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第1章 幕開けは復讐から
62 戦略的な思考
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国王王妃両陛下を筆頭に、エルフ族、魔族、精霊族の重鎮など多くの人が顔を揃えた建国祭は、今のところ何事もなく進んでいる。
国王からの言葉の後、全種族がそれぞれ一人ずつ代表で祝辞を述べる。精霊族からは話し合いの結果、シルフが適任と言うことで俺の代理に決まった。
どの種族も重鎮は必ず、重鎮ではなくとも多くの人が参加し、人族だと貴族は全員参加という数えきれないほどの人数のプレッシャーの中でも臆することなく祝辞を述べた三人に、国王は礼を言って祝宴へと移った。
建国祭は国の確立を祝う日。この日ばかりは腹の探り合いは止めにして誰もが和やかに話し笑い合う……と言うことがあるはずもなく、逆にこんな日だからこそ気が抜けている人が多いだろうからと腹の探り合いを始める人も一定数いた。
「クレア様」
「な、なんだい?」
「暇です……」
深刻そうな顔をしていただろう俺に、クレアちゃんも動揺しながら返事をしてくれた。だけど俺が暇だと言った瞬間に呆れられた。
クレアちゃん風に言うならば『ふざけてるのかい?』ってところかなー? 俺は一ミリもふざけてないんだけどねぇ。
だってそうじゃない? 精霊王ナギサとしてならセインくんやランスロットくん、他にも話し相手はたくさんいるけど、男爵令息ナイジェルとしては親しい人なんていない。男爵家の、それも分家筋の者と親しくなっても何も利益がないのは分かってるんだけどねぇ……それでも話し相手はいないし、精霊とも話せないし、寝るのは以ての外だし。……となると、することなさすぎて暇になる。……暇! 本当に! 分かる!?
「なに百面相してるんだい……そんなに暇?」
「はい」
それはそれは物凄く、良いって言われたら今すぐにでも寝るくらい。
「ナイジェル、甘いものでも食べますか?」
「甘いもの……そうですね、頂きます。ありがとうございます」
「はい。……私たちは男爵家ですからね、男爵家にしては発言力がありますが所詮は男爵。家同士の付き合いを考える者も個人的な付き合いを考える者もいないに等しいです。ですがその『所詮は男爵』と思われているところを利用するのです。幸いと言うべきか分かりませんが、このような場で私たちがすることはほとんどありません。かと言って早々に帰るわけにもいかないでしょう?」
「そうですね」
「なので人間観察をします。あの方はあの家と良く話しているから家同士で仲が良いのだろうか、あの家は衣装こそ綺麗にしているが髪に艶がないからもしかしたらお金に困っているのかもしれない、など注意深く観察すれば分かることや予想出来ることがたくさんあります」
長文を話して疲れたのか一度飲み物を口にし、そこから先ほどの続きを話し始める。
「例えば、あの家の特産はかなり需要があるのに資金不足だからかそこに手が回っていない。それなら資金援助して未来への投資をしよう。あの家に恩を売ろう。そのようにして取引を検討していきます。シーラン男爵家は伯爵位くらいなら買えるほどに資産があります。他の家と違ってその場での地位は低くとも、このように恩を売っておくことで後々自分たちのためになります。実際に会場に入ってきて挨拶をした方たちは皆、私たちと取引をしたりして繋がりが出来た家です。もちろんこのようなことばかり見なくても、人間観察というのは案外楽しいものですから暇つぶし程度に良いと思います。………すみません、長々と話してしまいました」
「いえ、構いませんよ。むしろもっと聞きたいくらいです。とても興味深いお話でした」
「それなら良かったです」
途中から話についていけないとばかりにクレアちゃんは同僚らしき人の方に行ってしまったけど、ミシェルさんの話はすごく興味深かったね。身分の低さや他との繋がりの少なさを活かしたやり方だね。俺もこの手の話は好きだなー。話していて飽きないし、ミシェルさんの意外と戦略的な思考が俺の考え方と似ているから楽しい。
