【第二章完結】最強な精霊王に転生しました。のんびりライフを送りたかったのに、問題にばかり巻き込まれるのはなんで？

第一章 ～番外編～

風の大精霊シルフと妻エルサの馴れ初め

「ねぇシルフ。エルサちゃんとはいつ出会ってどんな感じで仲良くなったのー？」

　先日のセインくん、ランスロットくん、エリオットくんと四人で遊びに行った時に知ったシルフの奥さん。その日の夕方、シルフは家族に会いに行ったらしくその時に聞いたのかいつの間に！って問い詰められているうちに話が変わって、ちょうど気になったので聞いてみることにした。

「別に大した話ではないですけど」
「いや、シルフとその奥さんの馴れ初めなんだから大した話だよ！」
「えぇ…そう言われましても……」
「お願い！他のみんなには言わないから。ね？」
「まあ……良いですけど」
「ありがと！」

　あれは今から二十年と少しの前ことです。シルフとエルサちゃんの馴れ初めについてはその言葉から始まった。

　◇

　あの日は少しミスをしまして、ナギサ様に叱られて落ち込んでいたのです。ナギサ様が誰かを叱ること自体珍しいのですごく気分が沈んでいたのを覚えています。

　気持ちを切り替えるために街の散策でもしようと思って一度地上に降りたんです。しばらくふらふら歩きまわっているとお菓子を売っている店を見かけてナギサ様のお土産にでもと列に並びました。その時に僕の後ろに並んでいたのがエルサでした。

　僕とエルサの初対面は何も特別でもない、ごく普通の出会いでした。人気店だったらしく長い間店に並んでいたのですがいきなり話しかけられたのです。誰に、ですか？それはもちろんエルサですよ。エルサはあんな感じの性格ですからね、初対面でも男でも関係なくすごくフレンドリーに話しかけられました。

　エルサがカフェを経営しているのは知っていますよね？様々なお菓子やスイーツを作るための研究と言う名目で下位に来たけど実際にはただ食べたいだけだと笑いながら教えてくれました。誰とでもすぐに仲良くなれる性格ですからとても話が合いまして、また会って話そうと約束をしてその日は別れました。
　それからしばらく最初は一ヵ月に一度、次は二週間に一度、一週間に一度と次第に会う頻度が増えて行きました。ただエルサの店で話したり二人で出かけたり一緒にお菓子を作ったり、そんな日々を過ごすうちに気が付いたら彼女を好きになっていました。

　王道というか定番というか、よくある何の面白みもない話ですよね。それでも僕は恋というもの自体初めてしたので自分の感情に戸惑うことが多かったです。

　エルサと出会って数ヵ月ほど経ったある日、その日もエルサに会いに行くために地上に降りて集合場所で待っていたのですが五人グループの女性に囲まれてしまったのです。何とか離れようとしましたがさすがに害意のない女性を力づくで引きはがすのは気が引けて……すると困っているところにエルサが来て。
　好きな女性に変な勘違いをされるのは嫌で、必死に弁明しようとしたんです。弁明と言っても僕は何も悪いことはしていないのですが。

　とりあえず僕がエルサと待ち合わせをしていたと分かったら女性たちは離れていきましたが、僕はエルサに何と言われるかまさしく死刑宣告を待つ被告人なったかのような気分でしたね。
　俯いているとエルサは突然僕の手を自分の胸のあたりで掴んでこう叫んだのです。

「あなたが誰を好きだとしても、わたしはあなたが好きなの！だからあなたに見てもらえるまで頑張るわ！」

　……と。

　そうですよね、驚きますよね。街中でですよ？大声で宣言したんです。しかも言い終わって周囲が静まり返ったのに気づいてやっと焦り出して。思わず笑ってしまいましたね。おっとりしているくせに妙に男前なことと、焦りだすタイミングがズレていることと、エルサの反応を想像して勝手に怖がっていた僕自身に。

　ひとまず生暖かい視線を送ってくる人たちから離れたくて、エルサの店に行ったのですよ。そこでようやく落ち着くことが出来まして、エルサの方から言わせてしまいましたが僕からもちゃんと告白しましたよ。僕が大精霊なのはすでに言っていましたのでそのまま半年後くらいに結婚しました。プロポーズはしっかり僕からしました。

　ちょうど今年が結婚して二十年なんですよ。二十年経ったのにエルサの容姿は全く変わっていないんですよね。少し童顔でしたが今も年齢を感じさせない若々しさなのでちょっとびっくりしています。

　◇

「長々と話してすみません。エルサは最後に言った通りずっと可愛いままですが絶対好きにならないでくださいよ」
「分かってるよー。たしかによくある感じだったねぇ。それにしても俺が叱った日に出会ってその相手と今年で結婚二十年ってすごいねぇ……一応俺のおかげでもあるのかな？よく覚えてたね、俺が叱ったって」
「ナギサ様に叱られることはほとんどないですからね」

　この前も聞いたのにしっかり好きになるなと釘を刺してくる。そんなに何度も言わなくても俺は人妻に恋したりしないから。そういう趣味はないよ。

「初恋の戸惑いとか感情の話もしましたけど、それはナギサ様には無縁かもしれないですね」
「なんで？」
「恋とかしなさそうじゃないですか。今までもしたことないですよね？」
「俺も恋くらいしたことありますけどー？今世ではないけど、前世では初恋の経験あるよ？恋人だっていたし。前世の俺は高校生だよ？」

　高校生にもなって初恋はまだって方が珍しくない？

「そこまで細かい記憶は流れてこなかったです。どんな相手ですか？ナギサ様が好きになる相手ですからよほど素敵な方だったのでしょうけど」
「桜井グループの関係者で、親同士が親しくて。俺とその相手は幼馴染だったんだよー。素敵な方って言うのは大当たり。すごく……好きだよ」
「過去形じゃないってことは今も好きなのですか？」
「さぁどうだろうねぇ。そうかもしれないし違うかもしれないし」

　すごくかわいい子だったんだよー？容姿だけじゃなくて声も、性格も。幼馴染だから気心の知れた相手だったしねぇ。

　まあ俺の恋愛事情なんてどうでも良いよねー。どうせ二度と会えない相手なんだし。今度エルサちゃんにシルフの第一印象とか聞いてみよー。