことか。周囲からしたら一番もどかしいやつだね。
「デートをする程度には親しいのですが、まだ恋人でもなく婚約者でもなくあくまでも婚約者候補の域を出ないんですよね。親しくしてくださっているのも婚約者候補だからであって、本当は望んでないのではないかと思ってしまって……ナギサ様はどう思いますか?」
「うーん……全部俺個人の考え方だから真に受けすぎたら駄目だよ? 君たちは貴族だから貴族同士のめんどくさい家付き合いとかあるんだろうけど、『婚約者』ではなくて『婚約者候補』ならわざわざ好意を持っていない相手とデートする必要なんてなくない? まあ人によるだろうけど」
俺も前世は立場的に家同士の関係を気にしないといけなかったからその辺りは良く分かる。だけど俺はいつもバッサリ切り捨ててたね。アリスと付き合ってからは論外だけど、それ以前も好きでもない相手とデートなんて絶対に無理だった。下手に既成事実とか作りたくないから。
だから多少なりとも好意を持たれていると考えて良いと思う。実際、イレーナちゃんはセインくんのこと好きらしいし。
「なるほど……ナギサ様は彼女とどのように親しくなったのですか?新婚夫婦と熟年夫婦を足して二で割ったような関係ですが」
「どっちも違うからね。俺たちは結婚してないよ」
セインくんの言葉と全く同じようなことを良く言われる。俺は婚約こそしているけど結婚なんてしてない。したいとは思うけどアリスが学生だからね。十八で成人だから学生婚する人もいるけど、学業に支障が出る可能性があるから俺的にそれはなし。だから早く学園を卒業していただきたい。
「ナギサ様から告白されたのですか? そういえばお二人の馴れ初め、詳しく聞いたことがありませんね」
「そんな面白いものでもないよ」
「今後の参考までに是非お聞かせ願いたいです……!」
「別に良いけど……」
参考になるのかな。ただの興味が八割なように感じるんだけど、それは俺の気のせい? いつになくセインくんの目が輝いているように見えるなぁ……
「告白したのは俺。三年くらいは片想いしてたかなー? 学院の中等部卒業と同時に……まあつまり卒業式の日に告白したんだよね。立場的に出来るだけ早く婚約者がいた方が良かったし、高等部に上がるタイミングならキリが良いなと思って」
「卒業式で、というのはロマンチックな感じがしますが最後の言葉で台無しになりましたね」
「俺にそんなこと求めないでよ」
「出会いは?」
「んー……忘れた。傘下の家に同い年のご令嬢がいるからって理由で顔合わせした気がする。その時は興味なかったからうろ覚えだなぁ」
本当にこれ以上のことはほとんど覚えてないんだよね。だからといって出会いをやり直せたら、とは思ったことないけど。
「だけど下心を感じなかったからその後も親しくしてたかな。一緒にいて居心地が良かったんだよ。それでいつの間にか好きになってたって感じ?」
「あっさりしてますね」
「俺の恋愛事情に需要なんてないでしょ。自分で言うのもなんだけど、俺の恋愛なんて参考になる?」
俺だったら絶対参考にしないよ? セインくんはさっきまでの暗い顔はどこに行ったのかってくらい楽しそうに話を聞いてるけどさ、俺の恋愛に対する考え方だけは絶対に真似するべきじゃないと自分でも分かる。だからあまり細かくは言わないよ。
「参考にするかどうかはともかく、普通に話しているように見せかけて実は少し気まずそうなナギサ様の話を聞くのは楽しいです」
「嫌な趣味……」
満面の笑みだよ。それを俺じゃなくてイレーナちゃんに見せれば? 品行方正な王子様のセインくんにこの笑顔で話しかけられて嫌がる人はいないでしょ。今より仲良くなれるかもしれないよ。
「どちらかと言うと彼女の方が分かりやすく愛を向けているように見えますが、ナギサ様も負けてませんよね。実際のところどちらの方が愛情深いとかあります?」
「君の悩みとは関係ない話になってるけど気付いてないふりをしてあげるよ。アリスは自分の方が俺のことを好きだと言ってるけどそれは違うね。間違いなく俺の方がアリスのこと好きだし重い。俺は基本的に好きか嫌いかの二つしかなくて感情が極端なんだけど、大切にしている人はどこまでも愛せる。あまり人目とか気にしないから周りに人がいても愛情表現してるでしょ? 分かりやすさで言っても俺が上だと思うんだけどな」
この際なんでも話してあげる。その代わりさっさとイレーナちゃんと両想いになってもらうよ。そうすればアリスも喜ぶだろうからねぇ。
「……ねぇ、さっきからどうしたの? ずっと暗い顔してるけどなにかあった?」
今日もいつも通りセインくん、ランスロットくん、エリオットくん、俺、アリスの五人で帰る予定だったんだけど、ランスロットくん達に急遽予定が入ったから俺はセインくんと中庭のベンチで待っている。
……なんだけど、さっきから……というか今日一日ずっとセインくんが溜め息を吐いて暗い顔をしてる。さっきまではクラスメイトに心配をかけないためか隠していたみたいだけど、今日のセインくんは朝からずっと纏う空気が暗いからなにか悩んでるのかなーと思って見てた。
だけど放課後になっても元気がないとさすがに心配になってくる。
「すみません、ご不快でしたか?」
