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第一章 転生

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「ナイジェルはすごく聡明ですね」
「ありがとうございます。ミシェル様とは話していてとても楽しいです」

 あれからしばらく二人で話し続けた。話しやすい人だからすごく良い暇つぶしになったねー。

 そろそろ夜会もお開きかと思われたその時。会場の中央の辺りから大きな悲鳴が聞こえてきた。さっきからちょっと気になってはいたんだけど、二人の令嬢が言い争いをしていたようなんだよね。
 見ると、火属性魔法をぶつけようとした令嬢が制御を失ってテーブルクロスの方に火が燃え移っていた。それで悲鳴が上がったんだねー。

 でもこの状況、ちょっとよろしくないよねぇ……

 パニックになった周りの人たちで、精霊の祝福を受けているか契約しているかで魔法を使える人たちがどうにかしようとして、一緒になって制御を失ってる。離れたところにいる人も大騒ぎだし、どんどん火が燃え広がって行くから誰も近寄れない。言い争いをしてたんだから当然二人の令嬢は向かい合っていたわけで。二人とも制御を失った魔法に巻き込まれてる。

 精霊たちは特に動く気はなさそうだねぇ。元はと言えばこんなところで魔法を使おうとした二人と、パニック状態だと魔法の制御が出来ないのが分かっていながら使った彼らのせいだからー。

 魔法って言うのはね、簡単に使えるものではないんだよ?初めて使ったのか知らないけど、祝福を受けたか契約したならしっかり練習しなきゃ。心を落ち着けないと魔法の制御は出来ないよ?もちろん、俺たち精霊はそんなの関係なく使えるけどさー。

「ナイジェル……」

 クレアちゃんが俺の方をジッと見てくる。動く気はないのかってことだろうねぇ。

「クレア様。知っているでしょう?精霊は気まぐれなんですよ」
「だからこの状況を無視すると!?」
「……人間族もエルフ族も魔族も、精霊に甘えすぎなんですよ。精霊と契約できることは少なく、祝福となるともっと少ない。そのことが分かっていながら精霊の力に頼って自分たちは何もしない。精霊以外が魔法を使うなら練習が要りますし精霊の力が使えない場合の対策を練らない方が悪いんです。そろそろそのことを理解させるべきだと、精霊たちで話し合ったのですよ」

 だから俺たちは手を出さない。この世界には科学が発展している国がたくさんあるよ。だけどこの国は建国以来ずっと精霊の力を使える環境にあったから、日本に似ていると言っても他国と比べたらそこまで発展していない。

 たまたま精霊がこの国に住んでいると言うだけであって、別に他国じゃ生きられないとかそういうわけではないのは周知のはずだよー?もし俺たち精霊がこの国から去ればこの国は真っ先に侵略されるね。

「精霊と契約をした。精霊に祝福を受けた。だからなに?ということですよ。精霊の力は使のではなくのです。私の一声でこの国は簡単に亡びるんですよ」
「……精霊にとってこの国はその程度の価値しかないと言うのかい?」
「いいえ?そんなことは言っていませんよ。ただ一度、そのことを思い出すべきだと思ったまでです。私とて多少の愛国心はありますよ。チャンスくらい何度でもあげましょう。何度でもと言っても私が見放す時が来ないとは言い切れませんけど」

 それだけ伝えると、結界を張って外から見えないようにし、男爵令息ナイジェルから精霊王ナギサの姿に戻った。結界は一応、張らなくても今は誰も俺の方は見ていない。必死になって消火しようとしているみたいだけど、精霊の魔法で出された火はそう簡単に消えるものではないよー?

 ああそうそう。理解させるべきだと精霊たちと話し合ったって言ったけど、これは俺たちが起こしたことではないからねぇ?ただの偶然。いずれ同じようなことを起こさせようとは思っていたけど手間が省けて良かったよ。嫌な予感が一応は当たったねぇ。
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