たしか文官だったっけ? きっとかなり頭が良いんだろうね。この人とは長く付き合っていきたいかなー。
国王からの言葉の後、全種族がそれぞれ一人ずつ代表で祝辞を述べる。精霊族からは話し合いの結果、シルフが適任と言うことで俺の代理に決まった。
どの種族も重鎮は必ず、重鎮ではなくとも多くの人が参加し、人族だと貴族は全員参加という数えきれないほどの人数のプレッシャーの中でも臆することなく祝辞を述べた三人に、国王は礼を言って祝宴へと移った。
建国祭は国の確立を祝う日。この日ばかりは腹の探り合いは止めにして誰もが和やかに話し笑い合う……と言うことがあるはずもなく、逆にこんな日だからこそ気が抜けている人が多いだろうからと腹の探り合いを始める人も一定数いた。
「クレア様」
「な、なんだい?」
「暇です……」
深刻そうな顔をしていただろう俺に、クレアちゃんも動揺しながら返事をしてくれた。だけど俺が暇だと言った瞬間に呆れられた。
クレアちゃん風に言うならば『ふざけてるのかい?』ってところかなー? 俺は一ミリもふざけてないんだけどねぇ。
だってそうじゃない? 精霊王ナギサとしてならセインくんやランスロットくん、他にも話し相手はたくさんいるけど、男爵令息ナイジェルとしては親しい人なんていない。男爵家の、それも分家筋の者と親しくなっても何も利益がないのは分かってるんだけどねぇ……それでも話し相手はいないし、精霊とも話せないし、寝るのは以ての外だし。……となると、することなさすぎて暇になる。……暇! 本当に! 分かる!?
「なに百面相してるんだい……そんなに暇?」
「はい」
それはそれは物凄く、良いって言われたら今すぐにでも寝るくらい。
「ナイジェル、甘いものでも食べますか?」
「甘いもの……そうですね、頂きます。ありがとうございます」
「はい。……私たちは男爵家ですからね、男爵家にしては発言力がありますが所詮は男爵。家同士の付き合いを考える者も個人的な付き合いを考える者もいないに等しいです。ですがその『所詮は男爵』と思われているところを利用するのです。幸いと言うべきか分かりませんが、このような場で私たちがすることはほとんどありません。かと言って早々に帰るわけにもいかないでしょう?」
「そうですね」
「なので人間観察をします。あの方はあの家と良く話しているから家同士で仲が良いのだろうか、あの家は衣装こそ綺麗にしているが髪に艶がないからもしかしたらお金に困っているのかもしれない、など注意深く観察すれば分かることや予想出来ることがたくさんあります」
長文を話して疲れたのか一度飲み物を口にし、そこから先ほどの続きを話し始める。
「例えば、あの家の特産はかなり需要があるのに資金不足だからかそこに手が回っていない。それなら資金援助して未来への投資をしよう。あの家に恩を売ろう。そのようにして取引を検討していきます。シーラン男爵家は伯爵位くらいなら買えるほどに資産があります。他の家と違ってその場での地位は低くとも、このように恩を売っておくことで後々自分たちのためになります。実際に会場に入ってきて挨拶をした方たちは皆、私たちと取引をしたりして繋がりが出来た家です。もちろんこのようなことばかり見なくても、人間観察というのは案外楽しいものですから暇つぶし程度に良いと思います。………すみません、長々と話してしまいました」
「いえ、構いませんよ。むしろもっと聞きたいくらいです。とても興味深いお話でした」
「それなら良かったです」
途中から話についていけないとばかりにクレアちゃんは同僚らしき人の方に行ってしまったけど、ミシェルさんの話はすごく興味深かったね。身分の低さや他との繋がりの少なさを活かしたやり方だね。俺もこの手の話は好きだなー。話していて飽きないし、ミシェルさんの意外と戦略的な思考が俺の考え方と似ているから楽しい。
たしか文官だったっけ? きっとかなり頭が良いんだろうね。この人とは長く付き合っていきたいかなー。
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