「不快ではないけど心配だなって。話せるなら聞いてあげるよ?」
「……ではお言葉に甘えて。実は僕の婚約者候補であるイレーナ嬢の話なのですが」
「アリスと仲が良いランスロットくんの従妹の子だよね?」
「はい。その、僕は彼女のことが好きなんですけど……」
「うん」
……なんだろ、この自分の好きな子を教えるだけで恥ずかしがるような初々しい感じ。こういう人を俺は久しぶりに見た気がする。俺にこの種類の羞恥心はないし、周りもルーやシルフのような既婚者ばっかりだからさ。
たしかイレーナちゃんの方もセインくんのこと好きじゃなかったっけ? ということは両片想いの状態ってことか。周囲からしたら一番もどかしいやつだね。
「デートをする程度には親しいのですが、まだ恋人でもなく婚約者でもなくあくまでも婚約者候補の域を出ないんですよね。親しくしてくださっているのも婚約者候補だからであって、本当は望んでないのではないかと思ってしまって……ナギサ様はどう思いますか?」
「うーん……全部俺個人の考え方だから真に受けすぎたら駄目だよ? 君たちは貴族だから貴族同士のめんどくさい家付き合いとかあるんだろうけど、『婚約者』ではなくて『婚約者候補』ならわざわざ好意を持っていない相手とデートする必要なんてなくない? まあ人によるだろうけど」
俺も前世は立場的に家同士の関係を気にしないといけなかったからその辺りは良く分かる。だけど俺はいつもバッサリ切り捨ててたね。アリスと付き合ってからは論外だけど、それ以前も好きでもない相手とデートなんて絶対に無理だった。下手に既成事実とか作りたくないから。
だから多少なりとも好意を持たれていると考えて良いと思う。実際、イレーナちゃんはセインくんのこと好きらしいし。
「なるほど……ナギサ様は彼女とどのように親しくなったのですか?新婚夫婦と熟年夫婦を足して二で割ったような関係ですが」
「どっちも違うからね。俺たちは結婚してないよ」
セインくんの言葉と全く同じようなことを良く言われる。俺は婚約こそしているけど結婚なんてしてない。したいとは思うけどアリスが学生だからね。十八で成人だから学生婚する人もいるけど、学業に支障が出る可能性があるから俺的にそれはなし。だから早く学園を卒業していただきたい。
「ナギサ様から告白されたのですか? そういえばお二人の馴れ初め、詳しく聞いたことがありませんね」
「そんな面白いものでもないよ」
「今後の参考までに是非お聞かせ願いたいです……!」
「別に良いけど……」
参考になるのかな。ただの興味が八割なように感じるんだけど、それは俺の気のせい? いつになくセインくんの目が輝いているように見えるなぁ……
「告白したのは俺。三年くらいは片想いしてたかなー? 学院の中等部卒業と同時に……まあつまり卒業式の日に告白したんだよね。立場的に出来るだけ早く婚約者がいた方が良かったし、高等部に上がるタイミングならキリが良いなと思って」
「卒業式で、というのはロマンチックな感じがしますが最後の言葉で台無しになりましたね」
「俺にそんなこと求めないでよ」
「出会いは?」
「んー……忘れた。傘下の家に同い年のご令嬢がいるからって理由で顔合わせした気がする。その時は興味なかったからうろ覚えだなぁ」
本当にこれ以上のことはほとんど覚えてないんだよね。だからといって出会いをやり直せたら、とは思ったことないけど。
「だけど下心を感じなかったからその後も親しくしてたかな。一緒にいて居心地が良かったんだよ。それでいつの間にか好きになってたって感じ?」
「あっさりしてますね」
「俺の恋愛事情に需要なんてないでしょ。自分で言うのもなんだけど、俺の恋愛なんて参考になる?」
俺だったら絶対参考にしないよ? セインくんはさっきまでの暗い顔はどこに行ったのかってくらい楽しそうに話を聞いてるけどさ、俺の恋愛に対する考え方だけは絶対に真似するべきじゃないと自分でも分かる。だからあまり細かくは言わないよ。
「参考にするかどうかはともかく、普通に話しているように見せかけて実は少し気まずそうなナギサ様の話を聞くのは楽しいです」
「嫌な趣味……」
満面の笑みだよ。それを俺じゃなくてイレーナちゃんに見せれば? 品行方正な王子様のセインくんにこの笑顔で話しかけられて嫌がる人はいないでしょ。今より仲良くなれるかもしれないよ。
「どちらかと言うと彼女の方が分かりやすく愛を向けているように見えますが、ナギサ様も負けてませんよね。実際のところどちらの方が愛情深いとかあります?」
「君の悩みとは関係ない話になってるけど気付いてないふりをしてあげるよ。アリスは自分の方が俺のことを好きだと言ってるけどそれは違うね。間違いなく俺の方がアリスのこと好きだし重い。俺は基本的に好きか嫌いかの二つしかなくて感情が極端なんだけど、大切にしている人はどこまでも愛せる。あまり人目とか気にしないから周りに人がいても愛情表現してるでしょ? 分かりやすさで言っても俺が上だと思うんだけどな」
この際なんでも話してあげる。その代わりさっさとイレーナちゃんと両想いになってもらうよ。そうすればアリスも喜ぶだろうからねぇ。
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