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第三章 黒幕と呪い

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「随分と大人しいな。何をした?」
「抵抗すれば顔を傷付けると言っただけだ。何か用か?」
「あいつに呼ばれてるぞ。さっさと来い」
「チッ……めんどくせぇな。おい、これ飲め」

 無理矢理小瓶に入った液体を飲ませ、渚ひとりを地下室に置いて去って行ったことを確認した渚は小さく息を吐いた。

「これ……媚薬、か。抵抗しないように?……うん、大丈夫。どうやって逃げ出そうかな」

 いつまでも捕われていたくはない。今はまだ顔を盾に体を切り裂かれたり殴られたりする程度だが、これからどんなことをされるか分からない。目的も分からず助けが来るかも分からない。手足が拘束されていて身動きが取れないので、切り裂かれた服の一部を口に咥え、届く範囲で器用に傷付けられた肌を止血をした渚は敵城視察と言わんばかりに周囲を探り出した。

「外の音があまり聞こえない……街中ではないか。護衛は置いてこられたのかな。それなら遅くても数日で助けが来る、はず。と言うか媚薬マズすぎ……俺には効かないけど」

 物心ついた時から簡単に手に入るような毒や薬は耐性を付けているらしく、その中に媚薬も入っていたようだ。そもそも十にも満たない子供が媚薬を飲むこともないだろうと思うかもしれないが、桜井の跡取りと既成事実を作ろうとする者は山ほどいるので念には念を……と言ったところだろう。

「俺を誘拐することに何の意味があるんだろうね。俺を攫って監禁したところで父さん達に消されるだけだろうに……」
「その天下の桜井もこの場所は分からないようだがな。何か収穫はあったか?」
「…………」
「あいつはしばらく戻らないから俺が相手をしてやろう。たしか、顔に傷を付けられるのが嫌なんだったか。たしかに見たことがないくらい綺麗な顔をしている。子供とは思えないくらいにな」

 渚の髪を掴んでグッと顔を引き寄せた男はジロジロと渚の顔を見る。この男は誘拐犯な割に冷静そうでとても子供を誘拐するような人には見えない態度だった。渚の扱いこそ雑だが自分のために誘拐したわけではなさそうだ。

「あっ……え?」

 恐らくお互いの顔が近付いたからこそだろう。男の髪に隠れているが耳に輝くを見つけた渚は半ば呆然としたように目を見開き、しかし納得もしたような顔をした。その表情の変化を間近で見た男はここに来て初めて大きく表情を変え、ニヤリと笑った。
 まるで『ようやく気が付いたか』とでも言いたげに。

「別に桜井咲夜お前の父親に恨みがあるわけではない。ただ、妬んでいる奴から依頼されただけのことだ。『あの男が大事にしている息子、桜井の跡取りを誘拐して痛めつけろ。死なないギリギリまで』、とな」
「……桜井は大きくなり過ぎたと、子供の俺でも分かる。だけど勢力を落とすのもそう簡単なことじゃない。妬まれるのは当然だろうね。裏切る奴はいつの時代もいる。───例えそれが桜井の指揮下にある分家だとしても」
「さすが、良く分かっている。お前たち本家の直系には劣るがこのピアスも桜井との繋がりを表しているからな。跡取りなら一目見れば分かるか」
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