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第二章 再会

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 ◇

 突然だけど俺は今、窮地に立っていた。どういうことかと言うと、夏休み明け初日に決まった「魔法を活用した劇」の主役である「光の王子」を俺がやれと言われた。一番魔法を使うシーンが多くて人気だったんだけど、俺は他人事だと思って遠くから眺めてた。でもねぇ、決まらないならナギサ様にやってもらえば良いんじゃない?って誰かが言ってきたんだよ。

 それに皆が賛成して、でも俺は裏方をやるつもりだったから断って……なんだけどいま、押し切られそうになってるってわけ。
 どう考えても俺は光の王子なんて柄じゃない。絶対に嫌なんだけど!

「だーかーらー!俺は裏方が良いの!」

 俺が精霊王だと分かっても態度を変えることなくグイグイくるのは嬉しいんだけどさぁ……いささか遠慮無さすぎではありませんかね?

「王子様ならほら、セインくんとかピッタリでしょ!俺の柄じゃないって」
「僕は監督なので無理ですね」
「じゃあランスロットくんは!?」
「俺こそ王子なんて似合わないだろう」

 俺より良いんじゃないの?

 そもそも王子様役なんて、前世でもほとんどやったことないし…
 どうせやるなら完璧に演じたい。「元」ではあるけど一応プロだからそこは譲れないんだよー。だからと言って仕事や特別な理由がある時以外で演技をするのは恥ずかしい。

「とにかく、嫌なものは嫌なの。それに無理強いをして適当に演じられたらどうするのー?劇が台無しになっちゃうでしょ」
「ナギサ様はそんなことしないと思いますわ。完璧主義ではありませんけれど、人に迷惑をかけるような方ではありませんでしょう」
「だとしても似合わないって。なんなら女の子が男装してやれば?俺、メイクは得意だよー」

 悪役顔でも正統派王子様でも、荒っぽい感じでもいけるし基本的になんでもいけるよ。なんか母さんに教え込まれたんだよね。自分でメイクをすることは演技以外ではないに等しいけどー。男装王子様でも人気出ると思うんだよねぇ。この国では合法だし。貴族社会なくせにその辺は適当なのか何なのか………

「ナギサ様…」
「……無理なものは無理。皆の前で演技とか恥ずかしい」

 仕事なら仕事だと割り切れるけど、それ以外だとほんとに恥ずかしいんだよ。

「ナギサって変なところで恥ずかしがるよな」
「ほっといてよ」
「……では光の王子役についてはまた後日、改めて決めましょう。どちらにしても立候補が多すぎますから」

 良かった。俺が光の王子様役を回避できたとは限らないけどまあ大丈夫でしょー。どうしても断れない理由があればやるだろうけどそんなのないからねぇ。例え精霊たちに俺の演技を見たいとおねだりされても悩んで悩んで悩みぬいて、結局やらないと思うし。
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